ダンジョンマスター ~俺はダンジョン経営者~   作:ぼいどれげぬん

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ここから少しばかり盛り上がりに欠ける話が続きます。
ごめんなさい。


第5話 『有能なる従者』

 

 一段と日差しの強い朝だった。地面は煌々と日差しを押し返し朝梅雨に濡れた植物たちを乾かしていく。夜に噴いた汗を蒸発させていく様は命の逞しさを知らしめているかのようだ。

 だがそれは同時にとても疎ましいものである。ただただ何も考えず考えようともせず与えられた天命を全うしようとするその姿は哀れで下等な生命の体現だ。しかし他者に命を握られている者からすれば束縛のないどこまでも自由な姿に映る。

 

 洞窟の陰で朝ごはん代わりにウェアリーフから採れた果実をほおばりながらふとそんな事を考える。どうせ俺は日陰者のダーキスさ。暗く陰鬱とした場所をホームとする俺にゃシャバの光は体に毒だぜ。

 

『どうやら朝からご機嫌がすぐれないようで』

 

 不機嫌そうな俺の気持ちを察したウェアリーフが話しかけてくる。このウェアリーフ、巨大ネズミな姿をしているくせに意外と真面目で気配りができる。

 獣系の魔物は粗暴で雑なものが大半だ。しかしこいつは見た目は獣でも性質はドリュアス、植物系の魔物に近い。人は……もとい魔物は見た目によらないものだ。

 

「うむ。これからどうしたものかと思ってな」

 

 配下を従えるものとしてこんな弱気な発言は本来するべきでないのはわかっている。だが現実問題どうしたらいいのか見当もつかないのだ。

 安全を保障するなどと大口を叩いたもののあの言葉の半分は全く根拠のないデタラメであり、そもそも自分の身すら守れないのに周りを助ける余裕などあるわけなかろう。

 

「お前、明日は幾つぐらい実をつけれそうだ?」

『申し訳ありません。多くて二つ、少なくとも一つは必ず実を生せましょう』

「謝ることはねぇよ。だけどこのままじゃマズいよなぁ……」

 

 食料も節約しなくてはならない……頭ではわかっていても手は自然と二つ目の果実へと伸びていく。言い知れぬ不安を抱きながらも現実から目をそらしていた。

 チクショウ、ウマい果実だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

―――― 第5話 『有能なる従者』 ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 このままじっとしていても仕方が無い。足りない分の食料を探すために動かなくては。

 俺だけでなくウェアリーフが活動するにもある程度の養分が必要だ。聞いた話ではほとんど動きさえしなければ消費するエネルギーも少ないそうだが、それではただダンジョンに観葉植物を置くようなものだ。ネズミの冬虫夏草を飾っておくような気色の悪い趣味は俺にはない。

 

「とりあえず洞窟の外に木の実でも探しに行ってこよう。飲み水も汲んでこなくちゃならないしな」

『かしこまりました。それでは私は日向で少しでも養分を蓄えつつ洞窟の見張り番を務めるとしましょう』

 

 洞窟から二人で表へと出る。やはりこの日差しは俺にはそれなりに厳しい。先日同様、すぐ近くに生えていた大きな葉をもぎ取り傘の替わりとした。

 その様子を見ていたウェアリーフは不思議そうに俺に問いかけてくる。

 

『リカウス様、ひょっとして日差しが苦手なのですか』

「あ? ああ、そうらしい。直射日光を浴び続けてるとすぐに頭がクラクラするんだ。肌もすぐ焼けるように熱くなるし」

『なるほど……それはご不便ですね』

 

 ウェアリーフが思案する顔をする。小さな前足で顎に手を置き考えにふける姿は愛らしくもありいささか間抜けだ。

 

