ダンジョンマスター ~俺はダンジョン経営者~ 作:ぼいどれげぬん
第1話 『その者、ダンジョン経営者』
開いた目に映った世界はひどく暗く、天井からは鍾乳石から成る白く細長いつららが俺を見下げていた。
体を起こし辺りを見回す。明かりなどは一切存在せず、土の壁以外に目を引くものは一切ない。どうやらここは洞窟の中のようだ。
「一体全体ここはどこだってんだ……。しっかし――」
俺は……何者なのだろうか? なぜこんなところで寝転がっているのか。
おそらく記憶喪失と言う物なのだろう。不思議と不安感はないのだが、このような殺風景なところで何もわからずに放り出されてはどうしたらよい物か見当もつかない。
『目を覚ましましたね。ダーキス』
「んお!? だ、誰だ!」
驚き辺りを見回す。確かに声は聞こえたがその姿が見当たらない。
声の主は続けて俺に語りかけてきた。
『あなたは選ばれました。あなたはこれより私の意志に従い、その命が尽きるまで役目を全うするのです』
「選ばれた……? 役目……? なんだってんだよ全く。それに、死ぬまでだと?」
『混乱しているのも無理はありません。あなたは私に創られてから間もない。最低限の知識しか備わっていないのだから』
この者の声は俺の体より響いているらしい。何か埋め込まれているのか、または本当にそういう風に創られているのか。
全く冗談きついぜ。記憶がないまま目を覚ましてみれば、いきなり創造主様に語り掛けられるなんてな。おまけに創造主様の勅命付きときた。
「ちょっと待ってくれ。いきなりそんなこと言われてもはいそうですかと受け入れられるかよ」
『受け入れる必要はありません。私の意志に従い事を運べばよいのです。そこにあなたの自由意志はありません』
「強制ってわけですかい……。それで、従わないと言ったら?」
『適正なしとみなしやり直すまでです。あなたの存在は抹消します。それでは、命令を下しましょう』
これ以上の問答は不要ととらえられたらしい。実に物わかりの良い創造主様だ。俺がたてつくはずが無いと判断して強制的に話を進めやがった。
『あなたにはこれより魔の者共を率いてダンジョンを造るのです』
「なに、ダンジョン……?」
『端的に言えば魔物の巣です。あなたはダンジョンを造り、魔物を飼育し、繁栄させるのです』
「なんだよ、飼育係か?」
『ダンジョンの生成および経営に関しての知識を与えましょう。あなたの使命は私が望む通りのダンジョンを作りあげることです』
―――― 第1話 『その者、ダンジョン経営者』 ――――
『まずあなたに基礎知識を与えましょう。あなたが存在するそこはかつて魔物の巣穴だった場所です。残念ながら今その場所にはただの一匹たりとも魔物は存在しません』
「なに? そりゃまたなんでさ」
『あなたが生まれる少し前、冒険者と呼ばれる者たちがこの巣穴の魔物たちを
まじかよ!? その冒険者とやらは恐ろしいな!!
しかし魔物……モンスターを全滅させるとはよほど執念深いのか。いくらモンスターと言えどダンジョンにいるモノなら外に出てくることは少ない。外界に住む者にとってはそれほど脅威とはなり得ないだろうに。
むむ? なぜ俺はこんな事を覚えているんだ?
