ミ゚ツ(久しぶりに確認したBLEACHの裏設定の多さに脳を潰される作者の断末魔)
オリ技、オリ設定警報発令中
石を投げないで…石を投げないで
「………む?」
静寂の中、第3十刃ティア・ハリベルの意識は浮上した。
そして直ぐに異変に気付く。
先程まで追加で現れた死神の仲間たち、死神なのに虚の仮面を有する
これがなかなか手強く、帰刃状態のハリベルと遜色無い立ち回りをするものだから状況は拮抗し、ボスである藍染にも見せたことの無い
そして気づけばこの場所に。
ここは上も下もない、真っ白でどこまでも続く空間にハリベルはいる。
先程まで相対していた敵の姿はない。
もしや敵の術中に陥ったのかとも勘繰るが頭の中に響く声がそれを否定する。
『意識が戻ったかい、ハリベル』
「あい…ぜん……さま?」
ひどく呂律の回らない舌で呼ぶのは自分達を創り出し、破面を死神との戦いへと導いた御大将、藍染惣右介の名。
『すまないね、多少強引になってしまった。
今、私の斬魄刀の力と縛道を掛け合わせ君たちの五感と
「わたし、たち…?
ということは…スターク、も…」
『彼等はまだ眠っているが、支障は無いだろう』
その言葉を聞いて少し安心する。
同僚の安否を想うなど破面に相応しくない感情だ。だが自分に付き従う従属官しかり友であるジェーンしかり、既存の破面とは全く異なった精神性を持つ者たちに囲まれているハリベルにとって「相応しい」か「相応しくない」かなど今となっては些細な問題。
ハリベルは優しいねえ
小競り合いに近い言い争いを毎回繰り広げるアパッチ、スンスン、ミラ・ローズを
破面に変質する以前から付き合いのある者たちだ。
仲間の安否の心配、そう思うのは
『君も確りとジェーンの影響を受けているようだ。
…ハリベル、最後の命令だ』
微笑ましい、ともとれる声音でそう語り掛けてくる藍染の出した「最後の命令」という単語に身が引き締まる。
彼の説明を聞く限り先程まで自分達が戦っていた偽の空座町は帰刃したジェーンの影響でもはや戦場としての機能を失いつつあるらしい。
具体的な内容は藍染の口から語られることは無かったが、ジェーンが帰刃したという事実から察するにここから始まるのは先ず間違いなく死神たちへの蹂躙劇だ。
といっても現段階で彼女はまだ
『これから君とスターク、そしてまだ息のある君の従属官とともに黒腔へ放り込み強制送還させる。
そして我々は今後虚圏に干渉する事は無いだろう。
計画は最終段階へと移行した、
後は君達の好きにするといい。
帰還後は流れで頼むよ、ジェーンが色々と手配しているそうだからね』
くつくつと笑いながら語る藍染は表情こそ分からないもののこの上なく上機嫌であろうことが伺えた。
これ程機嫌のいい藍染の声をハリベルは聞いた事がないほどに。
『君達は無事役目を果たした。
当初の予想を完全に裏切る形で完璧に、滞りなく、最後まで、だ。
これはその報酬だよ。
ジェーンへ貸しを作っておく意味合いも強いかな。
……ああ、向こうで正気に戻った彼女が帰ってきたら伝えてくれるかい?』
披露宴には是非私も呼んでくれ、とね。
ハリベルは思う。
だが少し考えてそれを否定した。
満足気な藍染の声音と現在の状況を鑑みるに、彼は必要でないにも関わらずわざわざ使い捨てる筈の自分たちを助けたのだ。
藍染惣右介という男がどういう死神なのか、破面の中では付き合いが長い方のハリベルだが未だに彼の心情を測りかねている。
話しぶりを聞くにもしかしたら戦闘中不要と判断されて後ろからバッサリ斬り捨てられたりしたのかもしれない、恐ろしい限りだが今回に限ってはそのような事にはならないだろう。
…ともすれば別の未来で腹を一文字に刻まれ利き腕を断たれた存在しない記憶が一瞬脳裏を過ぎったが、考えても仕方がない。
ジェーンが散々「胡散臭い」と言っていた理由が少しだけ理解できた。
『胡散臭くは、ないよ?』
(こ、心を読まれた…!?)
藍染はまたくつくつと笑う。
それから徐々に彼の声が遠くなり急に身体が引っ張られるような感覚に陥るハリベル、どうやら宣言通り藍染が黒腔で自分達を強制送還させるらしい。
「ッ!?」
藍染の斬魄刀の効力らしき力の糸が切れ、黒腔が閉じ意識が覚醒する瞬間、凄まじい怖気がハリベルに襲い掛かる。
知った霊圧なのは間違いない、だが明らかに質が異なる始祖の霊力。
咄嗟に彼女は自身の五体が無事か確認を求めた。
あの一瞬で吐き出された膨大な狂気と
脳が理解を拒む程の悪寒と嫌悪感、それのみがじくじくと魂魄を内側から蝕むように浴びせられた。
あんなものを浴び続ければどんな強靭な魂魄も数分ともたない。
気付けば汗は胸元までべっとりと滴っており手は震え、
「此処は…ジェーンの宮か」
ふと冷静になって見回してみれば見知った内装と装飾の施された室内、いつも彼女がピカロ達と遊んでいる〝キッズルーム〟と呼ばれる場所だ。
「よう、気が付いたか」
少し離れた所に帰刃を解除済みのスタークが壁にもたれかかり、気だるそうに腰を据えている。
隣には大の字になって鼻ちょうちんを作りながら緊張感のないいびきをかくリリネットの姿もあった。
「スタークか、貴様は先に目覚めたのだな」
「お前さんの従属官は向こう、先にロカちゃんに連れていかれたよ。
3人とも奥の手を使ってだいぶ弱ってるそうだがあの娘の腕なら命に別状はないんだと」
その言葉にまた、安堵する。
3人の片腕を犠牲に呼び出すアヨンは強力だが消費も大きい、先に治療を受けられてよかった。
「オ」
声に振り向いた先、眼前にドアップで寄ってこられたアヨンの顔に一瞬ハリベルの表情筋が引き攣った。
「お前、ジェーンが相手していた総隊長とやらに焼き斬られたのではなかったのか」
「何かの拍子に一緒に放り込まれたんだろ、焼け残った破片をロカちゃんがさっさと復元させちまったよ」
「そ、そうか。
とにかく無事でなによりだ」
「オ」
心做しかこちらを心配しているような仕草をとるアヨン。
ハート型で表情の読めない顔に愛嬌などなく、むしろ不気味まであるのだがこれでも従属官が「ペット」だと豪語する程度には気に入られているのだ、ここは素直に心遣いを受け取っておこう。
「で、お前はこの状況どう見る?
こちとら何の事前説明もなく戦闘中断させられて
「ああ、お前には伝えられていなかったな。
実は…」
そこでハリベルは藍染より聞いた事の顛末を説明した。
ジェーンの帰刃によってあの戦いは最早体をなさず、余波によって大事になる前に生き残った破面共々こちら側へ送り返されたこと。
その後は自由行動とし、自分たち死神はもう虚圏に干渉する事はないということ。
一通りの説明を受け、壁に背を預けたままスタークは気だるそうに溜め息を吐いた。
「マジかよ…ジェーンの嬢ちゃんがねえ。
藍染サマも人がわりいな、嬢ちゃん同様アンタにも多少の恩義はあったんだぜ?」
駒として最後まで使い潰される事が分かっていてもなお命令に従うのもまた、拾われたスタークなりの恩返しの方法だった。
だがその主はもういない、ジェーンと一緒に向こうへ残り、計画の最終段階へと至るのだろう。
「帰ってきたものは仕方がない。
黒腔は依然として閉じられたままだ、制御権もジェーンか藍染様が握っている。
此方に着いたら『後は流れで』だそうだがお前はどうする?」
「俺達がアッチに行く前に虚圏に侵入した死神達はまだ居るんだろ?
