虚無と銀の鍵   作:ぐんそ

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アビゲイルのドレスイメージは正装礼装のマリー×騎士王の髪型という感じでお願いします(描写レベル)


34:フリッグの舞踏会

 食堂の上の階は巨大なホールになっており、そこが今宵の舞踏会の舞台となる会場だ。

 数々の絢爛豪華な飾りもさることながら、いつも昼食や夕食などには決して出てこないであろうご馳走の山がいくつかの巨大なサークル型のテーブルの上に並べられていた。

 

 そしていつもと違うのは何も物だけではない。

 

 ギーシュのような例外もいるが、基本的に学院が指定した制服を着用するのが基本であるが、今は皆統一感なく、各々が選んできたパーティドレスや礼装を身につけていた。

 

 そう、今宵はフリックの舞踏会。

 年に一度の特別なパーティなのだ。

 

 子供らしいいつもの雰囲気とは違って、しっかりと身嗜みを整えた生徒たちはどこか皆大人びて見える。

 

 その中でも生徒たちが注目したのは、あのヴァリエールの三女ルイズだろう。ルイズは長い桃色の髪をバレッタで纏め、純白のパーティードレスを身に着けたその姿は、性格を知らなければ誰もが認める清楚で上品な貴族の令嬢と言わざるを得ない。

 

 そして生徒達を更に驚かせたのはアビゲイルだろう。

 アビゲイルはルイズとは対極に、黒を基調としたシックなパーティードレスだ。

 長い金髪を後頭部でまとめ上げたシニヨンヘアになっており、さらけだされたうなじは幼い少女というイメージからは想像できない、胸をくすぐるような色気を持っていた。短めのスカートから覗く生足は細く、それでいて少女特有の柔らかさがある。

 

 ゼロのルイズ、そしてその使い魔アビゲイル。

 二人の評判は生徒の間では決して良いものではなかったが、この時ばかりは皆その容姿に魅せられ、思わず唾を飲んでいた。

 

 そんな中、テーブルの一角でアビゲイルは顔を赤くして頰を抑えていた。

 

「はぁぁ……恥ずかしかった」

「は、ははは……まあ、栄誉授与式の真っ最中だったからね」

「遅刻してくるからそうなるのよ」

「寧ろあの場に飛び込めるのは勇気がある」

 

 ギーシュが苦笑いを浮かべて、モンモランシーがちくりと刺す。

 タバサは寧ろ感心したように言うが、全く嬉しくはない。

 

 遅刻してきた二人が思い切り扉を開いたのは、まさに式の最中。

 全生徒の視線がこちらへと集り、教師たちのあちこちから何とも言えない視線と溜息があった。

 

「でも一番の重傷者はルイズね。 あの後ぜぇぜぇ息を切らしながら学院長先生の前に立つ事になったんだから」

「そ……そうね」

 

 やれやれと肩を竦めるモンモランシーにアビゲイルは同意する。

 アビゲイルは貴族ではないため壇上へは立たないで済んだが、ルイズはフーケ捕縛の作戦に参加した栄えある貴族の一人なのだ。

 顔を真っ赤にしながら息を切らして壇上へ向かう様は、なんとも残念な感じだった。

 

 アビゲイルは隣でがむしゃらに食事を口の中に詰め込むルイズを見る。

 先ほどの羞恥心を忘れようとしているのと、単に昼食を食べていなかった事によってそのスピードは異常だ。

 

「ルイズ……喉に詰まらせないようにしてね?」

「うるひゃいわね……!」

 

 つんのそっぽを向き、再び料理を口に詰め続けるルイズを見て溜息を吐く。

 

「そ……それにしても、貴族では無いとは言え、アビーに何も無しと言うのは釈然としないね。 一番の立役者はアビーだと言うのに」

「そんな事ないわ! ギーシュさんがゴーレムを引きつけてくれて無かったら、フーケにたどり着くこともできなかったもの。 タバサさんとギーシュさんが二人でゴーレムを倒すところ、見てみたかったな」

「ううむ……君がそれで良いのなら良いが……そういって貰えると頑張った甲斐があったって素直に喜べるよ」

「実際にあなたの戦術は凄かった。誇っていい」

「そうなの?へぇ……意外ね。やるじゃないあなたも」

 

 アビゲイルに続き、タバサ、そしてモンモランシーがギーシュへの褒め言葉を送る。

 想像以上に周囲から褒められ、ギーシュはハハハと照れ笑いを浮かべた。

 

