原作では普通に女性らしい口調なのですが、フーケのセリフがだいぶ汚く、男っぽくなっています。
理由は簡単、アビーちゃん含めて女性らしい喋り方する子が多くて分かり辛くなってしまったからです…!
「はぁ、はぁ……」
「ふう………今日はこれぐらいにしておこうか」
「そうね……うーん、やっぱり武器を持って戦う、って言うのは難しいのね。 全然上手くいかなかったわ……」
アビゲイルは頬を伝う汗を袖で拭いながら、がくりと首を垂れる。
ギーシュの生み出したゴーレムには何回かナイフを突き立てた形跡があるが、そのうちの殆どは掠っただけだ。
明確に相手へダメージを与えた、と言える箇所は一、二か所程度だろう。
「ははは、まあ、初日でこれなら良いほうではないかな? 寧ろ、僕の方こそまだまだだよ。 最後の方なんか集中力が途切れてしまった」
剣舞をしていたゴーレムの軍団を見てみれば、いつの間にか破損しているものや剣の突き刺さったゴーレムが居た。
複数体を操作するというのは、巨大なゴーレムを形成して維持するというものとはまた違った難しさがある。
改めてギーシュはそれを実感したのだった。
アビゲイルが肩で息をしていると、ルイズ達が歩いてきた。
「お疲れ様。 全く、汗でびしょびしょじゃないの」
「あはは……こんなに汗かいたのあの時振りかも」
「さっさとシャワーを浴びて寮に戻りましょう? もうそろそろ私も眠たくなってきたし…」
「あたし実はちょっと寝落ち仕掛けてたわ」
空に輝く月の位置を見てみれば、確かに訓練の前の位置より随分と移動しているように見える。
いつの間にか熱中していた所為で随分と時間がたってしまったのだろう。
「それじゃ此処で解散だね」
「ええ。 それじゃギーシュさんまた明日――」
ふと、意識を広場の外に向けたその瞬間。
本塔の方に何か黒い影が見えたような気がした。
アビゲイルは足を止め、なんだろう、と目を細める。
暗闇に浮かぶその影ははっきりとした輪郭まで映してくれないが、巨大だ。
その大きさは「気のせいか」で済ませられる程小さくは無い。
「どうしたの? アビー」
「……あれ。 何か見えない?」
「……?」
ルイズは首を傾げ、アビゲイルの目線の先を追う。既に歩き出していたギーシュとキュルケも足を止めて振り返った。
目線の先には確かに巨大な黒い影がある。
「……な、なんだね、あのゴーレムは」
ギーシュが震えた声で呟く。
あれは―――ゴーレムだろうか。 しかし30メイル程の巨体を持つゴーレムなどめったに見られるものではない。
自分の尊敬する兄の生み出すゴーレムでさえ、20メイル程だったはずだ。
「まさか」とキュルケが口を押えて震えた。
4人で王都へ向かった時にもちらほらと聞こえてきた『土塊のフーケ』の噂。
今国中の貴族を震え上がらせるその怪盗は巨大なゴーレムを生みだす事ができるのだという。
「あれって、土塊のフーケじゃない?」
「土塊のフーケ!? なんでそんな奴がこんな所にいんのよ!」
「そりゃ怪盗だもの、お宝を盗みに来たんでしょ!」
確かに、魔法学院の本塔5階には『宝物庫』が有るらしい。 実際に生徒が立ち入ったことは無い為、その中身にどんなお宝が眠っているのかは全く見当もつかない。 しかし、土塊のフーケが此処に現れたという事はつまり、本塔への襲撃を意味しているのだろう。
キュルケが叫び返すのを聞いた瞬間、ルイズは衝動的に走り出していた。
敵は土塊のフーケ、30メイル程にもなる巨大なゴーレムを生み出す事の出来る凄腕のメイジ。
それに比べて自分は魔法の扱えないメイジ。 自分がその場へといった所で何ができるわけでもない。
しかしそれがなんだ。 悪党を前にして逃げ出す事は自分の矜持に反する。
「ちょ、ちょっと待ってよルイズ!」
「ああもう……悪い癖が出た! ギーシュ、あんたは先生方を呼んできて! あたしはあのバカを連れ戻してくるから!」
「わ、分かった! くれぐれも気を付けてくれたまえよ!」
アビゲイルはルイズを追って走り出し、キュルケは頭を抱えてギーシュへと指示を出す。
ギーシュは返事を帰すと、大急ぎで当直の教師が居るであろう場所へと駆け出した。
.
..
...