そいつらの相手でも…いやダルいか。
留守番組が相手してるだろうし、このままサボってようぜ」
ごろんと寝転がって昼寝の体勢に入るスターク。
相変わらずの怠惰っぷりに思わず顔を顰めるハリベルだが、先の戦いで自分もそれなりに消耗しているのも事実。
留守番組には悪いが此処でゆっくりと英気を養わせて貰おうか。
「オ」
アヨンもそう思います、とばかりにしきりに頷くペットを眺めながら、ジェーンの私室から娯楽用の漫画でも借りてくるか、と思案するのだった。
目の前に広がるのは 死だ
肉が舞い 臓物が弾け さながら花火のよう
見知った同僚の顔が 尊敬する隊長が
昨日まで同じ釜の飯を食っていた隊士達が
弾け飛ぶ 肉が裂ける 骨だけの骸と化す
ばらばらに ばらばらに 念入りに ばらばらに
隣で4つに裂かれ ばりばりと頭から喰われる隊長
その巨大な触腕に逡巡もなくねじ切られ 苦痛に顔を歪ませる時間もなく半分に折りたたまれたまま口に放り込まれる副隊長
光のなくなった瞳でうわ言を呟きながら よたよたと自ら進んで餌となりに行く狂気に呑まれた席官たち
目の前に広がるのはもはや戦いではなく 『食事』
凝視するのもおぞましい 目の前の〝ナニカ〟がおこなう地獄の食卓だった
べしゃ と 割れたコンクリに叩きつけられたのは誰だったか
赤と黒の肉の塊 原形も留めないほど潰され辛うじて残った死縛装と真っ赤になった隊長羽織だけが目に留まる
脳が理解を拒む
何故 こんな所にいなくてはいけないのか
護廷の矜持などかなぐり捨てて 防衛戦になど参加しなければ良かったのに
誰かのせいにして 逃げ出せば良かったのに
けれど今更助けを求めど返事は返らず 地獄の只中にひとり取り残されていた
足下に転がる同僚だったもの 宙を舞う上司の首 ぐちゃぐちゃと音を立て咀嚼される隊士たち
〝ナニカ〟は食事を続けている 俺/私は身体が動かない
叩いて 折って 捻って 磨り潰して 引きちぎって
ありとあらゆる原初の暴力を以て魂魄を喰らい 痛めつける〝ナニカ〟から目が離せない
震えるばかりの喉は息を吸うのも絶え絶えで 声を発する余裕などとうに失っていた
弛緩した身体からあらゆる体液が流れ出て装束を濡らすのもお構い無しに俺/私はただただ赦しを乞うていた
ふと 〝ナニカ〟と目が合った
名状しがたい表皮の奥に広がる星々の彼方 一際光る赫いふたつ星が此方を見据えている
俺/私は反応できない
ずるずると巨体を引き摺って ゆっくりと〝ナニカ〟が近付いてくる
その手には関節があらぬ方向に曲がったまま瓢箪のようなくびれになるまで潰された死神だったものの残骸
おもちゃのように振り回されて所々が欠損した 死縛装のようなものが辛うじて見えるだけの死神であったモノ
歩法も 白打も 斬魄刀すら振るう努力を諦めて俺/私はただただ
夢なら覚めてくれ
ずるずる ずるずる ずるずる
タチの悪い悪夢であってくれ
ずるずる ずるずる ずるずる
さめて はやく は や く は や く
ずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるず
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけ
しっこく の ほし が すぐそこ に
「痛ッづああああああああああああッッッ!?!?」
鋭い痛みが膝辺りから全身に駆け抜けて強制的に視界が開かれる。
汗が酷い、ずっと忘れていた息を思いっ切り吸った。
こんな感覚、もう何百年も味わってない。
いったい、今まで僕ぁ何を見ていた?
次々と死んでいく隊士達、惨たらしい殺しの惨状はいやにリアリティのある白昼夢みたいだった。
「目は覚めたか、京楽」
「……起こしてくれてありがとね」
「声を掛けても全く起きなかったんだ、許してくれ」
視線を下ろせば十四郎の斬魄刀の鋒が致命傷にならない程度に僕の膝を貫いていた。
緊急事態だ、意識がトんでたんじゃしかたない。
文句は無いよ、じゃなきゃあのまま発狂死してた。
できればもっと優しく起こして欲しかったケド…
戦場のど真ん中で気を失うなんて自殺行為をしてしまった己を恥じるけど、今回ばかりは山じいもお説教は勘弁して欲しい。
なにせ相手はアレだもの。
〝帰刃〟だったっけ。
破面の斬魄刀、虚本来の力を押し固めた代物を解放する解号を彼女が唱えた途端、結界の中全ての魂魄が〝死んだ〟錯覚を覚えた。
「浮竹も、
「ああ、思わず生を手放す程の狂気が見せた幻覚だ。
あれを見ておかしくならない方が難しい」
眼下に広がるのは巨大な穴、そこは見えないほど深く真っ暗でその真上に彼女が浮いている。
「どうして浮竹はあの殺気の中無事だったのかって、聞くのは野暮かい?」
「昔から病弱だったからな、急な動悸、息切れは慣れっこなんだ」
それは…ウン、自虐ネタとして受け取っておいて良いのかな?
