ダンジョンマスター ~俺はダンジョン経営者~   作:ぼいどれげぬん

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第4話 『ウェアリーフ』

 

「……昨晩は俺の好意で休ませてやったが、改めて聞こう、お前は何者だ」

 

 翌日、俺は洞窟の来訪者と改めて話をすることにした。昨晩は俺も疲れが限界であり、正直早いとこ寝たかったのだ。そのためこの妙な魔物に寝床を貸し与え、詳しい話は後回しにしていた。

 しかし改めて俺は悪運が強いらしい。ウィルオールに助けられ、洞窟にやってきた魔物も危険なものではなかった。

 強いて言うなら、もっと自衛力のある魔物に生んでくれれば文句などなかったんだがな。

 

『ええ、話しますとも慈悲深きお方。私はウェアリーフ。植物と獣の融合体の魔物でございます』

 

 植物と獣か。なるほど全くその通りの姿をしていやがる。

 具体的に言えば巨大なネズミと草本植物の融合した魔物か。頭に赤い実が生っているが、これは食えるのだろうか?

 

「ウェアリーフか。ドリュアス系のようだが弱小種族か」

『はい。お世辞にも名の知れた魔物ではございません。天敵におびえ細々と生き長らえる種族でございます。鋭い牙も爪も持たず外敵から逃げれるほどの脚も無く、ただただ植物に扮し襲われぬことを祈り身を震わせることが精いっぱいなのです……』

 

 おいおい、あまりにも自分を卑下しすぎじゃないか?

 だがこいつの言う通り褒められそうなところがないのは確かだな。獣系の魔物の特徴である鋭い牙や爪は無く、運動能力も体に生やした植物のせいで殆ど失われているようだ。

 

 ドリュアス系の魔物は言わば植物から派生した魔物だ。基本的に外敵に対しては滅法弱く、多くは植物らしい硬質の外皮を有することで身を守る。

 しかし獣と融合したドリュアスとは恐れ入る。全くいないことは無いがどれも獣と植物の長所を併せ持つものが殆どだ。こいつはそれらの長所を見事なまでに殺してしまっている。

 

『慈悲深きお方、どうか今一度ご慈悲を。私の肉は細々としてまずく食しても気分を害するのみでしょう』

「待て待て、分かったから。とりあえずそのうっとしい呼び方をやめろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――― 第4話 『ウェアリーフ』 ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺にとがめられたウェアリーフは縮こまるように居住まいを正した。本当に自分に自信が無いのだろう。様々な魔物についての知識はあるつもりだったが、如何せんこれほど消極的な種族は初めてだ。

 

「俺にはリカウス・ゲインズって名前があるんだ。それで、お前の名前は何て言うんだ?」

『名前……? そのようなものは生まれてこのかたございません』

「なんだと?」

 

 なんと名前が無いとは。魔物とは名前を持たないのが一般的なのだろうか。それにしてはウィルオールは自分の名前を持っていたが。

 おそらく彼女のように知能の高い魔物は名前を持つのだろう。ゴブリン程度の賢さでもあれば種族間で互いに名前を呼び合ったりするのかもしれない。

 

「まぁいい。それよりウェアリーフ、お前はこれからどうするつもりだ」

『どうするもなにも……。ここよりも安全な場所を求め移動し続けるだけです。我々ウェアリーフは静かで大地の恵みが肥えた地であれば何不自由なく生活できますから』

「それならば、お前このままこの洞窟に住み続けるつもりはないか? ただし、条件として俺の配下となれ。そしてお前は俺のダンジョンを造る計画に協力しろ。そうすればある程度身の安全は保障してやる」

『ま、まことでございますか! おお、なんという僥倖(ぎょうこう)。ぜひあなたの支配下に加わりましょうとも、リカウス様』

 

 おお、なんとあっさりと……。意外と言ってみるものだな。

 しかし(しもべ)を得たとはいえその魔物はあまりに貧弱なウェアリーフか。とてもではないがダンジョン経営の役には立たないだろう。

 

(とにかく計画の第一歩てところか。先は長そうだな……)

『それではリカウス様。まず私は何をすれば良いでしょう』

「えっ。あー……」

 

 しまった、魔物をダンジョンに連れてこれたはいいがこの先どうするかを考えてなかった!