「……一か八か、鋼鉄の拳で何発かぶん殴ってみるかい?」
妙案は思い浮かばない。 ともなれば、自分の力を信じてこの強固な壁をぶち抜いてみるべきか?
万が一それで失敗した場合、この場から逃げ切る事は恐らく可能ではあるが、この宝物庫の守りは更に強固になり、二度と例の魔法書を盗み出す事は叶わないだろう。
しかし、ここで諦めるわけにもいかない。
コルベールはオスマンからあの魔法書を宝物庫から取り出すように言っていた。
つまり、このタイミングを逃せば恐らく魔法書はオスマンの手に渡り、盗み出すという事が困難になってしまうだろう。
宝物庫から取り出され、オスマンの手に渡ったタイミングで盗み出せばよいと思うかもしれないが、それは恐らく宝物庫から盗み出す以上に困難だ。
あの男は、普段の姿からは想像もつかない程に抜け目なく、それでいて深い英知を蓄えている。
トリステイン魔法学院の長を務めているという肩書は伊達ではないのだ。
「やるしかないか……」
フーケは息を吐き、心の中から躊躇いを抹殺する。
それから杖を一振りして《錬金》を唱え、ゴーレムの右腕を土から鋼鉄の拳へと変化させた。
ゴーレムの巨躯を弓なりにしならせ、拳を振り上げた、その時。
ドン!
と、ゴーレムの一部が突如として爆発した。
「―――!?」
一瞬声を漏らしそうになるが、それを噛みしめる事でぐっと堪える。
声を聞かれてしまうのは不味い。 特に、このトリステイン魔法学院の生徒や教師には絶対に聞かれてはならなかった。
フーケは声を漏らす代わりに小さく舌打ちをし、攻撃をしてきた人物の姿を探す。
すると、居た。 桃色の髪を揺らし、走ってきたのか、杖を此方に向けたまま荒い息を吐いて此方を睨みつける少女の姿が。
「お、大人しくしなさい、土塊のフーケ!!」
ルイズは叫び声をあげるが、その中に滲む恐怖を隠す事が出来なかった。
それもそうだろう。 遠くから見ただけでも大きいと分かったゴーレムが、近くまでくると更に大きく感じるのだ。
ルイズは近くまで着て初めてゴーレムの肩にフーケと思われる人影を認識したのだが、フードを被り、そして月明かりのみに照らされた薄暗い環境のせいでその顔まで確認することができなかった。
しかし、位置さえわかれば何とかなるかもしれない、と杖を握りなおす。
確かにゴーレムは固く巨大だが、それを操るメイジまでが固い訳ではない。
つまりあの方に乗ってゴーレムを操るメイジさえ何とかすれば、自分でも倒すことができるかもしれないのだ。
ルイズは集中力を高め、フーケへと狙いを定める。
「《ファイアボール》!!」
どん!と再び爆発音が聞こえた。
しかし狙いは全くの外。 フーケに当たるどころか、ゴーレムにすら当たっていない。
当たったのは丁度宝物庫辺りの壁の一部のようだ。
そしてそれをこの大怪盗は見逃さない。
(なっ……壁にヒビが!? あの娘、一体どんな魔法を……いや、考えるのは後ね。 とにかく今はこの好機を逃すわけにはいかないね!)
