※誓いの指輪に関する独自設定があります、ご了承下さい。
あと原作では誓いの指輪ですけどここでは婚約指輪でおねがいします。
僕は独り悩んでいた。というのも先日Z46ことフィーゼが僕に向けて放った言葉が問題だった。
必要とされ、期待され、信頼され、恋慕され・・・あなた色に染められた「私」という白糸。愛する人よ、どうか私の名を考えておくれ。
と、こんなことを言われてしまっては流石に考えざるを得ない。しかし名付けには制約があり本人にそれを言えば拒否されるかもしれない。だが彼女の、彼女だからこその余りにも無垢な願い・・・それは叶えてあげたい。
「どうしようか・・・」
と独りごちる。いけない、考えが口に出るのは僕の悪癖だ。とはいえこのままでは千日手だ、何とかしなくては・・・
始まりは鏡面海域、突如現れたセイレーン反応が探知された未踏海域。僕たちはその海域に該当するエリアの調査及び敵性艦隊の掃討を任命された。ただし敵性艦との通信手段を完全封鎖、並びに人格認識機構の無効化を厳とすると添えられて。
海域を進めていくと、サーベルを持った艦船少女が行く手を阻んでいた。それが彼女とのファーストコンタクトだった。
激闘の末、相手の経験不足による対空性能の練度不足に付け込み辛くも勝利。そして次があればまた遊んで欲しいと遺言を残し消滅。
その後建造により偶然の再開、鏡面海域の彼女では無かったが本質は同じとの事。
起工したが建造中止になる、それ故に武功も傷も名前すらも持たない彼女は、誰よりも名前に固執し、羨望した。
手元にある婚約指輪を見る。
「艦船の能力を向上させ名前を与えられる、それにより指揮官と艦船少女との親愛を密にする。多少の値は張るがそれに見合った効果は得られる・・・か。」
再確認するように独り言、いつか彼女にも名前を考えてあげよう。そう心に留め執務に臨む。
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「能力の向上による親愛度の上限解放及びに艦隊の強化、フッ・・・上の連中は余程艦船少女《私たち》を恐れているらしい。」
場所は執務室、戦力拡充を目下の目標とし来たるイベントに向け様々な準備をしている最中、横で指輪をまじまじと見つめ何を納得したのか加賀はそう呟いた。加賀、重桜の主力空母であり赤城との一抗戦コンビとして卓抜した航空能力を持つ艦だ。普段は冷静な反面、戦闘時には狂ったように敵を殲滅する側面も持ち合わせており、頼りにはなるがどこか危ういという印象が残る。
「恐れている?話が見えないな、加・・・賀?」
一瞬瞠目し、直ぐにくつくつと喉を鳴らす加賀。その表情はいつもの冷静な面ではなく、戦闘時の少し歪な表情と声だった。背中に冷や汗が伝う、嫌な予感がした。
「何が可笑しい・・・」
声が震えそうになるのを抑えて声を絞り出す。この声色の時の加賀は大抵碌な発言をしない、だからこそ今・・・戦闘時でもないのにその声色になるのが不安を煽る。自分の顔は強張っているのだろう、加賀が手で僕を制す。
「そう怖い顔をするな。指揮官、知っていてやっているものだと思っていたからな。」
「もったいぶらないで教えてくれ、一体何が可笑しいんだ?」
自然と声が怒気を孕んでしまう
「知らぬが仏というが。まぁいずれ知ってはお前の事だ、消沈するだろう。早いほうが痛みも緩和されるだろう。」
そう言うと、ちろりと艶めかしく唇を舐め
「教えてやろう、
爆弾を投下した。
いきなりの文字通り爆弾発言に固まってしまう、数秒置いてから喉が渇いていることを知覚し唾を飲み込む。体の硬直が解けようやく口を開く。
「・・・縛る?そんなわけないだろう。仮に自由を縛っていたとしてもそれは任務期間内だけだ、それ以外の時間は基本的に皆の自主性に任せている。」