「そりゃえげつないな。ところで……質問してもいいか?」
『許しましょう』
「俺はモンスターについての知識はあるみたいなんだがその冒険者とやらは知らない。一体どういうことだ? 俺にはなにか、あんたによって予備知識みたいなものが与えられているのか」
『……その通りです。あなたにはいくつか必要となる知識を有する事を許しています。その他必要な事柄は自ずと知り得るでしょう。焦ることはありません』
独特な言い回しなことで。知識を有する事を許す、ねぇ。
俺が本当に創られた存在なら記憶喪失と言うより初めから知っていること、知らないことがあるわけか。んでもって、使命とやらに必要な最低限の知識は与えられていると。
どうしてそんな面倒なことをしたんだか。初めからぜーんぶ学習させておいてくれればいいじゃないか。
「はじめっから全部教えてくれてもいいんじゃないのか」
『いいえ。あなたが考え、行動に移すことに意味があるのです』
「俺に学べって言いたいのか? わかんねぇなぁ。それになんの意味があるんだ?」
『あなたが知る必要はありません。話を戻しますが、よろしいですね』
創造主様はぴしゃりと言い放った。お前が知る必要はない。つまり余計な詮索はするなってことかよ。胡散臭いご主人さまだぜ。
それにしても、我ながら随分な反抗心ときたものだ。命令に従わなければ消す、だなんて言われてるってのに。
不思議と恐れを抱かないんだよな……。ひょっとして俺には感情ってものが無いのか? なんてね。
『あなたはこの巣穴の跡地を足掛かりにダンジョンを作りあげるのです。大きさは小規模ながら、幸いにも巣穴としての構造は理想的です。まずはあなたの思うままに魔物の繁栄を促しなさい』
「お、おいおい。ここに魔物は一匹もいないんだろ? どこから連れてくればいいんだ」
『地上に赴き捕らえてくるのが良いでしょう。あなたはダーキス故によほどのことでない限りは魔物と険悪にはならないはずです』
なるほど、そこからか……。創造主様よ、せめて少しぐらいあんたのお力で魔物を作り出したりはできないのか。
「捕まえてくる魔物はなんでもいいのか」
『任せます。ゆくゆくは冒険者が攻め込んできても容易く迎撃できるほどの魔物を有する事が望ましいですが、生憎この近辺にはいないようですね。あなたの考えで最適な魔物を選ぶのです』
放任主義なこった。本当に俺一人であんな獰猛なやつらを連れてくるなんて事ができるものか……?
と、ここで俺はあることに気が付いた。さっきから創造主が俺の事を『ダーキス』と呼んでいる。俺の知らない名称だが、ひょっとして俺の名前なのだろうか。
「あーっと、創造主さまよ」
『好きに呼びなさい。どうしましたか』
「さっきからあんた、俺の事をダーキスと呼んでるが、それは俺の名前なのか?」
『いいえ。ダーキスとは種族名です。あなたはダーキスと言う種族として誕生しました。ダーキスは見た目は人間に近く、しかし肌が色黒く耳が長いのが特徴です。俗にエルフと呼ばれる種族と似通っていますが、その性質は人間よりもより魔物に近く、魔物の多くもまたそれを理解しています』
長ったらしく詳細な説明をありがとうございます。へぇー種族名ですか。創造主の言った『ダーキス故に』てのは、魔物も自分たちに近い存在だと知っているから警戒心を抱かないってことなんだな。
それで、俺の名前はないんですかね?
『あなたに個体名はありません。それはあなたの役目に必要ですか』
地味にえぐいことを言うな!? 要は「お前なんかに名前はいらねーよ」ってことじゃないか!
「こ、個人的には種族名じゃなくて名前で呼んでもらいたいっすね……」
『ではあなたが決めなさい。望むのであれば今後あなたを呼称するときはその名前で呼ぶとしましょう』
「えっ、俺が自分に名付けるの!?」
うわぁー思ってもみなかった! 自分で自分に名前をつけるとか恥ずかしいな……。
できればかっこいい名前にしたいけどな。『魔の者共を支配せし邪悪なる末席、カオス・ハザード・スペクター』なんて、フフ。
『その名前はどうかと思いますよ』
「んお!? 人の心読まないでくださる!?」
『悩んでいるのであれば私が名付けてもよいですが』
「あ、いや! 大丈夫だから、自分で名付けるから!」
『そうですか……』
(なんか残念そうだな……)
まさか心の中を読まれるとは思ってもみなかった。と言うか、ひょっとして創造主はさっきから俺が考えてることは全部お見通しってことか?
