:断る意義もなし。
・ならば行こう、我らが意思を示さんがために。
―――
「終わりか」
2003年、1月。二三○○付けで侵入者を排除。抗戦の意思ありとみなしてこれを殺害する。なお、侵入者の精神は精神が狂わされており、会話の余地なしと判断した故これを処す。
一人の人生が、たった一枚のA4用紙に収まった瞬間である。
「やはり、気分が良い物ではないな」
「終わらせた方が賢明だった。俺のように耐えていたのではないのだからな」
「……それも、どうかと思うがね」
「よく言う。灰すら残さない炎で焼きつくしたのは誰だったか…ガンドルフィーニ」
「君も、いつも通り見事な手腕だったよ、フォックス」
乾杯、とグラスをぶつけ合えば清涼な音が店内に響く。仕事を終えた二人は、とある居酒屋の個室に案内されていた。ガンドルフィーニお薦めの話が聞かれない個室のあるこの店、すっかりフォックスも常連になった。
ジョッキの半分ほどまで飲むと、フォックスは追加注文に先ほどと同じ飲料を頼む。その名称は玄米茶。しばらくして、ビールとはまた違った茶色の液体が注がれ、店員はごゆっくりと言い残して営業の歯車を回しに行く。アルコールを摂取しないフォックスを見て、ガンドルフィーニは眉間にしわを寄せる。
「酔えない身体。君も不便なものだ」
「一概に悪いとは言えないがな。体調管理を気にせず、闘い続けることが出来る」
「二言目には闘い、か。君らしいよ、まったく」
相対して、彼は冷えたビールをのどの奥に流し込む。大人の苦みとアルコールの酔いが身体を温め、疲れた体を十全に癒してくれた。酒は薬、とはよく言ったものだと昔の人に感心する。そのまま甘酢のかかった鶏皮に手を伸ばし、ぱくりと一口。そろそろ暑さも近い夏を先取りした肴は、食指を進ませていた。
「最近は忙しいようだが何かあったのか」
「ああ、2月に新しい教師が着任してくるんだ。それも、“スプリングフィールド”。あの大英雄ナギ・スプリングフィールドの息子だ。
「英雄…か」
思うところはある。
国に貢献した大英雄、アウターヘブンを止めた英雄。そう呼ばれていた『スネーク』の称号を持つ男たちの姿が脳裏をよぎる。そして、彼らは英雄と称えられたその時に、口を揃えて同じことを言っていた。
『俺たちは、英雄じゃない…ただの兵士だ』
血族の為せる遺伝か、共感する
そこまでと、フォックスは区切りをつける。酒の席とは、飲まずとも哀愁を思い出させるものだと頭を振って考えを飛ばした。
「どうした?」
「いや、英雄に思うところがあっただけだ」
「……まあ、それも仕方ないだろう。着任してくる彼も、いくら英雄の息子とはいえ、たった9歳の子供なのだから」
「なに?」
子供。おおよそ教師という肩書には似つかわしくない年齢が出てきたものだ。そう考えて、フォックスは顔をしかめながらにグラスを傾けた。ガンドルフィーニも思うところがあるのだろう。同感だと視線で語り、飲みきった空のジョッキを机に置く。
「幾らなんでも学園長もやり過ぎだ。…まあ私も、彼に“
……とはいえ、だからこその各学年のAクラスなのだがな。受け持ちは……君も知っている、長谷川のいる2-Aになるようだ」
「そうか……英雄の、息子」
「……さっきからどうしたんだ? 随分と英雄という言葉に反応するな」
「いや、些細なことだ」
ここまでにしておこう。そう言って立つ彼は、少なくともガンドルフィーニに話しても仕方のない事だろうと話に区切りをつけた。割り勘で代金を支払い、ガンドルフィーニから別れると夜の街から離れて行く。闇が支配する整備の生き届いていないアスファルトの上を20分ばかり歩けば、一点の光を発する倉庫が目に入った。
何気ない、依頼があっただけの彼の一日はその場所で終わる。
『≪事も無し。いい加減この空気も薄気味が悪いわね≫』
麻帆良の動向を記録してあるサーバー、それへと電子精霊を掻い潜って
「ん、終わったか?」
『≪ええ。二月には数え年で九歳の子が教師として来るらしいわ≫』
「うげ、まった非常識な……労働基準法はどこ行ったよ?」
『≪残念なことに、ここは麻帆良よ。ある意味“日本から隔絶”されたこの土地には日本の法律は通じないし、貴女にとっては悪いことに、この子は2-A担任になるみたい≫』
「……終わった……私の中学生活」
