虚無と銀の鍵   作:ぐんそ

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百合……というか若干下品な表現に注意です。
日常ギャグが嬉しくて楽しくて筆が乗ってしまったんだ……スマンノ(★5)


36:少女と葡萄酒の休日-2

「えへへへ……るいずぅー」

「ちょっとアビー、飲み過ぎよ! あんた水か何かと勘違いしてるんじゃないでしょうねえ!?」

 

 ふわふわ――ふらふらと、幸福にまみれたような顔を浮かべるアビゲイルに、ルイズは批難の声を上げる。

 アビゲイルの顔はまるで湯にでも浸かったかのように赤く染まり、その瞳はギーシュとの決闘の時にに見せたように虚ろだ。

 

 とはいえ、あの時のような薄暗く、感情を失ってしまったかのような様子の変化ではなく、陽気で感情豊かだ。

 

 まさか、と思いルイズはアビゲイルの持つ葡萄酒の瓶を見る。

 気がつけば栓を抜きたてのはずの瓶の中には残り僅かの葡萄酒しか入っていない。 ゆらせどゆらせど、ちゃぷちゃぷと瓶底で虚しい水音をたてるだけだ。

 

 いったいどんなスピードで飲んだのだろうか。

 少なくとも減っている量からして、まるで長いマラソンを終えた後に飲む水のようにがぶ飲みをした事は明らかだった。

 

 するとアビゲイルは、ぷうっと頬を膨らませて抗議する。

 

「してないったら! ほんのちょっと、ちょっとなんらから!」

「見え見えの嘘つくんじゃないわよ! シエスタも気づいてたならとめてよ!」

「す、すみません! 幸せそうなアビーさんが可愛くてつい……!」

 

 だめだこのメイド……!

 

 ルイズは思う。 なんだかアビゲイルの周りにいる人は、アビゲイルに対してやたら甘くないだろうか?と。

 

 キュルケといえば、彼女を溺愛していたために激甘。

 そしてシエスタもそれと同じような節がちらほら見られる。

 

 ギーシュとモンモランシーは二人に比べてまだまともだが、あの二人がアビゲイルを見る目はまるで年の離れた幼い妹を見るようだ。 さらには熟年夫婦が我が子を見守っている時のような目を向けることさえある。

 わが友とか言ってるくせになんて欲張りな奴だ。 絶対許さんし渡さん。

 

 そして驚くべきはタバサだ。

 一見して冷たく見えるが、結構友達思いだ……というのは最近になってわかってきた事だ。

 しかし聞けば部屋に泊めたと言うではないか。

 それだけではない。 王都では物を買い与えようとしたり、共に食事をした時なんかは自分の好物であるハシバミ草のサラダをオススメしていた。 本屋に向かった時は自分の読んでいた本についての概要を説明したり、初心者の勉強にオススメの絵本なんかも熱心に選んであげていたような気がする。 それはまるで…………

 

 ………今思えばあれは仲の良い友だちができてはしゃいでるだけか。

 

 ともかく、アビゲイルの周りが皆甘いというのは教育上よろしくない。

 ここはご主人様としてがつんと叱り、躾ける必要があると考えた。

 

「アビー!」

「っ!」

 

 ルイズが大きい声を出すと、びくりとアビゲイルは肩を震わせて、驚いたようにルイズを見つめる。

 

「いい?酒は飲んでも飲まれるなって言葉があるのよ。美味しいお酒だからどんどん飲んじゃいそうになるのは分かるけど、そういうのはぐっと堪え―――ちょちょちょっとなんで泣くのよ!? 早すぎるでしょ!」

「ひっく……ふぇぇん……」

 

 アビゲイルの両目からはとめどなく涙があふれ、ぐずぐずと鼻をすすりながら嗚咽を繰り返し始めた。

 その両手はまるでぬいぐるみを持っているかのごとく葡萄酒の瓶を抱き込み、酒瓶という事に目をつぶればその姿はより一層幼く感じてしまう。

 

「ルイズさん!言い過ぎでは!?」

「う、うううるさいわね!全然言いすぎじゃないわよ!?」

 

 罪悪感に耐えられなくなりシエスタが悲鳴のように声を上げ、ルイズも動揺して声を震わせる。

 しかしここで負けてはならない。挫けてはならない。

 本当に彼女の事を想うなら、正しい道へと導いて上げるのが主人としての務めなのだ。

 

