バタバタと風を受けながら梅太郎は人里へ向かっていた。
「…妙な気配がしたんだが」
再思の道を抜けて人里に行くのであれば魔法の森を通らなくてはならない。彼女自身は力があるために襲われる心配はないが、ひょっとして化かされたり妖怪に物を盗まれたりしないとも限らない。多少警戒は必要なのだ。
「しかしまあ異変は終わったと言っても少しは騒いどるもんじゃにゃぁ。ささっと蹴散らして行かなきゃならんぜよ」
ため息とともに妖精達を蹴り飛ばしつつ、まっすぐ人里へ飛んだ。
しつこく自身へ飛んで来る妖精達を蹴散らしながら飛ぶ。人里はまだ見えない。
「無縁塚から飛ぶと魔法の森は結構長いもんじゃ。これでただの思い過ごしだったら無駄な骨ば折ることになるにゃぁ」
急に飛び出しすぎたかと少し自嘲気味に呟きつつ先を急いだ。しかし相変わらず妖精は湧いてくる。倒しても倒しても。その中に一人だけ、弾を避け続ける妖精がいることに梅太郎は気付いた。
「あいつは…蛇の妖精ぜよ。ジャノミヨだったか…」
少しスピードを落とし、警戒気味にジャノミヨと向き合った。銀の髪と銀の和風ドレス。そして何より背から生えた蛇のようなものが特徴的な蛇の妖精だ。
「ねぇ?妖夢もそう思うでしょう?」
「ははぁ…あの、幽々子様、この話…5回目…」
「それでね!紫ってば…」
「…6回目ですね」
一方では酔いのあまりの絡み酒。
「アッハッハッハッハッハッハッハ!!も〜、姫様ったらぁ〜!アッハッハッハッハッハッハッハ!!」
「うるさいよ鈴仙ちゃん。私は姫じゃないし。むしろ宿敵よ宿敵」
「イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!分かりますよぅ師匠!」
「永琳でもない。確かに髪は白いけど」
一方は酔いのあまりの笑い上戸。
「それでぇ…総領娘様ってば…ほんっとうわがままばっか…幼馴染でご近所だからって…うええん…」
「そんなこと言ったらこの前私も…」
また一方は泣き上戸。
いつも通りの、騒がしく各々の個性でお腹いっぱいの宴である。何人かは酔いつぶれて雑魚寝へ移っていた。
その中で酔わずに呑んでいられているのは奥で淡々と花を眺める鬼と魔女だけであった。
もっとも、鬼は常によっているようなものなので酔わずになどと言っていいのかはなはだ怪しいものであるが。
「思った以上に人間と妖怪に分け隔てがないのね」
「いんやぁ〜?ここにくる奴が変人ばっかなだけさ。霊夢も魔理沙も咲夜も早苗も菫子も・・・みーんな変人。もしくはバカさ」
カラカラ笑い、瓢箪からドバドバと口に酒を流し込んだかと思うと、口を離して乱暴に瓢箪を置いた。口からはタラタラ酒が溢れており、上手く飲みきれていないようである。乱雑に口を拭ってもう一息。真円に少し届かない月を見上げた。
「そんなものかしら。・・・ここに居ると平和ボケしそうだわ」
「しちゃってもいいんでなぁ〜い?そのための戦闘訓練が弾幕ごっこでもあるわけだし」
「ふーん…。興味深い話ね」
夜界もまた、瓢箪から酒を飲むと溜息と共に月を見上げた。
「おいおい、間接キッスてぇんだぞソレ」
「あなたがそんなの気にするようには思えないわ。それにしても、そんな美味しくないわね、コレ」
「別に気にゃしないよ。…良いのが飲みたきゃ勇儀んとこに行きな。あいつは酒を良くする杯を持ってるんだ」
「ふーん…」
萃香とは特に目を合わせず、月を見たまま微笑む。気を緩めるための場所にはいいかもしれないと、彼女は少しずつ幻想郷に恋しつつあった。
「…」
ジャノミヨは誘い込むように牽制しつつ梅太郎の前を飛んでいた。たくみに攻撃をかわす様子は普段の彼女とどこか違う。たまに遊んでいるのを見かけるが、チルノといい勝負をしているぐらいだ。こんなレベルの強さではないはず。
そう思いつつも相手が喋らないので推測以上のことはできない。ひとまず蹴散らすほかないと、梅太郎は構えた。
「仕方ないぜよ。わしが相手しちゃるけぇ!かかってきぃ!」
「……」