「それに彼女を見ていると、
どうしてだろうな…」
そうまっすぐ見下ろす親友の見たことの無い表情。
二の句を継げようとした時、不意に地面が揺れた。
霊子の足場で浮いている僕達でも分かるほど大きな揺れとともに黒腔を突き破り、下から飛び出したのは巨大な骨でできた龍。
それも2本、天を衝くほどに長く、大きな龍が動く度がらごろと擦り合わせる骨の音がここまで聞こえてくる。
そしてソレは現れた。
龍の首を支えに、浮上するように地面を突き破りながらずるりと巨体が顔を出す。
山じいが始祖と呼ぶ虚、見た目だけなら活発なべっぴんさんなあの娘の真下から浮上する超巨大な骨の要塞が。
鋼皮らしい皮膚部分は漆黒、虚空の奥に所々星が煌めいて、まるで宇宙がそのまま形を持ったような出で立ち。
顔面らしい場所には暗く輝く赫い眼のような星がふたつ、獲物を探して蠢いているように見える。
そのシルエットは骨の帽子を被った巨大な
これが山じいの因縁の相手。
始祖の骸、奈落の妖星。
何処までも黒く、吸い込まれそうになる表皮は見ているだけで正気がガリガリと音を立てて削られるようだ、気を抜いたら一瞬で魂魄ごと呑み込まれてしまう。比喩じゃないよ。
同時に「勝てない」って本能で察したよ。
これでも山じい直々に稽古を付けてもらえるくらいには才能もあって、護廷十三隊で隊長を任されるくらいには実力もあるつもりだったけど、そんな薄っぺらい自信が一瞬で吹き飛ぶくらいの衝撃だ。
アレは霊圧が云々とか、死神か虚かだとか、そんなちゃちな話じゃない。
魂魄の〝格〟が違う。
僕たちとは決して相容れない圧倒的な溝が、あいつの前にはある。
霊圧が全く感じ取れないのはそれも起因しているのかな、なのにこの圧力は…純粋な殺気と悪寒のみでここまで死神を萎縮させられるものなのか。
気分屋で気配に敏感な
身動ぎひとつで空間が悲鳴をあげる、二頭の龍が器用にきょろきょろと辺りを見回すような仕草をとり、まもなくその矛先は尸魂界最強の死神へと向いていた。
その時僕ぁ、本気で心の底から安堵したんだ。
自分が狙われていないことに。
無力な子供みたい、最悪な気分だよ。
「…浮竹、僕らどうしたらいいと思う?」
さっきまで戦ってたハズの破面はもういない。
僕が気を失ってる間に撤退したのか、隠れて奇襲の機を伺っているのかは分からないが霊圧は完全に消えている。
それより他の隊士達は、みんなあの娘の余波を受けて死に体になってる事だろう。
みんなこの戦いに耐えられるであろう実力を持つ席官以上が揃っている筈だけど、こればっかりはどうしようもない。
…大前田君とか、目も当てられなくなってそう。
「元柳斎先生の救援に向かいたい所だが…」
それより何より、山じいだ。
尸魂界最古にして最強の死神、護廷十三隊総隊長、僕らの師匠。
負けるイメージなんて微塵もない、だが今回は相手が埒外の化け物だ。
かといって救援、なんて余裕もないしどうしたものかな。
「それは無粋というものだ、京楽春水、浮竹十四郎」
不意に掛かる声に二人は瞬時に臨戦態勢へと移行した。
振り向けばそこにいるのは見知った大罪人、護廷の裏切り者である藍染惣右介。
「…ッ」
「やあ、藍染君」
警戒を隠さない浮竹に対し京楽は態度こそいつも通りだが、己が全く気付かぬ速度で接近してきた事実に冷や汗が首筋を伝うのを感じる。
「わざわざお喋りしに来てくれたのかい?
随分余裕なんだねえ」
「こちらは手持ち無沙汰になってしまったからね。
折角なら一番眺めの良い場所で観戦したいだろう?」
飄々と言ってのける藍染の視線の先には先程まで戦っていた仮面の軍勢所属の平子真子が蹲っている。
今すぐにでも刃を向けるべきだと京楽は理解しているが、生憎と他の隊士達及び仮面の軍勢も、藍染側に属するはずの市丸ギンですら始祖の瘴気を浴びて気をやってしまっていた。
ましてや正面切っての戦闘は京楽や浮竹の得意とするところではない、頭数を揃えなければ巨悪に立ち向かう事は難しいと悟る。
「…藍染、尋ねてもいいか?」
口火を切ったのは浮竹だった。
藍染はちらりと彼を一瞬見やり、無言で肯定の意を示す。
「彼女は…始祖の骸とは何だ?
ただ霊圧が高いだけの虚なら〝ああ〟はならない。
破面としては死神の理からも虚の理からも外れ過ぎている、崩玉はそれほどまでに魂魄を改竄する力を有していたのか?」
「…崩玉によって、という表現は正しくないな。
彼女は元より理の埒外に存在する者。
理に囚われるのではなく、理を創り、征する者だ」
「理を…征する……」
「
「ッ!!藍染それは」
そんな問答も中断せざるを得なくなった。
ゆっくりと閉じられていた始祖の瞼が開かれる。
陶磁器のようにシミのない色白の肌、輝く純白の髪に栄える至極色の両眼が世界を見渡した。
先程までの殺気の嵐が嘘のように静かに凪ぎ、偽物の空座町に不気味なほどの静けさが舞い戻る。
視線は流れ、殺気を浴びて地を這う死神を、仮面の軍勢を興味なさげに一瞥した後藍染達へと向いた。
ふと、目と目が合うその瞬間。
「…じゃま」
始祖が呟いた直後、彼女を中心に力場が生じ空間が大きく揺れる。
途端、空座町のあちこちでバチバチと何かが弾ける音がこだまして爆発音と共に小さな塊が落下してくる。
ジトッとした目で睨まれたのは藍染だ。
自分に向いてもいないのに京楽と浮竹の背に恐ろしく冷たいものが走った。
怒る、とは言わなくとも咎める様な視線。
あ、京楽だけは違った。よくお付の副隊長からこんな視線を受けているからか。
まあ今の彼女の場合それだけで並の魂魄は蒸発するのだが…
「藍染く〜ん?
盗撮とか正気を疑うんですけど」
「酷い誤解だね。
文句なら十二番隊隊長に言ってやりなよ」
「言い訳は聞きませーん、死神なら連帯責任でーす。
帰刃するまで気付かなかったよ」
「………」
含みのある笑顔で藍染はお茶を濁す。
どうやら始祖は監視の目がお気に召さなかったらしい。
この結界の作成総監督である涅マユリが各々の戦闘データを得るため仕掛けた発信機や盗聴、盗撮機器とついでに別の何者かがこの戦いを記録する為に仕掛けたものまで纏めて塵と化した。
今回に関しては藍染惣右介、全くのシロである。でも虚圏ではやるんですよね。
「ん、2回目だけどやっぱ勝手に髪降りちゃうのなんとかならないかな。せっかくお手入れしてたのに。
服も袖と裾の先ちょっと破れてるし、なんなのさコレ。お洒落のつもりなの?ダメージファッションなの?
リアルイカ娘に戻るよりマシだけどさあ…
私の趣味じゃないんだよね」
しげしげと帰刃した自身の姿を観察し、辛辣なご感想を述べるマイペースな始祖の骸。
「…あ、でもこの姿だとおっぱい大きくなってる?
なら赦すか」
その姿は先程までとは異なって、ポニーテールは解けベージュに近かった髪色は溶けるような純白に変わっており、乱雑に腰元まで伸びている。
服装も破面の死縛装ではなく、いつの間にか霊子でできた丈の長い白亜のドレスに近いワンピースを纏うその様相は素朴ながらどこか神々しさすら感じるほどだった。
髪飾りだった虚の仮面は砕け散り、大小様々な欠片が円環のように彼女の頭上で浮かんでいる。
そして目に付くもの全てに圧倒的な存在感を放っているのに浮竹達は霊圧を感じない。
(どうして彼女から全く霊圧を感じない!?
あれほどの存在感を放っているというのに…)
「既に君は其処へ至っていたか」
警戒する2人の横で藍染は独り呟く。
「気分はどうだいジェーン。
前回の帰刃は直ぐに解除してしまっているからね、こうしてまじまじと見るのは私も初めてだよ」
「あー、ウン。ぼちぼち?
