虚無と銀の鍵   作:ぐんそ

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3:少女と初めての食事

 

「あ、そういえばアビーちゃんの朝食は大丈夫かしら?」

「どういう事?」

「………人間の使い魔なんて聞いたこともなかったし、突然のことだったでしょう? 多分アビーちゃんの朝食は用意されてないんじゃないかと思って」

「そ、そんなぁ!」

 

 三人(と一匹)が食堂へと歩く最中、唐突に思い出したように呟くキュルケに対してアビゲイルはショックを受けた表情を浮かべる。すでにお腹は何度か空腹を訴えていたのだが、今の発言を聞いて再びくぅくぅと可愛らしい音を立ててしまう。 

 この世界ではどんな料理が出るのだろうと部屋を出てから楽しみにしていたのに、「食べられないかも」などと言われれば急にお預けを食らったような気持ちになり、余計にお腹が空いてしまうというもの。

 それに対してルイズはふふんと鼻を鳴らし、

 

「大丈夫よ。既に厨房の方にもう一人分多めに作ってもらえる様に頼んでおいたから」

「あら、意外。 用意が良いわね」

 

 得意げに胸を張って言うルイズに対して、キュルケは少しだけ感心したような声を漏らす。

 隣を歩くアビゲイルはそのサファイアの様な青色の眼をキラキラと輝かせてルイズを見つめていた。

 

「ル、ルイズ……! ありがとう! 私お腹がペコペコで、もう限界だったの。 ルイズがとっても気配り上手の優しいご主人様(マスター)でよかったわっ!」

 

 

 

 

「「ウォマブシィッ」」

 

 心から嬉しそうな表情を浮かべて感謝を伝えるアビゲイル。「えへへ」と無垢に笑い、るんるんと上機嫌にスキップまで始めてしまうこのいたいけな少女を目の前に二人の心は一瞬で浄化された。

 

 気配りと言えば確かに聞こえはいいが、ルイズの一番の目的は主人としての威厳を見せつける事。ここで出来る有能貴族をアピールして置くことで後々の上下関係をはっきりさせるという目的があった。

 今朝の一件があれば「ご飯なしは可哀想だな」と思う事はあるだろうが、厨房にお願いしに行ったのはそれよりも前。 つまりアビゲイルの為に手配しようと思っていた訳では無いのである。

 そして当然キュルケもルイズのその見栄っ張りな思惑を見抜いていた。

 キュルケの言った『意外』は『平民の使い魔なんだからパン一つで十分でしょ』と言い自分の皿から一つ恵んでやるぐらいの塩対応をすると思っていたからだった。

 

 二人はこの邪な思惑を考え付いた(当然のように見抜けてしまった)自分の心の汚れをそっと恥じた。

 

 ああ、始祖ブリミルよ。 私はもっと優しく、そして純粋な人間になります――――。

 

 そう心に誓い、二人は祈りを捧げるようにそっと目を閉じた。

 

 

「ど、どうして目をつぶって歩いているの? 前を見ないと危ないわ……」

「「大丈夫よ、なんでもないから」」

 

 

 食堂へ移動する間、ルイズとキュルケの二人は目を閉じ祈りを捧げ続けた。

 そしてアビゲイルの制止も虚しく、二人仲良く壁に激突した。

 

 

====================================

 

 

 

「さあついたわ。 此処がアルヴィーズの食堂よ」

 

 片手で鼻を抑えながらルイズが食堂の扉を開けると、アビゲイルは思わず「わぁ」と感嘆の声を漏らした。

 内部はかなり広く、大聖堂と言っても納得してしまうほどの大きさである。

 また、広さだけではなく生徒たちの人数も多く、それぞれルイズと同じ黒いマントを付けている生徒、茶色や紫のマントをつけている生徒がみられた。

 食堂へ来るまでの間にキュルケが説明してくれたが、学年別にマントの色が違い、テーブルも学年別に分けられているようだった。

 食堂正面に向かい、左から順番に3,2,1年生の並びになっており、それぞれ紫、黒、茶色の色分けがされた生徒が座っていた。ルイズ達は2年生なので真ん中の長テーブルへと向かっていく。

テーブルの上には朝食だというのに豪華な料理の数々が並んでおり、アビゲイルはついよだれが出てしまいそうになりながらルイズの席があるという場所へと向かうと、自分の分もきちんと配膳されているのが見えた。

 

 ルイズはいつもの定位置、長テーブルの中央より少し右端あたりに座り、その右隣にアビゲイルが座る。キュルケはいつもはルイズから少し離れた位置に座っていたものの、今回はアビゲイルも一緒だという事でそのさらに右隣に座ることになった。

 

「ねえ見てルイズ。 このシチュー、野菜がゴロゴロ入っててとっても美味しそう! それにあのパンもふわふわだわ……ますますお腹が減っちゃいそう」

「もうちょっと我慢なさい。 そわそわしてちゃはしたないわよ」

 

アビゲイルは席に着くとそわそわとテーブルの上の料理を眺めて、食前の祈りを今か今かと待っていたが、ルイズから注意を受け、少しだけしゅんとして反省の表情を浮かべる。しかしそれでも目線だけはきょろきょろと料理の数々を映し、目の前の料理から香る美味しそうな匂いに口の中を涎でいっぱいにした。

 そんな主従のやり取りを頬杖を突きながら眺めていたキュルケであったが、朝食の前の祈りの唱和が始まるまでまだ時間があったので、気になった点を質問することにした。

 