フーケはルイズを無視し、再びゴーレムの巨躯を弓なりにしならせる。
ヒビを目掛けて振り下ろした巨大な鋼鉄の拳は、風を切る音と共に宝物庫の外壁を粉々に砕いた。
「あっ…!」
驚愕の声を漏らすルイズを他所に、フーケはゴーレムの肩から宝物庫の内部へとひょいと飛び降りる。
宝物庫の内部には価値のありそうなものが幾つか散見されたが、自分の目的はただ一つ、『混沌を祓う火炎』の魔法書だ。
そしてそれは直ぐに見つかった。 拍子に書かれた文字は何処の国の文字なのか全く分からなかったが、魔法書自体から感じる膨大な魔力は、たとえドットのメイジだったとしても簡単に見分ける事ができるだろう。
「こりゃ本物だね……私の思ってた以上の代物だ。 この本に触れた瞬間から震えが止まらないよ」
ニヤリ、と口角を吊り上げ、それをマントの内側へと仕舞い込む。
それからいつものように署名の入ったカードを宝物庫に投げ捨てると再び待機させたままのゴーレムへと乗り込み、壁の外へと歩き出す。
目的は達成した。 後はこの学院の壁を越えて逃げ出すだけで今回の盗みは成功となる。
「させないわ…!」
ルイズは二回、三回と《ファイアボール》を唱える。 その何れもがフーケに命中することは無かったが―――
「!? ちっ……あの小娘」
フーケは舌打をし、ぐらり、と揺れるゴーレムの頭にしがみ付く。
様子を見てみれば、がむしゃらに撃ち続けたルイズの失敗魔法がゴーレムの足の膝裏を破壊し、歩みが止まってしまったのだ。
もちろん、この土塊の生み出したゴーレムにとってはさしたる問題では無かった。
土から作られたゴーレムは壊れて剥がれ落ちた土、あるいは周囲の土を使って自己再生を繰り返すのだ。
しかしそれを何度も繰り返されて足止めを食らうのは非常に不味い状況だ。
フーケは苛立ちルイズを睨みつける。生徒に攻撃するつもりは無かったが、邪魔をするのなら容赦はしない。
ゴーレムをルイズの方へ向き直すと、その右手でルイズを捕まえ、握りつぶす為に手を伸ばした。
「あ……!」
ルイズは恐怖で足が竦んで逃げられなかった―――というよりは、ゴーレムの動きが想像以上に早かったことに対応できなかった。
ゴーレムの巨躯は一見緩慢な動きを繰り出しているようにも見えるが、それは大きさの生み出す錯覚に過ぎない。
拳を振り上げたかと思えば、その手は一瞬のうちに迫ってくるのだ。
「ルイズ危ない……!!」
「きゃあっ!」
捕まる。
そう思った次の瞬間、ルイズは一瞬横から突き飛ばされるような衝撃が走り、そのまま芝生の上に転がっていった。
一体誰が、と思い顔をあげてみると、そこにはゴーレムの手に捉えられるアビゲイルの姿があった。
「アビーちゃん!」
「アビー!」
ルイズはいつの間にか追いついてきたキュルケと共に叫び声をあげる。
ゴーレムの手につかまる瞬間、アビゲイルがルイズを突き飛ばし、代わりに掴まってしまったのだ。
「ぐ、う………」
アビゲイルは苦悶の表情を浮かべる。 ぎちぎちと締め上げてくるゴーレムの手は、ゆっくりと、しかし確実に自分の身体を握りつぶそうとしているのがわかる。
「っ、《ファイア―――」
「馬鹿! アビーちゃんに当たったらどうするの!」
「そんな事言ったって、このままじゃアビーが!!」
咄嗟にフーケに向って再び魔法を打とうとしたルイズをキュルケが止める。 ゴーレムの手には既にアビゲイルが握られているのだ。 でたらめな場所に命中してアビゲイルに命中するのも危険だし、自分が《ファイアボール》を唱えた所で盾にされる可能性も非常に高い。
かといって、このまま見過ごす訳にもいかないのは事実だ。
今はとにかく、あのゴーレムの動きを止め、アビゲイルを助け出さなくてはならない。
狙う場所は、盾にされ辛く、誤射してしまう可能性の低い場所―――
「ルイズ、足よ! 片足でもぶっ壊しちゃえば、あいつの動き位止められるでしょ!」
「え、ええ……!」
ルイズとキュルケはゴーレムの足の付け根辺りを狙って《ファイアボール》を唱え始める。
キュルケの攻撃は命中精度は高いが、ゴーレムを破壊できるほどの攻撃力を有していない。
ルイズの攻撃は命中精度は低いが、当たれば小さい範囲を確実に破壊する程の攻撃力を有していた。
二人の放った《ファイアボール》(ルイズの場合は失敗魔法であるが)は少しずつゴーレムの足を削り取り、フーケに真っすぐ立っているのが難しい程の揺れが襲う。
(くそ……面倒臭いガキどもだね……!)
