Fate/Rib of the Lady   作:アビコンマン

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英霊拝領/Install:Berserker Ⅷ

 ウォルターを〈視〉る。全身をヴァイオレットと黒の入り雑じる斑模様がドロドロとうねり、妖しい波動を放っていた。

 

「アビーは……その……私の恋人、なんだ」

 

 やや下に目を逸らし、含羞を帯びた微笑みを浮かべて、ウォルターはそう言ってのけた。

 

「おそらく、君は頭のなかで通俗的な勘繰りを巡らしたことと思うが、その通りだ。私は小児性愛者(ペドフィリア)でね。無論、アビーのことは性的欲求の対象として捉えているよ……ただし、その処女性の故に。

 誤解が無いよう言っておくが、私はアビーに対して性的交渉はおろか接吻すらも断じてしない。したくないと言えば嘘になってしまうが、それをしてしまえば彼女から処女ゆえの美しさが失われてしまうだろう? だから、しない。私にとってアビーは天使だからね」

 

 男の心臓のあたりに、無垢な白光が日溜まりのように照り付け、金色の粒が精霊のように飛び回っている。

 

 その、劣情と純情とが一緒くたに混ざりあった姿に、思わず吐き気を覚える。

 

「……なんていうか、ロリコン趣味を聖杯戦争にまで持ち込む度胸はもう、キモさを通り越して崇高ですらあるわね。でもごめんなさい。聞いておいてなんだけど、知らなきゃよかったってのが正直な感想」

 

「そう思うのも無理はないか。だが、私としてはアビーの関係性について告白出来て嬉しいよ。何なら私はこの街中の人間に私達の関係を知ってもらいたいからね。そうやって、私と彼女の美しい絆を知らしめ、より絶対的なものへと昇華したいのさ」

 

 男の瞳に透明な光が宿り、オーラの輪郭が微かに震える。

 いい歳をして年端もいかない少女に現を抜かす異常な情愛と支配欲にも辟易するが……何より気がかりなのはアビーのほうだ。

 

「ねぇ、ぶっちゃけ貴女はどう思うわけ? ウォルターのこと、好き?」

 

 わざわざ、こんな事に私が首を突っ込むのも野暮だとは分かってる。そもそも聖杯戦争には何の関わりもない蛇足も蛇足のお節介。それは分かってる。分かってはいるが、この辺をはっきりさせておかないとなんか、私がもやもやしてしょうがない。

 

 ふと、ウォルターの肩とオーラが跳ねる。緊張と怯えで瞬時に輪郭が刺々しくなるのが分かりやすい。

 

「……私は、おじ様のものよ」

 

 対してアビーは、年頃の少女ならば敏感に反応して然るべき話題にも拘わらず、表情を変えず、取り乱しもせず、冷然と答えた。

 

――〈感情視〉第一相(アビー)

色:透き通る、黒に近いグレー

波:若干の作為的な乱れ

 

――〈感情視〉第二相(???)

色:青ざめた黒

波:悶えるような捻れ

 

――〈感情視〉第三相(???)

色:灰色

波:堅固な印象を与える多角形を描き、微弱に震える

 

(おうおう、こいつは片想いですねぇ老魔術師さま)

 

 第三相の意味するところはいまいち難解だが、とにかくアビーを含む三人格は満場一致で彼に好意らしきものを抱いていないことが判明した。うん、あとで酒の肴にしよう。

 

「さて、私とアビーが相思相愛ということも理解してもらえたところで、彼女の役割について教えておこう」

 

 知らぬが華とはこのことだろう、文字通り安堵の色を浮かべたウォルターが説明を続ける。

 

「彼女の煽動者(アジテーター)というクラスは私の特別製でね。文字通りの【煽動】……彼女の声を聞く者は皆、彼女の言葉を信じ、翻弄され、熱狂の坩堝へと駆り立てられてゆくよう専用のクラススキルを設けている。彼女がセイレムにて招いた災厄の功績を元に、私がスキルへと昇華させたのだよ」

 

