七夕に投稿が間に合わなかった七夕のお話。

七夕に失恋したハンターさんの話的な


1 / 1
七夕のお話作ろうとしたんです。少し遅刻しました。





七月七日晴れ

 

 

 故郷に戻ったら、告白するんだ。

 

 

 そんなフラグ満載な台詞を狩場で言い、何事もなく狩猟を何度もこなしてきた。

 

 危ない場面は何度もあった。

 その都度、ここで死ぬわけにはいかない、と自分を奮い立たせて乗りきってきた。

 

 そしてとうとう、故郷に戻れたのだ。

 

 

 7年振りに想い人の前に立つ。

 

 久しぶりの邂逅。7年という会えなかった年月にも関わらず、この特別な感情はより強まっていることを自覚した。

 

 どう告白を、想いを打ち明けようか四苦八苦していた時。

 

 

「今度の七夕に結婚するの。せっかく戻ってきたんだし、結婚式に参加してくれない?」

 

 

 告白することなく、失恋したことを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちくしょう……ちくしょう……」

 

 故郷の酒場で突っ伏しながら、ひとり暗く沈む。

 

 いや、正確にはひとりではないけど。

 

「その、ドンマイです……? でもあまり飲み過ぎないようにしてくださいよ」

「……酒は飲んでないから……飲めないから」

「飲めないんじゃなくて飲まないだけだって知ってますからね、私」

 

 グチグチ言う自分の隣で慰めというには微妙な慰めをする女性。

 今回の帰省についてきた仕事熱心なギルドの受付の方である。この地での狩猟したモンスターの種類や数などの記録及び、依頼をこなす様子を見に来たのだ。

 この帰省、休暇で戻ったわけではない。狩猟依頼の場所がこの土地だったからである。つまり依頼をこなすついでの帰省だ。帰省がメインではない。依頼がメインなのだ。

 

「狩猟依頼でここに来ただけだから……今回の帰省はノーカン……ノーカン……。次にちゃんとした帰省した時に告白するんだ……」

「でもその時はもう彼女は人妻ですよね。それでも告白するんですか?」

 

 …………離婚してたりしないかな。

 

「……破局してないかなとか思ってないですよね?」

「……」

「もー、しっかりしてください! 結婚式に参加するって言ったんでしょう? 参加する以上、友人としてちゃんと祝福してあげないと!」

「うあー……」

「それにまだ依頼をこなしてないんですから!」

 

 なんであの時自分は参加するなんて言ってしまったんだろう。

 特別な好意を隠すための見栄だろうか。別にあんたのことはなんとも思ってないんだから、みたいな。

 

 そんなバカみたいなことを考えながら現実逃避。

 

「もー。帰省はノーカンって言うなら切り替えて依頼をこなしましょうよ。依頼の内容覚えてますー?」

「うー……、覚えてます覚えてます……」

 

 そんな簡単に気持ちを切り替えるなんて無理だ。

 7年だぞ7年。

 長い間伏せていた気持ちがあっさり切り替わるほど人の心は簡単ではないのだぞ。

 

 そんな反論をしようと思ったが、狩猟の間だけでもこの沈んだ気持ちとおさらばできるかもと考え、狩猟依頼の内容を思い出す。

 

 ジンオウガもしくはキリンの狩猟。

 

 ……だと思われる。

 正確には、この地で最近天候を無視したような落雷が頻繁にあるそうだ。その原因の調査および取り除くのが今回の依頼。

 

 天候を無視した雷。

 そんなことを出来そうなのは、知っている範囲では今のところジンオウガとキリンのみ。

 明確にターゲットが定まっていないのだ。竜がでるか、幻獣がでるか。どちらであれ落雷が頻繁にあるということは気が立っている可能性が高い。落雷の原因を取り除くとあるが、気が立っているのであれば狩猟の方向でいく予定だ。

 

「……ジンオウガの目撃情報はないみたいだし、キリンの可能性が高いかなあ」

「そーですね。なんとかして七夕までに終わらせたいところですね」

「? 期限なんて設けられてたっけ」

「え? だって七夕に結婚式なんですよね? それまでに終わらせて安心して式を挙げてもらわないと……」

「ちくしょう……ちくしょう……」

「ちょっと!?」

 

 依頼のことを考えて現実逃避しようとしていたのに、結婚式のことを突きつけてくるなんて酷い仕打ちだ。

 

「ちくしょう……でも実際問題、七夕までにって難しいかと」

 

 別に、結婚式がなくなってほしいからこんなことを言っている訳ではない。いや、その気持ちもあるけども。

 

「そうですけど……」

 

 彼女も同じ考えのようだった。

 

 その理由は単純に、相手が幻獣の可能性が高いからだ。遭遇するのは文字通り幻のごとく。簡単に見つかる相手ではないのだ。

 

「でもこの地に留まっているみたいですし、案外探せばすぐ見つかるかもですよ!」

「……まあ頑張ってはみるけど」

 

 正直なところ探しても見つからない気しかしないが、探しもせずに無理でしたと言うわけにはいかない。

 

 しかし、この村に戻ってきてもう数日となる。しかし、頻繁に落雷があると聞いていたのに雷は全く見てないのだ。

 これはもう移動したのではという疑惑が強い。

 

「とりあえず持っていける分の食料が尽きそうになったら山を下るよ」

「それなら見つからなくても七夕までに戻ってこれますね! 変に節約して粘らないでくださいよ?」

「……」

「粘らないでくださいよ?」

「…………はい」

 

 隙あらば結婚式に繋げてくる気がする。

 そんなに失恋がメシウマなのかこの人は。

 

 とにかく行動方針が決まったので、今のうちに腹ごしらえだ。狩猟前に、といっても狩猟できるか怪しいが、なんにせよ長い間狩場に居る必要がある。携帯食料などで食いつなぐが今のうちに腹いっぱいにしときたい。

 

 そういうわけで酒場の主人に注文を頼む。

 出された料理に、おまけとばかりに頼んでいないはずの酒がついていた。

 

「酒は注文してないけど……」

「そいつはおごりだ。村の依頼を受けてくれたお礼みたいなもんだよ。酒のお代はいらないさ」

「……あ、ありがとう、ございます」

 

 厚意は嬉しいが、正直酒は嬉しくない。

 

 隣の彼女に小声で言う。

 

「なあ、これ飲んでくれない?」

「ハンターさんへのおごりですよ? 私が飲むのは変ですよ」

「自分は酒が飲めないんだよ……」

「飲まないだけでしょう? 理由は聞いてますよ。大丈夫ですって、変な飲み方さえしなければ。それにこのお酒、そんなにキツくなさそうですよ」

「むう……」

 

 出された酒を睨む。

 どうしたものか。この7年、ずっと禁酒してきたのだ。失恋での自棄酒すらさっきまでしてなかったのに。

 しかし飲まないというのも酒場の主人に悪い。かといって飲むのも……

 

 そうして悩んだ末に出した結論は

 

「……この酒、この瓢箪にいれてもらえない? あとで大事に飲みたいからさ」

 

 持ち帰ってこっそり処分することにした。

 

「変わったハンターだなぁ。あいよ、たいしたもんじゃねえけど大事に飲んでくれや」

 

 快諾してくれたことに喜びと嘘をついたことに対する罪悪感。

 せめて絶対にバレないように処分しようと固く心に決めた。

 

「ほらよ、いれといたぜ」

「ありがとう」

 

 酒の入った瓢箪を受けとり感謝の言葉を言う。心のなかでごめんなさいと付け足して。

 

 処分する酒の罪ほろぼしにせめてもと、料理はおかわりもして全て平らげることにした。

 

 

 

 酒場を出て、受付嬢の視線が地味に痛い。

 

「そのお酒、ちゃんと飲むんですよ」

「……飲まない理由知ってるだろうに」

「はい。だけどさっきも言いましたけど、そんなに強いお酒じゃないですよそれ」

「……帰ったらひとりで飲むよ」

 

 これでは当分処分はできないな、と諦める。

 ほとぼりが冷めたら処分しよう。

 

「……誰かと飲むのもいいものですよ?」

「……」

「昔とは違うんですし、酔いがひどくなったら席を立つとか」

「……あの時、記憶が飛ぶほど酔ったわけじゃないんだ。酔った時点でもう、きっとダメになる」

「……そう、ですか」

 

 誰かと飲むなんて、こればかりは譲れない。

 

「この村を出ていくと決めた不祥事なんだ。軽く見ることなんてできないよ」

 

 そう言いながら7年前のことを思い出す。

 といっても、そんなに複雑なことではない。というか思い出したくないやらかしだ。

 

 

 

 

 

 ひとことで言うなら、親族の幼子の誕生日に酒に酔って暴力を振るった。

 

 当然祝いの席は台無しだった。

 

 幼子の怯える目、親族の怒りの目、話を聞いた村人の不快なものを見る目。

 それらが怖くなり、好きな人からもその目で見られると思うと恐ろしく、気づけば村から逃げるように出ていた。

 

 思い返すと酷い理由だ。完全に自業自得である。

 

 出ていってからハンターとなり、長い時間が当時の不祥事を風化させてくれることを祈って狩猟に明け暮れていた。

 今回の帰省でそれが叶ったことがわかったのだ。というかほとんどの人に自分のことそのものを忘れられていそうだが。なんにせよ、またやらかすわけにはいかない。

 

 ともあれ、酒を飲めば暴力的になるとわかった。そのため、飲まないようにしているのだ。

 