せめて、高校からは希望がありますよーに。などと祈り始めた千雨に、勉強続けなさいと言葉の鞭を入れるRAY。ほとんど期末にその九歳の教師が赴任すると言うのだが、学生にとっては大事である期末テストも近い勉強ムードが漂い始めたころ。テストそのものは2か月先とはいえ、大事な月にそんなイベントを挟んでくれば2-Aの勉強しない雰囲気が加速してしまうのは自明の理であろうに。
「なんだ、学園長は私らを成績のどん底に叩き落としたいのか?」
そう言う千雨は間違っていないだろう。ここまでくると、最早謀略の域である。
『≪まあ、そのためのAクラスのようね≫』
「…?」
『≪チサメみたいな認識阻害にかかりにくい子、魔法に携わっている子、麻帆良の異常を身体能力、性格、及びに頭脳で発現している子。―――そう言った明らかな“逸脱者”が集められているのがAクラス。全学年にぴったり30人弱、という訳にはいかないけれど、意図的にそう言った集団を作っているシステムが麻帆良全学年にあるわ。もっとも、逸脱を通り越した“裏”を知っているのはごく少数だけど≫』
「じゃあ、私らは更に異常ってことだよな……“関係者”はほとんどだし」
『≪そこは疑いようが無いわね。…あ、そこの答え連邦共和国じゃなくて“ソビエト社会主義共和国連邦”よ≫』
「え? …あ、逆で覚えてた」
溜息と共に赤ボールペンが紙上を走る。千雨も決して頭が良いというレベルではなく、少しパソコン関係に強いだけの普通レベルの頭脳である。日々の勉学は欠かしてはならないというRAYの言に強制的に従わされ、今日も問題集を埋めて行く彼女であった。
と、そこに扉から入ってくる人影がある。その人物からは赤い液体が垂れているせいで、オイルと鉄くさい匂いに重度の生臭さが加わってしまう。本人がまったく怪我をしていないところ見るに、返り血ということなのだろう。人影はそのまま、最近備え付けられた専用のシャワールームに向かって行った。
『≪あら、新しい外骨格はどうだった?≫』
「いいものだ。ただ、右足の膝間接に軋みがある」
『≪サイズ削り間違えた? まあ、早く洗ってきなさい≫』
「ああ」
血のこびりついた外骨格を脱ぎ捨てると、その下からは逞しく鍛え上げられた肉体が露わになる。血の生臭さとそのような肉体美を見せつけられた千雨は勉強どころではなく、深いため息に言葉を乗せて彼…フォックスに急ぐように言った。小さく返答を返すと、今度こそ彼の姿はシャワールームに消える。
「流石の私でも、ちょっとこれはねーよ。……外行ってくる」
『≪空気の洗浄しておくわ。シャッターを開けるから待ってて≫』
実戦では頼りになる男は、生活空間では非常に迷惑な男となってしまったらしい。
この後、フォックスは千雨から返り血をちゃんと拭いてからにしろ、などと説教を1時間に渡り聞かされ続けていたとか。彼に幸あれ。
そして翌日。彼女が登校する道にはエヴァンジェリンと茶々丸が立っていた。千雨を待っていたようで、彼女が見えるが否や其方に小走りで近寄った。どうせ、碌でもない事だろうと思いながら。
「貴様の事だ。2月の教師については知っているのだろう?」
「あれか」
「奴は貴様にとって特上の
「分かった。…にしても、桜通りの吸血鬼ってエヴァンジェリンだったのかよ」
「現在マスターは雌伏の時。私も時に備えて調整中ですので、しばらくはそちらに行けなくなりますね。申し訳ありません」
「はいはい。じゃ、RAYも聞いてただろうし、さっさと学校行くぞ」
とん、と千雨が頭を叩くモーションはRAYもどうせリアルタイムで聞いていただろうという仕草。実際、忘れがちであるが千雨の傍にはメタルギアMk.Ⅱが常につき従っている。その映像・音声から常に外の情報を仕入れているのだから、話す二度手間が省けるという訳である。ただ、知っている者は千雨とRAY以外にはいないのだが。
そんな動作を“なのましん”という奴か、と納得したエヴァンジェリンは鼻を鳴らし、足早に中学校を目指した。頭にあるのは、ボイコットの一文字であったのだが。
「それしても」
「?」
思い出したように訪ねるエヴァンジェリンに、千雨は首をかしげる。
「貴様の戦闘技術、行動パターンは訓練開始の頃から歴戦の兵のようだったが…体力は最低値。いったいどのようなトリックを使った?」