帰刃すると色んな情報が流れ込んでくるから一周まわって落ち着いた。
…なんでさっきまであんなにテンション高かったんだろ。
ヤッバ黒歴史じゃん。あんな大人気ない言動私らしくないし、恥ずかしくて死にたくなってきたよ」
重國との戦闘よりよっぽど危機感を覚えたのかわなわなと震える様子はいつものジェーンだ。
「落ち着いたようで何よりだ。
あのままノリで柱まで粉微塵にされてしまうと困るからね。
この話は出発前にもしたんだが…」
「忘れてないですー興奮して記憶から抜け落ちてただけですーすいませんでしたー」
心にもない謝罪の言葉をへらへら捲したてた始祖はゆうゆうとその巨大な頭骨の背に腰掛けて、斬魄刀の柄を突き刺すと同時に紅い双星に光が灯り、巨体を揺らしながらソレは稼働を始めた、始めてしまった。
「つーかさぁ…」
ふと、空を見上げ一点を睨み付ける始祖の骸。
「何見てんだよ、お前」
まるで虫を払うように手をかざす。
骨の龍、その一体が首をもたげ口を大きく開き、凄まじい衝撃と共に上空に向かってノータイムで放たれた赤黒い虚閃が空を疾走って、雲を吹き飛ばしながら伸びていく。
一瞬の後、はるか上空が暗く光り輝き大爆発に似た重力の奔流が視界いっぱいに炸裂した。
「あー?逃げられたっぽい」
「…空に何か居たのかな?」
「覗き魔だよ覗き魔。
あのやろーもっと上に逃げやがった。
視線がいやらしいんだよ髭ダルマめ、次覗いたら主砲ぶち込んでやるからな」
嫌悪感をここまで顕にする彼女も珍しい。
先程までの惚けた様子とは打って変わって、人が変わったみたいに落ち着いている。
そんなジェーンを興味深く観察しつつ藍染は彼女曰く「覗き魔」たる人物に当たりを付けてほくそ笑んだ。
「それで、ジェーン。
君と交わした〝契約〟はまだ続いているよ」
「わかってるわかってる、よっ」
空が爆発し、何かを察知した京楽と浮竹が大きく飛び退いた直後。
藍染の鼻先まで迫る焦げ付いた太刀を骨の龍が阻み激しい火花が飛び散って骨を大きく傷付ける。
が、皮膚らしき部位に当たった炎は漆黒の宙の彼方に飲み込まれ消えてしまった。
「やーんお目覚め?」
「チィッ!!」
藍染への奇襲は始祖に阻まれた。
忌々しく舌打ちをひとつ、獄熱を纏う重國が身を翻し続く2本目の龍を回避する。
その巨大に似合わぬ速度をもって、霊子の足場を跳び翻弄する重國に追いすがる龍の首、もとい始祖の触腕が建物を破壊し撒き散らしながら迫る。
再び骨と重國がかち合った。
千五百万度の鎧をものともしない、更には旭日刃ですら容易に破壊できぬ太古より練り上げられた始祖の外殻にはさしもの瀞霊廷最強最古と言わしめた重國の卍解も手を焼いている。
京楽と浮竹は加勢しようなどという考えは捨てる事にした。
この規模の相手に自分たちが手を貸したところで戦力の足しにもならない、総隊長の卍解とどっこいどっこいの外殻硬度を持つ虚相手にどうやって立ち向かえばいいのか。
そもそも重國の卍解は集団戦に向いていない。
「発動し続けるだけで瀞霊廷が滅ぶ」という表現は誇張でもなんでもなく、《残日獄衣》だけでも発動するだけで地上に小規模な太陽が出現したのと変わらない被害が齎されるのだ。
おそらくまだ気を失っているであろう他の隊士達、それに卍解の影響で少しずつだが確実に死んでいく結界も懸念しなければならない。
ガリガリと削られる消耗戦、重國が卍解を起動した以上早急に決着を付けなければ結界どころか尸魂界そのものが焼けてしまう。
「元柳斎先生!!」
浮竹が叫んだ直後。
突如として空の一部が黒く塗りつぶされた。
雲で陰ったとかじゃない、まるで墨汁をぶちまけたのかと思うくらいの〝黒〟が空より滲み出して横に縦に伸びていく。
その動きには明確な意思がある、まるで誰かが空の上から筆で文字を書いている様だった。
空座町の空を覆い尽くすほど巨大な筆文字に気づいた始祖が軽く舌打ちをした後、両の触腕の纏う骨がいっそう大きく隆起したかと思うと根本から先端に向かって内より霊子が赤黒い稲妻となって上り始める。
腹の底に響くようなくぐもった独特の重低音と共に先端まで登りきった赤と黒が一瞬光って弾け、先程とは比べ物にならない規模で大気を震わせながら龍が閃光を放とうとしたその刹那。
「ちょっ!?」
それを邪魔するかのように重國が放った《双骨》が片方の首に直撃し、衝撃で大きく横倒しになりドミノ倒しのように隣の首にぶつかった。
発射をキャンセルされた始祖が苛立ち混じりに今度は重國に狙いを定め口を開けた時。
空に黒塗りの文字が完成した。
全てを察した重國は声を大にし、不肖の弟子たちに言い放つ。
「隊士須く護廷に死すべしッ!!」
護廷十三隊の矜持であり、尸魂界の為隊士はどんな犠牲を払ってでもそれを護り、魂魄尽き果てるまで奉仕せよという重國の教えだ。
それを間近で聞いたのは京楽と浮竹。
短いながらも覇気のこもった一喝で重國が何を言わんとするのか察した2人は顔を見合わせ静かに頷く。
「お迎えだ。
存分に暴れてくるといい」
「はいはい、おねーさんにまっかせなさーい。
じゃあね藍染くん。
次会ったら、そうだね…目標達成霊王ぶっ殺し記念パーティーで焼肉でもするかー、計画失敗残念でした会の場合はビュッフェね」
「ああ、楽しみにしているよ。
…また会おう、友よ」
「!デレ藍染じゃん珍しー」
至極色の瞳を細め快活に笑う始祖に微笑み返す藍染。
理解者など必要としなかった、故に全てを踏み台とし切り捨ててきた藍染はこの時初めて自分が〝対等〟と認めた相手に別れを済ませ、再会を誓う。
まるで凡百の死神がする約束のように、この瞬間だけは不思議と特別な彼も〝普通〟でいられた。
途端、空に浮かんだ「裏」の文字を中心に意識のある全員の視界がぐるりと裏返り。
次の瞬間、山本元柳斎重國と始祖の骸は空座町から忽然と姿を消したのだった。
……ふい〜あっぶないのぉ〜、危うく筆ごと肩が消し飛ぶとこだったわい
ぬしが執拗に深入りするからであろ、和尚よ
しかし〝視る〟にはちと距離が離れすぎておってな、あやつ此方の顔までハッキリ識別しておったようじゃし、正直本腰入れて撃たれておったら不味かった。
最悪、離殿のひとつやふたつ消し炭になっておったかもの
この距離からでもかい!?
HAHAHAそいつはやべぇYA!
アレにかかれば72層の障壁なぞ紙切れ同然よ。
重國よ、ないすふぉろーじゃぞ!
なんで和尚が自慢げなんだい?
しっかし元気な娘っ子だね、虚だってのについ沢山食べさせたくなっちまうよ!
で、肝心の〝確信〟って奴ァ得られたのかよ和尚。
じゃなきゃせっかく横入りした意味も無くなっちまうぞ
安心せい、じゃから飛ばした。
既に目覚めておるうえ、完全に溶け合っておるが間違いないわい。
只の虚であるならいつぞやの
よもや虚圏くんだりで見つかるとは、さしものワシもびっくり仰天よ!
本来交わらぬはずのものが有り得ぬ手段をもって交わった…
始祖の骸、奈落の妖星とはよく言ったものよ。
帰刃してより原形に近くなったカンジかな。
文字通り、虚圏における〝究極の一〟ってコトSA☆
お、なんかカッコイイのうそれ。
星まで食い尽くしそうだわい
ちょっと前に読んだ現世の漫画に似たようなコトが書いてあったんDA
いや洒落になんねえけどな!?
現世の漫画物騒過ぎんだろ!!
