それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

358 / 794
もし、彼女が触れたことのない物が現れたら


賑やかな中の小さな戦い 亡霊編

ヴァルサー一家が街に到着するよりも少し前、彼女【スペクター】もこの街に到着し下見を行っていた。

 

格好はあの時と変わらずボロボロのマントを纏い、その下に着ている衣装も相変わらずの状態が良いとは言えない服、見るからに孤児の浮浪者と言った感じの彼女だが周りはさして気にも止めずに安々と街に侵入、賑わいを見せる縁日を尻目に彼女は路地裏の陰に身を潜める。

 

ジャッジとの通信は既に切られている、曰く下手に繋げると向こうの人形に悟られるらしい、なので彼女は現状で単独行動、どちらにせよ彼女の目的を考えれば数を揃えるなんてできないので寧ろ好都合だとすら思っている。

 

(それにしても、本当にこの祭りに来るなんてな……本当に脳天気なやつだな)

 

はっきり言えば自分の情報を流した時点で来るとは思ってなかった、が例の基地から指揮官を乗せて車が出たと聞いた時は訪れたチャンスに笑みを抑えられなかったが同時にそんな事も思ってしまった、別段そんな事気にする必要はないのだが自身のクローンで指揮官をしている割には能天気過ぎるだろうと溜息すら突きたくなる。

 

(だが、どうであれ今日で殺す……じゃなけりゃあの世の姉妹たちに合わせる顔がねぇ)

 

ギュッと握る拳に力が籠もる、そのために今日まで、あの人と扱われず道具として身体中を弄くり回され、尊厳という尊厳をぶち壊され、死んでいった姉妹たちの事を忘れずに生きてきた理由にならない。何も知らずにのうのうと生きてきたあいつとは違う、そしてそいつが幸せを甘受しているなんて許せなかった、ただ適合しただけだという存在が、どうして!

 

「(とりあえず、そのためにも確実に殺せる場所を見つけねぇと……っ!?)誰だ!!!」

 

自身のハイエンドモデルとしての能力は迂闊に使えないのでとサブアームとして持っていたサプを付けてあるM9を構えればそこに居たのは一人の老婆、思わず目を見開く、警戒に警戒をしていた自分に悟られずに背後を取るなんてと、だからこそ直ぐに引き金を引こうとしたのだが

 

「お待ちよ、何も襲おうってわけじゃないわ。ほら、お腹を空かせてるんじゃないかなって持ってきたのよ」

 

老婆はそう言うと持ってた鞄から数個のサンドイッチ、スペクターにはそれが見え覚えがあった、確か屋台とかいうのに同じのが並んでいたなと。

 

そっと差し出されたそれ、だが彼女はすぐに食いつくなんて真似はしない、過去にそう言って薬を持った挙げ句犯されたことがあったからだ、なのでキッと睨むも

 

「何も盛ってなんかいないよ、年寄りのなんてこと無い善意さ……触れたこと無いんだろ、そういうのにさ」

 

「黙れ、てめぇにアタシの何が分かるってんだ」

 

「ああ、分からないよ。でもアンタが復讐に囚われた目をしてるのは分かる、世界に絶望しちまってるってのも理解できる」

 

デタラメをと言おうとするが老婆の雰囲気と視線に一瞬怯んだスペクターはそれ以上何も言えずに、何気なく置かれたサンドイッチを見てしまう、思えば此処数日マトモに食事もしてなかった、強いてあげるなら栄養ドリンクとかクソマズイレーションだったりを食べたくらいだなと自覚した時、お腹からクゥと可愛らしい音が鳴り顔を赤くする。

 

「無理は、良くないと思うよ?」

 

「……」

 

結果、スペクターはそのサンドイッチを皿ごと抱え込み一心不乱に食べ始める、そこに品も何もないが老婆は何も言わずに見つめ、頃合いを見てミルクが入ったコップを差し出せば奪い取るように受け取りゴクゴクと飲み干す。

 

食事を終えた彼女は何度も何度も呼吸を繰り返しながら空になった皿を見つめる、何も起きない、気分が悪くなったり急に眠くなったりもない、それはつまり

 

「(本当に、ただ差し出しただけ?いや、んなわけねぇ)何が目的だババァ」

 

「驚くほど口が悪いわね、言ったろ年寄りの気まぐれな善意だって、今日は街が賑わう日だってのにそんな暗い顔してる子供が居たら手を差し伸べたくなるのが老人ってやつなのよ」

 

穏やかな笑みだった、彼女が生きてきた今日までで向けられたことのない優しい言葉、笑顔、善意、彼女の中で揺らぐ、絶対だと思ってた価値観だろうそれが揺らぐ、この世界で100%善意で動く人間なんて居ない、そう考えていたのに、根底から否定する存在が目の前に現れたのだ。

 

違う、自分はこんなのを受け取っちゃ駄目だ、逃げないと全てが揺らいで崩れる前にこの善意から逃げないと、そう思えば行動は早かった、お礼も何も言わずにスペクターは脱兎の如く老婆の隣を抜けて路地裏の更に奥に消えていく、そして老婆はと言うとその方向を見つめて

 

「……やれやれ、今日は少し騒がしくなりそうだねぇ」

 

それだけを呟いて屋台で賑わう表通りに向かっていった、それから数十分後、ヴァルサー家が来るのだがその時にスペクターは何処で何をしていたかと言うと、不法侵入したビルの空き室の窓から彼女たちを見つめていた

 

(あいつが、チッ、心底幸せそうな笑顔してやがる……)

 

何処から持ってきたのか一丁のドラグノフを構え、スコープから幸せそうに人形たちと屋台を回るクローンである彼女を見つめる、このままいっそ撃ち殺してやろうかすら考えるが周りに人間が多く、更には人形も上手いように動いて狙いが定まらない。

 

(クソッ、狙うのはあいつだけだったのに此処じゃあ、それに殺すならこの手でだ、こんな狙撃じゃっと!)

 

何かを察知した彼女が顔を窓から離した刹那、チュン!と頬を何かが掠める。完全には回避できなかったそれは頬に一筋に傷をつけてそこから血が流れる、直ぐに彼女は窓から更に離れて部屋にあった家具の側に隠れ、意識を外に集中させれば右眼の映す視界が外の光景になる。

 

どうやったかは分からないが外の監視カメラをハッキングし自身の視界にしているらしいそれで周囲を見渡せばこのビルから斜め向かいの屋上、それなりの距離があるはずのそこにSuperSASSの姿を確認。

 

(コイツか、てことは今のでアタシの居場所はバレたか、直ぐに動かねぇと)

 

見れば向こうも避けられたことに驚きつつも何処かに通信を繋げているので時間はあまりないとスペクターは判断、持ってたドラグノフを『分子崩壊』させて消してから空き室を後にし階段から降りようとして、下の階から態とらしいくらいの足音を察知、また一つ舌打ちをしてから側の窓から飛び出して向かいの壁のパイプを伝ってビルから脱出、即座に下に降りて行動を始める、目的地は『丁度』屋台がなく人もさほど来る気配がなかった広場。

 

しかしその足は……

 

「チッ、本当に優秀な人形共だな」

 

「……」

 

羅刹の如くな気配を纏わせたナガンM1895に止められた。




キネクリさんの曲聴きながら書いてたらマジでそうなりつつあるの笑う。もうこれ戦姫で絶唱する章でしょ(錯乱)

あ、スペクターちゃんのスペックはもう少し待って?まぁその、何というか言うなれば極まった最終兵器彼女的なノリ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。