転生したら人類の敵側になってしまった   作:クォーツ

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 好き!

 まさか年が超えるとは思いませんでした。
 その間にも、3章が配信されたりと色々新しい情報が出てきていますが、少しずつやっていきます。


4話目

 仕事を終えた清水水輝は、予定通り自分の仕事を済ませて本拠地である『屋敷』に戻った。

 屋敷に入ると、どこからともなく表れた子供達が構え遊べとせがんでくる。だが、『ぬらりひょん』様に用事があると言うと不満げに口を尖らせながらも、渋々隣にいた烏天狗にターゲットを移した。

 困った顔でこちらを見る彼だが、彼は少し考えると烏天狗…その長である『風雷』に告げた。

 

「彼らの不満を買うことはあまりしたくないし、報告は私と『アルターエゴ』で十分だから、申し訳ないけど遊んでやってくれるかい?」

 

「…よろしいのですか?」

 

「この屋敷に『貧乏神』が来るよりはよっぽどマシでしょ?」

 

「御意に」

 

「お兄ちゃんこっちこっち―!」

 

「…まあ待て、今行くから。これ、袖口を引っ張るな」

 

 清水水輝に一礼した彼、『風雷』は普段の堅苦しい雰囲気を崩して子供たち…座敷童達に引っ張られていった。

 座敷童達に連れられて行く彼の顔が綻んでいたように見えたのはきっと気のせいだろう。

 

 彼らの姿が見えなくなってから、清水水輝の影が揺らめく。

 その影の形が変わり、床から盛り上がるようにして彼の真後ろに立ち並ぶと、その陰に色と質量が宿り『アルターエゴ』が姿を現した。

 

「よかったの? 報告を彼に任せることも出来たでしょうに」

 

「遊んでるだけで事態が解決するならいくらでも遊んであげるさ。けど、そういう事態じゃないからね。自分が何も知らないところで動いていくことほど怖いものはないよ」

 

「そう」

 

 彼らは屋敷を歩いていく。

 途中にある障子に目が浮かび、こちらを覗き込んでいるがいつものことなので気にしない。

 悲しいことに、『目目連』はこの異聞帯(ロストベルト)に置いても監視以外のことは碌にできはしない。

 意思疎通さえできるようになっているものの、商人に売りさばかれるほどの貧弱さを持つ彼らを匿える場所はこの屋敷以外になかったのだ。

 彼らはこの異聞帯(ロストベルト)において最も、絶滅危惧種に近い存在だ。

 

 

 そんな彼らに手を振りながら、一番奥にある部屋に辿り着いた。

 手慣れた様子で障子を開け部屋に入ると、そこには座布団の上で正座して彼らを待っているぬらりひょんがいた。

 恐らく、『目目連』から彼らが来ることを聞いていたのだろう。

 この屋敷に、ぬらりひょんが目を光らせていない場所は存在しない。

 妖気と言われる、妖怪が持つ特有の魔力による探知もあれば、『目目連』や座敷童達の目もある。

 文字通り、この屋敷全体に彼の目と耳があるのだ。

 

 座るように促され、用意された2つの座布団を埋める。

 ぬらりひょんと彼らの間には、ちゃぶ台があるだけで他に遮るものはない。

 二人が座ると同時に、お茶と茶請けが用意される。

 それを用意した侍女も当然ながら人間ではない。

 だが、清水水輝がそちらに意識を向けるよりも早く、ぬらりひょんが切り出した。

 

「遅かったの。して、首尾はどうじゃ?」

 

「7割成功、3割失敗ってところ」

 

「ほう…して、何を失敗したのじゃ? 友人…カドックといったか? それが既に息絶えておったか?」

 

「いいや、彼はきちんと回収できてるよ。今は、九尾の姉(あね)さんに診てもらってるところ。とりあえずは軟禁させるような形で、空いてる部屋に居させる予定」

 

「ふむ…となると、カルデアに隠された戦力があったか?」

 

「いんや、彼らに『風雷』をどうにかするだけの戦力はなかったし、シャドウ・ボーダーごと何事もなく輸送出来たよ」

 

「? それでは、10割成功といってもいい成果ではないか。全て予ての予定通りじゃろう」

 

「うん、落(・)と(・)す(・)座(・)標(・)指(・)定(・)を(・)間(・)違(・)え(・)さ(・)え(・)し(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)、100点満点だったんだけどね」

 

