「お前さんは、人狼って知っとるかい?
 ワシらみたいに吹雪で遭難した人々に交じって、夜になるとひとりずつ食っちまうって話だ。

 ……ハッハッハ! 冗談だ、実際はそんな怖い話じゃない。なんてったって人狼は、人間が大好きだって話だからな!」


◆◇◆◇◆


山の中にひっそりと存在する大きな館。そこには良く遭難者が訪れるらしい。
ある時は占い師。ある時は人に化けた妖狐。ある時は狂人。他にも多種多様な人や怪生がこの館には訪れる。

この物語は、館に仕えるメイド二人と、館に遭難してきた人や怪生との物語。

※注意
・この作品は人狼をベースにしていますが、人狼特有の推理などはありません。
・人狼と人間は一般には知られていないが和解している、という独自の設定の元構成されています。
・ゲイルやリリアンの扱いが少々悪いです。苦手だ、という方は申し訳ありません……。
以上のことを踏まえてお読みいただければ幸いです。

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◇は時間の経過
◆は視点の変更


一日目

 メイドとは、ご主人様を第一に考え行動し、あらゆる面で奉仕する存在である。

 つまりメイドはたった一人では成り立たず、仕える主人がいなければメイドたり得ないのだ。……では、主人のいない館に住んでいる私や姉がメイドではないかと言われると、それも否である。

 何故なら、私も姉も特定の人物に仕えている訳ではなく()()()()()()()()()()仕えているのだから。

 

 このお屋敷には色々な人間が来る。6人来る時もあれば、多い時は20人来る時もある。まあ、大体9人程だけれど。

 信じられないだろうか? まあ、そうだと思う。そんなメイド、他に居るわけがないし。だから今日はその一例をお見せしようと思う。個性的で、賑やかな遭難者(ご主人様)のお話を。

 

 

「もうっ、こんな時に遭難しちゃうなんてツイてないわねぇ……」

「仕方ないさ、こんな山奥なんだし。でも僕たちは幸運だったと思うよ? 遭難した先にこんな立派な屋敷があったんだからね」

「そうですよ、リリアンさん。それに遭難しなければ野宿だったんですよ? それを考えれば遭難してよかったと言っても過言じゃないと思います」

「それは流石に言いすぎかと思うが、しかしここは一体何なのだろうな。少し見ただけでも掃除が行き届いていることが分かるし、何よりメイドが二人も居る。かと思えば私達以外に人はいない」

「ソ、そうですネ。デモ、この山にこんナお屋敷があるなんて聞いたことがなイ……」

「まま、良いじゃありませんか。命が助かっただけでも儲けもの。ここで雪が止むまで泊めてくれるというのだし、さらに言えば温かい食事も出してくれるというではありませんか。あまり深く考えても意味がありませんよ?」

「そうね、少し気になる部分はあるけれど、山の中に別荘を持つ貴族なんていくらでも居るのだし。気にするだけ無駄だわ」

 

 眼の前で私達が作った料理を食べながら行われる会話を壁に控えながら黙々と聞く。

 今日のご主人様方は中々に個性的だ。

 一人目は紫色の髪をした明らかに男性なのに女性の話し方をする女性(男性)。名前はリリアンというらしいが、それが本名なのかは定かではない。

 取り敢えず一番個性的だということは確実だ。

 

 二人目は如何にもお金を持っていそうな、例えるなら貴族の御子孫様といった感じの青年。その割には威張り散らしてもいなくて、親しみやすそうな雰囲気をしている。

 名前はロディ。個性の強い中で比較的まともな人の一人だ。

 

 三人目は純朴そうな女性。名前はエマというらしい。こんな雪の日に肩出しの薄い服で大丈夫なのだろうかと心配になってしまう。とは言え、このご時世に身なりのいい服を来ているということはそれなりに良い身分の方なのだろう。

 ……純朴そうな顔に反して、中々に肝が座っているというか。もしこのお屋敷に遭難しなければどうやって夜を迎えたのだろう。非常に気になる。聞かないけど。

 

 四人目はシルクハットをして如何にも貴族といった身なりの男性。例えるなら……貴族というよりも、マジシャンを連想すれば分かりやすいと思う。パリッとしたスーツにシルクハットで如何にもという感じだ。

 理知的な顔の通り落ち着きがあって、まともな人の一人だろう。と思いたい。ちなみに、この人の名前はクリスらしい。

 

 五人目は…………化物だろうか? 薄緑色の肌に少し尖った耳、ギョロッとした目は魚を連想させる。笑った時に見える歯は鋭利に尖っていて、失礼だけれど何処からどう見ても人間には見えない。

