Fate/Rib of the Lady   作:アビコンマン

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英霊拝領/Install:Berserker Ⅸ

――白き〈(ほし)〉に刻まれた、長方形(バゲット・カット)赤瞳(せきどう)が光り、

 

ㅤ世界が、止まる。

 

「ぐうぅぅぅ!!?」

 

老魔術師(ウォルター)が呻く。驚愕と苦悶に見開かれた両目は、腰のポーチに伸ばされたまま石化してゆく指先に釘付けられている。

 

ㅤさしずめ、悪霊の類いを召喚・使役するための戦闘用の礼装でも入っていたのだろう。それを出される前に止められたのはよかったけれど。

 

「――――っ!」

 

ㅤそれは全く、不可視の不意打ち。私の頭部へと打ち出された“何か”がもたらす空気の微震を肌で感じ、咄嗟に床に伏せ、左手に転がった。

 

ㅤコンマ何秒にも満たない直後、私の立っていたあたりの天井と床の破裂する音が右の鼓膜を叩き、その致命的な威力を物語る風圧が頬を殴った。

 

ㅤ追撃を予測して身構えたが、それで見えざる何かの動きは止まり……おそらくはその主であるアビーもまた、虚ろな表情のまま硬直していた。

 

(うわー、間一髪だったわ……)

 

ㅤ吹き飛んだ木片や舞い散る塵芥を意識から除外し、視線をあくまで彼らから逸らさぬよう注意しつつ、額から流れる冷や汗を拭う。気が抜けて変な笑いが口元に浮かびかけるが、引っ込める。

 

「……ふう。よくもやってくれたわね」

 

ㅤもう、声も発せないほどに固まった二人を前に、ゆっくりと立ち上がる。

 

ㅤ意識はとっくにスイッチを切り替えて、呵責も感傷も遮断している。今の私は、この聖杯戦争を生き延び、勝利するためなら“何だって出来る”。

 

「どうせ、聞いても答えらんないでしょうけど」

 

ㅤ私の仮想展開する〈石化〉の魔眼は無論、真性の担い手(ゴルゴーン)のそれからは大きく劣化している。サーヴァント相手にも効いたのは僥倖だったが、出来るのはあくまで「活動の停止」までで絶命には至らない。おまけに脳にかかる負担もそれなりにあるため、専用に調整された身と言えども長時間は行使出来ない。

 

ㅤ故に、あともう一手が要る。

 

「たしか、サーヴァントってマスターが死ねば消滅するのよね?」

 

ㅤウォルターに歩み寄りながら、デニムの前ポケットに忍ばせたレミントン製M95護身用二連装小銃(ダブル・デリンジャー)を引き抜く。

 

「こっちを油断させるつもりで色々喋ってくれたのはありがとう。有効に活用して勝ち上がるわ」

 

ㅤ彼までだいたい3mぐらいの位置で立ち止まる。アビーを視界から逃さずに撃てるギリギリの距離だろうか。

 

ㅤデリンジャーは手のひらにすっぽり収まる玩具めいた見た目の通り、物理的な命中精度も殺傷能力もそんなに高くないのが一般的だ。まして一世紀半も前の骨董品であるこれは筋金入り。このぐらいの距離でも眉間をぶち抜くとか多分無理。

 

――けど、これでいい。この“魔銃”にとっては充分な距離だ。

 

ㅤバレルに二発の黒い銃弾……狂犬弾(Rabid Bullet)を装填する。専用の礼装として調整された魔銃により撃ち出されたコイツは標的を追尾し、簡易的な結界なら余裕で食い破り頭部へと潜り込む。後は脳をぐちゃぐちゃにするまで駆け回る、ひたすらに悪趣味で悪食の馬鹿犬。ネーミングセンスもクソの極みだが、そんなところも愛嬌っちゃ愛嬌か。

 

ㅤ擊鉄を起こし、眉間に構える。“人を殺す”という未知の経験に顔を出す一抹の怯懦をため息で追い払う。

 

「じゃ、さよなら。醜いロリコンのおっさん」

 

ㅤとくに何の感慨もない別れの挨拶とともに私は引き金を、

 

「すみません、お届け物の配達にあがりました」

 

ㅤ背後に現れた謎の闖入者のせいで、引き損ねた。

 




エタらせはせん! エタらせはせんぞぉ!


アビーガチャ禁がはかどります…………。

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