 清水水輝の言葉に、ぬらりひょんはピシリッと擬音が聞こえるかのような勢いで固まった。

 水輝の隣に座る『アルターエゴ』も頭に手を当てて、あちゃーと言わんばかりに天井を仰ぎ見ている。

 

 その間に水輝はのんびりとお茶を飲み始めた。

 お茶請けの煎餅は狸印のマークが大きく描かれており、たっぷりと沁みた醤油が濃い目の味を出している。

 苦みとしょっぱさの無間地獄に陥る前に、ぬらりひょんが復活した。

 

「…どうしてそうなったのじゃ?」

 

「シャドウ・ボーダーの装甲が思ったよりも複雑で面倒だった見たい。運んでくるところまではうまくいったんだけど、それ以降が安定しなかったから適当なところで投げ出すしかなかった。

 海の中に落とすことも考えたけど、そこから虚数潜航で逃げられると色々練り直す必要があるから諦めた」

 

「これに関しては私の失敗ね。正直、甘く見ていたわ。おかげでせっかく烏天狗がいい仕事をしたのに、私の補助がうまくできなかったもの」

 

「ふむ…して、彼らは今どこにおる?」

 

「廃(・)都(・)だよ。ほら、人(・)間(・)たちが1000年ぐらい前に最(・)後(・)に繁栄したところだったっけ?」

 

「正確にはもっと前じゃがの……あそこか…あそこは確か……なるほど。確かにそうなると3割は失敗じゃの」

 

「そういうこと。好きにしろって言っちゃったから、多分あいつらを殺すまでにはいかないと思う」

 

「……致し方ない。とりあえずは、他のモノたちに知らせるとするか」

 

「りょーかい」

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 気が付いたら彼らはうつぶせで倒れていた。

 その状態から一番早く気が付いたのは、サーヴァントであるシャーロック・ホームズだった。

 彼は起きると直ぐに周囲の者を起こし始める。

 全員が意識を戻したころ、サーヴァントである『シャーロック・ホームズ』及び、弱体化しているとはいえデミ・サーヴァントである『マシュ・キリエライト』の二人はすぐに辺りを見回すが、既に『清水水輝』と『黒い羽根をはやした日本人風の男性』の姿は見えない。

 マシュはそのままマスターである『藤丸立香』の方を確認した。

 

「……みんな大丈夫?」

 

「はい。マシュ・キリエライト、問題ありません。先輩は大丈夫ですか?」

 

「こっちは大丈夫…所長たちも大丈夫そうですね」

 

 藤丸立香がゴルドルフたちの方を向き確認を取るが、ゴルドルフは顔を青くさせて叫ぶ。

 

「ええい、私たちのことよりもあやつはどこに行った!?」

 

「既に周囲に人影は見えません。もし、シャドウ・ボーダー内に居たらダ・ヴィンチちゃんが通信を入れてくるはずです。恐らく…逃げられたというよりは見逃されたのでしょうか?」

 

「ふむ…そ(・)う(・)で(・)あ(・)っ(・)て(・)そ(・)う(・)で(・)は(・)な(・)い(・)のが正しい見解だろう。ダ・ヴィンチ、我々はどの程度気を失っていた? それと、現在の我々の場所をモニターに映してくれ」

 

『私含め、みんなが気絶してたのは1時間ってところみたい。モニターは今やっているところだよ。…よし、機能面には大した損害はない。どうやら、本当にカドックを取り戻すことがメインの目的だったみたいだ。現在のシャドウ・ボーダーは…』

 

 その言葉と同時に、モニターに現在位置が青白い光で示される。

 その場所が、先ほどまでの位置とはまるで異なっていることに驚愕を隠せない者もいるが、それに構っているような余裕はない。

 

『日本だ。藤丸君の故郷だね。それでこの位置は…』

 

 ダ・ヴィンチの言葉を藤丸立香は繋ぐ。

 その場所はよく話題になるようなことはあれど、修学旅行の時にしか行ったことのない場所だった。

 

「…京都ですね。あんまり行ったことはないけど」

 

『そう、京都だ。「清水水輝」の故郷でもあるね。さらに言うと、ここは異聞帯(ロストベルト)の中だ。どのような手段を用いたのかはわからないが、我々は異聞帯(ロストベルト)と化した日本の中にいる』

 

「ということは…」

 

 推測するように考え込むマシュの後を継いだのは、ホームズだった。

 

「彼は直(・)接(・)殺(・)し(・)た(・)く(・)は(・)な(・)い(・)と言っていた。その一方で、や(・)り(・)た(・)く(・)な(・)い(・)け(・)ど(・)、(・)や(・)ら(・)な(・)く(・)ち(・)ゃ(・)い(・)け(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)も(・)あ(・)る(・)と。つまりはそういうことだろう」