随分と失礼な事ばかり考えていたがよく俺を許したな。随分と寛大なご主人だこと。
『どちらでもよいですが決めるのであれば速やかになさい。まだ説明は残っているのですから』
「はいはい分かりましたって。それじゃあ……『リカウス・ゲインズ』ってのはどうかね」
『……良いでしょう。ではあなたの事は以降リカウスと呼ぶことにしましょう』
なんか反応悪いな。ひょっとして変な名前だったのか? 俺的には結構イケてる名前だと思ったんだけどな。
『それでは次に、捕らえた魔物をどのようにして繁栄させるかを教えましょう。基本的に、魔物も生物であり繁殖します。通常は同種と交配させ子を宿させ数を増やすのです』
「それってすごい時間かかりそうだな」
『魔物の特徴は生命力と繁殖力です。通常の生物以上に成長速度が速く一度に増える数も多い。種族によっては七日程度で倍以上となるでしょう』
七日で倍以上!? ネズミ以上に早いじゃねぇか! それなら何匹かのつがいを捕らえてきて放っておけばあっという間にそれなりのダンジョンが出来上がるではないか。
しかしそれなら思っていた以上に簡単に事が進みそうだ。つまりは『産めよ増やせよ』の考えでいればいい。冒険者がどうとか言っていたが、結局は数で押しつぶせば何とかなるだろう。
『ですがただ数を増やせばよいというわけではありません。魔物は交配のさせ方によって見違えるほどに強靭な個体が生まれます。あなたは常により強い個体を増やしていくように努めるのです』
「より強くねぇ。しかし具体的にどうすればいいんだ」
『弱い個体は定期的に間引く必要があるでしょう』
さらりと言いやがるな。間引くってことは、要は弱い個体は
魔物は種族によっては仲間意識の強いものもいる。強い個体が積極的に弱い個体を助けようとすることもあるらしい。無理に強いのばかり生かそうとすればそのうち反乱が起きかねないぞ……。
『どのような繁栄を目指すかはあなたに任せます。ですがより強い個体を多く揃えることを忘れぬよう心掛けなさい』
「難しいことを言うぜ」
『魔物が増えるにつれ食費もかさみます。無駄な出費を抑えるためにも定期的な間引きは必要でしょう』
「ん? 食費?」
『基本的に魔物も生物であると言ったでしょう。生物である以上、食事を行い、排せつをし、就寝します。如何にこれらを処理していくかもあなたの課題なのです』
んなぁ!? 嘘だろおお!! そんなところまで気を回さなきゃならないのか!?
大体そんなものは創造主様がやってくれよ! たかが一介の創造物がそんな小難しい事できるわけないだろ!!
『ある程度の資金は用意しましょう。ただし足りない分は自身で考え、稼ぐのです。一つ断っておきますが、これらの課題をこなす能力が無いと判断した場合、あなたの存在は不要であるとみなし即座に抹消します』
ゲェーふざけんな!! ド素人に無茶なノルマを課しやがって、対価は俺の命かよ!
『それでは頑張りなさい、リカウスよ。あなたにはそれなりに期待をしています。努々、私の期待を裏切らぬように』
「おい!? ちょっと待てって!」
俺は虚空に向かって叫んだが答えはなかった。元よりその場にいたのかは知らないが、創造主はどこかへ離れていったらしい。
さて、俺はめでたくダンジョン経営者となってしまった。
魔物を捕らえ、育て、増やして繁栄させる。それらの費用を自力で稼ぎつつ、そしていつかやってくるであろう冒険者と言う存在を迎撃できるほどの城を造らねばならないわけだ。
記憶と言う物が存在しない創造物の俺にそんなことをこなせるものなのか。しかしやらねばならないだろう。俺の命がかかっている以上は……。
誤字脱字等ありましたらぜひご報告ください。
よろしくお願いします。