 悲鳴を上げなかったことを姉と一緒に安堵したほどだ。……これで人間なのだから、頭が痛い。

 もしも仮にこの中で処刑される人が居るとしたら、真っ先にこの人には見えない生物(深きもの)が選ばれるというのは想像に難くない。というか私ならこれを真っ先に選ぶ。目に毒だし。

 一応これにも名前はあるようで、ゲイルと名乗っていた。……パッと見化物が化けることもせず人間のふりをしているみたいで変な感覚に陥ってしまう。

 

 六人目はモノクルを付けたおヒゲの立派な妙齢の男性。名前はジェイ。例にもれずこの人も貴族っぽい身なりをしている。

 口角がしっかりと上がった笑顔は実に印象的で、見た人に親しみを感じさせる笑顔だ。

 

 最後の七人目はキリッとした顔と目が理知深さと少しの威圧感を感じさせる女性。名前はスーザン。遭難者(ご主人様方)の中でこの時期に一番適した格好をしている唯一の人だ。

 多分この人が一番マトモだと思う。お化粧も濃くなく控えめだし、同じ女性として少し憧れてしまいそうな格好良さというものもある。

 

 さて、遭難者(ご主人様)の簡単な紹介も終わったことだし、次に私達の事を紹介しようと思う。私達、と言っても姉と私の二人しかいないけれど。

 姉の名前はジェシカ、愛称はジェシー。ふんわりとした笑顔が特徴で、誰にでも優しく思いやれる性格だ。それでいて間違っていることは頑として聞かないのだから、妹として非常に誇らしく思える。

 ちなみに人狼だ。人なんて一度も食べたことはないけれど。逆にこのお屋敷に来る人間を助けて奉仕しているのだから崇め奉られてもいい存在だと思う。

 

 そして私の名前はサンドラ。姉にはドラ、あるいはドーラとか呼ばれている。仏頂面、無口、無愛想と三拍子そろったメイドとして風上にも置けない存在だ。自分で言うのもなんだけど。

 ちなみに妖狐である。姉とは種族が違う理由は分かっていないけれど、昔居た親には隔世遺伝とか、先祖返りだとか無駄に小難しい言葉を使って説明された気がする。全く覚えていないけれど。

 

 年齢はお互い十六歳で、まだ成人はしていない。言うなれば、子狼と子狐だろうか。種族的に姉は力仕事が非常に得意で、私は頭を使ったり占いとかそういう不思議系の物が得意分野。それぞれ得意分野が違うから、効率よく分担出来るために二人でこの大きなお屋敷を管理出来ていると言っても過言ではない。

 逆に言えば普通の人間ではない私達でないと管理しきれないこのお屋敷を、たった一人で管理していた母は頭がオカシイどころではないという話になってしまうけれど。

 

 と、まあ。これでお屋敷に居る全員の紹介は終わっただろうか? では早速始めようと思う。このお屋敷に訪れる人間たちで行う、私達の人狼ゲーム(平和なお話)を。

 

 

「いやぁ、こんな美味しい食事を食べられるとは思わなかった。外にある下手な高級店より断然美味しかったよ」

「お褒めに預かり恐悦至極にございます」

 

 準備した食事を食べ終わったロディと言うらし青年(ご主人様)の言葉に腰を三十度曲げて礼をする。勿論笑顔も忘れない……ように心掛けては居るけれど、出てくるのは薄笑いなのは許して欲しい。笑顔担当は姉なのだ、決して私ではない。私は黙々と静かに作業をするマネキンのようなメイドなのだ。故に話しかけないで欲しいのだけど。メイドだからそんなこと言えないけれど。

 ちなみにその笑顔担当の姉はリリアンに執拗に絡まれている。例えば今も――――

 

「あらぁ、可愛いわねぇ貴女。食べちゃいたいわぁ。うふんっ」

「あ、有難うございますリリアン様。しかしながらお食事は先程済ませられた筈ですが……」

「あらあらぁ、初なのね。良いわ、良いわよぉ、すっごく好み! 今夜にでも食べ……いえ、うん。なんでもないわぁ」

 

 ――――という感じに絡まれている。

 密かにおい貴様両刀か。ふざけんな私のお姉さまは渡さねぇぞクソ野郎と思いながら睨みつけてしまったのも許して欲しい。たまに、本当にたまにこういう性的な意味で奉仕させようとか不潔で不埒で非常に不愉快な存在がこの世に存在しているから侮れない。私達はメイドだが、そういう存在ではないのだ。そこを弁えろよクソ野郎。……こほん。

 しかしまあ直前で止めてくれたから今回は許してあげようじゃないか。私は寛大なのだ、少しの粗相は許してあげる。そうでなければメイドなど務まらない。

 姉に手を出したら捻り潰して呪ってやるが。……どこを、とは言わないけれど。

 