 

『直接殺す気はないが、カドックを回収しに来た以上は放置することも出来ない。だから、我々を自分の異聞帯(ロストベルト)に連れてくることで責任を果たしたというポーズを見せた…ということだと予想できるね』

 

「あくまで推測の域を出ないがね。彼が嘘をついている可能性もなくはないが、先ほど交わした言葉が真実ならば、彼は噂(・)通(・)り(・)の(・)人(・)物(・)だ(・)っ(・)た(・)と(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)だ(・)」

 

 噂通りの人物。

 マシュやムニエル、こっちじゃない方のダ・ヴィンチから聞いていた『清水水輝』像は『魔術師にしては珍しく人のことを思いやることのできる人間』という評価だった。

 『魔術の面で奇異な部分があり、カルデア他の職員及びマスター候補から蔑まれ疎まれていた』という面も聞いている。

 だが、先ほど見た彼の印象は『思いやり』という面を一切感じさせず、『奇異な魔術』を用いる『化け物』という評価の方が正しいように思えた。

 

 しかし、ホームズの言葉から読み取るに、彼の先ほどの言動に『思いやり』が隠れている。

 それに疑念を抱いた藤丸立香は思わず呟いた。

 

「…あんなことを言っておいて?」

 

「だが、事実でもあった。当然、全てを肯定するわけではないが、我々は度重なる幸運の元で勝ち得た勝利であることに間違いはない。今回生き延びていること自体、彼が私たちに対して殺(・)意(・)を(・)欠(・)片(・)も(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)からだ」

 

 そう言われると強くは言えなかった。

 さっき彼に言われたことの焼き増しだったが、有名な探偵であるホームズからの言葉であると同時に、運が良かったことを否定することはできなかった。

 その上、殺意を持っていないことも今ここで全員の生存が確認できることから明らかだ。

 

 そこまで考えてふと頭の片隅に、『クリプター』が『カルデア』に敵意を持っていたとしても、『清水水輝』個人が『カルデア』に敵対しているわけではないのかもしれないという考えがよぎる。

 それを払拭するかのように、それまで黙り込んでいたムニエルが声を荒げた。

 

「…あんな…あんな魔力(もの)を見せつけておいてかよ!

 今にもこっちに向けて飛ばしてきそうな、アレも全部偽物だったって言うのかよ!」

 

 カルデアで、爆破事件が起きるまで清水水輝とそれなりに仲良くしていた方であったとされているムニエルの叫びは、その場にいた全員の耳に響いた。

 

 仲良くしていると思っていた相手が、凶(・)器(・)を(・)見(・)せ(・)つ(・)け(・)て(・)こ(・)ち(・)ら(・)に(・)向(・)け(・)て(・)い(・)た(・)のだ。

 それでいて、殺意はなかったと言われても心から納得できるものではないだろう。

 しかし、対照的にホームズは至極冷静に状況を解明し、暴き、晒すための次の手を進める。

 

「そのことだが…ダ・ヴィンチ、アレの解析はしたか?」

 

『既にやったよ。彼が見せつけるように纏わせていた魔力…一見、ただのどす黒いだけの魔力だが、何のことはない。どす黒くて当たり前のものだ』

 

「どす黒くて当たり前…?」

 

「あ…もしかすると、先ほどの光景は…」

 

 藤丸立香がそう呟くと、心当たりを思い出すかのようにマシュが呟く。

 そして、それの答え合わせをするかの如く、ダ・ヴィンチが解析結果を示した。

 

『そう、マシュは気が付いたみたいだけど、あれは彼(・)自(・)身(・)の(・)血(・)液(・)だ。霧状に霧散させている血液に魔力を回しているだけの見掛け倒しと言ってもいい。液状になっているのではなく、霧状になっている以上は直接触れることでもしない限りは害はないだろう。彼が霧状の血液を物理的に操作した記録は残されているものの、殺傷能力の低い目晦まし程度の用途にしか使われていなかったことも確認済みさ』

 

「つまり、彼は文字通り時(・)間(・)稼(・)ぎ(・)をしたわけだ。最初から私たちを殺す気も、私たちと戦う気もなかった。それを裏付けるものは他にもあるが、一番明確なことは今現在我々が何物にも襲われずにこの場にいることに他ならない」

 

「…自分の異聞帯(ロストベルト)に呼び寄せたのに、襲うどころか放置されて見逃されている」

 