「そこが認識の食い違いというやつだ、ふむ・・・一つ質問をしよう指揮官。」
加賀が一拍置いて続ける
「何の上限解放だ?それによって何を縛る?」
親愛度の上限解放、縛る、碌でもない考えが浮かぶ。そんなまさかと思考が堂々巡りを始める。口に出して考えを整理したいが身体が思考に追い付かず何も言えない、そんな自分を加賀は表情を消してこちらを窺う。詰問から約数十秒、静寂とはここまで精神を蝕む毒なのか。
「この沈黙は察したということで相違ないか?お前は非凡ではないが非才でもない、だが自力で星座を描く能力、その点においては姉様も太鼓判を押している。」
「・・・そんな能力は無い、精々整合性を合わせるだけが精一杯だ。」
「ほう、では貴様の整合性とやらはこれを何と見る?」
意地の悪い顔で加賀はこちらに投げる、あくまで自分の口から言わせたいのだろう。これを言ってしまえば以降軽々にこの言葉を口に出来ないように、僕の性格も考慮した上での問答を
「心・・・だろう、愛によって心を縛る。そういうことだろう、加賀?」
加賀の目を直視しないようにあえて口元に視線を移して言葉を発する。汗が止まらない、言葉にするだけで罪悪感が背筋を這いずり回る感覚が襲う。今まで良かれと思って行ってきた行動が全て洗脳の幇助をしていた、その事実がなにより恐ろしい。そしてなにより、その行為を艦隊の為になどと宣う確信犯である自分が悍ましい。
「親愛とは良く言ったものだ、愛などこの世で一等歪な呪いだと言うのにな。」
「これで分かっただろう、指揮官。指輪は戦力増強だの何だので鍍金を被せているが、只ひたすらに外法、艦船少女を縛る呪具だということが。」
能面のまま加賀は続ける
「お前の事は嫌いではない、寧ろ戦場を用意し私の意を汲み取ってくれる数少ない理解者だ・・・が、今の貴様からは指輪は受け取れんな。」
くるりと踵を返し立ち去ろうとする加賀に縋る様に聞いてしまう。
「僕は、どうすれば良い?知らなかったとはいえ君たちの心を縛るようなことを・・・」
「知るか。答えは常に自身の内にしかない、他者から貰えるものは気付きだけだ。故に苦悩し、逡巡する。そうやって自分だけの正解に辿り着くのだ。違うか?」
歩を進め執務室の扉を前にした加賀は、最後に一度こちらを振り返り
「最後に、指揮官。お前がこれから如何様にするか・・・見物だ。開き直り抵抗感を無視して進むか、背中にいるソレに苛まれ良心の呵責に圧殺されるか、どうするかはお前次第だ。どちらにしろここまで来てしまったのだから退き口なぞは存在しないがな・・・」
と残し、静かに扉を閉めた。きぃ、と軋む音がしたのは扉の音なのだろうか、解らないままだった。
それから数日間の記憶は曖昧で、ただひたすらに罪悪感からか秘書艦の顔を直視できなかったことと心配してくれている艦隊の皆にぞんざいな対応をしてしまった事だけは覚えている。そんな日がこれからも続くと思った六日目、終わりは唐突に訪れた。
その日はいつものように眠れない身体に鞭を打ってデイリーやウィークリーミッションをこなし報告書をまとめ、嘆願書や要望書に目を通し賄えそうなものは可決、無理なものは保留といった少しでも苦痛を和らげるために仕事をこなしていた。少しでも手を止めてしまうとあの日加賀が教えてくれたことにより自分がいかに目先の欲に溺れ考え足らずであったかを痛感し、そして何よりこんな自分を慕ってくれた彼女たちを無自覚とはいえ心を縛っていた事に歯噛みした。この時の僕の顔は余りにも酷かったのだろう、その日秘書艦であったエンタープライズがいつもとは違う落ち着きのない様子で真正面から顔を覗き込んできた。
「指揮官・・・最近の貴方の顔はかなり酷いぞ。いつもの指揮官らしくないぞ?」
「酷いって、僕はいつもこの顔だろう・・・」
