ダンジョンマスター ~俺はダンジョン経営者~   作:ぼいどれげぬん

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第8話 『地獄の沙汰も』

 

 背にかかる重圧は苦しいものだったが行きと比べると足取りは遥かに軽かった。

 道中魔物に襲われはしないかと随分心配したものの杞憂に終わった。鳥がさえずり森がせせらぐ様は新参者の俺ですら故里に戻ったかのような居心地を覚える。まぁ俺に故郷などないのだが。

 

 無理くり縛り上げた大荷物を傾斜の上まで一気に運び上げる。大きく息を吐いて「さぁもうひと踏ん張り!」……と思い顔を上げる。

 木々の隙間から、崖下の洞窟は視界に小さく映り込んでいた。しかし、なんだ? どうも感じる雰囲気が異なるような……。

 

「おぉーい、帰ったぞ! ウェアリーフ居るのか!?」

 

 洞窟の目前で呼びかけてみる。しかし、帰ってきた反応は静寂だった。

 中からは魔物の気配がしているし周辺が荒らされている様子もない。いったいどういうことだ? 最悪の結論が脳裏をよぎる。

 

(まさか、あいつ……)

 

 明かりの入らない奥底からほのかに何かが瞬いた。俺は少しずつ後ずさりをする。

 ダーキスは魔物の気配を探ることができる。そしてロングイヤーウルフとウェアリーフ、ウィルオールに出会い分かった事がもう一つ。その相手が敵意を持っているかどうかを感じることができると言うことだ。

 そして目の前のそれはわずかな敵意を含んでいる。ウェアリーフならばこんな反応をするわけがない。しかし何故だ? どうもこの気配はあいつのものと似ている気がしてならない。

 

 双眸と思われる光は一歩、また一歩と近づいてくる。それに呼応するように俺の足も洞窟から遠ざかっていく。

 

(先手を取られる前に逃げるしかない――)

『お帰りなさいませリカウス様』

「んお!?」

 

 突然真後ろから声をかけられ、盛大に飛び上がったのち尻から地面へと落下した。

 這いつくばって後ろを振り向く。すっかり見慣れたまぬけ面が俺を見下ろしていた。

 

「おおおま、おま、おま――」

『ど、どうされましたか? 何かあったのですか?』

「いいいい生きてたのかウェアリーフ!? ほ、本当にお前なのか!?」

『……? え、ええ。私の認識が間違っていないのであれば、リカウス様のおっしゃるウェアリーフは私だと思いますが……』

 

 そ、そうだ! 先ほどのあいつは!?

 急いで前へと向き直し歩み寄るそれを注視する。だがあまりにも虚を突くその姿に、俺は開いた口が塞がらなかった。

 

「な、なん、で……ウェアリーフ、なんでお前があそこにも居るんだ…………」

 

 俺の独り言のような質問に一瞬理解が出来なかったが、流石はウェアリーフ、すぐに俺の質問の意図を汲み取った。

 

『おお、そうでした! リカウス様にご報告申し上げます。先日リカウス様が出かけられる際に種を植えてみたのですが、妙な事で、今朝早朝には既に自立するほどまで成長していたのです』

 

 ば――バカな!? まさか一日どころか、たったの半日で増えたと言うことか!

 創造主は確かに七日程度で倍に増える種族も居たと言っていた。仮にウェアリーフがそれに該当するとしてもこれはいくら何でも異常ではないだろうか。

 考えられるとすれば種が成長したというのはあいつの勘違いであり、偶然にも近くを通りかかった別個体と間違えた、と言った所だろうが……。まさか同種の顔の区別がつかないわけもあるまい。

 

 ウェアリーフは複製へと近づき何かを話し始めた。俺はと言うと先ほど腰を抜かしてしまったため動けずにいた。

 こんなことで腰を抜かしたなど恥ずかしくて言えたものではない。せめてバレぬようにと余裕ぶってみる……が二人はこちらになど見向きもしない。先ほど打ち付けた尻が痛い。

 耳を傾けてみると二人の会話の内容が頭に入ってきた。

 

『いいか、あの方は私たちの主人だ。お前たちは私の命令には絶対服従しなければいけない。しかしあの方の命令は何よりも最優先とせよ』

『カシコマリマシタ』

(……『たち』?)