 創造主は魔物を増やして繁栄させろと言っていたな。だが結局増やすには魔物に子供を産んでもらわなくちゃならない。ウェアリーフ一体だけじゃどうしようもないじゃないか。

 

「ウェアリーフ、この付近にお前の仲間はいないのか。例えば同種の異性とか」

『いいえ。残念ですがこの辺りで同じ種族を見たことはありません』

「お前たちの種族は群れたりはしないのか」

『はい。我々の種族は生まれ落ちてすぐに自身の足で新天地を目指します。行きついた地で根を張り、静かにその地で子孫を残していくのです』

 

 ああ、なんて幸先の悪い! 俺が射た獲物は旅がらすと言うことだ。近々同種族がふらりと現れる可能性はまず期待できない。

 

 追い打ちをかけるように腹が減り過ぎて頭が回らなくなってきた。とりあえず続きは腹ごしらえを済ませてから考えるとしよう。

 

「そうかわかった……。俺は腹が減ってるから食料を調達してくる。ひとまずお前は留守番でもしててくれ」

『食料……。リカウス様はどのような物を食べるのですか』

「へ? それは、例えば肉とか植物とか……。たぶん雑食だし」

 

 妙な事を聞いてくるものだ。人の食べるものにそんなに興味が湧くものだろうか。

 しかし言われてみると俺も自分が何を食べる種族なのかわからない。ウェアリーフに答えを返しはしたが、俺は生まれ落ちてからまだ一度も食事を取っていないのだ。

 

 それなのに、どうして俺は肉が食べたいなどと考えるんだ……? 肉の味も匂いも知らないはずなのに、肉厚な骨付き肉に噛り付いた際の、脂が口の中を満たす幸福感を思うと垂涎がやまない。

 

『もし果実をお探しであるならば、非力ながら私がお力になりましょう』

「お前が? お前には果物を見つける能力があるのか」

『いいえ、そうではありません。私のこの頭に生る果実、こちらは草食性の動物であれば食べることができるのです』

「なんだと!?」

 

 ウェアリーフは頭を垂れ短い両手を必死に伸ばす。頭の先にぶら下がる果実がプツリともぎ取られ、赤く丸々とした瑞々しい果実が俺の前に差し出される。

 

『嘘ではございません。我々も食糧難の際は自らの果実を非常食として食べるのです』

「そ、そうなんだ」

『ささっ。遠慮なさらずガブリと!』

 

 う、うーんそう言われても……。ぶっちゃけこいつ見た目がばっちいから、こいつから採れた実を食べるのがすごく憚られる。

 そもそも見た目はドブっ……ネズミだし、なんか得たい知れない菌とか持ってそう。だけどすっげー腹減ったしなぁ。くそ、だんだんこれが禁断の果実に見えてきた。

 

「ええい、ままよ!」

 

 俺は空腹に耐えきれず真っ赤なその実に噛り付いた。

 そしてすかさず驚いた。この果実うまいぞ! 赤い表皮の内側には真っ白な果肉だ。触感は固く歯ごたえがあり、噛みしめると果汁が広がり果実特有の甘味とほんのりとした青臭さを感じる。

 若干果汁が泡立つのが妙だが、味も量も小腹を満たす分には十分だと思われる。

 

『その顔を見る限りご満足いただけたようで。ですがひょっとすると、リカウス様はその味をご存知かもしれません」

 

 俺がこの味を知っている……?

 俺はまだ生まれてから何も食ってないので当然そんなことは知るはずはないんだが……。実はその味は人間の味なのです! ……なんて言うんじゃないだろうな?