『それでは僭越ながら、リカウス様がお戻りになられるまでの間、私がリカウス様の衣服を作っておくのはいかがでしょう』

「な、何だと!? お前服を作れるのか!」

『ええ。衣服と言っても私に作れるものは木の葉をつなぎ合わせた簡素なものですがね。しかしリカウス様のお召し物よりは幾ばくか日差しを避けれるとは思います』

「構わない、頼めるか!?」

『ええ、喜んで』

 

 ウェアリーフはニッコリと笑うとすぐさま森の木々を見渡し始めた。服を作るのに使用する木の葉を選定しているのだろう。

 いやはや驚いた! まさかあいつにそんな特技があるとは。つくづく有能すぎるネズミだ、ひょっとして天はこの非力なダーキスを哀れみ味方をしてくれているのではなかろうか。

 

 

 

 日が落ち始め、特に危険も無く無事に食料を手に入れることができた俺は洞窟へ向かっていた。予想を遥かに超えて大量に採ることが出来たため節約すれば二人でも二日は持つだろう。

 水に関しては汲む物が用意できなかったが川の場所はすでに把握できている。今から急いで帰れば夜になる前に帰ってこれるだろう。

 

(そうだ、俺の服に関してはどうなったかな)

 

 俺は自分の服を改めて見回してみる。ところどころ穴が開いており無理に引っ張れば容易く破けてしまいそうなほど傷んでいる。

 染めの跡があることからかつては何かしらの意匠が施されていたのだろう。しかし全身泥まみれで今ではどのようなものかは判別できない。まぁ、どうせ大したものではないだろう。

 創造主も何故このようなボロを着せてくれたのか理解に苦しむ。せめて服だけでもまともであればロングイヤーウルフ共になめられる事もなかったというに。

 

「戻ったぞウェアリーフ。洞窟にいるのか?」

 

 洞窟の前に立ちウェアリーフに呼びかける。奥からかすかに光る双眸がひょこひょことこちらへ近づいてくる。ウェアリーフは俺の姿を見るなり目を細めた。

 

『おかえりなさいリカウス様。これはこれは大量ですね! たった一日でこれほど見つけるとは流石でございます』

「ラッキーだっただけだよ。水は持ってこれてないけど川の場所はわかるからこの後にすぐ汲みに行ってくる」

『かしこまりました。私もご一緒しましょう。水を汲む物などはおありですか?』

「あ……そういやどうやってここまで運ぶか考えてなかった」

『ではそちらは私が用意しましょう。近くに水はけのよい植物が自生しているのをみつけました。それを利用し水桶を作れば水汲みの回数も減りましょう』

 

 そう言うとウェアリーフは再び森の中へと入っていった。俺は思わず呆気に取られたまま立ち尽くしていた。

 

「……あいつ、何者なんだよ」

 

 なんの能力も持たない自分が恥ずかしくなってきたぜ……。

 

 

 

 水汲みを終え二人でダンジョンへと戻ってくる頃には太陽は沈み切っていた。暗い洞窟内で俺たちは腰を据えて向かい合う。

 

「そういやお前は暗い所でも目が見えるのか」

『はっきりと言うわけではありませんが見えます。私には動物由来の第六感と鼻先の触覚がありますから、目が殆ど見えなくともある程度の認識能力は備えています』

 

 ほう、獣の特徴はここで活かされているのか。確か聞いたことがある。獣の中にはあまり目が良くなく、嗅覚や聴覚を駆使して周囲の把握に長けるものがいると。

 ウェアリーフは外敵から身を守る術を殆ど持たないようだが、動物特有の有用な能力が全て失われているわけではないのだな。

 

「便利だなぁ。っとそうだ、今朝話してた俺の衣服ってのはどこまでできたんだ?」

『そちらでしたらすでに完成しております。ただいまお持ちしましょう』

 

 これは驚いた! いくらなんでも速すぎるのではなかろうか。……しかしその分作りには期待できそうにないか。いくら木の葉をつなぎ合わせるだけと言えど、たった一日で作れてしまうのではたかが知れる。

 