視線を書類から動かさずにぶっきらぼうにこたえる。
「造形の事ではなく、表情の事だ・・・その、何というか・・・辛気臭いぞ・・・何かあったのならば言ってくれ。」
心配だ・・・そう言って僕の両頬を彼女の両手で優しく挟み、否が応にも顔を上げさせられた僕が目にしたのは悲愴な面持ちの彼女だった。
「・・・っ!」
右頬に金属の感触、何かを言おうとしたが言葉が出ない、息が詰まる。目の前にいるエンタープライズ、自分を信頼し心配している彼女の気持ちは自分の功名心によって歪められた自分に都合の良い本物ではないかという罪悪感から加賀の言葉が蘇る。
お前がこれから如何様にするか・・・見物だ。開き直り抵抗感を無視して進むか、背中にいるソレに苛まれ良心の呵責に圧殺されるか、どうするかはお前次第だ。どちらにしろここまで来てしまったのだから退き口なぞは存在しないがな・・・
「・・かん、指揮官!・・・本当に大丈夫か!?物凄い汗だぞ!」
言うや否や彼女は頬から手を放し持っていたハンカチを差し出してくれる。
「すまない・・・エンタープライズ。ハンカチは洗って返「指揮官。」」
ハンカチを受け取り汗を拭う、洗って返す旨を伝えようとすると彼女の凛とした声に遮られる。
「もし、悩みがあるのなら私に何でも言って欲しい。貴方が先程から気にしているこの指輪を貰った時から、いやそれよりも前から貴方の事を想い続けているから・・・」
いつもの快活な彼女からは想像出来ないほど尻すぼみになっていく声
「貴方にそんな顔をされると・・・私も悲しくなってしまう。指揮官の力には成れないかもしれないが、それでも聞くだけなら・・・できる。」
言葉に詰まる彼女の顔はいつもの勇猛果敢なそれではなく、今にも泣きそうなそれだった。
エンタープライズ、自分にとっての初めての正規空母。そして初めてのケッコン艦。高い航空能力と替えの利かないワンオフの性能、戦闘面だけではなく様々な面でサポートしてくれ、我が艦隊の竜骨ともいえる精神の一貫性を持ち、誰にもフランクで誰よりも勇敢。
そんな優しい彼女がこんな表情をしている・・・
誰のせいだ・・・自分のせいだ・・・
ごっ、と鈍い音がした。痛い、当たり前だ。自分自身を殴ったのだから。けど、目の前の彼女の痛みはこんなものではない筈・・・いきなりの事に彼女は目を丸くしている。
「エンタープライズ。」
鉄の味がする口で名前を呼ぶ。
「えぇっと、何だ?指揮官?それと大丈夫か、血が出てるぞ。」
困惑しながら聞いてくる彼女、大丈夫と返し二の句を継ぐ。
「話を・・・・・・・・聞いてくれないか?」
忸怩たる思いと罪悪感その他もろもろの感情がごっちゃになり凄く間が空いたが、何とか言えたことに安堵する。
「っ勿論だ!!」
先程とは打って変わって彼女は快活に笑った。
ぽつり、ぽつりと零れていく。理性のダムは決壊し感情の濁流が押し寄せる。手柄の為に指輪を見境なく贈った事、その指輪が心を縛ること、それらを包み隠さず赤裸々にエンタープライズにぶつけた。
話し始めてどの位経ったのだろう、始めは加賀の言葉を借りて滑らかに話すことが出来ていたが話が進むにつれ再度とてつもない罪悪感が頭を出し始めそれに比例して自分は頭を垂れていく姿勢になる。エンタープライズは一体どんな表情をするだろうか?軽蔑、嫌悪、そんな負のイメージが脳裏を掠める、胸がちくりと痛む。
そして全てを話し終えた後、恐る恐る顔を上げエンタープライズの表情を窺う。目を閉じて腕を組みこちらの話が終わったと認識すると
「まずは、全てを話してくれてありがとう。指揮官の胸中の叫びが聞けて不謹慎だが嬉しかった。」
こちらに一礼して続け
「その上で言わせてもらえるとすれば、話はそれだけか?指揮官?」
事もなしげに、そう言った。