「当屋敷では、遭難した方々に部屋を開放しておりますので、なんなりとお申し付け下さい。

 ただしそこのリリアン様(オカマ野郎)。もしお姉さまに手を出したりなどしたら……えぇ、その時はご覚悟下さい。ここは山奥で殆ど誰も来ない場所であり、証拠隠滅なども容易であるということを良く、良く理解し行動して頂ければと思います」

「アッハイ」

「それでは、皆様の寝床の用意をしてまいりますので、ごゆるりとお寛ぎ下さい」

 

 さて、これで誰も姉に手を出すことはしないだろう。まあ、たとえ襲われても姉の力なら成人男性でも容易くあしらえるだろうけど、念の為。もしかしたらこの中に大人の人狼が交じっているかもしれないのだし要注意だ。

 

 ……あぁ、そうそう。別に人狼と言っても誰彼構わず襲うような輩はこの世に存在しない。昔それで一族を絶滅に追いやられたから、比較的友好な人狼しかもう残っていないのだ。

 逆に国から絶滅危惧種として扱われている部分もある。勿論一般人には知られていないから秘密裏に、だけど。つまり人狼と人間はとっくに和解していて、お互い助け合いながら生存しているというわけだ。

 たまに人を襲う飢餓状態の人狼が居るけれど、そういうのは頭をぶち抜かれて即座に殺されるから一安心。

 

 なんて考えながら歩くこと数分、私達は本日の遭難者(ご主人様)が寝泊まりするであろう部屋のうちの一つにたどり着いた。

 

「もう、ドーラ? ご主人様にあんな口の聞き方したらダメじゃない」

「あのオカマはご主人様じゃない、あの中で唯一の私の敵。つまり敬う必要もないし罵っても問題ない。FA(ファイナルアンサー)

「そういうわけにはいかないでしょ。どんなに生理的嫌悪感があっても遭難者であり、一時的な主人であることに変わりはないんだから。ワガママ言わないの」

「これはワガママではなく、私怨によって齎されたものでもなく、客観的事実に基づいた発言であり――――」

「それがワガママなのよ、まったく。……気持ちはありがたいけどね」

 

 ……ぐぅの音も出ない。一応、私のほうが知能指数は高いはずなのに、どういう訳か姉には口で勝てないから困る。やはり人を騙して生きてきた人狼という種族には口八丁での長があるのだろうか。でもそんな所がかっこいいと思います。

 しかしやっぱり私にとってあのオカマは敵だ。姉になんと言われようともこの認識が変わることなど一切ない。

 というか、だ。オカマはオカマらしく男漁りをしていれば良いものを、なぜこんなにも愛くるしく優しく可愛いお姉さまに食指を働かせたのか。いや、まあ? 分からなくはない。オカマと言えど所詮男であり、可愛い少女に手を出したい気持ちが無きにしもあらずだというのは想像に難くはない。なにせ妹の私ですらたまに食べたく――――ごほん。ちょっと味見したくなるのだから。そういう面ではいい目を持っていると言っておこう。

 

 ……いや待て、そう考えると警戒すべきはあのオカマだけではなく、この屋敷に迷い込んできた全員ではないだろうか? 特にあの魚の化物みたいな緑色の名付し難き何か(ゲイル)など要注意対象ではないか。あぁ、うん。そうだ、今日は窯の火を密かに焚いておくとしよう。魚に火は常識だよね、食べないけど。

 

「……何を考えてるのか、あえて言及はしないけど……仕事、ちゃんとしましょうね?」

「……ごめんなさい……」

 

 クソ、外敵の排除に思考を割きすぎて姉に怒られてしまったではないか。笑顔が怖い。許すまじインベーダー(侵略者)め。

 

 さて、それはそれとしてお仕事はしっかりしよう。また怒られてしまったら……泣きはしないけど、目から汗が出るまで怒られる可能性がある。怒ると怖いのだ、私の姉は。

 取り敢えず姉は少なからずある埃などを丁寧に掃除しているので、私は目の前にあるベッドを整える。

 あまり使われていないそれはしかし洗濯だけはしっかりしているので新品同様に綺麗なままだ。羽毛に含まれるお日様の香りは心地が良いだろう。それをしわが出来ないように丁寧に伸ばしていく。勿論、髪の毛などが付かないよう細心の注意は払っている。最早癖の域だ。

 五分ほどで一部屋終わらせればその隣の部屋。そこも同様に綺麗にしていき、全員分終わったのは四十分程だ。どうだ早かろう。私は仕事は出来るメイドなのだ。無愛想だけど。まあそこは個性として許容して欲しい。笑顔担当は姉なのだから、うん。

 

 