 

 

 

 

 

 

 

 

―――― 第8話 『地獄の沙汰も』 ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『お待たせいたしました。ただいま良く言い聞かせておきましたため、今後は私たちの命令は忠実に守るでしょう』

 

 ウェアリーフが四体もの複製を紹介する。すでに彼らから敵意は失せウェアリーフ同様畏まるようにこちらを見つめていた。

 

 ウェアリーフは複製とは分裂に近いと言っていた。つまりこいつらは元となったウェアリーフとほぼ同じ能力を有しているのは間違いない。

 しかし流石に知識までは同一とはいかないらしい。俺が近づいたときに敵意を感じたのは俺と初対面だったからだろう。

 とにかく手伝い手として活躍できるのであれば何ら問題はない。

 

「しかしまさかたったの一夜で四体も増えるとは。ともすればダンジョンを造り上げるのも遠くないかもしれんな」

『ですが彼らを使うにしても当然ながら栄養が必要です。以前も申し上げた通り洞窟の中にはそれらの栄養はありません。日光さえ取り入れることが出来ればまた話は変わってくるのですがね……』

 

 このダンジョンは光すら差すことのない完全な一方通行だ。天井に穴でも設けたいところだが、残念ながら今の俺にはその方法も手段もない。

 さらに言えばここは大きな崖の下を掘るように存在している。よしんば穴をあけられたとして、取り入れることのできる光などたかが知れている。

 

「光源についてはもっと別な方法で解決するしかない。それに明るいダンジョンって防犯的な意味でどうなんだ……?」

『目を頼りにしている生物には助かるでしょうね。逆にこのような洞窟に住む魔物は視力の弱い者が多いのでは?』

 

 ウェアリーフの言う通り、洞窟に住む魔物は大概視力以外の優れた感覚器に重きを置いている。人間のように視力に頼って空間把握を行う生物ならともかく、洞窟の魔物には利点はない。

 むしろ俺のように光を嫌う種族もいるわけで、そういった意味では光を取り込むのは自らを追い込むだけだろう。

 

 よくもまぁやること成すこと悪い方へ転がるものだ。これがダーキスの悪運と言う物なのか、ただ単純に俺自身の運が悪いのか。とりあえずはっきりしてるのは、元をたどれば創造主が全て悪い。

 

『それはそうとリカウス様。成果の方はいかがでしたでしょう』

「おっと、そうだった」

 

 すっかり忘れていた。俺は今後の事を見据え人里へと降りる大冒険を冒したのではないか。

 荷物は村で一緒に購入した麻袋に詰めている。ツルで作られたロープを解き一つずつ荷物を取り出していく。

 

 購入した品はまず食料。果実、少しの野菜、穀物、そして干し肉。あまり大量に買うと持ち運べなくなるのは目に見えていたためとりあえず三日分を目安に押さえた。

 ウェアリーフが小食のため殆ど自分の分のみで済んだのは助かった。

 

「果実なんかはお前……おっと、お前たちも食うだろう? これらも一度食べれば実を生らすことができるのか?」

『はい、可能です。これは私も嬉しいですね。私たちも色々な種類の植物を食べることで成長しますから』

「成長……ははぁ、なるほどな。あらゆる植物を食べてそこに適応するのがお前たちの習性なんだっけ」

 

 まさか魔物が成長を意識するなんて思ってもいなかった。

 いや、この言い方だと語弊がありそうだ。ダーキスの俺が成長を意識するのだ、大別すれば同じ魔物なのだからなんらおかしい事はないだろう。

 しかしもっと知能水準の高い魔物だけがそのような事を考えるのだと思っていた。ウェアリーフはとても頭が回ると言うことは分かっているのだが……如何せん見た目がネズミなんだもんなぁ。

 

「ちなみにこの穀物も生らしたりはできるのか?」

 

