それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
(舐めてた、まさかここまでとは……)
砕けたアーキテクトが託してくれた武器、それに反して目の前のハイエンドモデル【ジャウカーン】は激闘ではあったのだろうがゲーガーに比べると消耗らしい消耗はない。
この状況にゲーガーは目の前の強敵、ジャウカーンを睨みながら自分の甘さと慢心に思わず舌打ちをする。ハイエンドモデルと名乗るも所詮はIOP人形の変容、故にトゥーマーンはあっさり勝てたのだと、だが目の前のジャウカーンは違った。
恐らくは内部も手が加えられている、戦ってそれを容易に感じられた、トゥーマーンの能力を考えれば向こうはあくまで潜入暗殺が専門であり、ジャウカーンは初めから戦闘特化として改造されたのだと。
(まさか、力比べで私が遅れを取るとはな……)
「ほら、立ってよ、もっと遊ぼうよ!」
彼女の言葉に無邪気なものだと皮肉を思いつつ自身の状況を確認する、託された小手は砕けたとはいったが両方ではない、右手はまだ何とか戦闘行動が可能なくらいには原型がある、が
(勝てるか?いや、刺し違えても勝たねばな)
じゃなければアイツに合わせる顔がないと立ち上がり構える、それを見たジャウカーンが喜びの声を上げてから両手の鉤爪を大きく広げて腰を深く踏み込むと同時にスラスターのアイドリングが回る音が響く。
他の人形たちも援護に回ろうとするが先程までのゲーガーとの戦闘を見てしまえば迂闊に手を出せば間違いなく被害を広げてしまうと考え出すに出せない。それはゲーガーも理解しており、だからこそ彼女等には手を出すなと事前に釘を刺してもいる
しかしどちらが優位なんてものは誰が見ても分かる、それでもゲーガーは退けないと迎え撃つ形で右の小手を稼働させ、レーザーブレードを展開しもしこの場に日本組の人形が言えばこう言うだろう、居合の構えを取る、狙うは攻撃の本当の一瞬の隙を突いたカウンター、最悪自分も無事ではないだろうがジャウカーンだけは仕留めるという考えだ。
「じゃあ、行くよぉぉぉぉ!!!」
《聴こえてるわねゲーガー、そのまま相手の手を弾いて!》
《Vector!?あ、ああ!!》
弾け、となればレーザーブレードでは駄目だと実体剣に即座に変更、ジャウカーンの馬鹿げた加速に惑わされること無く策もフェイントも無しに振り下ろされたその両の手に向け
(今っ!!)
力の限り右腕を振るう、ガキャッ!!という限界を迎えそうだという接触音に怯まず、だが心の中ではすまないと思いながらそのまま振り上げれば砕ける音と共に破片となった実体剣と小手が彼女の視界を舞う、だが
「うわっ」
犠牲の意味は決してなかったわけではない、ジャウカーンに確かに、だが致命的にも似た隙が出来上がる、だがこの場にはゲーガーしか居ない、他の全員で発砲したとしてそれで仕留められるかは怪しい。
だがもし、この場にもう一人、しかも一撃必殺を得意とする人形が居たとすれば?先程の通信がすべての答え、振り上げた体制のままのゲーガーと弾かれ隙だらけのボディを晒すジャウカーンの間に割って入った来た一つの影は間髪も慈悲も何もなく自身の貫手の構えにした右手を彼女のコアの部分に寸分違わずに貫いた
「知ってるかしら……」
「えっ……?」
「獣は狩人には勝てないのよ」
何が起きたのか理解できないとばかりの声を上げて自分の貫かれた部分を見るジャウカーン、そこで漸く自分が殺されたと気づいたのだが彼女は何故か清々しい、まるで何かから解放されたという感じの笑顔を浮かべる
「やはり、ダミーブレインに洗脳されていた?」
「違う、よ?へへ、そっか、何も知らないもんね……」
「どういう事?」
「教えてあげな……いよ……」
笑みを浮かべたままの彼女にVectorが何か勘付いたのかゲーガーと共に咄嗟に飛び退くと同時にジャウカーンは爆散、これで攻勢を仕掛けてきたハイエンドモデル4体は全滅し残すはダミーブレイン本人……なのだが
「私達は、何か根本的な勘違いをしていた……?」
「勘違いってなんだ?」
「(四人全員が最後は笑い、まるで他に策があると思わせるような言葉、だけどジャウカーンが言うにはダミーブレインが関与しているわけじゃない?)ッ……!?戦術室、ナデシコの状況は!!!!」
そして場面はナデシコ内に映る、彼女等は今窮地に立たされていた。決してオモイカネも護衛のために集まったFMG-9率いる情報部も弱いわけではない、だが相手はそれを上回った。
実力で、と言う訳ではない。事前の幾重にも張り巡らされていた罠で雁字搦めにされ各個撃破されたのだ、ユノがボロボロなのは護衛がやられてから彼女だけはオモイカネの咄嗟の機転で解放されたのだが射撃ユニットの掃射に晒されかろうじてという形である。
「ゼェ……ゼェ……」
「何故一発も撃たない、飾りではないだろう」
「だって、不可解だもん。ねぇ、キャロルちゃんは何が目的なの」
不可解、彼女がそういったのは今までの戦況を聞いての疑問だった。今こうして対峙しても分かるほどにキャロルという少女はどこまでも用意周到であり、確実を取るくらいの存在だと。
だけどこの襲撃はどう考えても不利過ぎる状況だ、今まで隠れて仲間を増やせることを考えればもっと増やせたはずだというのにそれをせずに四人だけで襲撃、更に言えば周囲の鉄血を乗っ取ったのかと思った兵力だがヴァニラが途中で気付いたがそれにしても多すぎるという疑問。
「目的だと?まぁいい、お前から『名』と『祖母』を取り戻しアイツに恩を返す」
「いいよ、名前、返してあげる」
「は?」
目の前のボロボロの少女は、何を言っているのだとキャロルが見つめればユノは真剣な表情で構えたPPKを下ろしてから『だけど』と彼女は続ける。
「お婆ちゃんに関しては話し合ってほしいかな、私はほら、奪ったとかじゃないからさ」
「お前は何を……?」
キャロルには目の前の少女が分からなかった。何故こうして基地を襲撃して、今まさに自分を殺そうとしている相手にそこまで話ができるのかと。
だがユノは確信があった、Vectorとヴァニラの報告、ハイエンドモデル達の言葉、そして今のキャロルとのやり取りで彼女自身も一つ考えが浮かんだ。
「私には、これがキャロルちゃんの考えに思えない」
「そんな馬鹿な話があるか、これは私が……?」
私が決めた、と言おうとして口が止まった。何かがおかしいと、キャロル自身がそう疑問に思った瞬間
『キャロル!キャロル!!!あ、やっと声が届いた!』
《2つの意識があれば制御は外れてしまうのね》
もし、今回の襲撃がもう一つ裏で糸を引いてる者が居るとしたら?いや、そもそもにしてキャロルは勘違いしてたのだ
「馬鹿な……何故貴様!?」
「何故?何を言ってるの、貴女は私のダミーなのだから」
彼女は決して、自我を持ったと言えど独立したという訳ではないということを。
彼女は気付くべきだった、自分は未だ『ダミー』ブレインだったという事を
これは明日でこのSessionは終わりますね、間違いない……