 藤丸立香の呟きに、シャーロック・ホームズが眉を顰めて続いた。

 

「その通りだ。…しかし、そうなると当然不可解なことも出てくる」

 

「不可解なこと…ですか?」

 

「…いいや、これはまだ控えておこう。確たる証拠がない以上、推測に推測を重ねるだけのものになる」

 

「またそれか…」

 

「それよりもダ・ヴィンチ。清水水輝の情報について改めて共有しておきたい。残っている情報を可能な限り探し出してくれ」

 

『それももうやってる…ん? このロックは…』

 

 その言葉を最後に、ダ・ヴィンチの声が一時的に途絶える。

 30秒、1分と経つにつれて、少し不安に思ったのか、マシュ・キリエライトは周囲の気持ちを代弁するかのように声を漏らした。

 

「何か見つけたのでしょうか…?」

 

 その言葉を言い終るのと同時に、ダ・ヴィンチからの通信がつながった。

 

『ビンゴだ! 前の私が作ってた、清水水輝のレポートがあったよ!』

 

「そういえば、あいつはよくダ・ヴィンチの工房に出入りしていたような…」

 

「よくやった! これであやつの弱みの一つや二つ握れば少しは状況が好転するかもしれん」

 

「そう簡単にいくとは思わないけど…」

 

「ダ・ヴィンチ、そのレポートをこっちに転送してくれ」

 

『もちろん、今送るよ!』

 

 

 

 

――――――――

 

 

 『清水水輝』について

 

 

 清水水輝、彼は元々Bチームに配属されるはずだったが、その腕を買われて急遽Aチームに所属することになった魔術師だ。

 彼曰く、独学でしか魔術を齧ったことがないから教えてほしいとのことで私が直々に魔術の理論について軽く教えることになったのだが、その時に感じた違和感が気になったので少し詳しく調べてまとめてみた。

 レポート、という分類にはしているものの、とりあえずはわかるところまでまとめるメモ書きのようなもので、もししっかりと書く機会があったら再度推敲しなおすことにしよう。

 

 まず、彼に感じた違和感は彼の社会適応能力の高さだ。

 そもそも、彼は学(・)校(・)は(・)お(・)ろ(・)か(・)家(・)族(・)と(・)使(・)用(・)人(・)以(・)外(・)の(・)人(・)物(・)と(・)の(・)接(・)触(・)を(・)し(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

 そこには、彼がカルデアに来ることになった理由にもつながるわけだが、彼は彼自身の家…『清水家』が存在そのものを隠蔽していた。

 カルデアに来るのが遅くなったことも、それが原因だ。

 なぜ、そのような処置をしていたのかまではわからなかったが、少なくとも厄介払いのつもりでカルデアに送り付けたことは間違いない。

 

 それにもかかわらず、彼の社会適応能力の高さは魔術師の中では特に異端に見える。

 Aチームの個性的なメンバーが揃っている中でも、ペペロンチーノ並みの社交性があることはどう考えてもおかしい。

 彼自身にここに来るまで何をしていたかを聞いてみたが、暇だったから与えられた魔術の本を読み漁って色々試してただけとしか言わない。

 そんな生活を20年近くもやっていたら普通の人間なら耐えきれない。

 その上、どこでその社会適応能力を身につけたのかが甚だ疑問だ。

 

 だが、調べていくうちに面白いものに辿り着いた。

 彼の家名である『清水』…日本ではそう珍しくない苗字だが、彼の家は分家と本家があるほどの家だという。

 調べていくうちに、『清水家』の家系図を入手することができたので詳しく見てみると、『清水』とは遠い昔『死水』と称されたのが始まりだとされるそうだ。

 その由来だが、『死水家』は『祈祷師』…我々で言うところのシャーマンの家系で、『水』を用いた災害を扱うことを得意としたとある。

 

 『水』を枯らして、食物を枯らし『死』に至らしめる。

 『水』を飽和させて、家屋を倒壊させ『死』に至らしめる。

 

 故に、『死水』と呼ばれるようになったそうだ。

 そんな彼らが名前を変え、魔術を扱うようになったのは西洋の文化が入ってきて、『祈祷師』の価値が落ちたからだと予想している。彼本人は700年程度の魔術の家と言っていたことから、魔術に切り替わったのは700年前ぐらいだと考えられる。

 遡ると日本で言う飛鳥時代まで遡ることのできる彼の家系は、今でなお古い家同士のつながりがあることも確認できている。

 そのつながりを作るために、不吉な『死水』という姓を捨て、『清水』に変えたのではないかと考えている。

 

 彼の家はその大本とも言える本家であり、だからこそ彼の『水』を扱えない魔術の腕を見限ってこのカルデアに送り付けたのだろう。

 上手くいけば、『清水』の名が上がり、失敗しても邪魔者を始末することになる。

 どうやって彼は、この環境で社会性を身につけたのだろうか?