その梅太郎の様子を見てか、ジャノミヨも姿勢を変化。空に掲げるようにスペルカード『操られ踊る』を宣言した。
壁でも作るかのように大量の弾幕が押し寄せる。意図的に作られた隙間を抜ける。さっきの通常攻撃を鑑みると、どうも簡単である。梅太郎がこの弾幕が誘導を目的としていることに気づくのにそう時間はかからなかった。
耐久型スペルというわけでもなく、すぐに弾幕は通常のものに戻った。
「…誘導、完了」
そう一言つぶやいたかと思うと急に姿勢を崩し、背の蛇を絡ませながらきりもみ状に落下。
と、思えば急に姿勢を直し。フラフラと再び浮上した。
「…ありゃ、どこだここ?アレ三月精どもの家の跡か?」
「んん?どうしたんじゃ」
「さぁ?目が覚めたら飛んでてお姉さんが目の前に居た。まぁ、いっか。遊んでってよ!目覚ましがわりにさ」
急に表情を変えてこちらを見るジャノミヨに梅太郎はなんて呑気なんだと呆れ笑い。おうよと応えると、ピストルを構えた。
「『蛇のカーニバル』!」
対しジャノミヨはスペル発動。飛ぶ弾が蛇の形に連なり、三セットのそれが舞い始めた。
ジャノミヨを周りを蛇弾幕が旋回。そして全方向に弾幕放出。派手で美しい、妖精らしい弾幕だ。
「やっぱコレぞ妖精って感じじゃ!わしも本気ば出さにゃいかんにゃぁ!」
ピストルでの攻撃から霊力による弾幕に変更。手のひらから青い光弾を散らし、ジャノミヨの弾幕とぶつかり合う。
放出と旋回を何度か交互に繰り返し、スペル終了。続けてラストスペルを宣言した。
「『無邪気で残虐なパーティ』!!」
宣言と同時に四方八方にビーム放射。あまりに乱暴で、強烈な、本能任せの放出。隙間ない連続放射に思わず一発もらってしまう。
「避けることができん弾幕はルール違反ぜよ…!」
「だからこの弾幕は食らっちゃっても負けじゃないルールさ。いわゆる拘束弾!」
そう言って笑うジャノミヨ。言われた通り梅太郎は体に痺れを感じ、動けずにいた。麻痺弾幕である。
「喰らえ!!」
そして低速弾を全面に放出。目の前まで弾幕が来たところで体が動くように。ギリギリかすらないほどのタイミングで回避に成功した。
「さすがの瞬発力だね」
「お褒めに預かり光栄じゃ!」
軽口に返しつつ移動。低速弾の隙間から霊力弾を撃ち込み、ジャノミヨを叩き落とした。
「まーけちゃった。また遊ぼうね〜」
「おう、次は忙しくない時に頼むぜよ」
笑いながら手を振って彼女を見送る。思えば戦ううちに迷ってしまったなと辺りを見るが、獣道に出てしまった以上まっすぐ進む他ない。方角的にあちらが人里のはず。軽い不安とともに彼女は風を巻き起こした。
「どうやら、合ってたようぜよ」
抜けた森から下を見下ろせば、人里。やけに騒がしいのはおそらく祭りの影響だ。
命蓮寺の面々で見張っているあたり、妖怪の心配はないのだろう。そもそも妖怪は人里で暴れない約束なのだし。
そんなことを思いつつ、不安の種がなんなのか探していた時。
「あなたですね!」
ふとかかった呼び声。なんだなんだと見てみればとんがった帽子と和風ドレスが目立つ金髪の少女がふよふよ浮かんでいた。
横には煙のような人型の存在も。それが神霊であること、そして…。
「おぬし、早苗と同じ匂いがするにゃあ」
少女が現人神であることにも気づいていた。
「その早苗さんを知らないのでなんとも言えませんが…。私は牧野黒子……おっと、こっちじゃない。今は万出会幸子!そう言うものです!」
「いい名前じゃないか。で、なんだってわしの前に?わしはお前さんを知らんきー、用事があるんじゃったらそっちの方にゃあ」
梅太郎はそういうと、警戒的な体勢で少し距離を置きつつ幸子と向き合った。対し幸子はほんのちょっとだけ寂しそうに笑顔を浮かべてその目を見つめた。
「夜界さんを倒したと聞きます。…そんなあなたを倒せば…認めてもらえる!」
「そいつは結構ぜよ。で、なんじゃ、おんしゃは知っておりゆうがー?」
「これですか?」
彼女は梅太郎の前に堂々とスペルカードを見せつけた。梅太郎はニヤッと笑い、少しだけ幸子に近づいた。
「じゃあ行くぜよ!」