 

 

 

 

 調査準備のため宿に戻る。影蜘蛛の防具で身につつんで、雌火竜の素材から作られた片手剣、クイーンレイピアを帯剣する。

 鞄の中は携帯食料がほとんどだ。一応万が一に備えて落し穴や閃光玉、煙玉に解毒薬などもいくつか入れてあるが。さらには貴重な秘薬までもあるが。

 瓢箪にいれてもらった酒は宿に置いていくことにした。

 

「それじゃしばらく山にいると思うよ」

「はい、気を付けて行ってらっしゃい!」

 

 今さらだが、この村にはハンターズギルドはない。そのためギルドの受付の彼女も宿である。

 わざわざこの村までついてきたが、さすがに狩場にまでは来ないようで少し安心。まあ、そもそも別にハンターズギルドで待っていても問題なかったのだが。

 

 

 

 村の近くの山は木々と岩肌の混ざりあったような姿をしている。

 地面は柔らかな土がほとんどなく、岩肌の上に木が根や蔦を絡ませて緑を作っているのだ。緑を作ってはいるが地に草は少ない。そのためか、他の地域より小型のモンスターは少ない。そしてその小型を補食する肉食が少なく……といった具合であまり生き物は多くない山だ。

 近くにある山にはモンスターが居つきにくいからこそ、ハンターズギルドが近くにないのかもしれない。

 

 そんな風に考察しながら山を歩く。

 

 岩ばかりの足場は少し歩きづらい。転べば土や草のようなクッションになりそうなものはないので痛そうだ。

 

 

 注意深く周囲を見渡しながら歩くこと数時間。

 

 せめてモンスターの毛や鱗が落ちてないかと期待して歩き回っていたが、想像とは全く違うものが見つかった。

 

 

「……これはひどい」

 

 

 キリンの死骸がそこにあった。

 

 

 身体に負った怪我を見るに鈍器でやられたのだろうか。脚はあらぬ方向に曲がっており、首も折られている。

 そして特徴的なのが、このキリンは角がなくなっているのだ。

 

 キリンの角は存在そのものが希少なことと、素材としても人気が高いため高額だと聞いたことがある。密猟の可能性を考えた方がいいかもしれない。

 

「……いや、違うか……?」

 

 密猟にしては奇妙だ。

 キリンの死骸をより詳しく調べるため近づき触れる。

 

 キリンの素材は希少なのだ。密猟ならば角だけでなく、それこそ毛の一本も残らず持っていくだろう。そもそも死骸を残すこともないだろう。

 

 と、なるとモンスター同士の争い。

 しかしキリンは仮にも古龍。そこらのモンスターにはそう簡単にやられるとは思えない。それに、モンスター同士の争いだとして、なぜこの死骸は残っているのか。

 

 弱肉強食の世界。敗者は肉となる。そんな考えから、このキリンが喰われていないのが不思議だ。

 

 

 喰うためではない?

 ではなんのためか。

 

 

 しばらく頭をうねって考えてみたが全く思いつかない。

 

「……せめて埋葬くらいしてやるか」

 

 このままにしておくにはあまりにも憐れだ。

 残っている素材を剥ぎ取るという考えが僅かに浮かんだが無視した。

 

 埋葬するにしてもほとんど岩肌の地面だ。

 

「お……」

 

 岩が落雷によってなのか、抉れている場所があった。そこに少し悩んだが、落し穴を使うことにした。

 

 トラップツールが大型モンスターをも落とせる穴を空ける。抉れていた岩は多少の抵抗があったのか、穴の部分以外から亀裂が入ってるのが凄まじい。深く考えたことはなかったが、トラップツールの中にはひょっとして火薬とかも含まれているのだろうか。こう……、穴を空けるためにドカンって感じに。

 

 出来た大穴の上に広がるネットをナイフで切って、改めて穴の様子を見る。

 このままでは硬い岩肌に包まれるだけだから、切ったネットをクッションのように底に落とした。

 

 これならこのキリンを弔うことができそうだ。

 

 しかし土をかけることは出来ないので、やっぱり物足りなさがある。かといって石や枝で埋めるわけにもいかないし……

 

 というか別の問題発見だ。

 

 キリンさん大きい。

 

 何故すぐ気づかなかったのだ自分は。

 この大きさはモンスターにしては小さい方かもだが、人から見たらかなりでかい。ひとりで運べる大きさではない。

 

 引き摺るわけにもいかないし……ううむ。

 

 知恵を振り絞って考えてみたが妙案が思いつかない。

 

 腕を組んでうんうん唸っていると、何かが近づいてくる音が聞こえた。

 

 武器に手をかけ、周囲に気を配る。

 

 音はとても軽やかなものだ。そして速い。

 そして、少なくとも人ではない。

 

 

「……え?」

 

 

 見えてきた姿は、白く輝き雷光纏う獣の姿。

 

 

 キリンだった。

 

 

 隣には相変わらず角のないキリンの死骸がある。当然だ。ついつい蘇ったのかと疑って確認してしまった。

 

 だいたい幻獣といわれるキリンがひとつの土地に2体もいるのはおかしいじゃないか。

 

 軽く混乱していると、走ってきたキリンは目前まで来ていた。

 

「のわぁ!?」

 

 角で突き刺すようにそのまま突進してきたので慌てて避ける。

 

「っとわぁ!? あぶっ!? ちょっと!! しつけぇ!?」

 

 そこから何度も角で襲いかかってくる。あまりのしつこさになかなか体勢を立て直すことができない。

 

「おおっと!?」

 

 身体を反転させながら迫る突きを避け、後ろに回り込む。ようやく体勢を立て直せた。

 

 落ち着いて目の前の生きているキリンを見やる。

 

 先程のキリンと違い、目立った怪我はない。角も健在だ。

 ただ少し小さめのような気がする。

 しかし、あの角による猛攻を体験した感じ、当初の予想通り気が立っている個体だ。

 

 またも角を使っての突進。なんというか、やたらと角にこだわる個体である。

 ここまで角による攻撃ばかりだと少し勘ぐってしまう。

 

 

 雷をどういうわけか使えないとか?

 

 死んでいるキリンを仕留めたのはこの個体?

 

 

 いや、どっちもないか。

 雷光纏いながら走ってきたし、今もどこかピシピシと音が聞こえてきそうな光っぷりだ。使えないのではなく使わない、と考えた方がよさそう。

 

 死んだキリンの下手人の線は、あの悲惨な姿からまず違う。キリンの角やキックであそこまで酷い姿にはならないだろう。

 仮に執拗なキックで勝ったとしても、角がなくなっている意味がわからない。

 

 それにしても、このキリンはまだ未熟な個体な気がする。角による攻撃しかしてこないが、その攻撃もなんというか単調で読みやすく、とても驚異にはならない。

 もっと上位な個体なら速さであったり先読みしてきたりしてくるが。

 

「ほほいっと」

 

 回避も難なくできる。やられる要素は今のところはあまりないだろう。あくまで今のところは、だが。

 しかしこちらの攻撃が通用するかはまた別だ。キリンはその見た目とは裏腹に、硬い身体だ。唯一の弱点は角、の付け根部分。そこに攻撃をいれるのは正直難しい。

 

 というかこのキリンは本当に依頼のターゲットなのだろうか。

 依頼の内容は落雷の原因の調査および除去。この角自慢なキリンは違う気がする。

 落雷の原因は死んでるキリンだと思われる。じゃあこのキリンは……

 

「あっ……」

 

 答えのでないままに悩んでいたせいか、いつの間にか落し穴の近くに来ていた。それを気づかず突進を回避したとき、勢いあまって落し穴に落ちそうになる角。

 

 まあ落ちてもキリンの脚力ならあっさり抜け出せるものだ。それに下にはクッションのように切られたネットを詰めてある。罠ではない罠だ。

 

 角キリンはそうとも知らずに前肢を穴の縁にかけて落ちないようにもがいている。

 しかしそこから登るのは難しいようだ。少しずつ脚が穴の方へずりずりと進んでいくのがわかる。

 

 ……落ちても別に怪我をすることはないと思うけど、こうも必死だとなあ。それに、こいつは原因とは無関係かもだし……

 

 普段ならこんなことはしない。今回はきっと魔が差したのだ。気まぐれが起きたのだ。

 

 落ちそうになっているキリンの前に立ち、その脚を掴んで引っ張る。

 

 重い……!