「ああ、ナノマシンからの情報提供だよ。ここはどうすればいいか、この場面で銃を撃つべきか、最終判断は私に委ねられるけど、最良の動きが何となく取れるようになるんだ。まだまだ身体が追いついてないけどな」
「戦闘情報が直接身体に、か?」
「そんな感じだ」
本気で動くためにはカエル部隊の兵装が必要だけど、と千雨がいうのだが、そこで何故カエルが出てくるのか分からない茶々丸は首をかしげていた。一方、エヴァンジェリンは先ほどの話について整理する。“なのましん”というらしい極性のそれは、人間の体調管理をするものだと思っていたが、その実、簡単に闘いの初心者を中堅、程度によってはベテランまで引き上げる兵士の量産機にも成りうるということを。
これが兵器転用されてしまえば、いや、元々は兵器であるRAYがいた世界で普及していた技術。もしこの世界でこのようなものが解明され、蔓延ろうものならば……戦争が。人の欲望を増大し、国を、技術を無限に成長させる最悪の事態が起こってしまうだろう。その時、世界は―――
(いや、考えすぎか)
今はまだ、長谷川千雨とグレイ・フォックス。たった二人が独占している技術である。RAYもその危険性は分かっているだろうし、その情報や実物を秘匿するための手段を打ってあるだろう。RAYは兵器とはいえ、自立している。闘いを好むという訳でもないのなら、心配は無用だ。
「どうしました? マスター」
「いや…少し考えていただけだ」
こうして考えれば爆弾であることは間違いない存在と分かったのだ。今はそれでいいだろう。そうしてエヴァンジェリンは思考を切り替えた。
今は平和なのだ。まさか、英雄の息子とはいえ“スプリングフィールド”が全てを始める訳でもあるまい。自分はソレから少し血をもらって呪いを解くだけ。普通は一人の人間から全ての連鎖が始まるのだが、それは日常と言う連鎖でしかない。英雄の息子は、まだ英雄ではない。戦いに人を巻き込むわけではないのだから、そう未来を心配することも無い。
間違っては居ない、至って平常な思い。だが、エヴァンジェリンはそれを撤回することになるだろう。麻帆良に投げ込まれる予定の新人教師、“ネギ・スプリングフィールド”。彼は、物語の主人公でしかないのだから。
だから、今はただ忘れよう。
この薄暗い身の上には不釣り合いな、淡い日常を甘受して。
RAYのいる格納庫は、核ミサイルが直撃しても外壁が少しそげる程度で耐えられる構造だ。核抑止が採られていた
故に、防護システムも完備されている。搬出口のシャッターは幾重の防壁を圧縮したもの。壁は言うまでも無く、頑丈・屈強な合成金属を惜しみなく使った特殊合金。侵入者など入れるはずもない。
だが、空である。
RAYは、ここには居なかった。
「どこへ行った…?」
異常を察知したのは一匹の狐。
彼女が鎮座していた筈の場所を見つめて、直後に行動を始めた。強化外骨格を装着し、オクトカムの上にステルス迷彩を起動させる。すなわち、RAYの捜索のために。
「…これは」
その最中、コンソールには一つのデータが映っていた。
『麻帆良、はずれの森にて正体不明の熱源を感知』。魔力ならば学園長からフォックスに連絡がある筈、だが、それに気づくことが無かったというのは―――魔法や気の力を持たない者だろう。
どうせなら誘えば良い物を、とまだまだ状況判断の未熟なAIに不満を飛ばすが、本人はここには居ない。そう深く予想などするまでも無く、はずれの森に向かったのだろうと辺りをつけるや否や、フォックスもすぐさま走りだした。
白昼堂々と現れた愚者。態々切り札を動かした無礼者に天誅を与えるべく、狐と閃光は集うのだろう。戦場と成るか否か……いや、彼女が動いたのならば闘いと呼べるかどうかも怪しいのだが。
「チサメ、メッセージを送る。RAYが侵入者情報を感知、麻帆良はずれの森へ独断専行を起こした。これより俺もそちらに向かう」
これでいい。メッセージを送信したことを確認して、狐は化けた。
さて、ネギ君が来る前にひと騒動です。
私達は好きですよ? ネギ。(豆腐とか、ラーメンとかに合いますし)
本当の主役はだれか、という質問が多く寄せられていましたが、こうして二次創作を書く以上、誰が主役ということはなく、なるべく全員にスポットライトを当てていきたいのです。つまり、FF6状態。うわー投げやり
まあ、もし誰かから横やり入れられてもやりっぱしで突っ切るつもりです。
ここまでお疲れさまでした。またお会いしませう。