 ルイズは心を鬼にする。

 鋼のような体で少女の涙(心を穿つ銃弾)をはね飛ばすのだ。

 

「な……泣いたって駄目なんだからね! 私はあんたを甘やかさないって決めたの!」

「うぅ……るいずはわたしの事きらいになってしまったんらわ……わたしがいけない子らから……ごめんなさいるいずぅ……」

「んもー!! 違うわよ!! 前も言ったけどすぐそうやって決めつけないの!」

「だってぇ……」

 

 ぐずぐずと涙声で訴えかけられる度にルイズの装甲(良心)が砕けていく。

 それでもルイズは止まらない。 そう、全ては彼女のために。

 

「ちゃんと聞きなさい。 私はあんたが嫌いになったからこういう事を言ってるんじゃないの」

「じゃあなんれ…?」

「それはその、あんたの事がす、すす、好きだからよ! だからこうして心配して言ってるの!」

「好き……?」

 

 アビゲイルは涙で潤んだ目をぱちくりと瞬きさせるとルイズに聞き返す。 ルイズが明確にそんな言葉を口にしたのは初めてだったからである。

 ルイズはフリッグの舞踏会の日、アビゲイルが眠りに落ちたのを見計らってから「好き」と好意を口にはしていたのだが、アビゲイルにはそれを知る由がない。

 だからこそ胸の奥が熱くなり、どうしようもない多幸感によって身が包まれる思いだった。

 

「まあ……るいずがすきだって! しえすたさん! 今の聞いていらっしゃった!? 」

「ええ、聞いていましたとも! あのルイズさんが『好き』って!」

「ふふ、ふふふっ! 嬉しい……! ぽかぽか身体があつくなって、むねもドキドキしてる……。 『好き』って凄いのね! わたし、幸せな気持ちでくらくらしてしまいそう……」

「いや、くらくらっていうかフラフラしてるから! 完全に酔っ払いの症状よそれ!! シエスタ、一緒になって盛り上がってないで水差しを持ってきて!!」

 

 様子がおかしいのは明白だが、いつ倒れてもおかしくない状態にルイズは声を張り上げる。 シエスタも流石に反省したのか「直ちに!」と言って厨房の方へと駆け出して行った。

 

「全くなんで朝っぱらからこんな事に……」

 

 ルイズは、はぁ……とため息を吐いて、ぐったりと椅子にもたれかかる。 こんな優雅な休日もいいだろう、とかぬかしていた数分前の自分がやけに滑稽に思えた。

 まさかアビゲイルがそこまでアルコールに対して執着……というか、タガが外れるとは思ってもみなかった。

 考えてみればアビゲイルはかなり自分の中の感情を抑圧する方だ。 だからこそ、アルコールというか栓抜きを与えた瞬間こうして溜まりに溜まった感情が爆発してしまう……のかもしれない。

 

(流石に好意的な解釈すぎか……まあ、今はただの酔っ払いよね)

 

 ルイズは何度目かもわからないため息を吐き、そういえばアビゲイルが抱え込んだ葡萄酒の瓶を回収しなくてはと思い出す。 酔っ払いに瓶を持たせた場合、ぶっ倒れるまで中身を飲み続けるか、急に凶暴化して酒瓶を振り回すものと相場が決まっていると誰かが言っていたような気がするのだ。

 

 ルイズはアビゲイルの方を向く。

 するとその瞬間。

 

「ん〜……」

「!!!???!」

 

 眼前にあったのはアビゲイルの真っ赤な顔。

 そしてルイズが横を向いてしまったがために触れ合ったのは唇と唇。

 小さな桜色が自分の唇に押し当てられ、手を繋いだり身体を寄せ合うのとはまた違った()()()を感じることとなった。

 

 コントラクト・サーヴァントの時は軽く触れるようなライトキスだったが、今回は少し深めのプレッシャーキス。 しかも前回はこちら(ルイズ)からだったのに対して、今回はあちら(アビゲイル)からだ。 自らのタイミングでするのとはまた違った感覚に戸惑いを隠せず、ルイズは思わず身を硬直させてしまう。

 

「ん、んん……!?」

 

 唇から伝わる暖かな温度。 葡萄酒で少し湿った皮膚は採れたての果物のように瑞々しく、このまま永遠に味わっていたくなるほどの魅力を発していた。

 

 ルイズの全身に力が漲る。

 

 これは性欲か。

 なんという事だ。 可愛い好きだとは言ったが、まさか自分がこんな幼気な子供を相手に、それも女の子相手に興奮してしまうなんて――――

 

 ではなく。

 これは魔力だ。

 

 彼女に触れるたびに濃い魔力が流れてくる(最近になって感じられるようになってきた)のだが、キスをした時はそれがより顕著に現れるのだろう。

 

 

 ―――もしプレッシャーキスよりも深いキスをしたら(舌を唇の隙間に割り込ませたら)どうなってしまうのだろう?