あの御方の半身が混じってるぶんマジでやろうと思えばできちまうんじゃねえか…
でもあの娘の魂魄はそれを良しとしないだろうねえ。
始祖ちゃんの願いは何処まで行っても
正直、総隊長にはちょっち荷が重いカモNE
無理など承知よ、〝できるか〟ではなく〝やる〟のが重國、ひいては護廷十三隊よな。
わざわざ邪魔の入らん場所に飛ばして、舞台まで用意してやったんじゃ。
本来瀞霊廷の時事に介入せんワシらからすりゃ特例中の特例、超特別待遇じゃぞまったく…
浦原喜助め、わざわざ儂らが干渉し易いよう予め細工しおってからに。さては狙っておったな?
曳舟との共同製作、現世の町を
さしもの総隊長とて此度の相手には手を焼こう。
藍染の小坊主などより余程、な
あの人単身でどうにかなるもんかよ、アリャ最早物理的に倒せる域を超えてるぜ。
三界を跨ぐ霊王の〝両脚〟、そんなモンと融合しちまった原初の虚が相手なんて俺ァ死んでも御免だね
まるで星と太陽じゃな。
重國よ。その手並み、しかと拝見させてもらうぞ。
………怒るのは当然じゃ、我等の起こした沙汰を観たのならば。
じゃがそれでも尚、維持せねばならん。
全ては尸魂界の安寧が故、じゃよ
お前らは私/あの子を裏切った
水晶に閉じ込めて、生かさず殺さずばらばらに
手も足も、舌も心臓も、臓腑もなにもかも奪い取って
ただそこに〝有る〟だけの楔として世界に括り付けた
痛くて、辛くて、苦しいはずなのに
なぜ、流れ込んでくる私/あの子の魂に怨みも妬みも微塵もないのか理解できない
怒ってもいいんだよ?
裏切られて、傷付けられて
憎んでるから
本来決して交わらないはずの、腹の底で永遠に眠っているはずだった神の半身は1人の死神が起こした悪戯によって溶けて混ざり合い、歪で特別な破面が生まれた
奈落の妖星
はじまりの頃から虚圏の宙を揺蕩う
気付いた時には既に
ハッキリ自覚したのは藍染くんのせいだけど
生憎と、私/あの子はあの子/私より悟くもないし、聖人君子様でないからさ
せっかくいい気分だったのに
あんな
それでもあの子/私は必要ないって、自ら望んだ事だからって
じゃあ代わりに私が怒ってあげる
八つ当たり、させてもらうよ
これが
……でも帰刃でおっぱい盛ったのはマジGJ!
あの子/私も隅に置けないね!
「いよいよ静観していられなくなったか、零番隊。
良いね、想像以上の成果だ。
やはり君はいつも私の一歩先を征く」
山本重國とジェーン・ドゥ、2人の圧倒的強者が突如消え去ったこの空座町で藍染惣右介は満足そうに呟いた。
重國の卍解により際限なく上がっていた温度は徐々に下がりつつあるが、2人が争ったことにより瓦礫の山と化した多くのビル群や超高熱で溶け真っ赤な海になったアスファルト、隕石迎撃の際にできた数々の焼けたクレーターなど破壊され尽くした街並みは凄惨の一言に尽きる。
もし偽物ではなく現実の空座町で同じことが起きた場合、齎される被害や犠牲者は計り知れない。
「随分余裕じゃないか、藍染君」
既に己が斬魄刀、花天狂骨を油断なく構える京楽と始祖の重圧が消え昏睡状態から回復し始めた他の死神の面々。
全て予定通りだ。
藍染惣右介の計画は最終段階に入った。
上位十刃による護廷十三隊掃討、総隊長と始祖の骸をぶつけこれを迎撃、そして予想通りジェーンごと重國は手を出さざるを得なくなった見物客に別の場所へ隔離された。
誰にも邪魔されない、零番隊が設えたであろう特製の檻の中へと。
本来なら対重國専用の人造破面でも作っておくべきだったのだが、この
総隊長が始祖にかかりきりな今、自分を止められる可能性がある人物はあと1人、それももうすぐ虚圏から帰ってくるハズだ。
しからば、目の前の雑兵を一人一人片付けて時間を潰すのもまた一興。
「山本重國が消えた今、君たちに残された手札は少ない。
その中で私に通用するものがどれほどあるか。
見せるがいい、最後のひとつが消えるまで一つずつ微に砕いていこう」
「……知らない天上だあ」
ぐるりと回った世界のあと、気が付けば眼下に広がるのは元通りになった夜の町並み。
破壊された瓦礫は何事もなく元通りになっており新品同様、さらに言うなら結界を守っていると藍染から説明された4本の支柱すら消えてしまっていた。
直感で自分が何らかの転移で飛ばされたのだと自覚する。
「…外用の黒腔が開けない?
三界じゃないのかぁ。
って事は叫谷の何処かかな?」
普段からおふざけ上等のちゃらんぽらんな始祖であるが、彼女は虚圏へ繋がる移動手段を全て把握、管理している境界操作のプロフェッショナルだ。違和感は直ぐに察知できる。
始祖の権能を有する彼女でも三界の外にあり、現世と虚圏の間に無数に存在する叫谷すべてを把握するのは至難の業だ。
いや、やろうと思えば出来るだろうが本人にやる気がないだけか。
「明答。
此処は世界の狭間に無数にある叫谷、そのひとつに設えたものじゃろう」
一体誰が自分を此処に送り込んだのか。
その独り言に答える者は唯一人。
太陽の如く燃える鎧を纏う剣の鬼、山本元柳斎重國。
見当は付く。
決戦前に兵主部一兵衛が重國のもとへ現れた時、薄々察してはいた。
「とある破面」について見極めると言っていた和尚は零番隊の力を借りて予めこの町を叫谷に造っていたらしい。
更に偽物の空座町、その裏側にこの町を紐付けた。
空に浮かんだあの筆文字はピンポイントに二人を此処へ転送する術だったのだろう。
和尚自ら手を出したという事は、本来地上に干渉しないはずの王属特務零番隊が通例を無視してまで成さねばならない事案という事。
それが何を意味するのか、目の前の始祖の骸と呼ばれる〝ナニカ〟が三界に及ぼす影響が只事ではない。という事だけは分かる。
だが、それがどうした?