 

「え……い、いや、覚えがないけど。その言い回しすごく怖いからやめてほしい」

『その果実なのですが……実は我々ウェアリーフが本来宿せるものではなく、自生している植物のものなのです』

 

 な、なに? 一体どういうことだ? 俺にはこいつの言っていることが理解できない。

 自生しているも何も、これはたった今お前の頭からもぎ取られたものではないか。

 

『我々ウェアリーフは自分の食べた果実を頭上の植物に宿すことが出来るのです。そして、この実は自分たちが余分に摂取した栄養が表に出てきたものになります』

 

 なるほど、自生しているとはそういうことか。しかしそりゃすごいな。一度でも食べた果実なら何でも生らせることが出来るのであろうか。

 俺は食べるのに夢中になりながら目くばせで話の続きを促した。

 

『本来は私たちも一般的な植物同様、果実に種子を宿し、動植物に食べさせる事により遠くの地へと生息地を広げます。我々の場合は自分の食べた果実を模倣し、その中に自らの種子を内包させるのです』

 

 ウェアリーフはそこで言葉を区切り俺を見つめた。俺が食べ終わるのを待っているらしい。律儀な奴だ。

 

「むしゃむしゃ……んぐっ。ふぅー、少しは腹が満たされたな!」

『ご満足いただけ何よりです』

「それで話の続きだが、それは面白い特徴だけどなにか理由があるのか? 別に果実を実らせなくとも種は撒けるだろ」

『食べることが出来る植物がそこに生っていると言うのは、その一帯にはそれらを食べる生物が生息しているということなのです。その地に生えている植物を真似ることによりそれらの生物を利用し、着実にその地に子孫を残すことを可能としてきたのです。もちろん、成長したその後は自らの足で新しい土地を目指しもしますがね』

 

 随分と計算高いな。つまり食べてくれるかわからないオリジナルの果実を生み出さずとも、繁栄の実績のある植物の実を生せば良いと言うわけか。

 植物の果実は長い進化の賜物だ。そんな試行錯誤をせずに、文字通り美味しいところをまるごと頂いてしまおうというアイディアは見事である。

 

 しかし先ほどから気になっていたが、このウェアリーフとか言う種族、見た目と裏腹に結構知能が高いのかもしれない。

 言葉を話せるほどではないにしろ、俺に伝わってくるこの語り口調が随分と畏まったものであるし、何より魔物とは思えないほど馬鹿丁寧だ。まず間違いなくそこらの野生動物以上には知恵が回ると思われる。

 

「いやいや驚いた。お前結構すごいんだな! その果実なんだが、これからも生らせる事はできないか?」

『もちろん可能ですとも。私が食した果実限定にはなってしまいますが』

「全然問題ないって! さっきの果実だけでも十分すぎるほどだ。それで、それってどのくらいの頻度で実るんだ」

『今の私ですと……多くても日に三つでしょう。成長すればもっと多く宿すことが出来ますよ』

 

 す、素晴らしい!! こいつがいるだけで食料問題は解決ではないか!

 ダンジョンを造るという目的の前に安定した食料供給は必須事項だ。自分の食料を確保できないものが魔物の食料を手に入れることなどできようか。

 

 ここに来てとうとう俺の時代が始まったか! 一時はどうなることかと思われたが重大な懸念事項が一つ解消されたのだ。先の見えない俺の未来に光芒が差し込んだかのようではないか!

 

『あの……リカウス様。よろしいでしょうか?』

 

 俺が背を向けてガッツポーズをかましていると、少し気まずそうにウェアリーフが呼びかける。

 

『それで、私の食料……栄養はいかがすればよいでしょう?』

「え?」

『果実を生らせることは可能ですが、先ほども申しました通り、それは私が余分に栄養を摂る事により可能となります。そのためには普段以上に私自身が栄養を摂る必要がございます』

「……その、お前の栄養って?」

『他の植物の果実、水、日光、そして大地の恵みと呼称される土壌成分です』

「それらって、この洞窟の中にどれくらいあるの?」

『これぽっちもありません。実らせることはおろか、私が生きることすら難しいでしょう』

 

 

 

 …………人生とは、そううまく行かないものだな。

 生まれてから二日目の俺は生きることの大変さを噛みしめた。

 




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