 ルイズはそんなギーシュを見て、やや不服そうに口をへの字に曲げながら呟いた。

 

「よくよく考えると私なんもしてない」

「そんなことないわ。 ねぇ皆」

 

 アビゲイルは目を泳がせて周りに同意を求める。

 

「私は見てないから良くわからない」

「………ま、まぁあのフーケと、凶悪な邪神に立ち向かったのだからむしろ誇るべきことだよ、うん」

 

 ばっさりと切り捨てるタバサだが、自分が駆け付けたのはギーシュとゴーレムの側だし、再度合流したときには既に全員が気を失った状態だった為判断のしようがないのも事実だ。

 

 ギーシュもそれは同じことだが、とりあえずフォローをするという判断をする。

 しかしルイズは納得しないようで、ギギギと悔しそうに奇声を上げたと思いきや、再び料理をガンガン胃袋の中に詰め込み始めた。

 

「……あー、えっと、ほどほどにね、ルイズ。 ほらダンスがあるんでしょう? お誘いは受けたの?」

「それなりにね……」

「まあ……さすがルイズね。 御伽噺のお姫様みたいに綺麗だから、やっぱり皆放っておかないのかしら!」

「そ……そう? そうかもね」

 

 先程までの不機嫌そうな表情はどこへ行ったのか、アビゲイルの屈託のない賞賛を聴き、ニヤけ始める。

 ギーシュたちは、ルイズの扱いが上手いな、と内心で舌を巻いた。これを素でやってのけるのだから、恐ろしい少女である。

 

「アビーは誰かに誘われたの?」

「……う、うん。 私の事を怖がらずに来てくれた人が、何人か……でも、全部断ってしまったわ」

 

 アビゲイルが伏し目がちに言うので、ルイズは目を丸くする。

 

「え?なんでよ勿体ない」

「だってダンスなんてした事ないんですもの……足を踏んだり、転んだり、きっと皆の迷惑になってしまうわ」

「ああ……なるほど」

 

 ルイズは納得する。 そう言えば煌びやかなドレスを身に纏うのも初めてだと言っていたのを思い出した。

 確かに初めてのダンスを、初めての衣装を身にまとい、あまり顔の知らない相手と踊ると言うのはハードルが高い。

 

 特にアビゲイルは人懐こく、誰にでもいい笑顔を振りまけるように見えるがその実、一人きりになると意外と人見知りする性格らしいのだ。

 相手を思いやる優しさを持ってるが故に必要以上に他人の顔色を伺ってしまうのが彼女の悪い所と言えるかもしれない。

 

 ルイズは暫く考えて、「そうだわ」と声をあげた。

 

「それなら私と踊らない? 最初の感覚だけ覚えれば、色んな人と踊れるようになるわ。 貴族にとってダンスは必須科目だし、アビーが踊らなくても皆たぶんリードしてくれるわよ」

「そう……なのかしら? でもいいの? ルイズは皆のお誘いを受けてるんでしょう?」

「別にずっと同じ相手と踊らなきゃいけないルールなんてないから安心しなさい。 それに異性じゃなきゃいけないルールなんていうのもね」

 

 不安そうに言うアビゲイルに対してルイズが言うと、ギーシュもそれに同意するようにして口を開いた。

 

「そうさ。 社交界の様なものを兼ねているとはいえ、パーティは楽しむものさ。 あまり気を張らずに緩く楽しめばいいよ」

「……踊らないで延々と食べ続けるつもりの子もいるみたいだしね」

 

 モンモランシーが呆れた表情で隣を見ると、そこには山盛りに積んだハシバミ草のサラダを黙々と食べ続けるタバサの姿があった。

 アビゲイルはやや引きつった笑みを浮かべてからこほんと軽く咳払いをして、ルイズを見た。

 

「それじゃあ……私と一緒に踊ってくださる?」

「ええ、もちろん!」

 

 にこりとルイズが笑みを返すと、アビゲイルの表情にぱあっと花が咲く。

 

 それから暫くすると、ゆっくりと優雅な曲が会場に流れ出した。

 生徒達は食事や歓談を止めると、料理の並べられているテーブルから移動して会場の中央へと移動する。 それから予め誘っていたペア同士を見つけ出すと、手を繋いで曲のリズムに合わせてゆったりと踊り出した。