「漸く、
轟、と。
残日獄衣が唸りをあげる。
夜空が真っ赤に染まり、夕暮れ時のように明るく染まった街で近場のビルが軒並みぐずぐずと溶解し始めた。
此処にはもう重國と始祖の骸しか居ない。
自分より弱い隊士達も、現世と尸魂界を繋ぐ守るべき楔も、大逆人を討つ為に力を温存する必要も。
己の邪魔をするものはみんなみんな、いなくなった。
「これで思う存分貴様を斬れる」
獰猛な笑みと共に一歩、また一歩と町を歩くごとにアスファルトは溶け落ちて、木製の民家は瞬時に消し炭に。
その熱、実に一千五百万度。
傍にいるだけで鉄すら一瞬で蒸発し、有機物は即座に焼けてプラズマになる程の熱波が何度も街へ襲い掛かり、彼を中心に真っ赤なクレーターが形成されていく。
零番隊手ずから造られた、現実の物質ではない霊子で構成されるこの町でなければ即座に焼失を免れないだろう。
「人間キャンプファイヤーなんて斬新だねぇ。
宴会芸にしては派手じゃない?」
そんな獄熱に晒されながら、髪が僅かに靡く程度で涼しい顔をする始祖の骸。
帰刃によって変貌したその姿でへらへらと笑いながら手持ち無沙汰に刺さった自身の斬魄刀を撫でつつ、骨の要塞の上で気の抜けた感想を述べた。
「藍染くんとの約束だからね。
おじいちゃんに恨みはないけど、わりと真面目に始末させてもらうよ」
細めた漆黒の瞳が重國を捉えたその時、可視化できるほど始祖から漏れ出る重力の波が周辺の力場を掻き乱し、衝撃で粉砕された瓦礫やへしゃげた車が宙に浮き上がる。
恒星級といっても過言ではない莫大なエネルギーが炉心から溢れ出し、烏賊の内側から赤と黒の稲妻の如き霊子となって迸る。
今までの呆けて漏れ出していた指向性のない霊圧の奔流ではなく、世界そのものを押し潰すかのように何層にも重なった明確な殺意の重圧が叫谷全てを覆い尽くした。
隆起した骨の外殻が擦れ合う度ギチギチと耳障りな音を立てる姿はまるで威嚇しているかのよう。
本気を出す、と言ったのだ。
たった1人の死神を殺す為に。
叫谷という三界に影響しない空間なら遠慮は要らない。
虚圏でないのなら、世界を壊すほど暴れたって気にもならない。
小綺麗だった街並みはもはや見る影もなく、僅か数分で獄炎が空気を焼き乱れ狂う重力の奔流で力場が滅茶苦茶になった異次元空間が出来上がった。
溶けたビルが千切れて浮かび上がり、融解したコンクリートを撒き散らしながら超重力に晒され紙屑を潰すように内側から圧縮され跡形もなくなる、そんな光景が場所を問わずそこかしこで散見された。
隊長格だろうと上位十刃だろうと、決して生存を許されない絶界。
そのような地獄とみまごう叫谷の只中、殺意をもって睨み合う
「私の目的に」
「儂の未来に」
一足飛びに重國は跳躍する。
燻る旭日刃の煙を軌跡に崩れ落ちたビルの隙間を駆け、その身一つで始祖へと真っ直ぐに。
ノータイムで始祖の触腕から放たれた黒虚閃が薙ぎ払うように町並みを消し飛ばし、瓦礫が宙を舞う。
とりあえず全体攻撃、彼女がよく使う手だ。
一閃が走り、地表が消し飛ぶ。
空中へ飛び出した重國は撒き散らされた瓦礫を足場に跳び移りながら尚も接近の脚を止めない。
「破道の七十三、《双蓮蒼火墜》」
手持ち無沙汰の逆手を始祖へと向け、徐に鬼道を放つ。
詠唱破棄し威力が減衰しているにも関わらず総隊長の放つ鬼道は並の隊士の放つそれとは比較にならない。
が、猛烈な勢いで迫る蒼い焔は始祖が目を向けるだけで軌道を変え、あらぬ方向へ飛んで行った。
「何それ、しょっぼ」
「分かっておったが、遠距離鬼道などもはや意味を成さんか」
「《
始祖が指で空をなぞった跡が
「あ、それ《
宣言の後数倍に膨れ上がった幾つもの雫が弾け、まもなくして放射状に破壊の雨がばら撒かれた。
当たればもれなく穴だらけ、無限に飛んでくる霊子の散弾を重國が大きく回避したところに飛んできた触腕を旭日刃で受けとめる。
一瞬の拮抗の後、体格差で押し負けた重國が飛ばされて体勢を崩し着地した所にもう一方の触腕がその場のもの全てを巻き込む勢いで叩き付けられた。
轟音と振動が地を揺らす。
超質量によるシンプルな暴力、以前戦った六車拳西が同じ事をされあわや瀕死の状態まで追い込まれたそれをまともに食らって原形を留めているはずがない。
「ハイ、ばっしー……ん?」
僅かな違和感。
抵抗を感じたのも束の間、その下から噴き出す業火と共に触腕が大きく弾かれ上に大きく伸びた。
「おぉ!?」
「温い」
筋力のみで触腕をカチ上げた重國がその隙を突き、白骸の上の始祖へと肉薄した。
一閃。
斜めに線が入った始祖の背後が吹き飛び、何処か遠くを見つめながら気まずそうな顔をする彼女に驚愕すると共に重國は確信を得た。
「成程。
貴様、圧倒的に斬り合いの経験が足りておらんな。
その防御力と遠距離攻撃性能に頼りきりか」
「一応練習とかはしてたんだけどね…
ホラ、破面ってステゴロ脳筋勢ばっかだから…」
「それは良いことを聞いたのう…ッ!!」
目の前に浮いた黒いあぶくに大きく仰け反り、必要な分だけ避けて残りを残火の火力に任せて斬り捨てる。
いつの間にか始祖は白骸のハルバードを握っており、長物独自の間合いをもって重國の旭日刃との打ち合いが始まった。
変質した外殻なのだろう白亜のハルバードは見た目こそシンプルなものの頑丈さは始祖の折り紙付きである。
実際に残火の太刀と打ち合いをしても劣らない程の強度を誇り、かち合う度に激しい火花が飛び散った。
逆に重國にとっては新鮮である。
なにしろ卍解状態の己が斬魄刀は一撃で焼失させる剣故に、斬り合いなどという悠長な事は起こらなかった。
二合、三合と打ち合う中で、重國は彼女の動きに何処か既視感を覚える。
片手首を軸に舞うような槍捌き、ドレスに近い装束も相まってまるでダンスを踊っているかのよう。
「…貴様、その流派を何処で学んだ」
「え?友達の知り合いの食べ残しからかな」
その動きを重國は知っている。
嘗て十三番隊の副隊長を務めていた男、今は没落したが尸魂界の祖たる五代貴族の一角を担っていた志波家の者が使っていた独自の槍術だ。
かつてのそれに比べると始祖の動きは付け焼き刃にも程があるが。
