Fate/Rib of the Lady   作:アビコンマン

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英霊拝領/Install:BerserkerⅠ

1.

 

 西暦2014年。日本の冬木市と呼ばれる地方都市にて、秘かに続いた魔術儀式が終焉を迎えた。

 その儀式の名は「聖杯戦争」。万能の願望機・聖杯を巡り、七人の魔術師が繰り広げた殺し合いの争奪戦だ。

 

――まあ、それだけならば何も特筆すべきことはない。

 

 聖堂教会により観測された“聖杯”とやらはごまんとある。たしか、冬木で観測されたものが第七百二十六号だとか。

 

 無論、それらすべてが「最後の晩餐」にて用いられた「主の杯」ではないだろう。後世の騎士道物語における「救世主の血を受けた杯」に由来するモノも含め、“聖杯”と名が付き、かつ相応の神秘が宿ってさえいれば第八秘蹟会が管理・監視するという。その真贋を見究めるためという話だが、冬木の聖杯戦争の監督役は贋作と見抜いていた可能性が高いとか。(いわ)んや上層部がそれを知らないとも思えないが、果たして。

 

 そのあたりはともかく、普遍的な一大宗教の魔術基盤に根差した強力な願望機・魔力リソースには違いない。時としてそれを欲する魔術師が現れるのは必然だし、教会の代行者はそれを迎え撃つだろう。単に聖杯の争奪戦という意味の「聖杯戦争」ならばいくらでもあったのではないか。歴史の裏では、聖杯なるものを巡り、多くの血が流れたに違いない。

 

 ただ、冬木の「聖杯戦争」はその手の小競り合いとは格が違った。サーヴァントという限定的な霊基とはいえ英霊を召喚せしめたことも規格外だが、本質はそこではない。

 この争奪戦じたいが魔術師すべての大願……すなわち、根源へと至る孔を世界に穿つための大儀式だったことこそ、後に真相を知ることとなった時計塔を騒がせたのだ。

 

 そして、つい数年前に大騒ぎが終わり、冬木の大聖杯は解体されてしまったのだけれど……。

 

「まさか、私が参加者になるとはね」

 

――そう。なんでもまた、聖杯戦争があるそうなのだ。

 

 

 

2.

 

 ここは日本の関西地域(イースト・サイド)に位置する地方都市、富沢市。単純に字を意訳すると「富の流れる小さな渓谷」。由来については知らないが、このちっぽけで俗っぽい感じが私のお気に入りだ。

 

 私は市内の商店街より少し外れたところにあるアパートの一室を借りている。選んだ理由はただひとつ、「この土地の相場にしてはやたらと安かったから」。

 事前に不動産コンサルタントの人が説明してくれた情報によれば、このアパートが出来て二十年のあいだ、私の暮らす203号室では自殺が三件、未遂が二件起きているという。

 普通ならば売れるような物件ではないものの、最近ではこうした事故物件に住みたがる物好きがたまにいるらしく、あえて取り扱っているのだとか何とか。この不動産屋もたいがい変わっている。

 とは言えそんな幸運な巡り合わせにより、2LDKしかもガスコンロ付きであるにも拘わらず、東京や大阪にあると言われるスラム街の安宿を一ヶ月利用した料金と同程度の家賃で暮らせることとなったのだ。

 

 私は和室と洋室の二部屋のうち、和室のほうを寝室にしている。洋室は工房としてすでに稼働中。

 そんなわけで、ごろん、と。タタミなる、草の類いを編んで作られた、床とカーペットの間の子じみたものの上に寝転びながら、今どき蝋で封をされた招待状を日に透かしてみた。

 

「なーんか胡散臭いよね。どう考えても」

 

 私がこの、あるのかないのかわからない聖杯戦争に出るきっかけは、たまーに顔を出してる混沌魔術の結社のリーダーで、自称・死徒から魔術の奥義を授かったとかいう男の誘いだ。というより、

 

“君が私と一夜を共にしてくれたら、知人から貰ったこの招待状をあげよう”

 

 という、下心丸出しのナンパに乗ってあげただけ。まあ、いい男だったし、魔術師としては三流だけど礼装なんかのコレクションはそこそこだったし、私に断る理由はなかったのだけれど。

 

 そんなこんなで雀の鳴く朝に教えてもらったことによれば、今回の聖杯戦争は冬木の亜種で、なんでも主催者は先の「聖杯解体戦争」のどさくさに紛れて大聖杯の破片を回収・これを触媒に聖杯を鋳造したのだとか。

 

“はは、トーサカの当主がうっかり屋でよかったと言ってたよ”

 

……あの男の気取った口調と笑顔を思い出し、つい生暖かい目になってしまう。

 なお、夜のお相手は下手っぴすぎたので次はない。それはともかく、

 

“無論、今君が考えている通り、あの聖杯に冬木ほどの力はない。ただ、戦いにおいてはきっと、充分なスリルを味わえるだろうね……君、そういうのを望んでるんだろう?”

 

 この言葉については正解だ。私に真っ当な魔術師らしい崇高な大願などない。求めるのはただ生の実感。今この瞬間に命をなげうつスリルだけ。

 

「賭けてみるには充分な娯楽だわ」

 

 タタミから身体を起こし、封筒をチャブダイなるテーブルに置き、今夜に向けての諸々の準備を開始することにした。

 

「まずは鶏の確保ね」

 

 タンクトップの上に秋冬物のコートを羽織り――ふと、直感が脳裏に閃いた。

 

「……よくわかんないけど、持ってくか」

 

 私はチャブダイに置いた封筒をジーンズの尻ポケットに入れて、玄関に向かった。




 これから、各マスターの英霊召喚パートに入ります。それぞれの人物像と背景は作中でもガッツリ掘り下げますが、不足分はあとがきにて補足してゆく予定です。

 しかし、なぜ私の頭からこんなサバサバ系女子が生まれたのか。深層心理の不思議である。
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