 

 これはつらい。腰を痛めかねない。

 中腰で引っ張るには辛すぎるものがある。

 

「ぐのぉぉお……!」

 

 少しずつ穴から出ている。

 さっきまで襲ってきた相手に自分は何をしているのだろうか、と思ってしまうがもう引っ張り出す。もっと体重減らしてほしい。

 

「ふぬぅぅうう!!」

 

 掛け声とともに引っ張り出した。というか最後はキリン自身が自力で抜け出したようにも思える勢いだった。

 

 出すことができた勢いで尻餅をついてる自分と、なかば跳ぶように飛び出て優雅に着地を決めたキリン。

 あたふたしていた方が最終的に見栄えのいい姿を見せてくるのはどうかと思う。

 

「なーんでこんなことしちゃったんだろ」

 

 まあきっとこのキリンは落雷の原因ではないだろう。つまりターゲットではない。死んでいるキリンと争った結果落雷があったとかかもだし、それならもう争うことはない。つまり落雷はなくなる。

 あとはこのキリンの行動次第だ。

 助けられたって恩でも感じて何もせず去ってくれたら一安心なのだが……

 

「……」

 

 じっとこちらを眺めている。角で執拗に攻めていた時と違い眺めている。

 

 これは争い回避だろうか。

 

「あいたぁ!?」

 

 油断した瞬間に弱い電撃が襲った。

 

 やっぱり雷扱えるんじゃないか。角縛りはなんだったのだ。というかやる気かこいつ。

 

「このっ……あれ?」

 

 キリンはいなくなっていた。

 目を離したのは雷を受けた時の僅かな時間。その一瞬で去っていったのか。

 まるで幻だったのではないか、と思える消え方。鎧を僅かに焦がした雷の痕がなければ幻覚でも見ていたのではと勘違いしそうだ。

 

 角キリンがいなくなって、残されたのは自分と死骸キリン。

 埋葬くらいはしようと思ってたところだった、と思い出す。運ぶ手段は思いつかないがとりあえず死骸に近づこうとして───

 

「おおぅ!?」

 

 目の前に落雷。

 さっき受けたのとは威力が全然違う雷。鎧に焦げ痕ついたーなんてレベルじゃすまない威力だ。

 その雷が何度も死んだキリンを守るように落ちる。

 

「近づくなってこと……?」

 

 一歩後ろに下がれば雷は止んだ。

 さっきの角キリンだろう。今の行動は。

 

 キリンの死骸に触れさせたくないのだろうか。思えば最初もこの死骸に近づいたら駆け寄って襲ってきた。今回は警告のように雷を落としてきたあたり、少しはさっきの救出に効果があったのだろうか。

 

 まあなんにせよ、死骸に近づけさせなたくない理由はわからないが、向こうがそう訴えるのであればそっとしておこう。

 

 いまいちスッキリしない気持ちのまま、その場をあとにすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリンが2体、ですか……」

 

 宿に戻り受付嬢に報告をした。

 腕を組んで、まさに考えていますといったポーズを取っているが、この人は直感型なタイプなのできっとポーズだけだ。

 

「まあそれでキリン同士の争いの結果落雷が頻繁にあったのかと」

「キリン同士の争いなんて聞いたことないですけど……そもそもキリン自体あまり生態はわかってませんし……ていうか、そもそも古龍に関しての依頼ってもっと専門家とかつけてほしいですよね。古龍観測隊とか」

 

 ここで下手に同意したら絶対に話が脱線する。そんな予感がした。

 

「ないものねだりしても仕方ないだろー? まあとりあえず、落雷はしばらくないかもしれない。一応様子見はするけども」

「はーい、一応ギルドに報告しておきますね。返答次第ではまた出ることになるかもしれない点だけ覚えておいてください」

「伝書鳥なんてこの村にないから隣町まで行かないといけないと思うけど」

「うそー……」

 

 親切心からの発言は彼女の気力を奪ってしまった。力なく机に突っ伏してしまった。

 そして少し間をおいてから顔をあげ、代案を出してきた。

 

「うーん、じゃあ普通の足もとい郵便で報告しておきます」

「そんなんでいいんすか」

「緊急性は薄そうですしね。それに現場の人手のなさから言って万が一に備えてあまり離れたくないですから」

「っていう名目ですね」

「……だって結婚式見てみたいじゃないですかー!!」

「自分は見たくないんですけどー!!」

 

 隣町までの移動が面倒くさいとかだけでなくそんな理由だったとは。思わぬ方向からの攻撃にダメージを受けてしまうではないか。

 

「まあとにかく、話を戻しますね。現状は落雷の原因がわからないままですし、明日も調査お願いしますね」

「いきなり真面目モードとな。というか落雷の原因はさっき報告した通りかと」

「あなたの推測じゃないですか、それ。というかその推測はまずないと思いますよ」

 

 結構しっかりとした否定をあげられた。そりゃ確かにキリン同士の争いとか前例はないけども、何事も例外はあるんじゃなかろうか。

 

「ていうか最初に言ってたじゃないですか。死んでたキリンの怪我は打撲傷って。それに角がなくなってるって」

「それは蹴りとかで……こう……?」

「ふんわりしすぎです」

 

 言いたいことはわかる。根拠として弱いのだと。しかし……

 

「他の可能性はなくない?」

 

 他のモンスターに襲われ喰われることなく、密猟者に襲われ皮など剥がれることなく。

 角のみを失うなど同種の争いの結果にしか自分には考えられない。

 

「私の推理ではズバリ! 密猟ですね!」

「角だけを狙う密猟?」

「いえいえ。きっと全身剥ぎ取るつもりだったんですよ。ですが途中で別のキリンに襲われ、角しか取れなかった……なんてどうでしょ!?」

 

 自信満々に言ってくる。確かにその可能性はあるかと素直に認めるのがいやになるくらいの自信満々さ。ドヤってやがる。

 しかし否定する材料がない。というかその可能性しか考えられなくなってきた。

 あの角キリンは死んだキリンに近づくと襲ってきたのだ。同種の争いの結果ならそんなことはしないだろう。人間の価値観がキリンにも当てはまるのならだが。

 

「なのでキリンがその密猟者達とまた遭遇したら落雷発生ですよ!」

「密猟者とかもう自分の仕事じゃないんだけど。ギルドナイトって人達に任せようよ」

「まあとりあえずここで話してても結局は素人の推測ですしね。ギルドの判断待ちです。それまでは結局引き続き調査で」

「ほいほい」

 

 スラスラと報告書を書いていく姿がちょっと賢そうに見えてしまう。実際賢いのだろうけど。

 なんでもハンターズギルドの受付嬢というのは結構な狭き門と聞いたことがある。そのため勉学に勤めすぎて出会いがなかったり、そもそも変人だったりと、独身率が高いとも風の噂で聞いたことがある。

 

「…………角だけ」

「どしたの」

「いえ、なーんか引っ掛かってですね。なんか……なんか……」

 

 書く手を止めてぼそりと呟いたので何か閃いたのかと思ったが、漠然とした引っ掛かりのようだ。

 

「……あ」

「お?」

 

 何か思い出したかのような反応。

 何か何かと聞く姿勢に入ってみると、なんだか微妙な表情で話始めた。

 

「だいぶ前に聞いた話なんですけど……あまり信憑性の薄い内容というか……」

 

 そんな前置きをつけてきた。

 なかなかのもったいぶり方。これは話に期待しろという前フリだろうか。

 

「キリンの角って、ら───」

「あー! ここにいた! 探したよ、もう!」

「おおおぅ!? え、なんでここに!?」

 

 受付嬢の言葉を遮るように突然大声を出しながら現れたのは、七夕に結婚する彼女だ。

 探されていたことに奇妙な胸の高鳴りを覚えてしまう。もしや破局……

 

「あ、ごめんなさい。お話し中だった?」

「いや、大丈夫大丈夫!」

「……まあ、推論話とか噂話でしたし大丈夫ですよ。というかどうしたんですか? 随分慌ててたようですけど」

 

 そうだ、推論話なんかよりあの慌てようは断然気になる。何かあったのか、それも自分が関係するような何かが。別に破局うんぬんは期待してないが。

 

「その……今度の式のことなんだけど……」

 

 やや言いづらそうに話始めた内容は、なんだか虚しくなる話だった。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりおかしいです! あんな話!」

「……しょうがないことだろー」

「しょうがなくなんかないですよ! いつまでも昔のことを引っ張って!」

 

 話を聞いてから受付嬢は怒りっぱなしである。当事者である自分より第三者の彼女の方が憤慨を露にするとは。

 

 あの時の話の内容は、自分が結婚式に参列するのを村の人達に激しく反対されたという話だった。

 友人だからと参列させたいと花嫁が言っても、過去に祝いの席を目茶苦茶にした前例がある以上、意見を覆すことはできなかったそうな。

 

 受付嬢としてはもう過去の事件なのだろう。不当な扱いに感じているのかずっとぷんすかぷんだ。

 一方で自分は何も思えなかった。昔やらかして逃げたツケが今になってきたから、というより、何も考えたくないだけかもしれない。

 

 故郷に戻ったら失恋して、結婚式参列したくないなーとか思ってたら参列せずすみそうだけども、故郷からの許否で、となるとなんだか胸が重い。

 

「まあまあ。そもそもここには依頼で来てたんだし」

「そうですけど! でもあんまりでしょう!」

 

 激しい憤りだ。

 そんなにも結婚式を見たかったのだろうか。ブーケトスへの情熱とかで。

 

「うーん、自分はその日調査に出ておくから、式を見に行ってもいいと思う」

「そこです!」

「おおぅ?」

「部外者である私は式に参列しても良くて、この村の出身者がダメなのがまたひどいと思うんです!」

 

 そんなこと自分に言われても……

 

「そりゃ以前やらかしたんだし……」

「もう7年ですよ!?」

「村の人達にとっては、まだ、7年なんじゃないかな」

 

 ましてや当時の幼子なんかにはトラウマになってそうだ。被害者にとってはいつまでも残る心の傷痕なのだ。

 

「まあそんなに納得いかないならせめて自分の代わりにアイツの花嫁姿を見ててほしいな」

「……少し前まで祝福する気なんてなかったのに」

 

 溜め息をつきながらの余計なツッコミである。

 まだ納得は全然してなさそうだが、代わりに見ててほしいと頼んだのが大きかったのか、だいぶ落ち着きだした。

 

