――白き〈
ㅤ世界が、止まる。
「ぐうぅぅぅ!!?」
ㅤ
ㅤさしずめ、悪霊の類いを召喚・使役するための戦闘用の礼装でも入っていたのだろう。それを出される前に止められたのはよかったけれど。
「――――っ!」
ㅤそれは全く、不可視の不意打ち。私の頭部へと打ち出された“何か”がもたらす空気の微震を肌で感じ、咄嗟に床に伏せ、左手に転がった。
ㅤコンマ何秒にも満たない直後、私の立っていたあたりの天井と床の破裂する音が右の鼓膜を叩き、その致命的な威力を物語る風圧が頬を殴った。
ㅤ追撃を予測して身構えたが、それで見えざる何かの動きは止まり……おそらくはその主であるアビーもまた、虚ろな表情のまま硬直していた。
(うわー、間一髪だったわ……)
ㅤ吹き飛んだ木片や舞い散る塵芥を意識から除外し、視線をあくまで彼らから逸らさぬよう注意しつつ、額から流れる冷や汗を拭う。気が抜けて変な笑いが口元に浮かびかけるが、引っ込める。
「……ふう。よくもやってくれたわね」
ㅤもう、声も発せないほどに固まった二人を前に、ゆっくりと立ち上がる。
ㅤ意識はとっくにスイッチを切り替えて、呵責も感傷も遮断している。今の私は、この聖杯戦争を生き延び、勝利するためなら“何だって出来る”。
「どうせ、聞いても答えらんないでしょうけど」
ㅤ私の仮想展開する〈石化〉の魔眼は無論、
ㅤ故に、あともう一手が要る。
「たしか、サーヴァントってマスターが死ねば消滅するのよね?」
ㅤウォルターに歩み寄りながら、デニムの前ポケットに忍ばせたレミントン製M95
「こっちを油断させるつもりで色々喋ってくれたのはありがとう。有効に活用して勝ち上がるわ」
ㅤ彼までだいたい3mぐらいの位置で立ち止まる。アビーを視界から逃さずに撃てるギリギリの距離だろうか。
ㅤデリンジャーは手のひらにすっぽり収まる玩具めいた見た目の通り、物理的な命中精度も殺傷能力もそんなに高くないのが一般的だ。まして一世紀半も前の骨董品であるこれは筋金入り。このぐらいの距離でも眉間をぶち抜くとか多分無理。
――けど、これでいい。この“魔銃”にとっては充分な距離だ。
ㅤバレルに二発の黒い銃弾……
ㅤ擊鉄を起こし、眉間に構える。“人を殺す”という未知の経験に顔を出す一抹の怯懦をため息で追い払う。
「じゃ、さよなら。醜いロリコンのおっさん」
ㅤとくに何の感慨もない別れの挨拶とともに私は引き金を、
「すみません、お届け物の配達にあがりました」
ㅤ背後に現れた謎の闖入者のせいで、引き損ねた。
エタらせはせん! エタらせはせんぞぉ!
アビーガチャ禁がはかどります…………。