 

 それに習ってルイズとアビゲイルも踊り出す。

 アビゲイルはやはりぎこちないステップであるが、ルイズが優しく、そして動きやすい様に手を引いてリードしてくれる為、アビゲイルも徐々にコツを掴み、やがて楽しくなってきたのか高揚した笑みを浮かべて踊り出す。

 

 そこにあるのは白と黒のコントラスト。

 二人の少女が手を取り混ざり合う、美しき花園。

 見目麗しい同性同士というのもさる事ながら、使い魔とその主人が踊るというのも珍しく、生徒達の注目を集めた。

 一歩、また一歩と足を出すたびに二人の間には笑顔が浮かぶ。

 そこには確かに絆があり、愛情があった。

 昨晩、彼女が恐れていた事なんて何処にもない。

 

 

「良かったな相棒。 ああ、本当に良かったなあ……」

 

 タバサがハシバミ草のサラダを喰らい続けるテーブルの上で、ダンスの際には危ないからと留守番をすることになったデルフリンガーがしみじみと言う。その様子は単に二人の仲が治った事に対する喜びだけではなく、まるでアビゲイルの幸せを切に願っているようだった。

 

「……あなたは全部知ってるの? 彼女の事」

「あん? ……さあな。 俺が知ってる事なんてちっぽけなもんだ。 俺から話せる事はそう多くはねぇよ」

 

 タバサが疑問を投げかけてみれば、デルフリンガーは突っぱねるようにして言う。

 

「相棒の中に眠る――いや、繋がってるっつうべきか。 その力がどこのどいつから来てるのかは俺にもわかんね」

「そう……」

「だけど近しい力は知ってる。 それが生み出したクソみたいな結末もな」

 

 デルフリンガーの言葉に宿っているのは無数の怒りと、そして悲しみだった。

 タバサは怪訝そうな顔をしてデルフリンガーを見る。

 

「……どう言う事?」

「それは……」

 

 デルフリンガーは珍しく言い淀む。その様子は普段の口の悪く、思った事をすぐに口にしてしまう性格の持ち主とは思えない程だ。

 

 気づけば一曲目のダンスが終わってしまうほどの沈黙。

 目線の先にいたアビゲイルは、次はギーシュと踊り始めている。

 流れる曲は先程までのゆったりとした曲から、少しだけ陽気でテンポも先程と比べれば早い。 しかし、それでもルイズと踊った経験とギーシュのしっかりとしたリードによって踊ることができているようだ。

 

「はは、もうちゃんと踊れるじゃねーか。 流石相棒だぜ」

 

 デルフリンガーぱ独り言のように呟く。

 それから続けて言葉を紡いだ。

 

「俺の昔の担い手も、あんな風に友達と楽しそうにしてたよ。 喧嘩したり、泣いたり、仲直りして笑いあったり……」

「……」

「でも全部ぶっ壊れちまった。 皆狂っちまった。 ……あの時の俺ぁ始めて武器になった事を後悔したよ。 今になってもあの感覚だけは忘れやしねぇ。 ちょっと前までバカみたいな話で笑いあってた友達の首を掻っ切って……心臓を貫いて……」

 

 ナイフであるデルフリンガーには涙は無い。 しかしタバサにはどこか後悔で泣いているようにも見えた。

 

「……だめだ、これ以上は言えねぇ。 いや、全部言った方が良いのかもしれねぇが……いくら口の固そうな嬢ちゃんでもこれ以上は」

「……そう」

「臆病な野郎で悪かったな。 ……くれぐれも相棒にだけは言わねぇでくれよ」

 

 デルフリンガーはそう自嘲気味に言うと口を閉ざす。

 タバサもそれを見て再び手を動かし、皿の上に盛り付けられた大量のハシバミ草のサラダを口に運び始めた。

 

 結局キュルケは参加できなかったか、とタバサは気分を沈ませる。

 皆言葉にはしなかったが、内心ではそれを思っていただろう。

 

 再び曲が変わり、中央ではアビゲイルとモンモランシーが踊っている。

 会場の照明に照らされた二人の笑顔はいつまでも眩しく輝いていた。

 

 




キュルケは居ないしキュケオーンも居ない……哪吒は来た……

デルフリンガーの取り戻した記憶がぽろっとでてくるの回。
ブリミルと使い魔達……あーもうめちゃくちゃだよ
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