 差し出したのは干し草のように纏められた木本植物だ。これは『バクライ』と呼ばれるものだそうで、粒上の実を乾燥させすり潰し粉末状にしたものを調理に使用するのだと言う。

 人間たちの主食であるブレッドになったり、水に浸し発酵させる事によってエールを作ったりと有用な植物らしい。流石に生のままでは食えないが保存がきくと言うこともあり少々買ってみたのだ。

 

『これは初めて見る植物ですね。……可能ではありますが、こちらは私一人ではそう多くの量は取れないでしょう。複数体でようやくこれと同じ量を生らせることが出来ると見て良いかと』

「そうか……この植物が生ってるところは見た事が無かったし、一回で結構な量がとれるもんだと思ってたんだがな」

『そうだとしても必要な栄養の量はその分増えることになりますよ』

「そ、そうだったな」

 

 安定して作れるようになれば食料事情が解決されるかと思ったが致し方あるまい。保存の利く植物は魅力的だが人間たちが普段から食しているということは流通量も多いはず。必要になればまた村へ買いに行けばよい。

 

「さてと。んで、次はお前に頼まれてたものだ」

『おお、手に入ったのですね!?』

 

 食料を全て並べ終わり、次にウェアリーフから求められていた、今回人里へと降りた目的の物のお披露目だ。

 二重に梱包された麻袋。その中には人々が食した後に捨てられた生ごみや鳥の卵、様々な生き物の死骸など。これらは全て大地の恵みと称されるものだと言う。売ってくれた店主はこれを『肥やし』と呼んでいたな。

 しかしひどい臭いだ……果たして本当にこんなものが栄養となるのだろうか。

 

『す、素晴らしい! まさしくこれこそ私の最も欲していたものでお間違いありません』

 

 こいつがこんなに興奮するとは珍しい。とてもまじめな奴だと思ってたんだが……まさかこんなドギツイ趣味をお持ちの変態さんだとは。

 いやはや、やっぱり人は……もとい魔物は見た目によらないものだな。

 

「お、お前こんな臭いものどうするつもりだ」

『もちろん、食べるのです』

 

 えっ、食べるってこれ生ごみ――――あっ。

 

『……なぜ私から離れるのですか』

「え、いやぁ……。やっぱりネズミなんだねお前」

『ネズミではありません。……誤解のないように申し上げておきますと、これはどんな植物にも欠かせない栄養の元なのです。本来植物が成長するのに必要な栄養は地中に眠っています。それは大地に宿る精霊が生物の屍を土へと返すためと私は考えています。リカウス様が持ち込まれたそれらも元をただせば生物の一部であり、我々の栄養となり得るのです』

「へぇ~、それはしらなんだ」

『大地の恵みは大地の精霊が作り出してくれるまで得ることはできません。大地の精霊たちは呑気な性格のため恵みが地中へと還るのは時間がかかります。――ですが私たちウェアリーフには大地の精霊と似通った能力を持っています。口から栄養の元を取り込むことにより体内で大地の精霊の何倍もの速さで栄養を還元できるのです』

「せ、精霊と似た能力とはすごいじゃないか!」

 

 どのような生物も持ちえない超常的な力を有する不可視の存在――精霊。一説には精霊はこの世界全体の理を支配していると言われている。また精霊こそが生きとし生けるもの全ての祖であるとし崇拝するものたちも居ると聞いた。

 人間も魔物も関係なく当たり前と感じている全ての現象に精霊は干渉している。精霊とは我々と限りなく遠く、しかし最も身近な存在なのだと――。

 

 

 ――『言われている』? 『聞いた』?

 俺はこんな話をいつ誰から聞いた……?