「なんでそんなに受け入れれてるのか私にはわからないです。好きな人の結婚式を見たくないからですか?」

「いや……、まあ、それもあるかもだけど」

「あるかもだけど?」

「……あー、やっぱりほら……好きな人だからこそ、幸せになって欲しい的な? 自分が無理矢理参列しようとして折角の結婚式を中止なんてなったら最悪だろうし」

 

 それっぽいことを考えながら言ったけど、気恥ずかしさがくる。しかし咄嗟に出た内容だが、的はずれではないと思う。

 

 好きな人の幸せ絶頂期なのだ。それを台無しになんてしたくない。

 

 ……まあこれで完全に恋愛対象にはならないイイ人止り確定だけども。悲しいけども。悲しすぎるけども。

 

「……わかりました。では素直に祝福できない失恋ハンターさんのために、私が精一杯祝福します」

「おおぅ……余計な一言が胸を貫くぅ……」

 

 どこか呆れたような表情を浮かべながら言葉のナイフを用いるのはどうかと思う。

 そして彼女は気分を切り替えるように仕事モードの顔になった。

 

「それでは調査は七夕までにしましょうか。最初に決めた日より少し延ばして。それだけ調べたら充分でしょうきっと」

「はーい」

 

 

 

 かくして七夕の予定が決まった。

 

 式が取り止めになって欲しい、破局になって欲しいと思いながら、台無しにしたくないという矛盾した気持ち。そんな気持ちを持ちながら調査に赴くだけだ。なんとやるせないことか。

 

 

 それからの調査はたいした収穫はなかった。

 例のキリンの場所も変化なく、死骸に近づくと雷が落ちるままだった。

 いずれ腐乱してしまうと心配していたが、ある程度してから死骸がなくなっていた。どこにいったか不明だが、密猟者の仕業ではないと思う。落雷の痕が増えてないからあのキリンが何かしたのだろう。

 

 

 とにかく何事もないまま、とうとう七夕の日を迎えた。

 

 

「いよいよ今夜ですね」

 

 受付嬢の彼女が言い出す。

 式は夜に行う予定だ。なので今日は夜に調査である。

 

「本当に良いんですか?」

「良いよ良いよ」

「でも……」

「ほら、自分はその時間、山にいるけど花火は見えるし気にせずブーケのキャッチ頑張って」

「私のイメージそんなにがっついてます?」

 

 やだこの人、目が怖い。

 

「……それにしても花火もあがるんですね」

「七夕と結婚式とでせっかくだし、って感じかな。ま、あまり大きな村じゃないから村興しも兼ねてるかもだけど」

「でもハンターズギルドもない村で花火なんて危険だと思うんですけど……」

 

 その言葉に少し共感。

 花火のような大きな音を立てるのは、周辺のモンスターをいたずらに刺激しかねないからだ。防衛能力がある施設があればともかく、この村にはそんなものはない。

 

「まあ、あの山は全然モンスターいないし……?」

「でも今は確実にキリンはいるじゃないですか」

「うーん、まあ自分が見張っておくよ。だから大丈夫……たぶん」

 

 一応調査報告は村にも出している。キリンがいるとわかっていながらそれでも決行するのだ。ならなにも言うまい。

 

 最後の調査ということで、準備を念入りにしておく。

 といってもあまり今までと変わらない。独りで山にいるのならいっそ寂しく自棄酒でもしようか、と考え瓢箪を腰に提げてみた。

 

 でも飲まないだろうな、と思う。

 

 過去を反省して今まで禁酒してきた。過去のことで制限を受けてそれで自棄酒なんてしては訳がわからなくなってしまう。

 

 まあせっかくだし、とそのまま腰に提げておく。

 そして少し早いがもう出よう。

 

「もう行くんですか?」

「おうさ。まあ楽しんどいてくれー」

「気を付けていってらっしゃいですよー!」

 

 見送られながら山へ向かう。腰の瓢箪について何か言われるかなと思ったがそんなことはなかった。気づかなかったのか、スルーしたのか、触れるほどではないと判断したのか。そんなどうでもいいことを考えながら向かった。

 

 

 

 

 今日は落雷を起こすのは避けた方がいいだろう。そのためあのキリンのいたところは後回しにする。

 

 普段と違うルートを選んで歩く。

 それにしてもやはり硬い地面だ。それにでこぼこしすぎで歩きづらい。

 昔は、自分が生まれるかなり前は、この山は活火山だったそうな。今はもう噴火しなくなったそうだが、その名残でか、溶岩が冷えて固まったためか、こんな地面になったと聞いたことがある。まあ本当かどうかは知らないが。

 

 なんにしろ他とは違う土地柄。アプトノスなどの草食には物足りない草木。というか木のみ。そのためアプトノスもいなく、それを餌にする肉食も居らず、寂しい山である。

 そのため、今までと違うルートの調査でも代わり映えが全くない景色。

 

 

 

 ───のはずだった。

 

 

 

 時間はもう夜になっていた。

 

 夜の中、そこにいたのは倒れているキリンの姿だった。角はある。あの死んでいたキリンではない。

 

「なんでまた……」

 

 あの例の場所からは離れているはずだ。なのに遭遇するとは。

 

 遭遇したことにも驚いたが、それよりも目を引くのは───息も絶え絶えのその様子だ。

 

「……打撲、か? 血が溜まってる……?」

 

 キリンの口からは血が止めどなく垂れ流れ、腹部はその青白い身体を黒く腫れ上がらせている。

 

 激しい出血をともなうような攻撃を受けたのだろう。外へ血が出てないため、体内に血が溜まってしまっているかもしれない。

 

「ちょっと……いや、かなり痛いぞ。我慢しろよ」

 

 何故か放っておけなくて、手当てをするためそばによる。こないだの落とし穴での救出が無駄になるのが嫌だからだ、と誰に向けてなのかよくわからない言い訳を心の中でしながら。

 とにかくまずは体内に異常に溜まった血を逃がさないと危険そうだ。素人の考えだがこのままでは危ないとはわかる。

 腹部をナイフで切る。キリンの身体がびくりと動いたが、激しい抵抗はなかった。そんな気力ももうないのかもしれない。

 途端に溢れ出す血。深くは切っていないのに異常な量の出血だった。

 

「……ほら、こいつを飲め」

 

 少し呼吸が楽になったのか、先程までと比べるとやや苦しみが減ったようにも見える。が、それでも重症のままだ。

 回復力の促進のために秘薬を飲ませる。モンスターにも効果があるかは知らないが、大丈夫なはずだ。

 人間ならこの状態から薬で回復なんて無理だろうが、キリンは小さくても古龍。人外の回復力と秘薬による後押しで回復する見込みはあるはずだ。

 

 現状で思いつく限りの処置はした。心なしか楽になったようにも見える。

 その様子に自分も余裕が少しできた。

 

 明らかにこのキリンは何者かに攻撃をされた。それもほんの少し前に。

 角のないキリンと同じ相手だろう。

 

「密猟……ではなさそう……」

 

 このキリンはすさまじい勢いで飛ばされたような形跡がある。地面についている血痕の見ながらその様子を想像した。ほぼ横に吹き飛ばされて、地面に何度も跳ね転がされた……? キリンを飛ばすなんて、とても人間技とは思えない。

 

 今自分は何をするべきか考える。

 この場を離れるか、このキリンのそばで待機か、キリンを攻撃したものを探しに向かうか。

 

 ひとつひとつ考える。

 

 この場から離れる場合、キリンには角が残っている。その角を取りに下手人が来る可能性が高い。そしてそこでキリンの命は絶たれるだろう。

 しかし自分の身は危険から遠ざかる。安全である。

 

 キリンのそばで待機の場合……一番ダメな選択肢に感じる。

 下手人と遭遇するだろうし、その相手が人間なら口封じされかねない。モンスターなら襲われかねない。そしてその場で交戦となれば、このキリンにも再び被害がいくだろう。

 見捨てるでもなく、助けるでもなく、といったどっちつかずな形になってしまう。

 

 下手人を探しに行く場合、これは完全にキリンを助ける行動になる。

 下手人はキリンが残した血痕を辿れば遭遇できるだろう。先手を打つことができる。完全に敵対する発想だ。

 問題は相手が人間の場合、色々とヤバイという点だ。もっとも、人間の可能性は低いと思うが。

 

 とにかく二つに絞られた。血痕を辿るか、逆に遠ざかるか。

 

 そして出した結論は……

 

「……落雷の原因は交戦によるものだとしたら、それの確認も依頼に含まれてる、かな」

 

 またも言い訳をしてしまう。こうでもしないと動けない自分は結構面倒くさい性格だな、と自覚してしまった。

 

 自嘲してしまう気分を切り替えるように、よし、と小さく呟き血痕を辿った。

 

 

 

 

 

 

 それを発見したのは辿りだしてすぐだった。それはやはり人ではなくモンスター。

 

 そして予想通りキリンのもとへ向かっていたのだろう。ゆっくりと歩いてくるところを正面から遭遇。

 つまり、普通に自分の姿を認識されてしまった。

 

 

 そのモンスターは───金獅子、ラージャン。

 

 

 非常に攻撃的なモンスターであり、遭遇したものが生きて帰ってこれないあまり報告例が少ないモンスター。その強さは古龍に匹敵するほどのもの。

 通常は毛並みが黒く、激しい怒りによって金色に輝き出しより凶暴となる牙獣。

 また、目撃例は少ないが常に金色の毛並みを持つ個体がおり、その場合はもはや手をつけれないほどの危険性を持つという。数少ない報告例では、尻尾が傷ついているのも特徴だとか。

