ダンジョンマスター ~俺はダンジョン経営者~ 作:ぼいどれげぬん
自分で足を動かし実感した。創造主はこの巣穴を小規模と言っていたが、その表現が不確かと感じさせるほどに広い。
確かにトロルやドラゴンと言った体躯の大きい魔物であれば入ることもできない。だが縦横無尽に続く足場の悪い廊下は生き物の方向感覚を惑わすには十分だ。
そしてつくづく思うのは、このように隅々に張り巡らされた回廊に潜むモンスターを全滅させるとは恐ろしく苦労のいることであったろう、よくもやってのけたということだ。
「うお、まぶし!」
明かりを見つけやっとの思いで外へと出ることができた。外は昼間のようであったが、それにしてはやけに日差しが痛い。それに異様にまぶしく感じる。
(ひょっとして、俺は日差しに強くないのか?)
自分の知識として存在しなかった種族『ダーキス』は魔物に近い存在だと創造主は言った。魔物は太陽光を苦手とするものもいるが、俺の種族はそれに分類されるのかもしれない。
ちなみに、そのような種族は暗い場所でも生活できるものが大半だ。思えば俺もあの真っ黒闇の洞窟内で平然と活動できていたが、それも種族の特徴なのだろう。
「しかしこれじゃあすぐにバテちまうぞ。何とかしないと……」
出てばっかりの洞窟内へと急いで戻る。残念ながら俺の服はボロの布きれでありフードなどの日よけとなるものはない。代わりになるものでもあればいいんだが……。
「お! あれなんか良さそうだな」
あたりを見回してみると大きな葉を付けた植物があるのが見えた。あの大きさであれば十分日よけの役割を果たせるだろう。
近寄って茎をへし折り掲げてみる。うむ、なかなか良いじゃないか。少々間抜けかもしれないがいまは致し方ない。いずれは何か対策を打たないといけないだろう。
「それにしても、俺のいたダンジョンはこんな風になっていたんだな」
葉で太陽を避けながら自分の出てきたダンジョンを見る。俺のダンジョンは崖下にぽっかりと空いた洞穴だった。
崖下は茶色の土肌が露見しており植物が一切生えていない。ところどころに焦げ跡があることから創造主の言っていた通りダンジョンに火を放ったというのは間違いなさそうだ。
もっと注視するといろんな事が見えてきた。
一つ、ダンジョン付近は人間の気配がない。これは俺が魔物に近いからか、魔物とそうでないものの気配を察知できるようだ。道が殆ど整備されていないことからもそれは察する事ができた。
そして二つ、道は殆ど整備されていないが、全くと言うわけではない。ダンジョンを焼き払うにあたり大人数を用意したのだろう、彼らが往復に使用したと思われる道は草木が踏み荒らされている。
おそらくこの後をたどれば冒険者がどこからやってきたかわかるだろう。ひょっとしたら町があるのかもしれないな。
「とにかくだ……まずは魔物でも探してみるとしよう。この付近の地形を把握する意味も含めて」
―――― 第2話 『無計画性』――――
ダンジョンの周りは森で覆われていた。やはりと言うべきか整備などされておらず獣道だけがいくつも存在している。魔物の気配は感じるため、これらの道は彼らも利用しているのだろう。
「ということはだ……ほうら、ビンゴ」
獣道をたどった先に小さな魔物が姿を現した。ウサギのように長い耳に犬のような体つき。小さいながらも獰猛な牙を翻すところを見る限り立派な魔物の一種であるのは間違いない。
惜しむらくはつがいではないことだ。三頭ほどいるが全てオスだろう。狩りの途中だったのかもしれない。
茶色い三頭は俺の姿に気づくなり警戒した。流石に簡単には心を許しはしないか。俺は彼らに話しかけてみることにした。
「待て、敵じゃない。あー……俺の言葉わかる?」
「……」
おかしい、この三頭何も言わないぞ。やっぱり言葉が通じていないのか?