 色々と考えはつくが、あまり裏を取れるようなものはない。

 ひとまずこの問題は追々調べていくとして、次の問題を提示しよう。

 

 

 次に彼に対して疑問を感じたところは知識の偏り方だ。

 先ほど述べたように、彼は『清水家』から出ることは許されなかった。

 それどころか、調べによると彼が過ごしていた場所は一般的な部屋ではなく、『清水家』本家の地下にある洞窟のような場所だったという。

 その洞窟には川のように地下水が流れており、霊脈としてはなかなかだったみたい。

 

 しかし、彼が部屋と言っていたそれは人が生活するには適しているとは言い難かった。

 夏は涼しいが、冬は冷え込む。食事の提供と洗濯は使用人が行っていたみたいだが、他に彼が触れることを許されたものは魔術の書物と筆と紙だけだった。

 

 一般的な常識を培う機会すらなかったのだ。

 

 だが、ここにきている彼を見ているとそのような家庭事情を察することが難しいほど馴染んでいる。

 どこかで違和感を覚える人物が現れてもおかしくないのに、キリシュタリアでさえその点に違和感を覚えていはいないだろう。

 さらに言うと、輸血パックと呼称している血液を入れる入れ物さえ自作していたが、『輸血パック』という呼び名さえどこで知ったのかが不明だ。

 

 彼は一体何者なのか。

 調べれば調べるほど、彼の素性は闇の中に溶けていくようにも感じる。

 

 ……続きは次回に持ち越そう。

 ま、時間はあるから暇つぶしにはちょうどいいし?

 別に調べてもこれ以上よくわからなかったわけじゃないし?

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

『……ここでレポート…もとい、メモ書きは終わってるね』

 

 ダ・ヴィンチちゃんがレポートを読み上げ終わると、その場にはただただ静寂だけが残された。

 途中まで『清水水輝』の境遇の悲惨さを噛みしめさせるものがあったものの、最後の最後のせいで何とも言えない空気が漂う。

 

「……最後のダ・ヴィンチの強がりは置いておいて、これはなかなか興味深いものだ。ムニエル氏、何か知っていることは?」

 

「…いいや、強いて言うなら確かに水輝の奴はカルデアに来る前のことを一切話さなかったぐらいだな」

 

「同じくですね…私も、水輝さんとは会話をしたことはありますが、業務的な内容の方が圧倒的に多かったこともあって、事情などを聞いたことはありません」

 

「ふーん…」

 

「ふむ、一般常識的に知らないものに驚いた素振りなどもなかったと」

 

「ああ、少なくとも俺が見た限りはなかったぞ。パソコンも普通に使ってたし、洗濯機も説明書見ながら普通に使ってたし、何なら厨房で昼飯だって作ってた」

 

「えー、水輝って料理できたんだー」

 

「そんな馬鹿な話があるか! ダ・ヴィンチの調査が正しければ、こやつはパソコンを触ったことも、料理を作ったこともないはずだろう!?」

 

「確かにそう考えるとおかしいけど、普通に使ってたから違和感とかは感じなかったな」

 

 うんうんと首を縦に振るムニエルにゴルドルフは、ええい使えん奴だと吐き捨てると、ふと視線を隣に移した。

 そこにいたのは、様(・)々(・)な(・)動(・)物(・)の(・)面(・)を(・)服(・)の(・)い(・)た(・)る(・)と(・)こ(・)ろ(・)に(・)引(・)っ(・)掛(・)け(・)て(・)い(・)る(・)少(・)女(・)。

 

 頭にはてなマークを浮かべながらも、目をこすり、もう一度周囲を見る。

 マシュ・キリエライト、ムニエル、藤丸立香、シャーロック・ホームズ、様々な動物の面を服のいたるところに引っ掛けている少女。

 

 見(・)た(・)こ(・)と(・)の(・)な(・)い(・)少(・)女(・)が(・)自(・)分(・)の(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)間(・)に(・)侵(・)入(・)し(・)て(・)会(・)話(・)に(・)参(・)加(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

 

「て、敵襲ーーー!!」

 

 

 

 

 

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