「ええ…」
二人は同時に構え、戦闘が始まる。
真っ先に飛び出したのは幸子だ。
「『こちらを少女が見つめる』!!」
彼女はすぐさまスペルを宣言した。警戒態勢の彼女の目に飛び込んだのは、巨大な眼球型の何かであった。
「なかなかに不気味じゃきー、あんま撃ちたかぁないぜよ」
そう言いつつ、涙のような弾幕の間をすり抜けた。広がっては狭くなりで繰り返す弾幕の雨を素早く避けつつ、銃撃を飛ばした。だがそうそうハイペースで撃てるわけでもない。簡単に避けられるだけであり、大した意味は成さない。
「当たりませんよ!」
「くぅ…!」
そうして、梅太郎は避けに専念することを選んだ。
時間が経ち、ついにスペルは終了した。
「やっぱりこれじゃ倒せませんか。…『神妖人の小さな加護』!」
続けて、となりの神霊「チノカミ」が動いた。守るように幸子の周りをくるくると周りつつ、間隔的に斬撃を飛ばした。
「おっと!」
だがそれだけのパターン的弾幕である。避け続けるのにそれほどの苦労は無く、動きが変わっても問題なく避けて行った。
「それなら!」
「効かんがぞね!」
幸子も光弾を飛ばしてみるものの、ハイペースながら苦ではないもの。そして見つけた一瞬の隙を狙い、チノカミを撃ち落とした。
「くっ…。こうなればラスト!」
そうして、最後に『少女と別れた荒廃世界』を宣言した。
同時にチノカミは五人へと分身し、三方向に分裂する弾幕を放って梅太郎を追い詰める。そして眼球と口を模した物体も現れ、それぞれ赤い不規則弾と波状弾を放った。
「なーんか、急に本気出しちゅうのー」
難儀しながら小さな小さな隙間を抜け、ゆっくりと距離を離して行った。だがその密度は変わらない。こちらが攻撃を当てねばならない都合上、あまり離れすぎてもいけないのだ。
「どこまで避けきれますかねー」
そんな様子を眺めつつ、幸子はさらに弾速を遅くして、避けづらさを加速させた。
梅太郎は先ほど以上に神経を集中させ、無言のまま黙々とかわして行く。
…だが、彼女は位置どりを間違えた。もはや避けることなど叶わぬ位置に弾はいた。
「フフフ、私の勝ち、ですね!」
「いや…まだぜよ!『天駆ける龍が如く』!!」
こんな時になり、梅太郎はスペルを高らかに叫んだ。だがもはや無駄だと幸子は油断しきった様子で眺めていた。
…衝突音が聞こえた直後に、幸子の目に飛び込んだのは白旗をあげる梅太郎ではなかった。
龍。その一言で全て通じるであろう。
「はあああああああああ!!」
龍へと姿を変えた彼女は、全身からエネルギーを放って弾幕をかき消しつつ幸子へと突撃した。
勝敗は、言うまでもないであろう。
「やっぱり私は……あの人に認めてもらうような存在じゃ…」
「まったく…だからさあ、私はそういうのは求めてないのよ」
今にも消えそうな声でボソボソと呟く幸子。その背にかかったのは、紛れもない夜界の声だった。
「いい?幸せってのはね? 自分で奪い取るものなの。…ま、ガッツが足りなかったということで」
そう言って呆れ気味に笑うと、また会いましょうと言い残し、ふよふよと去って行ってしまった。
「だ、そうじゃあ。まあ、貪欲になりぃや」
彼女の言葉を受け、幸子は笑えば良いのか泣けばいいのかという微妙な表情であった。
そんな彼女の手を引き、梅太郎は宴会の続く無縁塚へと向かった。
幻想郷はあらゆるものを受け容れる。
今回は、それがいい方向に働いた話である。
Fin
はい最終回終わりぃ!!
魔色夜完結!!
・・・とはいきません!phantasmに続くっ!
って、言うと思うじゃん?すまん、ありゃ嘘だった。許せ。
くそっ!!土佐弁が書けねぇ!
ねえバインさん!!これで良いのかなぁ!?僕わかんないよ!!
とりあえず、龍馬さんはいろんなとこで色々やってるんで、標準語や他方言混じりのスカした話し方をする設定でいいよね!!!!!!!!!!!!!!!
異論は認めん!!!!!!!!!
そしてひゃっっっはああああ!!!!!こっからは格闘にまみれた姫秋葉だぜ!
書きやすい!そして慣れている!