フーケは心の中で悪態をつき、二人の方へと意識を向たその瞬間。 アビゲイルを握りつぶさんとしていたゴーレムの手の力が一瞬だけ緩んだ。 抜け出せる程のゆるみ方ではない。 精々締め付けられた手から両腕を抜き出すことがやっとだ。
しかしアビゲイルにとってはそれでよかった。
片腕さえ使えれば、
『あ……あ?あああああ!?? 俺の腕……腕が……!!』
「―――っ」
喉奥から込み上げる吐き気。
ゴーレムの手で締め上げられているから、というのもあるがそれだけでは無かった。
王都で力を使った時、自分にはそれを制御することができなかった。
その結果、男の腕を引きちぎり、ミンチの様に粉々に骨ごと粉砕してしまったのである。
―――もし、今ここで使えば、ルイズやキュルケも巻き込んでしまうのではないか。
その恐怖感がアビゲイルの胃を締め上げ、吐き気を催させていたのだ。
(何か……他に方法は……)
能力を使わないでこの状況を打開する方法……
そんなものが容易く見つかったら苦労はしない、と自分の考えながら思わず自重してしまう。
しかし、何か持っていないかとポケットを探ると、指先に当たる感覚が一つあった。
先ほどまで訓練に使っていたナイフだ。
アビゲイルはハッと思い付く。
ゴーレムの手に握られた自分はゴーレムの肩の上に立つフーケに対してそれなりに近く、それでいてルイズとキュルケが注意をそらしてくれているお陰で此方の動きに全く気が付いていない。
これを投げ、フーケにあてる事が出来れば、状況を変えられるかもしれない。
他に方法も残されていないため、アビゲイルはやるしかなかった。
ナイフを握り、思い切り振り被り投げつける。
狙うはフーケの胴体辺り―――!
(お願い、当たって……!!!)
アビゲイルの手から離れたナイフは弧を描き、フーケの太もも辺りにへと吸い込まれるように飛び――――その横をすり抜けるように通過していった。
「あ……」
「!? ……ちっ、こんなものを隠してたのかい。 でも残念だったね」
フーケは驚いた表情を見せるが、直ぐに不敵に笑う。 アビゲイルは絶望的な気持ちだった。
もはや打つ手は、自らの力を使うしか残されていない。 しかし、それを使ってしまったら……
「っ、あ、ああああ!」
ぎちぎちとゴーレムの手の力が強まる。
全身の骨が悲鳴を上げ、あと数秒もしない内にぺしゃんこになってしまうだろう。
(もう、だめ……)
アビゲイルは諦めたように涙を頬に伝わせる。
死ぬことは怖い。 しかし、能力を使って暴走し、ルイズ達を殺してしまう事の方がずっと怖かったのだ。
それならば、自分がこのまま潰されてしまった方がずっとマシだ。
「ごめんなさい、ルイズ……キュルケさん……」
遺言の様に呟き、アビゲイルは目を閉じる。
ルイズとキュルケが何か叫んでいるが、それすらももう耳に入ってこなかった。
自分の身体はこのままゴーレムの手によって潰され、一瞬の痛みの後死へと誘われるのだろう。
そう思っていた次の瞬間。 フーケからつんざくような悲鳴が聞こえた。
「ああああっ!!」
何事か、と目を開く。
するとそこには
フーケを見てみると左腕にはざっくりとナイフで切りつけられた跡があり、そこから流れ出す血液の量からそれなりに深く切り裂いたことが伺える。
腕の痛みによろめいたフーケは思わず腕を抑えて集中力を切らしてしまう。 すると、ゴーレムの手の力が急速に弱まり、アビゲイルはするりとその手から滑り落ちる。
「えっ…? きゃ、きゃああああ!?」
「嬢ちゃん! 早く《レビテーション》を!」
「え? ……ええ!!」
何処からか乱暴な男の声で怒鳴られ、キュルケは一瞬鳩が豆鉄砲を食ったようにぽかんと口を開けるも、素早くアビゲイルに《レビテーション》を唱えた。
アビゲイルの落下運動は急速に弱まり、羽のように静かに地面へと着地する。
「……これ以上は本当にまずいね」
お宝は既に手の中にある。
これ以上こんな所で時間を使っている場合では無い。
フーケは小さく呟くと仕方がないと杖を振り上げる。
逃げるならばルイズ達がアビゲイルに気を取られている今しかない。
フーケは急速にゴーレムの足を回復させ、素早く走れる状態まで戻すと一気に学院の外壁へとゴーレムを動かした。
「まちやがれい!」
ナイフがフーケへと飛びかかる。
しかしフーケが素早く杖を振るうと、そこから現れたいくつかの土の塊によって叩き落とされてしまった。
「っ、フーケが……」
「もう無理よ、諦めなさい」
ルイズはアビゲイルを抱きかかえながら悔しそうに呟く。
既にゴーレムの背中は遠く、砂が舞うようにその体を散らすと完全にその行方が分からなくなってしまった。
ナイフ、飛ぶ。
「あっやばい!感想返したらここのネタ完全にばれちゃう!」と思い素早く書き上げる事に成功しました。
実は生きてるんじゃね……?と予想したかたはアイデアロール成功です。
ついにフーケが盗みに来ましたが、鍵の力は王都のトラウマによって使うことができなくなってしまったアビーちゃん。 フーケ戦は一体どうなってしまうのか、次回をお楽しみにください!