「ねぇ、ところで貴方達、コントラクト・サーヴァントはもう済ませたの?」

「……それが実はまだなのよね。 今日の授業が全部終わったら、学院長室へ来るように言われているから、多分そこですることになると思うんだけど」

「ふーん、そうなの」

 

 昨日『使い魔召喚の儀』を終え、タバサに手伝ってもらいながらアビゲイルを自室へと運ぶ前にコルベールに言われていたのだ。コントラクト・サーヴァントをすると言われたわけではないが、進級の為にはコントラクト・サーヴァントが必須条件の為、おそらく学院長室で行うのだろうと容易に想像がついた。

 

「えっと……コントラクト・サーヴァント? をしたら、正式に使い魔になるのは分かったけれど……具体的に私、どんな事をすればいいの?」

 

 アビゲイルはいまいち使い魔としての仕事についてイメージできておらず、難しそうに眉間に皺をよせ、首を軽く傾けながらルイズへと質問を投げかける。

 

「まずは……そうね、『主人の目となり、耳となる事』」

「……ど、どうやって?」

「これはコントラクト・サーヴァントをすればできるようになる事だと思うわ」

「他には?」

「あとは主人の望むものを持ってくることね」

「うーん……お使いぐらいならできると思うわ!」

 

 アビゲイルはえへんと胸を張る。

 しかし、アビゲイルをもし街に一人で送り出してお使いを頼もうものなら―――財布をスられるか、アビゲイル自身が誘拐されそうである。

 それに、そういう事とはちょっと違うんだけど……とキュルケは苦笑いを浮かべながらも、あえてそれは言わないでおいてあげた。

 

「他は? もう無いのかしら」

「あるにはあるわよ。 でも……ねぇ……」

 

 ルイズは微妙な表情をしてキュルケを見る。するとキュルケも眉尻を下げて「ちょっと厳しいかもね」と苦笑いを浮かべる。両者ともこの子には無理、と烙印を勝手に押すものだから、アビゲイルはちょっとだけ拗ねた表情になる。

 

「そんな風にいわなくたって……私だってきっと役に立てるわ! 何をすればいいの?」

 

 と、唇を尖らせて言ってみれば、ルイズは諦めたような溜息を吐いて、呟くように言う。

 

 

「……主人を守る事」

 

 

 主人を守る。 それはつまり外敵が襲ってきた時、主人が窮地に立たされた時に主人の盾となり、その身を守らなくてはならない。 当然其処に必要になってくるのは死の危険を乗り越え脅威に立ち向かう勇気、そして迫りくる敵を、それも主人を守りながら退くことのできる武力である。

 アビゲイルを見てみれば筋肉は少なく、背丈も12歳としては平均的。 武器などは何も持っておらず、もちろん拳法を学んだなどという経験もない。

 誰がどう見ても『普通の平民の女の子』であり、敵と戦う戦力として数えられないどころか、むしろ守られる側の人間であることは明白だった。

 

「そ、それは……難しい、かも。 でも、ルイズの為ならきっと頑張るわ」

「……その気持ちは嬉しいけど、無理な事はしなくていいわ。 何度もボロボロになられたら水薬だって無くなっちゃうわ」

「う……」

 

 アビゲイルはがっくりと項垂れる。

 水のメイジの作る水薬はそれなりに高価で、今回の場合は同級生のメイジ―――モンモランシーという少女が譲ってくれたそうだ。

 今回こそ彼女の善意で無料で譲ってもらう事が出来たが、これはレアケースであり普通は簡単に手に入れる事はできない。

 今後主人に危険が及びそうになるたびに自らを盾にして、主人の懐へと致命傷を与えてしまうのではルイズが一瞬で破産してしまう事になるだろう。

 

「……ま、まぁアビーちゃんはお洗濯とかそういう身の回りの事をやれば大丈夫よ。 手始めにルイズの洗濯物でも洗ってみたらどうかしら?」

「うん……そうね。 戦う事はできないけれど、お洗濯ならできると思うわ!」

「出来る事からちょっとずつ頑張りなさい。 ほら、そろそろ朝食が始まるわよ」

 

 

 キュルケが何とかフォローを入れる事でアビゲイルは少しだけ気持ちを取り戻す。 食事の方へと意識を向けてあげれば、陰りのあった表情はころりと笑顔に変わり、今か今かと祈りの合唱を待ちはじめた。

 それから間もなくして生徒たちが祈りの合唱を始める。アビゲイルは自分の信じる神以外に祈りを捧げるのは何となく憚られたので、小さな声でぼそぼそと呟きながら主神への祈りを捧げた。

 その後の食事はアビゲイルを十分に満足させるものだった。もしかしたら記憶にないだけで食べたことがあるのかもしれないが、それでも絶品だと言えた。パンの表面はサクッとしており、中身はふわふわ。 そこに熱々のシチューと一緒に流し込んでやると極上のハーモニーを奏でてくれる。

 途中ルイズが「食べ過ぎないでよね」と注意をしていたものの、結局メイドが運んできたパンをおかわりし、気が付いたら朝から少し食べ過ぎたかもと言えるほどのパンをお腹の中に詰めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あんまり話し進んでない……
もうちょっと端折るところは端折った方がいいのかな?

あとは文字数もだいたい4000いかないぐらいだけどこれでいいのか……課題が多い(_ _).
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