「それだけって・・・君の!君たちの気持ちを縛っていたんだ!それだけで済む話ではないだろう!!」
立ち上がって吠える、みっともないが自分にとってはそれだけという言葉では済ませられないからだ。
「いずれ戦争が終われば君たちは自由になれる、自由に街に行って自由に遊んで自由に・・・人を好きになる。僕は・・・それを奪ってしまった・・・」
半ば嗚咽交じりに絞り出す、力が抜けて乱雑に椅子に座る形になる。空を仰ぎ掌を両目の上に置く。
「僕は、君たちに償わなければいけない・・・」
贖罪、今までの軽はずみな行為への、罰。
「それは違うぞ、指揮官。」
明確に否定を入れてくるエンタープライズに訝しげな眼を向けてしまう。
「何が・・・違うんだ?エンタープライズ?」
語気を荒げてしまうが、エンタープライズは気にした素振りも見せない。
「まず前提が違う、私は、いや私たちは貴方の下で戦いたいから、貴方を愛しているから指輪を受け取ることを選んだ。貴方にとっては戦力増強の一環かもしれなかったが、私たちにとってはこれ以上ない幸せだ。」
それにと続けてエンタープライズは語る
「貴方は能動的には心を縛っていなかったのだろう?なら問題はない。」
「今までは知らなかっただけで、これからは解らないぞ・・・?」
「今こうやって腐心してくれている貴方がそんなことはしないさ。それに私は貴方だけの艦だ、何があっても貴方と共に生き、貴方と共に闘い、貴方と共に朽ちよう。貴方が仮に間違えたなら間違えたまま進もう、貴方とならそれすらも幸せだ。」
真っ直ぐすぎる瞳に射抜かれ、最早反論もなかった。
「指揮官が自身を許せないというものは貴方の都合だ、ならば私は指揮官、貴方とずっと一緒に居たい。これが私の都合だ。どうか私の都合も慮ってはくれないだろうか・・・」
自分の都合が独りよがりだった、心配してくれていた子たちの声に耳を貸さずに自分一人がすべて悪いと決めつけて、周りに迷惑までかけてしまった・・・
「・・・エンタープライズ。」
「なんだ、指揮官。まだ言いたいことがあるのか?」
苦笑するエンタープライズ、もう大丈夫だと伝えよう。
「ありがとう、君のおかげで全部とはいかないがほとんど蟠りは解けた。」
「そうか、なら重畳だ。また何かあったら頼ると良い、何たって貴方の嫁なんだからな。」
エンタープライズが笑う、つられて自分も笑ってしまう。久しぶりに笑った気がする。
「この礼はいつか必ず返す。何でも言ってくれ。」
「何でも?今何でもと言ったな、指揮官!!」
前言撤回、笑えなくなった。顔が引きつり小刻みに震えてしまう、だが今回に限りどのような行為も甘んじて受けよう。それがエンタープライズに対する今できるお返しだ。
「何でもいっ・・
言葉が途切れた、厳密には言葉を途切れさせられたと言った方が適切だ。何でもと言った瞬間に近づいてきて覚悟が完了する前に不意打ちで口付けされた。勢い余ったのか不格好なかちんという音と少しの衝撃、数秒して離れるエンタープライズ。
「んっ・・・これが私の何でもだ、指揮官!」
「お前な、少しは加減・・
口をおさえ、言いかけた時に気付く、エンタープライズの顔が耳まで赤い。そんなものを見せられたら何も言えなくなる。
「さぁ指揮官、やることは沢山あるぞ!」
恥ずかしさを誤魔化す為か早口で捲し立てる、そんな彼女を見て自分も恥ずかしさから口が滑る。
「なぁエンタープライズ、今からでも遅くないよな?」
うっかり出た問いにエンタープライズは当たり前に返す。
「勿論、人生に遅すぎることなんてないさ、指揮官!」
にっこりと笑う顔にはまだ朱が刺していた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。次回があればZ46とか書きます。