 深夜、誰もが寝静まった時間。私と姉はそんな時間でも眠ることなく、翌朝の朝食の下準備をしていた。

 と言っても、材料に限りがあるのでそこまで豪勢なものを用意しているわけではない。しかし人数が多いので、それなりに下準備をしておかないと朝間に合わないと考えてだ。

 何を作るのかは明日の朝を楽しみにしてもらえると嬉しい。……あまり期待されると胃がキリキリと痛むから困るけど。

 

 そう言えば、どうしてこのお屋敷には良く遭難者が来るのだろうか? リリアンにも言った通りここは山奥の、それこそ人がほとんど足を踏み入れることのない場所に建っている。

 なのに二月に一度は遭難者が訪れるのだからおかしいと思う。誰かがそういう誘導をしているとしか思えない。まあ、それで外の世界の話とか聞けるし、何よりメイドとして仮とは言え主人に奉仕するのは楽しい部分もあるのでイヤじゃないけれど。

 

 そんな事をつらつらと考えているうちに明日の朝食の下準備が完了した。後は、私と姉が寝るだけだ。

 ちなみに私と姉は一緒の部屋で寝ている。ベッドも同じだ。だから食べたい衝動を抑えるのに毎夜必死になるのは困りものだ。姉はそんなこと知らずぐっすり眠るのだから尚の事。人の気も知らないで、全く。いやまあ知られていたら困るのだけど。

 さて、じゃあ眠るとしよう。……自分の理性が続いている間に。

 

 

 身内贔屓かもしれないが、私の妹は非常に可愛い。普段無表情なのに、私と二人だけの時に見せる笑顔には思わず萌死してしまいそうになるほどだ。そのくらい可愛い。

 なにより私を第一に考えて行動してくれるいじらしさが、どうしてもこう……庇護欲をくすぐって来るのだ。

 今日また来た遭難者に対しての対応もそう。メイドとしてダメダメだけれど、個人的に好ましく思えてしまうのだから姉妹揃ってダメダメだと思う。

 でも仕方ないよね、ドラが可愛いのがいけないんだもの。

 だからそう、ドラが寝た後に少しだけ頭をなでたりイタズラしたりするのは仕方が無いのだ。ドラには気付かれていないとは思うけど……正直、色々な意味で食べていない私の自制心を褒めて欲しい。

 

 少し考えれば分かると思うけれど、人狼の私は夜が一番活動的で目が冴えるのだ。しかし私に盲目的すぎるからか、その事を全く考えていないドラには呆れるとともにそういう抜けてる所が可愛いと思う。

 ……いや、勘違いしてほしくないのは、私は妹が全面的に好きなシスコンなのであって、女の子が好きなレズビアンではないということだ。というか、妹さえ入れば他に何もいらないと言っても過言ではない。

 そういう意味では、このお屋敷に訪れる人間は私にとって邪魔者と言っても良いかもしれない。メイドとしてそんなこと、口が裂けても言えないけれど……お母さんとの約束もあるわけだし。

 

 まあ、そんな訳で。私は妹が大好きだということだ。

 だからこそ……あのロディとか言う男。アレは要警戒して置かなければならない。顔も愛想もよく、そして視線に邪なものを感じなかったからこそドラがもし、万が一、いや億が一にも好いてしまったりなどしたら――――あぁ、ダメだ。想像するだけでちょっと捻りたくなる。

 これは密かに行動を監視しなければいけない。仕事が多いから四六時中というわけにはいかないけれど……取り敢えず、何が何でもドラとアレを二人きりになどさせないよう最新の注意を払わなければ。

 ……スーザン様やエマ様に話をすれば、ご協力頂けるだろうか? スーザン様はともかくとしてもエマ様は十中八九協力してくれるに違いない。

 一発でうなずかなくとも、あぁいう人間は押しに弱いものだ。押して押して押しまくっていけば自ずとうなずいてくれるはず。

 

 ならばスーザン様をどう説得するか、だが……むぅ。良い案が思い浮かばない。でもしかたないか、まだ顔を合わせて半日も時間はたってないのだし。

 リリアン様? あの人は多分、雑食だと思うから話をするのが逆に怖い。口先だけで心から私を食べようなどという不快極まりない言葉を言っているわけではないというのは目を見れば分かるけれど、しかしそういう言葉を発している時点で私の中では要警戒対象内に入っているのだ。

 ……ジェイ様やクリス様にゲイル? 約一名を除き男というものはあまり信じられる存在ではないから却下だ。と言うか私のサンドラに近付かなければどうでもいい。……今から人狼化して脅しにでも……嫌でもそれはリスクが……しかしサンドラの……。

 

 ……取り敢えず、今日はもう寝よう。明日も早いのだし、慕ってくれてるドラに寝坊助と思われることだけは避けなければ……。


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