『……お前はダーキスか? 何者だ、なぜ俺たちの縄張りにいる』
「ほ……良かった通じていたか。しかし驚いた、しゃべれるんだなお前たちは」
言葉が通じたのは助かった。しかし、まさか喋れるとは……。
魔物の存在は知っているが魔物が話をできるなどとは聞いたことがない。しかも見るからに獣の姿をしているのだからまさか人語を介するとは思わないだろう。
『しゃべれるだと……? お前何を言ってる。しゃべれるとはなんだ? それより、俺たちの質問に答えろ』
「ん? いや、しゃべれるとは何だと言われても現に今しゃべって――」
『いい加減にしろ! わけのわからない事を繰り返すな! 俺たちの質問に答えないというのならば敵とみなし殺すぞ!!』
「ああいや待て! 答えるって!!」
どうも話がかみ合わないがなんとなく理解した。前言撤回、こいつらは『しゃべられない』。どうやら俺が彼らの意志を理解し言葉として翻訳しているようだ。
きっとこれはダーキスと言う種族の力なんだろう。なるほど、創造主の言っていた『よほどのことでない限り』の理由がますます良く理解できた。
「俺はつい最近、崖下の洞窟に住み着いたものだ。名前はリカウス、リカウス・ゲインズ。見てのとおりダーキスだ」
『崖下の洞窟だと? リカウス・ゲインズよ、先日あそこは人間どもが火を熾し焼き払ったはずだ。そのとき中にいた魔物は全滅した。お前はいつからそこに居るというのだ』
訝しんでいるようだな。無理もないか。しかし犬畜生のくせして口の回るやつだな。
「ああ、ちょうどそのすぐ後だ。それについては俺も住み着き始めてから知ったことだ」
『ふん、怪しいな。そもそも俺たちの縄張りに入り込めば何者だろうとすぐに気づくはずだというのに、どうしてお前だけは気づけなかったのかが不思議でならない』
ぐ……面倒くさい犬め。別に正体を隠しているわけじゃないが、本当の事を言っても信用されなさそうだな。
とにかく適当に嘘を吐いておくか。とりあえず後の事は考えず交渉することだけを考えるんだ。
「俺はとある魔物の配下にあってな。お前らが気付かなかったのはその方の力だろう。それより、お前らに提案があるんだ」
『提案だと』
三頭は互いに顔を見合わせた。「何言ってるんだコイツ」って顔だな。当然だろうけどよ……。
「どうだ、俺の住んでいる崖下に来る気はないか? あそこは一切の生物が存在しない。あの洞窟を知っているということはあの場所の規模も知っているだろう? 今お前たちがくればあの場所の全てがお前たちのものだ」
三頭はキョトンとした顔を浮かべ、そしてすぐにくつくつと笑い始めた。
『ダーキスよ。あの場所を俺たちが占拠して何かうまみがあるのか?』
「う、うまみ?」
『俺たちは群れで行動している。そして群れのために常に食料を手に入れる必要がある。あの場所には生物がいないと言ったな? では俺たちはそこへ越し、何を食らって生きれば良いというのだ』
「う……」
確かに言われてみればそうだ。見た目からもこいつらは肉食、餌となる生き物がいなければ餓死してしまうのは間違いない。
しかし俺は創造主から幾ばくかの資金をもらっている。少しの間くらいはこいつらの群れを養うことはできるはずだ。
「そ、その心配はない! こう見えても資金はある。お前たちの群れを養ってやる事ぐらいは容易い」
『資金だと? ククッ、魔物であるお前が人間の町に繰り出し、俺たちを満足させるだけの食料を買い込むと言うのか? ハハハッ!』
『いくらダーキスと言えどまるで計画性がないな。お前、俺たちを満足させるのに毎日どれほどの食料を用意すればいいのかわかっているのか?』
『お前のようなみすぼらしい者が吐くには無理な嘘だ。お前の姿をみれば主人である魔物の底が知れると言う物だ』
三頭の魔物は大笑いしながらその場を去っていった。
俺はというと、あいつらの言葉に憤慨しつつも全く言い返せないまま立ち尽くすばかりだった。
俺はあの魔物たちを完全に見下していた。しかし見下されていたのは俺の方だった。
全部図星だ。そもそも創造主から手渡された資金は個人で所有するには相当の額だが、何頭存在し日にどれほどの食料を食らうかもわからない魔物を養うにはあまりに少なすぎた。
俺はやつらを犬畜生などといったが、あいつらからすればボロをまとった俺こそが畜生に見えていたのかもしれない。
「……くそっ!! くそっ!!」
やり場のない怒りに手にしていた葉をめちゃくちゃに引き裂いた。幸い日差しは落ち始めていたが、そんなことは当然考えてもいない故の行動だった。
1話で展開が殆どないため続けて投稿しています。
書きため等は殆どないため、一週間に一度投稿できればマシだと思ってください。