 

 今そこにいるラージャンは金色に輝いており、その尻尾は傷ついていた。

 

 その視線はこちらを見据えており、そして───

 

「あぶなっ……!」

 

 威嚇など挟まずに跳びかかってきた。なんでこんな化け物と、と心の中で悪態をつきながら大きく横に避ける。

 

 ラージャンの狩猟経験なんて1度しかない。それも通常個体を相手にパーティを組んでやっとのことで、だ。

 

 存在そのものが希少なキリンと違い、遭遇した相手の生存が希少なラージャン。そんなのと立て続けに出会うとは妙な運の使い方だ。

 

 そういえば、一度小耳に挟んだある噂を思い出した。

 

 ラージャンはキリンの角を喰らうと。そしてキリンの角を喰ったラージャンはより強くなると。

 

 ただの誰かが言い出した馬鹿話だと思っていたが、角を喰らうのは本当なのかもしれない。

 より強くなる、という部分は噂の尾ヒレであることを願いたい。

 

 正直なところ、すぐさま逃げ出したい気持ちでいっぱいだが───

 

「───!」

 

 迫り来る豪腕が顔の前を通りすぎる。完全に標的としてロックオンされた。なんとか避けることができたのも束の間、即座に襲い来る拳。

 盾を構えながら横に跳ぶ。金獅子の拳が盾に接触した途端に、視界がぶれるほどの衝撃が襲った。

 

 ラージャンとの距離が開いた。つまりその距離だけ吹き飛ばされただけだが。

 吹き飛ばされたときにあちこちを打ち付けたからか、とりわけ背中がとても痛む。息がしづらい。岩か木にでも背中が当たって止まったのか。おかげですぐさまラージャンの姿を見据えることができている。その走り迫る姿を。

 こちらは呼吸もまともにできないままだというのにしつこいやつだ。ふらつく足に力を込めて横に跳んだ。

 

 直後に聞こえてくる渇いた破壊の音。背後にあった木があっさりと折られたのだろう。

 きっとすぐに次の攻撃が来る。

 

 振り向き姿を確認し──────目の前に迫る木に薙ぎ払われた。

 

 その攻撃の勢いによって、何度も地面に打ち付けられる。

 転がりながらも時折見えるラージャンの姿から、木を武器のように振ったことがわかった。そしてもうその木を使う気がないのか、その場で捨てたのが見えた。

 

 追撃で投げつけて来なかったのは不幸中の幸いというやつかもしれない。

 

 身体中の痛みが激しい。せめて地面がやわらかな土だったらよかったのに。息がひきつってまともに動けない、立てない。

 

 頬にあたる夜の空気の冷たさから、頭防具が壊れたことに気づいた。この分だと他の部位もダメになっているかもしれない。

 

 動けず倒れた状態のまま、ラージャンの姿を見据える。

 

 どういうわけかラージャンは追撃をしてこなかった。襲って来なかった。

 

 完全にこちらから目を離し、歩いていく後ろ姿。

 

 今ので死んだと思ったのか、それとも自分は闘うに値しないと見切りをつけられたのか。

 なんにせよ、この分なら生き残れそうだ。このままラージャンが去るまでじっとしていればいい。

 

 

 その時、村の方角から大きな音が鳴り響いた。

 

 

「さいあく、だ…………」

 

 あまりのタイミングに思わず小さく呟いてしまった。

 

 その音の正体は花火。

 

 もう花火があがる時間になっていたのか。

 大きな音とともに夜空を彩る花がラージャンの足を止めさせる。

 

 

 そして、キリンのいる方角ではなく───村に向かって進み始めた。

 

 

 止めなければならない。

 

 だが身体中の痛みで動けない。そもそもこのダメージでは、動けたところで今度こそ完全な死体になるだけだ。死体になるまでたいした時間も稼げない。

 なら仮に今動けても、村にラージャンが行くことは変わらないのではないか。むしろ死体がひとつ増えるだけだ。

 それに、村の奴らだってすぐに避難して大丈夫かもしれない。

 

 

 それに───あの結婚式が中止になるだろう。

 

 

 それはとても魅力的なことに思えた。思えてしまった。

 

 

 自分の浅ましさに吐き気がしてくる。

 好きな相手の幸せを破壊することにほの暗い喜びを感じてしまうなんて。

 自分が選ばれなかったのは自業自得なのだ。それなのに逆恨みのように式を壊すことを望んでしまうなんて。

 

 酒を断って反省しています、なんてのはただのポーズ。その本質は変わってないのだと思い知らされた。

 

 酒に酔って周囲を傷つけたが、酒のせいなどではない。こんな自分の本質のせいだ。

 

 腰に下げていた瓢箪はあの攻撃に直接当たらなかったからか無事である。

 あまりの自己嫌悪から自棄酒をしたくなった。

 フルフェイスが壊れていて丁度いい。瓢箪に入っている酒を飲む。息苦しさのせいで、少量ずつしか飲めなかったが。

 酒の苦味が痛む身体に染みる。聞いてた通り、たいして度は強くなかった。

 

 飲みながら再度考える。

 

 このままここでじっとしていれば、ラージャンは自分がまだ生きていることに気づかず去って行くだろう。

 無駄死にしないためにもこのままここにいるべきだ。

 

 それに、このままここでじっとしていれば

 

 

 

「おい、間抜け面。どこに、行くつもりだよ」

 

 

 

 結婚式はなくなるのだ。

 

 

 

 花火はあがり続けている。

 

 じっとしていれば助かるのに、無性に悔しくて、不甲斐なくて、そんな暗い願いを持ったことが認めたくなくて、気づけば言葉を発し走り寄っていた。

 

 

 その声に対し、ゆっくりと振り向くその顔に、力の限り斬りかかる。

 

 刃はラージャンの右目に入り一瞬苦しげな声をあげた。そこに追撃をする間もなく大きく跳び退って距離を取られる。そして、その身体に雷光を纏いだした。

 

 金獅子の激昂。

 右目を傷つけられたことで、その身を激しく怒りに染めた姿に変化したのだ。もはや生物としての常軌からはみ出ている。

 

 その怒りを訴えるように、こちらへの死刑宣告のような雄叫びをあげた。

 

 雄叫びを聞いても、しかし頭は妙にはっきりしていた。

 先ほどまでの悔しさなどがすっかりなくなり、落ち着いた気分のまま言葉を紡ぐ。

 

 

「……この先の村は今、祝いの席の真っ最中だ。そこに周囲を傷つけることしか能のない、そんなヤツが参加していい席はない」

 

 

 もう一口酒を飲み、そして告げた。

 

 

「…………自分たちの居場所じゃない」

 

 

 嘶くような叫びをあげながら、ラージャンの口から一直線に、雷のようなブレスが吐き出される。

 当たれば防具などないも同然のように、この身体はあっさり破壊されるだろう。だからどんな攻撃も絶対にあたってはならない。

 

 痛みで動けない、なんて言ってられない。ブレスを横に避け、距離を一気に詰める。

 

 ラージャンがブレスを横に薙ぐことはない。できてもほんの僅かしか横に動かせないと聞いたことがある。

 

 その威力が強すぎるからだ。強すぎるがゆえにその反動も凄まじく、軸をずらすことを本能で拒否するのだとか。

 だからブレスを出している間はまともに動けない。

 

 剣の間合いまで詰めたところ、ブレスを止めたと同時に襲い来る拳。

 その拳が振るわれる前に閃光玉を投げていた。

 

 激しい光で一時的に視界を奪う。

 

 光で目が眩もうと、拳は軌道を変えることなく振り下ろされた。

 

 振りおろされたその右腕に、細剣で斬りつける。

 筋肉による阻害か、思ったより刃が入らない。だが傷を負わせることはできた。その傷が奴にとって大した手傷ではないとしても手応えとしては充分だ。

 

 追撃せずに今度はこちらが距離をとる。遅れて何も見えてない状態で暴れ狂う化物が、付近にあるもの全てを払いのけるように轟音を立てながら回転。

 

 腕だけでなく全身凶器だとは知っていたが、雷光のようなものを纏うこのラージャンは別格だと改めて実感する。 

 

 向こうの攻撃はどれも致命傷。その一方でこちらの攻撃は……一応毒で蝕んでいくが、相手は古龍級の化け物。これは長引かせると自分が不利だ。

 

 それならば、狙うなら即死に繋がる頭への突きがいいかもしれない。

 

 未だに目が眩んでいるのか、ラージャンは後ろ足で立ち上り、夜空を見上げるように雄叫びをあげる。

 雷光を纏いだした時とは異なる雄叫び。それはまるで、己に気合いをいれるような叫びだった。

 

「嘘だろう……」

 

 ラージャンのその太い両腕が、より太く、そして赤い空気を纏いだす。

 確実に見た目だけの変化ではない。さらにプレッシャーが跳ね上がったのが肌で感じれた。

 

「さっきまではまだ本気じゃなかったのかよ……」

 

 先程までの状態でさえ、死と隣り合わせの状況だったというのにさらに力を発揮してきたことに、もはや呆れしか感じない。

 

「うぉっと」

 

 もう視力が戻ったのか、ブレスが飛んでくる。今度はビーム状のものではなく球状のブレスが。

 盾で受けるなどしない。できない。ゆえに横に避けるしかない。

 