 

 

『……り、リカウス様?』

「あ――な、なんだ?」

『いえ、今一瞬どこか遠いところを見つめていらっしゃったようですが、いかがなされましたか』

「い、いや、何でもない。気にするな!」

 

 俺の否定にウェアリーフは訝しむ。どうやら相当おかしな表情をしていたらしい。

 おそらく先ほどの知識は毎度よろしく創造主の()()()()なのだろう。ウェアリーフですら精霊の事を知っているのだ、この知識はダンジョン造りに必要なものに違いない。

 だが、どこかで誰かにこの話を聞いた覚えがあるのは何故だ? まず間違いなくウールグー村の連中はおろか、創造主とすらこんな話をした覚えがないのだが……。

 

「しかしウェアリーフ、お前がそんな力を持っているとは驚かされた! それだけでなく精霊よりも優れている能力だとはな!!」

『ですが……一つだけ、この能力も欠点があるのです』

「欠点?」

『私たちの能力は速さに秀でる分効率が悪いのです。例えば、大地の精霊によって一つの屍から得られる大地の恵みを10、そして速さを1としましょう。それに比べ私たちの場合、一つの屍から得られる大地の恵みは3、そして速さは4と言った所でしょうか』

「得られる恵みは三割、速さは四倍か……」

 

 果たしてその差と言うのがどれほど痛手となるかは想像がつきにくい。

 普通に考えれば元々得られるもののが半分以下に落ちると言うのはかなり痛手だろう。しかしダンジョン経営に関してはどうだろうか?

 

(俺たちが一番欲しい物は何だ? 住処はある。食料と水も安定確保した。足りないのは……頭数と自衛力?)

 

 まず第一に考えるべきこととして、今の俺たちは圧倒的に頭数が足りない。全員含めてもたったの六人。これではそんじょそこらの野犬よりも頼りない。

 確かに人数が増えれば出費も多く魔物の管理も大変になるだろう。しかし同時に人数が増えてこそできることも広がると言う物だ。

 

 そして次に自衛力。俺自身の能力は人間と大差ない。つまり脅威に対しては全くの無力と言ってもいい。

 ウェアリーフはどうかと言えば、こちらも殆ど同じだろう。彼らには自分で言うように外敵に対する防衛手段を持たない。

 

(ウェアリーフたちが栄養を潤沢に取りたくさんの果実を実らせば食料は心配ない。それなら、あいつらにはもっと複製を作ってもらって頭数を増やすのはどうだ? 手伝い手さえあれば罠や武器なんかを作れるかもしれない)

 

 流石にウェアリーフたちに罠を作る知能はないだろう。しかしそこは俺が指導すれば良い。

 幸いここは森の中だ。大木を材料に色々と面白い事をできるだろう。

 

「ようし、方針を決めたぞ! ウェアリーフよ、お前は複製たちに命令してもっと多くの複製を作れ」

『かしこまりました。数はいかがいたしましょう?』

「目下のところは三十体ほど作ってくれ。その後は余裕をみながら数を増やしていくことになるだろう」

『余計なお世話かもしれませんが、増えた分の食料についてはどうお考えですか?』

「数が増え始めたら肥やし使って食料供給を頼む。だが全員じゃないぞ。何体かは俺の指導の元別作業がある。仕事を分担するんだ!」

 

 俺は計画の詳細をウェアリーフに話した。ウェアリーフは得心が行った様子ですぐさま計画の実行に移った。

 上手く事が進めば数日後にはさらなる進展が望めるはずだ。今までただ寝るためだけに帰っていた崖下の洞窟は名実共に拠点と呼べるダンジョンに生まれ変わるだろう。

 数日後には再度ウールグーの村へ赴き肥やしを買ってくる必要があるな。そのときに罠や拠点づくりの技能について村人たちに乞わなければならない。できるだけ人間たちとの関わり合いは避けたがったが致し方あるまい。

 

(衣食住、人員の問題、身の安全。不安はあれどこれらの問題はとりあえず解決したとみていいだろう。後は…………)

 

 俺は金の詰まった麻袋を持ち上げた。当初より軽くなったそれが今後どれだけこの余裕が続くかを表しているかは言うまでもない。

 

「金、か……。さぁて、どうしたものか」

 

 肥やしを手に入れるには金が必要だ。だがその他にもきっと多くの備品が俺たちには必要となろう。何かを得るには何かを捨てなければならない、金は万能だが有限ではない。

 我らが魔物にとって仇敵である人間の通貨を重宝しなければならないとはなんと皮肉な事だろう。地獄の沙汰も金次第とは良く言ったものである……。

 

 

 

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