 興奮に爛々とする男の指先がわなわなと震え、手にしたままのユノミの底がゴトガタとテーブルを叩く。

 

「そうなると、彼女がマスター候補者たちへの水先案内人を務めるってこと?」

 

「ああ。彼女の手にかかればこの街の腑抜けた者共も喜び勇んで殺し合うだろうよ。

 だが、それで終わりじゃない。彼女のスキルの暗示的側面を利用し、マスター達に小聖杯戦争のルールを円滑に理解・遵守させることにも繋げているのだ」

 

 なるほど。言ってしまえば彼女がこの聖杯戦争における一サーヴァントにして、聖堂教会に代わる監督役をも担うというわけだ。サーヴァントの力を利用し、洗脳まがいのかたちでそれを実現するのはなかなかに厄介で強引だが……あれ?

 

 私、効いてないぞ? 【煽動】。

 

(彼女がアビゲイル・ウィリアムズと言ったときも、自分のことをウォルターのものだと言ったときも)

 

 おそらく私の仮想魔眼システムが脳の認識補正にかかわることに加え、〈感情視〉の魔眼を発動していたことで認識の歪曲や改竄を免れたのだろうけれど。

 

(あるいは、アビーに“騙す気がなかった”か、ね)

 

 ずっと、何処か心ここにあらずといった具合のアビーを見ていると、微かに感傷めいたものを覚える。サーヴァント相手に抱く感情として、いささか呑気だとは思うが。

 

「彼女について、これ以上の情報は流石に手の内を明かしすぎてしまう。話はここまでにさせてもらうよ」

 

「ええ、正直言ってサーヴァントの真名もクラスも明かしてる時点で正気の沙汰じゃないくらいには親切だったわ。本当にありがとう」

 

「ああ、それじゃあ――」

 

 男が再び、アビーに目配せをする。

 

 その、胸部にはしる“ノイズ”を、私は見逃さなかった。

 

 カーテンから漏れる黄昏色の日射しを背に、逆光と殺意とで黒く塗り潰された男の口が赤く裂ける。

 

「やっておしまい」

 

分光器官、調整開始(Tuning:Spectrometer Organ)

 

 男がアビーにそう命じるのと、私の仮想魔眼(Phantom Sight)が機能を変えるのとはほぼ同時だった。

 

「ええ、おじ様の仰せのままに」

 

 ゆらり、黒衣の少女は立つ。

 

「――身体強化(Reinforcement)

 

 私は詠唱とともに立ち上がりざま、チャブダイを蹴り上げる。飛躍的に向上した脚力により舞い上がるチャブダイはアビーの頭上へと降り注ぐ。

 

……それは所詮、時間稼ぎの目眩まし。私はすぐに背中からフスマをぶち破り、キッチンルームへと出る。

 

頭脳天体〈蛇髪の首〉観測(Neuron Horoscope:Stoned Algol)

 

 アビーはスカートの下……ドロワーズのボタンをそっと外す。その無表情を、かすかな恥じらいがほの赤く染め上げる。

 すると、降り注ぐチャブダイ、ユノミ、芋ケンピに木椀などなどの一切合財が不可視の“何か”の殺到により直撃を防がれ、まるで無数の鞭に撃ち抜かれるかのように弾き飛ばされて粉々になる。

 その“何か”はどうやらドロワーズの穴から生じているらしく、コーヒー一滴、破片一つ浴びずに佇むアビーのスカートを膨らませている。

 

(……ドロワのボタンを外すのが工程(アクション)ってこと……?)

 

 否。それじたいが力の発動に関与した様子ではない。これはひたすらに物理的な要因によるものだろう。

 だが、その卑猥で、滑稽で、故に悪辣さを際立たせる冒涜的な光景に、私のなかで何かがキレた。

 

(――死ねよ、クソジジイ)

 

 キッチンルームのど真ん中、私は新たな魔眼を発動する。

 

仮想魔眼〈石化〉展開(Phantom Sight:Cybele)

 




 さいきん他所で与太SSばかり書いていましたが、失われかけたアイデンティティを取り戻すため次話投稿。がんばるぞい。
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