 避けたブレスが背後で地を破壊する音を起こすと同時に、目の前まで迫る金色の巨体。

 

「───っ! もっかいくらってろ!」

 

 もう一度ラージャンに向かって閃光玉を投げた。が、───閃光を放つ前にその腕が閃光玉を掴み、握り潰した。

 拳の隙間から溢れる光はすぐさま夜に消えていった。

 

 ───この化け物、閃光玉に対応できるようになっている。学習できなさそうな顔をしている癖に。

 

 そして、手に握り潰した閃光玉を今度はこちらに向かってぶん投げた。

 ラージャンにとっては小さく投げづらいものだろうに、その速度は凄まじく、避ける間などなかった───

 

 

 しかし当たったけど正直痛くない。いや、地味に痛かったけど。閃光玉の使い方はそうじゃねえよ。

 もしかしてぶつけるものと勘違いしてるのか。一瞬賢いかと思ったけどそうでもなかった。

 

「って、あっぶな───!」

 

 閃光玉を掴むためにその場で止まっていたラージャンが、再び距離を詰めるため勢いよく走ってき、大きく右腕を振り上げる。右腕はさっき斬りつけたのに、やはり大したダメージにはなっていなかったのか。それとも先の雄叫びからの腕の肥大で、傷口が埋まったのか。

 右腕の内側、ラージャンの左側へ拳を回避する。すぐさま次の拳、今度は左腕が迫った。

 

 ──────右腕よりはるかに速い。

 

 盾を構えながら後ろに跳びながら身体を丸めた。またも盾越しに殴られ激しく地を転がる。

 

 盾を見ればひしゃげている。取っ手部分も歪んでおり、もう恐らく次は耐えられない。

 ネガティブな考えが頭によぎり、また一口酒を飲みたくなってきたがそんな暇をくれそうにない。

 

 またも走り寄ってくるラージャンの攻撃を、痛みに耐えながら必死に避ける。

 

 防戦一方になるのは不味い。かといって、いきなり頭を狙うのは難しい。

 ならば足を狙う。特に右前足。右腕ともいう。

 

 ラージャンは二本足で立つことはできるが基本的に四足歩行だ。どこかに大きな怪我を負わせれば多少は歩くことができても勢いよく走ることはままならない。動きが鈍ればより勝てる可能性が高まる。

 

 勝利のビジョンが浮かんだところで今度はこちらから攻撃にかかる。

 

 迎え撃つように迫る剛腕をしのぎつつ横に抜け、延びきった腕の間接のあたりに斬撃を見舞い───あまりの硬さに目を見張った。

 

 悪い方向の予想外の手応え。

 筋肉の肥大による硬質化? どれほど馬鹿げた筋肉になればそんなことができるのだ。

 

 思わぬ展開に動きを止めてしまった。

 

 そしてその隙を見逃されるわけもなく襲い来る拳。

 

 

 今日はいったいこれで何度目だ。この地面を転がるのは。

 

 鎧が壊れ剥き出しになっていた皮膚もボロボロだ。さらに剥き出しになってしまいそうだ。

 

 なんでこんなに頑張っているんだろう。そう何度も思ってしまう度に、花火の音が聞こえて奮い立てる。

 

「……ったぁ……」

 

 手元を見れば根本から折れたクイーンレイピアの姿。

 殴られた拍子にか、地面に打ち付けられた際にか。剣としての機能は完全になくなっていた。

 

 なくなった刃はすぐに見つかった───自分の左肩に刺さっていたから。

 

 刃を掴み引っこ抜く。出血がひどくなるとか今はどうでも良い。この刃はクイーンレイピアなのだ。毒の剣だ。

 

 急いでポーチに入れてある解毒薬を取り出し口に含み───巨大な黒と金の腕に掴みあげられた。

 

 このままでは握り潰されるか投げ飛ばされるか。

 

 どちらであれ良くても重症は避けられない。

 

 せめて腕が自由だったらなあ……と思いながら目の前のラージャンの顔面に───

 

 

 口に含んでた解毒薬を吹きつけた。

 

 

 突然のぶっかけにラージャンが拘束を解き、一足で後ろに跳んだ。目を何度もこする姿に少ししてやったりと思う。

 

「苦味が、目に染みるだろばーか!」

 

 良薬口に苦しというが、目にもやばしとつけ加えたい。

 化け物に少し子供っぽい罵倒をついしてしまった。しかし痛む身体を無視してでもしたかったのだ。少し気持ち良かった。

 それよりも自由になったのだから今度こそちゃんと解毒薬を飲まねば。自分の武器の毒で死ぬなどごめんだ。

 

「さて……こっから、どうするか……」

 

 何度も目をこすりながら、こちらを見ては凄まじい怒りをぶつけてくるラージャン。今のうちに攻撃するのが望ましいが、こいつへの攻撃手段がない。

 

 剣はポッキリと折れた。

 盾は取っ手がもうもたない。シールドバッシュは1回が限界だろう。その1回も満足にやれるか怪しい。

 あとは剥ぎ取りナイフ……徒手空拳よりはましだけど……この際贅沢は言ってられない。

 

 

 

 次に目をこすったら突き刺そう。と、決めたとき背後から嘶くような声が聞こえた。

 

 自分の横を通り過ぎ、ラージャンに一直線に向かう。その蒼角で貫こうとしている姿。

 

 

 あの角キリンだった。

 

 

 かなりの重症だったのにもうあれほど走れるのか。

 秘薬の力ってすげぇ。

 いや、古龍の力ってすげぇ?

 

 そんな頭の悪そうな感想しか出てこない。

 

 目をこすっていたら突然現れたキリンの突進に、ラージャンは迎撃するでもなく大きく後ろに跳んで下がった。

 

 思いもよらぬ咄嗟の事態に直面すると後ろに下がる癖でもあるのだろうか。片目を斬った時も下がった。

 

 キリンは下がられてもなお追撃するように突進を続ける。

 さすがに追撃には下がらず、迫るキリンを正面から殴り付けた。

 

 まともに当たってしまった。

 キリンの身体がまるで体重を感じさせないような跳ね方をする。

 

 特にキリンにたいして追撃することなくラージャンは目をこする。こする前にまたもこちらを見たあたり、そうとう敵視されてしまったようだ。キリンより自分にこだわるとは。

 

 思わぬ乱入者があったが事態はたいして変わらず。

 

 現状で幸いなことといえば、未だにあがり続ける花火の音が聞こえることくらいだ。

 つまりまだ村は平和そのもの。式もつつがなく行われている。

 

「……やっぱりつらい」

 

 これも好きな人の幸せのため、と自己犠牲精神で自分に酔わねばやってられない。あと酒に。

 

「まだやれるのか……」

 

 殴られたキリンがふらつきながら立ち上がる。こちらもそうとうラージャンを敵視しているようだ。

 

 あの死んでいたキリンの仇討ちをしたいのかもしれない。この角キリンが雷を使わない理由はラージャンに効かなかったからとかか。

 それで角による攻撃ばかりなのか。しかし肉弾戦を得意とするラージャン相手には厳しすぎる話だ。

 

 キリンの姿にざっくりと予想を立てて、それならば、と考える。

 

 キリンの角による攻撃ならラージャンに一矢報いることができるかもしれない。しかし力量の差から当てれない。なら自分がそのフォローに回るのが一番だ。

 

 そのために……たいした効果はないかも知れないが思いついた。

 

 その思いつきのためには場所の移動が必要だ。移動についてきてくれるか……は問題なさそうだ。あれだけ見られてるのだから。

 

 ラージャンに背を向けて走る。すぐさま追いかけてくる。歩幅も身体能力も圧倒的に負けてるが、未だに染みる目をこするためにきっと頻繁に立ち止まってくれる。

 とはいえいずれは目の染みも我慢できる程度になるだろう。そうなる前に目的地まで迷わず行かないといけない。まあそこは大丈夫だろう。

 

「やたらと、入り浸った調査の成果、見せるとき!」

 

 

 頭に簡易な地図を思い浮かべ不規則に左右に走る。少しでもやつに目を使わせるのだ。

 

 遅れてキリンの嘶きとともに雷鳴が聞こえてくる。殴られたダメージが大きいのか、思いのほか復帰は遅かった。

 

 ともあれこれで、自分を追うラージャンを追うキリンという訳のわからない図が完成だ。

 土産話のネタにしては上出来だ。さらにラージャンを仕留めたという締めがついたら最高だ。

 

 

 そんな風に自身を励ましながら走り続けたかいがあったのか、やがて目的地にたどり着いた。

 

 

 キリンが1体、死んでいた場所だ。

 

 

 ここにはもう死骸はない。

 

 到着し、振り向けば大口をあけて腕を振り上げながら跳びかかってくるラージャンの姿。

 

 なかば倒れこむように横に避ける。

 想像以上に近づかれていたのでちょっと怖かった。

 

 重い身体を立ち上がらせれば、ちょうどキリンも到着したところだった。

 

 あとは上手くいくことを祈りながら行動するのみだ。

 

 左手に剥ぎ取りナイフを持ち、片手剣代わりに構える。盾だけ持っていると違和感で気持ち悪い。

 

 遠くから花火の音が今までより連続で聞こえてくる。

 ラストスパートなのだろう。もうすぐ終わる。

 

「最後の花火があがる前に決めときたい……な!」

 

 地を蹴り駆ける。

 ラージャンやキリンなどより遥かに遅いが。

 