「シィッ!!」
「わっ」
あっという間に絡め取られ、ハルバードを大きく弾かれる。
更にそこから踏み込んでもう一太刀加えようと振りかぶったその時、鋭い痛みが左足を襲った。
視線を落とせば先程まで無かったはずの場所に鋭利な骨の棘のようなものが生えており、重國の足の甲を貫いている。
わざわざ棘の上に足を置きに行くほど耄碌していない、悪寒を感じすぐさま攻撃を中断、顔を引くと先程まで頭のあった位置には足下から伸びる長い長い骨の棘が。
巨大な頭骨の上、白骸の一部が変質し鋭利な棘が重國目掛けて次々と生えてくる。
残日獄衣を纏っているにも関わらず、炎熱をものともしない強固な棘の槍は重國の肢体を狙い猛烈な勢いで襲い掛かった。
「小癪なッ」
避けた先にもまた棘、更に身を翻してもそれを阻むように棘、頭骨の上で逃げ回る彼を眺める始祖の背後にはいつの間にか大きく開けられた龍の口が。
「《
何重にも鋭いかえしの付いた、巨大な槍を象った始祖の虚閃が躊躇いなく重國へと射出される。
堪らず旭日刃の腹でそれを受け、捻れながら重國の胴体ごと突き破る勢いで猛進するそれはビルを何棟も倒壊させてから漸く弾かれて触れた鋒により火花と共に2つに裂け、周囲に爆風と破壊を撒き散らした。
(また距離を…厄介じゃのう)
残日獄衣を浴びて抉り溶けたビル群が崩壊し音を立て崩れ去るなかで重國は悪態を吐く。
死神の攻撃は基本的に斬魄刀を用いた近距離攻撃。
時に鬼道を絡めることはあれど対応出来て中距離までだ、虚閃を始めとする遠距離技を多く保有する破面とは相性が悪い。
剣の鬼と呼ばれた重國でも自慢の剣術を披露するには接近戦に持ち込まねばならず、何をするにも近寄らなければ話にならない状況。
そもそも基礎スペックが高すぎる重國でなければ近寄ることすらままならない虚閃の絨毯爆撃、近づいたとしても立ちはだかるのは始祖の鋼皮、白骸による防衛機構とまさに要塞の体を成す始祖の骸。
ひとつ剣の道を極めた重國の腕を以てしても…
「もどかしい…のうッ!!」
倒壊したビルの粉塵を貫いて伸びる一筋の黒虚閃。
見えていないハズなのに明らかに此方へ向けて飛んでくる。
「に〜が〜さ〜な〜い」
重國の居た軌跡をなぞるように地面をえぐり飛ばしながら発射され続ける黒虚閃から逃げ回る。
ふと、視界の端に黒い亀裂が留まった。
「《
「《
始祖の鳴らした指の音に従って、各所で無数に開く黒腔。
「
その穴へと放たれる黒い閃光。
始祖の両手からそれぞれ吸い込まれた黒虚閃は何処か遠くにあった見当違いの黒腔へ繋がって、更にそこから別の黒腔を経由して、そんな具合で伸び続けていくうちに町中に張り巡らされた虚閃の網が重國の逃げ場を塞いでいく。
虚圏広しと言えど解放状態の黒虚閃を両手で、しかも放ち続けられる出力を持つのは始祖しかいない。
「ならばっ!」
刃を逆手に、旭日刃の鋒から噴射される焔の奔流が重國を前へと押し出す。
爆発的な勢いで飛び、射角を調整しつつ網の隙間を縫うようにして再び始祖の眼前へと迫る。
が。
「それはもう見たよ」
《
超重力を纏い、質量を圧縮され黒く変色したもう一方の触腕がハンマーのように振り下ろされ飛ぶ重國を上から叩き落とした。
山本重國をもってしても反応出来ない速度で潰され地面と衝突し、町全体を崩壊させるほどの衝撃が走る。
大地がひび割れ、崩壊していくさまを眺めながら始祖がそろそろ黒虚閃の照射を止めようかと思考を緩めたその瞬間。
戦塵より走った一筋の赤い線。
それに始祖が気付くよりも先に、頭から血を流し鬼気迫る表情の重國が爆速で懐へと飛び込む。
直撃の瞬間、残火の太刀の火力にものを言わせ強引に軌道を変更、致命傷を避けた彼はそのまま両手を黒腔に突っ込んだままの無防備な始祖の脇腹へ渾身の突きを見舞った。
熱が弾け、鋒に炎を集約された一撃。
鋒の向こう側にあったものは須く瞬時に蒸散し、焼け跡すら遺さない。
霊子すら分断する程の密度と共に放たれた重國渾身の突きは見事始祖の身体を貫通し「てないんだな〜これが」
「!?」
嗤う彼女の表情が間近に映る。
どうして、と思い至る手応えと違和感に始祖は刺された脇腹のドレスの布をひらりと開けて見せ…
そこにあったのは、穴。
虚が持つ虚穴、破面が破面である証明。
ちょうど拳一つ分の、今しがた重國が旭日刃を突き通した場所にある穴だった。
「運が悪かったねえ、そこにはもとからなーんも無いの。
おじいちゃんの刀は私の身体を通過しただけ、残念でした」
そして、重國が現状を理解するまでに要した時間は僅か数瞬、だが晒した隙は致命的だった。
がっし、と。
笑顔で始祖に手首を掴まれる。
「セクハラは、極っ刑!」
激痛が全身を襲う。
変質した外殻の棘が重國の身体を串刺しにし、貫かれた四肢から飛んだ返り血が始祖の頬を濡らした。
「ごっ…ぼッ」
そのまま夥しい量の血を吐くが驚くべき事に、重國は咄嗟に僅かな身動ぎと筋肉の収縮だけで急所を外しているようだ。
「《
手を離されたのと同時、超重力の触腕が横薙ぎに重國を吹き飛ばす。
スーパーボールのように何度も地面をバウンドし、銭湯らしき建物の煙突を叩き壊す事で漸く止まった重國は息も絶え絶えに直感で旭日刃の鋒を前へ構えたのと同時に、黒虚閃の砲撃が真っ二つに割られた。
今まで受けたどの虚閃よりも重い、だが照射されるそれを割り続ける。
拮抗する重國は思わず膝を突いた。
両手を使ってもまだ押され、ジリジリと後ろに後退しつつ踏ん張るが貫かれた四肢は激痛を訴え、筋ひとつ揺らす度身体が軋む。
血はとめどなく溢れ、突き出す両手の感覚は段々と無くなってるし、視界がぐらぐらと揺れ始める。
相手は
勝てないのが道理なのだ。
過去の因縁をいつまでも引き摺って何になる?
そんな弱音が頭の中を駆け巡る。
たとえ千年生きようと、愚直に剣を振り続けようと所詮死神の限界はそこまでだ。
「…まだだッ」
絶叫と共に2つに割いた黒虚閃を振り払い、拙い回道で己の身体を癒す。
こればかりは才能が必要な為本業である四番隊の隊士ほど満足のいく回復を行う事は出来なかったが、それでも貫かれた穴は塞がった。
「粘るね〜おじいちゃん。
でもそろそろ限界じゃない?
