萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
こちらの世界の「二課」に再び用意してもらった仮拠点、二課に大まかな事情を共有した後に私と翼さんは奏さんとそこで互いの戦いについて語っていました。
「へぇ、そっちでも平行世界規模の危機があったんだな……」
「こっちにはスクルドとか、世界蛇の話が全く聞こえてきませんでしたけれど……あー……そのロードフェニックスが使っていたカルマノイズが世界蛇由来なのは初めて知りましたね」
久しぶりに出会った「仲間」と互いのとびっきり長い近況報告をする内で思ったのは、案外別の世界というのは直ぐ側にあるという感覚。
ギャラルホルン、世界を渡る聖遺物は世界蛇という巨大な脅威に対抗する為に作られたといいます。
「それにしても私も知ってれば協力できたかもしれませんね……前よりずっと強くなったんですよ、私」
「ああ、そうだとも!私がしっかり鍛えたからな」
この二年、翼さんとザババコンビみたいにユニゾンできる様にしっかり息を合わせる為に必死に鍛えてきました。
神様がいなくても人は生きていくし、悲しみも争いも無くなる事はない、未知なる侵略者や古代の遺物に……人が生み出す悪しきもの。
その全てに抗う為に、私達は戦って来た。
「直近では聖遺物の破片を積んだロボット兵士を密売してた組織とか潰しましたよ」
「そうかそうか……それよりもアタシが気になるのは……二人の関係なんだよなぁ~」
滅茶苦茶に意地の悪い笑みを浮かべる奏さん、顔を赤らめ逸らす翼さん、カメリアが一足先に寝ていて本当によかったです。
「あー……なんといいますか、奏さんの前で言うのもなんですけれど……「私の」翼さんに関しては私が一番誰よりも、クソデカ感情を抱いてる自信はありますよ?世界を焼き滅ぼす怪物だろうが、神だろうと私から翼さんを奪おうというのなら地獄の果てまで送りましたからね」
「……し……詩織の言う通りだが……まぁ、私もそう……詩織を奪おうとするなら、仏だろうと切り捨てる自信がある」
相思相愛、なんて陳腐といわれるかもしれませんが……単純な言葉で、飾り気を捨てればそうなんでしょう。
それを聞いた奏さんは少し笑った。
「……やっぱり世界が違えば、別人だな……でもそれでいい、それがいいって奴だな。まあ別人とはいえ翼が幸せそうなのはアタシもうれしいよ。詩織、これからもそっちの翼をよろしくな」
「当然です、死さえも二人を別てないぐらいに」
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日を変えて、カメリアの処置を行っている間に私達はある人物と会う事となった。
それは「錬金術師協会」の局長……アダム・ヴァイスハウプトだった。
世界が違えば別人、というのをとても実感する人物であった。
「そうか君が、なるほどね」
「はい、私が噂に聞いてると思われる「加賀美詩織」で、またの名をロードフェニックスです」
「……局長、やはり……」
「間違いないね、ああ」
そしてアダム「氏」の隣にいたのはサンジェルマン、さん。
私達の世界では私達を助ける為に命を落とした人だった。
この奇妙なめぐり合いに、私は少しばかり言葉に出来ない不思議な感覚を抱いていた。
それは強いて言うなら……後ろめたさかもしれません。
仮にも私が直接的に死に関わった相手二人なのです、それが敵同士だったとしても。
「僕の不手際だ、君達がこの世界に呼び出されたのは」
「はい?」
「すまないね」
「はい?」
アダム氏の言葉を理解するのに一瞬かかってしまいました。
つまりは。
「事故だよ、聖遺物の扱いを間違えたが故のね」
「局長……あなたという人は……」
滅茶苦茶呆れているサンジェルマンさん、唖然としてる翼さん。
巻き込まれた側としては、まあふざけんな!!って感じはありますけれど……まあロードフェニックス案件でなくてよかっ……
「フェニックスの完全な遺骸、原因となったのはそれだ」
前言撤回、滅茶苦茶厄案件じゃないですか!!!!
「完全な遺骸……ですか?しかし、そこまで詳しいつもりはないが……フェニックスとは死なないものでは……」
翼さんの言う通り、フェニックスは蘇るものです……命を還す事は出来ても、遺骸を完全な形で残すというのは妙です。
それこそ「哲学兵装」やそれに連なる概念的に考えても、おかしく思えますが……。
「ありえない、本来ならね。そのフェニックスの死が関わるのさ、少し長い話にはなるのだけれどね」
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この星以外にもフェニックスは存在する、中にはロードフェニックスの様に平行世界に干渉するだけでなく過去や未来といった「時間軸」にまで干渉できる個体が発生する事もある。
極めてイレギュラーな存在だが、その個体は複数の平行世界や時間軸を渡り続けていたらしいとは「本人」の談だったそうだ。
だが、その個体にも終わりは訪れる事となる……世界を焼き尽くす災厄の焔となった「加賀美詩織」との戦いで負った傷で余命幾許もなく、最後に己の体の処分をアダムに託したという。
それだけなら私達が関わる余地などありもしないが、あろうことかそのフェニックスの名は「加賀美詩織」。
つまりはまた異世界の私だ。
「姿はかなり違えど、君はやはり加賀美詩織だ。面倒すぎる女だよ……こうして話していて思い知らされるよ」
どこか懐かしむ様で、ゲンナリした表情をしているアダム氏……私の世界では関わりは無かったですが、この世界ではガッツリ関わりがあったとのこと。
「そもそも局長が原因では?」
「好き勝手いえるのは君は知らないからだ……一度愛するものについて語り始めたあの女を止められるのはそれこそ……「あの方」でもないと……いやあの方ですら引いていた」
「……あの方?」
サンジェルマンさんと私、そして翼さんが同時に首をかしげる。
「創造主だよ、僕らのね」
「ああ…シェ………」
「待つんだ」
アダム氏に術で物理的に口を防がれた、が思い直してみればそうか……こっちでは目覚めてないから別神でしたね……それに「真名」って危ないですからね……。
「そのお方もだけれどもう一人、そう……フィーネが想っているお方も彼女には手を焼かされていたよ」
「どんだけなんですか、その私」
「いや詩織、こちらの世界のあの神様もお前に相当手を焼いていたぞ」
それを聞いてアダム氏は苦笑いを浮かべた。
「やはりね、君は神ですら手を焼く……一番恐ろしいのは人間の業という奴だね……」
なんか納得いかない気はするけれどそうですか……。
非常にご迷惑をお掛けしてしまったようで……という気持ちのまま、会談を終えた所で私は一つ気付いた。
どうやって帰るんです?