 迎え撃つ拳、姿勢を低くして頭上を掠めさせる。

 

 すぐさま襲う二撃目。反撃するチャンスはもとより、息つく暇もない。せっかく奇跡的に紙一重での回避ができたというのに。

 二撃目はラージャンの外側へ大きく避ける形になった。

 

 三撃目の追撃はキリンが突撃してきたため行われることはなかった。その突進も空振りで終わったが。

 

 キリンと共闘しているこの状況は結構とんでもないことなのではないだろうか。

 

 そしてその状況でもなお有利に立つこのラージャンの能力もとんでもないのではないだろうか。

 

 少し心が折れそうになることを考えてしまった。しかし今の立ち位置はかなりいい。もう少しで状況がひっくり返る、はずだ。

 

「これでもくらえ!」

 

 願わくば、キリンまでくらいませんように。

 そんな願いとともに投げたのは閃光玉。

 

 目が眩んだのかラージャンはその場でやみくもに激しく暴れだす。

 

 上手く眩んだようだがしかし、狙った展開とは大きく異なる。

 

「……あっ! まだダメだ!」

 

 キリンがラージャンへ駆け出す。確かにチャンスかもしれないが今はまだダメだ。

 

 いや、いけるか? 無造作に暴れるラージャンの攻撃を掻い潜り攻撃できるのであればそれはそれで良い。

 最悪なのは掻い潜ることができずキリンに深刻なダメージがいくことだ。

 別にキリンの身を心配しているわけではない。ラージャンへの決め手が欠けてしまうのを避けたいのだ。

 

 何を考えてももうキリンは止めれない。というかそもそもコミュニケーションをとってないのだ。即興の作戦の狙い通りに動いてもらえるなど思わない方がいい。キリンの動きに自分が合わせればいいのだ。

 

「なんか今日っ! 走ってばっか! だな!」

 

 愚痴りながら体力を絞り出すように全力疾走。喉が焼けそうなくらい痛いが踏ん張りどころなのだ。

 

 この走りが無駄足になるならそれはそれで構わない。目を眩ませたラージャンをキリンがうまく仕留めてくれるならそれでいい。

 

 だが意味のある走りになるとしたら、目が眩んでいる状態でキリンの攻撃を凌いだということ。

 もしくは目の見えない状態で攻撃を受けて、反射行動から───

 

 

「───狙い、通りっ!!」

 

 

 ───大きく後ろに跳んで逃げる。

 

 咄嗟の事態への条件反射。

 その反射によってラージャンは───落し穴もどきに身体の半分以上を沈めることとなった。

 

 この穴は本当は死んでいたキリンを埋葬しようと作ったものだ。そのためネットなどはない。罠としての機能はたいしてない。せいぜいヒュンってなるように驚かせる程度だ。だが今はその程度で充分だ。この化け物の隙を作れるのならそれで充分すぎる。

 

 本当なら閃光玉の光で後ろに跳ばせて穴に落とし、キリンの突撃を重ねたかった。

 

 剥ぎ取りナイフを逆手に構え、ラージャンの頭部へ刺さるように力一杯振り抜く。

 

「───っ!?」

 

 狙ったのかたまたまなのか、刃はラージャンの角で防がれた。いや、これは狙ってやったのだろう。そのまま角を振り回されナイフが手から離れる。

 しかしさすがは剥ぎ取りナイフ。硬い甲殻なども剥ぎ取れる丈夫さは今もなお発揮している。

 

 左角に刺さっているままなのだ。

 

 正直嬉しくない。唯一の残った武器なのだ。

 引き抜こうにも簡単には取らせてくれないだろうし……このまま攻めあぐねてる間に穴から出てこられてはなんの成果も得られなかったこととなってしまう。

 

「持ちこたえろよぉお!」

 

 右手の盾を力強く叩きつける。これでスタンを取れれば、あるいはナイフを落とせれば……

 渾身のシールドバッシュも先と同じで、角で防ごうと頭を動かす姿が見えた。

 

 やっぱり狙って動いてくる。

 ならこちらの狙いはナイフ一本に切り替える。ナイフの軸をぶらせればいい。

 

「……痛っ!!」

 

 ナイフに当たった瞬間に取っ手がへし折れ、手の甲に盾の硬度が直で伝わる。

 思わず情けない声をあげてしまったが、このシールドバッシュは予想外の成果をもたらした。

 

 左角が折れたのだ。

 

 ナイフが楔となったのか、その左角は地に落ちた。

 

 ゴトリ、と足元から音がした。片角をなくしたラージャンから、そちらに目を向ければ取っ手が外れた盾が落ちた音だったようだ。

 

 そうだ、これで盾もなくなった。

 ナイフを拾わなくては。でもどこだ。

 

 

「は……?」

 

 

 視線をあげると、穴に嵌まっていたラージャンがいなくなっていた。

 

 

 目の前には穴しかない。左右を見ても折れた角しかない。

 ラージャンの姿はどこにもない。無音である。

 

 

 まさか───

 

 

 顔をあげれば夜空の中に輝く金色の光。それが瞬く間に迫ってきていた。

 

 思いっきり前から倒れるようにその場から跳んで離れる。直後に背後から響く破壊の音と爆風。そして砕かれた岩盤が飛び散りそれらを背中で一身に浴びる

 

 片角が折れた程度で気を抜いている場合ではなかった。顔中擦り傷が出来てそうだ。今のヘッドスライディングで。

 そんな怪我よりもはやく、ラージャンの次の攻撃がくる前に───

 

 

 顔に流れる血を軽く手でぬぐいながら、ラージャンが着地する姿を見据える。きっとすぐに向かってくる。その前にせめて立ち上がらないと。

 

 そう思うのに足が動かない。

 

 まだ踏ん張りどころは終わってないのにもう限界がきたのか。踏ん張り続きだけど乗り切らないと永遠のお休みになってしまうというのに。

 

 動けない自分に向かってラージャンは何かしようとして───

 

 

 

「───!!」

 

 

 

 ───突然空から響くひときわ大きな音と、その光に気をとられ動きを止めた。

 

 

 最後の締めの特大花火。

 ラージャンだけでなく自分も思わず花火の方角に目を向けてしまうほどの大きな音。なんで田舎のくせにそんな気合いの入った花火あげてるんだとか、絶対火薬量間違えてるだろとか思ってしまう。

 

 その場にいたものは花火に目を奪われてしまった。

 

 

 ───一体を除いて。

 

 

 自分も長く目を奪われていたわけではない。時間にして一瞬だけだ。それはラージャンも同じだろう。

 しかし、その一瞬だけでもそれは明確な隙であり

 

 

 迎え撃つ姿勢もとれぬまま、至近距離までキリンの接近を許していた。

 

 迫るキリンに対し、おのれの角を振るラージャン。

 その角でキリンの角撃をいなすつもりか。穴に嵌まっていた時のように。

 あの時の凌ぎは無意識の動きだったのか、と場違いな理解をしてしまった。

 

 そのラージャンの動きは完全に無駄だった。この場においては。

 

 片目のラージャンは右側の視界が狭い。

 だからこそ、そして意識を花火に奪われていたから思わず、左の角を使ってしまったのだろう。

 

 

 左角はついさっき、折れたばかりだというのに。

 

 

 いなすように迎えにいくはずだった左角は空振りに終わり、眼前にキリンの角。

 

 ラージャンは一瞬で大きく後ろに跳び───その動きにキリンはさらに速く加速し追撃し──────

 

 

 

 

 その追撃はラージャンの額へ深く突き刺さった。

 

 

 そして角を突き刺したまま、キリンの身体がより白く、より強く輝き───一方でラージャンは片腕を振り上げた。

 

「まだ動けるのかよ……」

 

 どんな生命力だ。

 完全に化け物じゃないか。

 

 その振り上げられた腕が降ろされる前に───白く輝くキリンの身体に雷が落ち、激しい光がその姿を呑み込んだ。

 

 

 

 

 少しの間、静寂が襲った。

 

 

 

 角を引き抜かれ、ラージャンの巨体がその場で崩れ落ちる。

 

 今度こそ、死んだ……?