『さぁどうぞ。この付近は植物の種類が充実しておりまして良い仕上がりになったかと思います』

「お、おお…………おお!? こ、こいつは!!」

 

 思わず立ち上がり衣服を広げてみる。暗くともわかるほどしっかりした作り。予想以上に重たくはあるがそれは各部がほつれぬようツルで細かく編み上げているためだろう。

 俺が普段日よけとして使用しているものと同程度の大きさの葉を筆頭に、幾重にも木の葉を重ね合わせ肌の露出を避ける構造をしている。ローブのように長い裾は着る物を森の賢者と見紛わせるだろう。

 そしてなにより、かねてより望んでいた顔の上部をすっぽりと覆ってしまえるほどのフードがすこぶる嬉しい。

 

「お、お前こいつはすげぇぞ! まるでエルフの作ったローブみたいじゃないか!!」

『お褒めに預かり光栄です。ですが私の作ったものなどそのような大層なものではございません。せめてリカウス様がご満足いただければ何よりです』

「いやいや謙遜するなよ! すごくありがたいぜ、俺の今着てるボロよりもまともだ。今着てみてもいいか?」

『どうぞ、ご試着ください』

 

 俺は早速試着させてもらうことにした。肌に触れる葉の感触に不快感は無く、少々ひんやりとするのが心地よい。全身がすっぽりと覆われているように見え風通しは良く、強い日差しの中でも中で蒸れる心配もなさそうだ。

 

「なぁ、これ全部木の葉だろ? いずれ枯れちまうんじゃないのか」

『ご安心を。それらの葉にはとある樹木より採取できる防腐性のエキスを塗っております。変色は免れませんがそれなりに長持ちするでしょう』

「これならあの犬共にみずぼらしいだなんて笑われることも無かったんだがな~。くっそー、お前ともう少し早く出会ってれば良かったぜ」

『……そこまで評価していただけるとは、光栄の極みですとも』

 

 ウェアリーフは静かにポツリとつぶやいた。俯いた表情はこの暗さの中でははっきりとは確認できなかったが、不思議と嬉しそうにしている気がした。

 

「今日はお前のおかげで随分と進展した気がするぞ。ダンジョン造りを始めてたった二日でこれは随分と順調じゃないか?」

『ダンジョンを造るというものがどのような物なのかはわかりませんが、少しでもお役に立てているのであれば私としても喜ばしい限りです』

「しかし困った事が一つあるんだよな。はてさて、これは流石のお前も解決できないだろうし……」

 

 『はて、その悩み事とはいったい?』ウェアリーフは首をかしげて俺の顔を覗き込む。俺は腕を組みながら話をつづけた。

 

「水は川が近くにあるしお前が作ってくれた水桶があれば貯水も可能だ。だが食料問題が解決したわけじゃない。俺はお前が創る果実を食えばある程度解決するが、お前がそれを創るための養分が足りない。結局のところ毎日森の中で食料を探さないといけないのは変わりないんだ」

『それは確かにその通りですね』

「せめて洞窟にお前の求める大地の恵みとやらが残っていればなんとかなったかも知れないんだが……。くそ、冒険者め。火なんか放ちやがって何を考えてんだ」

 

 俺の愚痴にウェアリーフも『人間の考えは私にもわかりません』と同調する。だが別に悲観しているわけでもなさそうだ。おそらく自分以外の生き物に対して関心がないのだろう。

 

『確かに私ではお悩みのお役には立てそうもありませんね。まいりました』

「後は金についてだな。いくらか持ってはいても使いようが無ければ全く無駄だ。何とか人間の町に繰り出させれられないもんか……」

 

 そう、一番の問題は金なのだ。額の問題ではなくこれを役立たせるにはどうすれば良いかと言うもっと根本的な話。

 俺は人間に近いと創造主は言った。しかしその性質は魔物により近い。どうにか容姿を誤魔化し金を現物に交換する方法はないものだろうか。

 

 




魔物図鑑で一部フライングしている箇所がありすみません。

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