その炎の鎧、段々火力落ちてきてるよ」
触腕が振り回されると大量の虚弾がばら撒かれ、その対応に追われる重國へと諭す様に始祖は言う。
彼女の言う通り、卍解発動当初と比べて残日獄衣の範囲と影響力は弱まっている。
もともと短期決戦用の卍解だ。
普通なら残火の太刀より先に世界が焼き切れてしまうから。
現実世界と違い残日獄衣は霊子を燃焼している訳でなく、重國の霊圧を薪としている訳でもない。
重國から溢れ出る霊圧そのものが密度を持った炎として可視化されたもの。
従って重國のバイタルに左右されるし、発し続ければ当然減っていく。
無限にあると思われていた重國の霊圧は度重なる残火の太刀の酷使と無茶な回道により消耗激しく、いよいよ底が見え始めていた、対して恒星の如く莫大な霊圧を操り、圧倒的な暴力でこちらを蹂躙してくる奈落の妖星。
このままでは先に膝を突くのは重國だ。
時間をかければかけるほど不利になる、そもそも二人の戦闘の影響で叫谷が崩壊しかかっており、文字通り世界を壊してしまう程の負荷でこのままでは諸共に異界の藻屑に成り果てるだろう。
その場合、出口のない叫谷を永遠に彷徨い続ける羽目になる。
それに、始祖に対する有効打が一切与えられていないのも痛い。
先程の一撃は不発にしても、その前一太刀浴びせた時も空を斬ったかのような虚しい手応え。
あの人型に当たり判定が存在するのかすら怪しくなってきた。
「無力な己など懲りる程見てきた…」
あの日、まだ自身が死神の力に目覚めるより前に見た光景。
破壊と暴力を撒き散らす死神の敵、虚の脅威、何もできない自分は重國の心に深く染み付いている。
斬魄刀を手にし、卍解へと至り、初の護廷を組織した時も、千年前の大戦の時も、二百年前の殲滅戦で幾ら武功を立てようとも、滅却師の王をこの手で斬った時ですら、根底には明確な始祖への恐怖が重國にはある。
「…まさに災害、逆らうことそのものが間違いなのかもしれん。
じゃが…ッ」
踏み出す脚と共に今一度、業火がいっそううねり踊る気迫となって燃え上がった。
脚を止めてはならないのだ。
退けば老いるぞ。
臆せば死ぬぞ。
誰かに証明する訳でなく、自分が納得する為に。
「儂は貴様を斬ると決めた」
どこまで追い詰めても重國の目は死んでいない。
「…おじいちゃんは凄いね。
執念だけで
それが貴方の“やりたいこと”なんだ」
零番隊の設えた町の向こう側があちこち剥がれ落ち、剥き出しの異界が顕になる。
いよいよ叫谷は崩れ始め、戦いの余波で地面が陥没し穴ぼこだらけになっていく。
「けどもうこれでおしまい。
さっさと終わらせて
あ、安心して?おじいちゃんの魂魄はちゃんと美味しく頂いてあげるから」
触腕が崩れ掛けの地面へと潜り込む。
始祖の巨体を中心に螺旋状に地面が隆起し始めたと思ったらそこから赤黒の霊子が噴き出して、稲妻を伴って町を侵食するかのように溢れ出した。
「《
「《
「《侵食結界発動許可申請…承認》」
「《反物質霊子炉心出力リミッター解除申請…承認》」
「《重力嵐形成、霊子固定錨形成、座標指定完了》」
「《全承認、稼働許可》」
機械のようにつらつらと述べる始祖の骸が掲げた手に従って、夜空の星々がいっそう輝く。
叫谷が虚圏の夜空に侵食されていく。
全てを阻むような重力の嵐が渦を巻き、世界を磨り潰さんと唸りを上げる。
始祖の頭上に生まれた巨大な重力溜まりから零れ落ちた七つの雫が妖しく輝きながら衛星のように周囲を旋回し始めるのに伴って、地中からずるりと這い出て来たのは龍の頭骨を模した触腕。
皮膚は銀河、外殻は黒く、目にあたる部分に一番星の輝きを携えた。
それぞれが星一つ分の霊子を圧縮された始祖の指先。
それが7本。
周囲を取り囲む隆起の真ん中で、重力嵐を形成しながら動かない烏賊の代わりに取り巻く七つの骸が首をもたげじっと重國を睨めつけていた。
これが本気の始祖の力。
終末を齎す虚圏の意思持つ災害。
世界を渡り、好き勝手に書き換え侵食する
虚圏は尸魂界と比べ霊子濃度が格段に濃いとされるが、今まさにこの叫谷の環境は虚圏のそれと同じに創り変えられた。
眼下では町が砂漠に書き換わり、重力嵐に巻き上げられた瓦礫が塵と化す。跡には何も残らない、ただ砂の大地が延々とつづいているだけだ。
加速度的に全てが砂になり、塵になり、永遠の夜に溶けていく。
スケールが違う、災害の前に死神などちっぽけな存在に過ぎない。
そこには虚圏そのものが鎮座していた。
「《心は折れたかな?》」
優しい声音で始祖は微笑む。
「《おじいちゃんは頑張った》」
「《魂魄ひとつで
「《誇っていいんだよ?
山本元柳斎重國は正真正銘、最強の死神だ》」
「《藍染くんも手を焼くワケだよ》」
「《だからもうこれで終わりにしようね》」
「《君の魂魄もなにもかも、
厄災が動き出す。
なにもかも塵に還す破壊の女神は真っ直ぐに重國を見据え、自らの願いを阻む全てを呑み込み始めた。
「舐めるな」
生ける銀河を前にして、ちっぽけな
「貴様になぞ儂の魂魄、小指の欠片たりともくれてやるものか」
烟る太刀を地へと突き刺す。
「屍共、我が炎に散った亡者の灰よ」
「手を貸せ」
「しばし、戦の愉悦をくれてやる」
残火の太刀 南
火火十万億死大葬陣
重國が今まで斬った敵の亡骸に炎を与え叩き起し、亡者の兵を創り出す他に比類するもの無き流刃若火の誇る面制圧奥義。
地中からぞろぞろと顔を出す数千、数万の骸骨の群れが敵を塵となるまで追い詰める。
「《頭数を揃えれば私に勝てると思ってるの?》」
「慌てるでない。
この程度で済むと思うか」
だがまだ足りない。
「碌でなし共、戯れの時間じゃ」
宣言と同時に重國の背後から残日獄衣が完全に消え去った。
十二に別れた焔は近場にあった骸骨兵へと飛び移り、憑かれた者がガクガクと挙動をおかしくさせる。
「地獄の底はさぞ退屈じゃろう」
「暫し
「
まとわりつく炎が逆再生のように骨の身体に肉を着け、足袋を着け、羽織を着せ。
各々特徴的な出で立ちをした黒装束に白羽織。
揺らぐ炎の隙間より時折覗かせるその顔は男女様々、手に持つのは一刀に限らず二刀流、薙刀、鉄鞭、果ては素手の者までいる。
山本元柳斎重國が最も危険視し、千年前のあの戦いで最も頼った嘗ての
それは重國の記憶に染み付いた過去を薪として火火十万億死大葬陣に投影する、秘中の秘。
他の全てを省みず、相手を必ず殺す時のみ使用を己に赦す絶技である。
初代護廷十三隊。
歴代最強と謳われ、流刃若火に宿る重國の記憶から呼び出した在りし日の面影を焔に乗せた、本来ならもう二度と揃わぬ筈の殺伐とした殺し屋集団。
業火に編まれるのは嘗て共に戦った、重國が拵えた努力の成果、その結成当初に尸魂界のあらゆる場所から出自を問わず集められた護廷とは名ばかりの人斬り共。
外道、大罪人、異端児、狂人、何れも全員が高踏的で一癖も二癖もある問題児ばかりであった。
陽炎に声帯はない、あくまで外見と重國の知る記憶のみをコピーした本人には遠く及ばない劣化品だ。
それでも伽藍堂の筈の眼光からはもれなく全員殺る気と狂気が滲み出ている。
「面白そうだ、早く殺らせろ」
そう言わんばかりに十二の形を持った陽炎は目の前の重力嵐の中に佇む七つの首と妖星の端末に怯むどころか好奇の目を向けていた。
破道の九十九 《五龍転滅》
陣が成立するまでに唱えておいた完全詠唱の五龍転滅。
大地を抉り顔をのぞかせる、
周囲の霊子を龍に変えるこの鬼道は重國の霊圧を吸い、より肥大化し凶暴になった。
漸くこの日がやって来たのだ。
あの日より研鑽を積んだ全てを薪にくべ、今ここで自らの因縁に決着を。
叫びと共に火火十万億死大葬陣によって町を埋め尽くす津波の如き亡者の群れが嵐に向かって襲い掛かる。
吶喊する、劣化版とて火力に劣らぬ初代護廷。
その只中にて、地を割る炎龍を背に駆ける重國。
舞台は整った。
太陽の軍勢と星の究極が叫谷にて。
崩れ去る世界の真ん中で、二人だけの最終戦争が幕を開けた。
キリが良いのでここまで(キリが良いとは)
虚圏の方も書かないとチャンイチ帰って来れないので隔離組はこの辺で一旦止める
裏設定凄すぎ(公開されていない情報多すぎ)て今後の更新不安になってきた、失踪不可避
次回は当たり前のように未定
オバロの続き書きたいので…あっ止めて石を投げないで……