 

 ルイズは知的好奇心を試すためにアビゲイルの後頭部を支えるようにして持ち、一度顔を離す。 ぬらり、と粘膜が糸を引き、ぼんやりとしたアビゲイルの顔が映った。

 

「……はれ……?」

 

 こいつ、マウストゥマウスでキスした事分かってないな?

 

 恐らく頰にでもキスをするつもりだったのが、自分が横を向いたせいでこうなってしまったのだろう。 とろんと今にも瞼が落ちそうな彼女の表情は、「あれ?なんで正面むいてるのかしら」と言った所か。

 

「フー、フー、か、かか、覚悟しなさいよ……」

 

 だけどもうそんな事はどうでも良い。

 ルイズの中にあるのは溢れ出る知的好奇心を満たしたいという欲求だけだ。

 断じて、そう断じて邪な気持ちなどこれっぽっちも無いのだ。

 ルイズは生唾を飲むと、ヴァリエール家の名を背負い、アビゲイルの顔に再び顔を寄せる。

 

 アビゲイルはもはや思考が回っていないのか、「何をしているんだろう?」という表情を浮かべながらルイズを見つめるだけだ。

 

 やがて唇と唇が触れ合う。

 優しく這うようにして唇をスライドさせると、ルイズはゆっくりと舌をその鮮やかな二つの桜色に突っ込んだ。

 

「ふぁ……」

「あらま……」

「オォ……」

 

 

 アビゲイルの甘い声――――となんか後二人ぐらいの声が聞こえた気がする。

 それを認識した瞬間、先ほどまでの熱っぽい思考は吹き飛び、思考だけでなく全身までもが急激に冷えていった。

 

 恐る恐る横目で声のした方を見ると―――そこには顔を赤らめ、手で顔を覆いながらもその隙間からにやにやと笑みを浮かべるシエスタと、あんぐりと口を開けたまま手に持っていたであろうグラスを床に落としたギーシュの姿があった。

 

 アビゲイルの後頭部をしっかりと押さえていた自分の手ゆっくりと下ろし、それから彼女へと侵入していた自分の舌、そして唇を離す。

「あ……」という小さな声と共にアルコールによって上気した頬は赤く染まり、ゆっくりと話した唇の先からねっとりとした粘液が糸を引いた。

 

 

「………こ、こ、これはその」

「き、きき、君たちそういう関係だったのかい……?」

「やめちゃうんですか?」

 

 シエスタは少し残念そうな声を上げ、ギーシュは若干前かがみになりながらも動揺を隠せず、やや血走った眼でぎょろぎょろと目を泳がせていた。

 構図としては、ルイズからアビゲイルに迫った、といった感じだろうか。

 

「ち、ち違うのよこれはっていうかギーシュあんたなんでこんな所に居るのよ!?!」

 

 ルイズはパニックになりそうになりながら―――否、既にパニックになりながら話をそらそうと捲し立てる。

 するとギーシュは何とも言えない表情になり、周囲を見渡した。

 

 

「いや、君……ここが食堂だっていう事忘れてないかい?」

 

 

 ルイズ達が座っているのは一年生席の厨房側。

 当然多くはないが、ちらほらと生徒の姿があり、その誰しもが顔を赤くしながらこちらを見ていた。

 

 

 「い”や”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

 

 

 ルイズの絶叫。

 振り回された杖から放たれた強烈な失敗魔法は何時もよりも大きな爆発を引き起こし、食堂の壁の一部が消し飛ぶ事となった。

 

 

 

 

 

 

 




変態変態!
俺もギーシュになって見守りたかった……

日常ギャグに紛れてちょっとだけ今後のネタも巻いていく。 これで一安心!

次回はお姫様……?です。
自分は実はお姫様が一番好きです

エロいから

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