 

 引き抜かれた角から焦げたような肉塊が少しこびりついている。体内に電撃がいったということか。

 

 とにかく、ラージャンは断末魔をあげることなく、今度こそ命を終えたのだ。

 

 

 

 

 

 突然キリンが両前脚をあげ、大きく嘶いた。

 

 その姿に少し警戒を向ける。

 共闘状態だったが、もうどうしてくるかわからないのだ。

 こちらの警戒をよそに何度も何度も上体をあげて嘶く。その姿にあたりをつける。

 

「……仇討ち、おつかれさま」

 

 実際のところわからないが、仇討ちを達成したことを何かに報告しているように感じた。

 

 自分が声を出したことで、キリンはようやくこちらに目を向け……

 

「ドライだなぁ……」

 

 小さく雷を落とし、いつの間にかいなくなっていた。

 

「だけどまあ、これで今度こそ、解決、かな」

 

 落雷の原因だったキリンとラージャンの戦闘はもうないだろう。キリンは存命だが。

 

 仰向けに倒れ、空を見上げる。

 

 七夕の夜空は、綺麗に晴れて星がよく見えた。

 

 天の川に隔たれた織り姫と彦星。

 なんとなく結婚式とラージャンを連想した。あのままラージャンを見逃していたら、結婚式の二人は織り姫と彦星のように隔たれてたかな、などと思いながら。

 

 天の川役だったラージャンを見ながら、随分ロマンの欠ける川だなと思う。流れが強すぎる川である。

 

 

 満点の星空の下、しばらくそのままでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村に戻ったのは翌日の朝である。

 

 あのまま寝てしまったのだ。

 

 寝たことによってある程度体力が回復したためか、全身が痛みを思い出したかのように訴えだした。

 そんな痛みに耐えながら村に戻ったのだ。

 

「ラージャンの回収、終わりましたよ」

「あいよー」

 

 今は村の宿にて療養中である。

 本当はすぐにでも村から出たいとこだが隣の仕事熱心な彼女に止められたのだ。

 

「それとキリンについてですが、とりあえずとしては様子見だそうです」

「だよなあ。でも自分はもう休みたいよ疲れたよ」

「その点は大丈夫ですよ。別のハンターが来るそうですから」

「それはそれでなんか傷つく」

「めんどくさい性格ですね……」

 

 溜め息混じりに言われたが仕方ないことだと思う。

 すでに現地入りしてるハンターを使わず、また呼ぶなんてなんか、ほら。

 ……まあ休みたかったからいいけど、と思い直す努力をした。

 

「それとラージャン狩猟の件でハンターランクの昇格の話が来る予定になりましたよ。あ、天の川塞き止めの件でしたっけ?」

「やめて。変なこと言ったのは謝るからやめて」

 

 天の川塞き止め。

 村に戻ったときに何があったか聞かれ、そんなことを言ってしまったのだ。どうかしていたと今では強く後悔している。

 

「なんだかんだで結婚された彼女のことを祝福してるようで安心しましたよー? 二人を織り姫と彦星に見立てて、天の川であるラージャンを狩るなんて」

「恥ずかしいからやめよう?」

 

 自分は何故織り姫だの彦星だの口走ってしまったのか。過去の酔いしれた自分が色々と許せない。絶許。

 

「まあ……式はどうだった?」

「とても素敵な式でしたよ。花嫁……あ、織り姫も幸せそうで」

「隙あらば星を出すのやめて」

 

 何故そんなに苛めてくるのだ。自分のメンタルはそんなに強くはないのだぞ。

 

「花火もすごくて……最後は少しアクシデントがありましたが」

「アクシデント?」

「はい、締めの打ち上げがなかなかうまくいかなかったみたいで、随分ズレた変なタイミングの花火になっちゃって」

「ほほー」

 

 最高のタイミングだったことは伏せておく。

 

「でもとても素敵な式でしたよ。ハンターさんのおかげです。ハンターさんがラージャンから守ってくれたおかげです」

「そっか……」

 

 やっぱり素直に祝福はできないけど、傷つけること以外が出来たことが嬉しい。

 少しだけ進歩できた気がするのだ。

 

「……あーあ、キリンに協力したんだし、こう、恩返し的な感じで擬人化して自分と素敵な恋人になってくれないかなあ」

 

 なんだか気恥ずかしくなったので流れを変えようと別のことを発言。内容がアレな内容だとは自覚している。

 

「キリンにも選ぶ権利はあると思うんですよ」

「予想外な返しでしかもかなり辛辣……!」

 

 テキトーな発言をしたが、その返しはあんまりじゃないだろうか。

 

 そんなバカなやり取りの折りに、別の人物がやって来た。

 

「あ、ごめんなさい、お邪魔かな?」

「いや、全然」

「そう?」

「織り姫さんの登場ですね。彦星さんはどうしたんです?」

 

 この受付嬢、性格悪いな結構、と新たな一面を発見。

 織り姫と呼ばれた彼女はいじられていると思ったのか、恥ずかしそうにやめてよもう、と言ってるがその発言のいじり先は実は自分なのだ。

 

 しかしなんで来たのだろう。

 キラリと光る左手の薬指が地味にダメージを与えてくる。

 

「療養中って聞いたからお見舞いに来たんだけど、結構元気そうね?」

「おうともさ」

 

 元気なガッツポーズを座りながら見せつけた。

 その所作がおかしかったのか、少し笑ってくれた。しかし少しして表情を沈ませた。

 

「式の最中、大変だったんだってね……」

「あー……まあ依頼だったし、でもまあよくあることだから気にすることないよ」

 

 何やら気にやんでいる様子。

 思いつく理由は式のこと。

 参加してほしい、からのやっぱり参加しないで。という振り回しだろうか。変に気にしなくてもいいのに。

 

「それでも……」

「まあまあ。むしろラッキーだったから。なんと今度昇格の可能性ができたからね、おかげさまで」

 

 気にしないでもらえるように自分にもメリットがあったことをできるだけ嬉しそうに話す。あんなに頑張ったのに暗い顔をされるというのは微妙な気持ちになってしまうではないか。

 そんな気持ちが伝わったのか、彼女は落ち込んだ表情をやめて───

 

 

「守ってくれて、ありがとうね」

 

「……どういたしまして」

 

 

 茶化そうかと思ったがやめた。空気は読めるのです。それに、嬉しかった言葉だから。

 

 なんだか照れ臭くなり、そういえば、と思い出す。

 ずっと言ってなかった言葉があるのだ。そして今を逃せば、もう言うことができなくなってしまう言葉が。

 

 療養中の自分の身を案じてなのか、もう退出しようとする彼女を呼び止めた。

 

「どうしたの?」

「あー……えっと……」

 

 いざ口に出そうとすると、思いのほか抵抗感がある。別に無理して言わなくてもいいことではないか、という考えが頭によぎる。

 それと同時にあの七夕の星空が脳裏に浮かぶ。

 

 そうだ、あの夜に自分の役割がわかったのだ。

 織り姫と彦星の幸せのために尽力するのだと。天の川を塞き止めるのだと。

 

 ならその役割を果たせ。

 そのためにも言うのだ。

 

 

 

「……結婚、おめでとう。お幸せに」

 

 

「うん。ありがとう」

 

 

 

 言えた途端に身体が軽くなった気がした。スッキリした、とでも言うべきか。

 これでようやく、この人の幸せを素直に願える気がした。

 

 

 そして彼女は退出し、また受付嬢と二人になった。

 それまで静かにしてたが微妙にニヤニヤしながら口を開く。

 

「ちゃんと祝福できたじゃないですか」

「まあ、なあ……。あーあ、これで完全に失恋だなぁ」

「そのわりにはなんだか嬉しそうですね?」

「そりゃあ……ねえ?」

「まあなんとなくわかりますけど。最初は破局を願ってたのに……なんだか感慨深いですねぇ……」

 

 あれだけ幸せそうな顔を見せられたら嬉しく思うしかないよ。そしてしみじみ言わないでほしい。

 

「何目線なんだよそれは……」

「ふふー、まあいいじゃないですか。とりあえず戻ったら、ラージャンの狩猟お疲れ様会兼昇格チャンス祝賀会兼失恋慰め会に飲みます? あ、でも飲まないですよね……」

「その前にまず、絶対兼ねるにはおかしい組み合わせだと思わない?」

 

 お疲れ様会と祝賀会が一緒なのはわかるけど。というかまだチャンスであって昇格決まったわけじゃないけどそれは置いておいて。

 失恋慰め会と祝賀会は分けるべきだろう普通。

 

「……まあ訳のわからない会はともかく、今度一緒に飲みにいくか」

「え、行くんですか?」

「え、誘ったの君なのにその反応?」

「いや、てっきり『自分は飲まない。だってぇ昔ぃ』とか言ってごねるとばかり」

「今のは自分の真似か。自分の真似なのか。しゃくれさせた理由を問いただしたいんだけど」

「なんと……なく……?」

 

 何故疑問系。

 

「でも実際今までそうだったじゃないですか。あ、別に一緒に飲むのが嫌って訳じゃないですよ。そこは嬉しいんですが純粋に予想外で」

 

 確かに今までだったら断ってたなと思う。

 心変わりの理由を言うのは恥ずかしさがややあるが、疑問ももっともなので答えると

 

「飲んで酔ったら、傷つけることしかできないと思ってたけどさ。そうじゃなく、守れたんだなぁって、ラージャンとは違うんだなぁって思ったら大丈夫な気がしてさ」

「ラージャンと違う? なに当たり前のこと言ってるんですか? またポエム的な感じですか?」

「……わからない部分は流して。聞き直されると恥ずかしいから流して」

 

 ラージャンと同じと思った理由、いきさつを話すとまたからかわれる、確実に。というか今の内容ですら、もうからかわれそうである。

 

「なんだっていいだろー! 失恋を乗り越えるための自棄酒ってことにしよう!」

「実際それも大いに理由としてはありそうですね! とにかく失恋を乗り越えて新しい恋を探すんですね!」

 

 勢いで誤魔化せ作戦をとって、声を張り上げたら対抗するような張り上げっぷり。そして嬉しそうなのが解せぬ。

 

 新しい恋うんぬんはともかく、なんであれこの失恋を引きずることはもうないだろう。そして祝福の気持ちもなくならない。

 

 あの七夕の夜空が脳裏に残る限り。

 自分の役割を理解したあの夜空を覚えている限り。

 

「ま、あんなに印象的だったからずっと忘れられないなぁ」

「なんです。またポエミーな気分なんですか」

「うっさい」

 

 おセンチな考えはもうやめよう。

 その代わりに。やっぱり飲むの止めようかな、と思えてしまいそうなウザさを発揮する受付嬢をなんとかして酔い潰せないか、今から考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







……七夕要素少なくね?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。