とりあえず掘れ   作:魔法使いK

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地雷さん

爆発した。

 

爆発、した。

 

訳、わかんない。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

『リア充爆発しろ』、一時期そんな言葉が流行った時期がある。

モテない連中が学校生活の充実していて、彼女のいる、つまりリアルが充実してる奴に向けてする犯行声明の事だ。

 

VR世代の以前、旧世代と呼ばれる時期にはただの冗談として使われていたらしいが、今は違う。VRのやり過ぎで現実でも見境を無くした彼等は、なんと爆竹をリア充に向かって投げ始めたのだ。

そして文字通り、リア充は爆発した。

 

時には、彼女と食べていたクレープが。

そして、彼女と二人で飲んでたジュースが。

あるいは、一緒に選んだケーキが。

プリクラ中の彼氏の髪が。

彼氏の隠してたカツラが。

 

いろんな物が爆発された。

毎年クリスマスになると、空を舞う爆竹のせいでイルミネーションいらずと言われるぐらいだ。

外国のニュースでも「今もっとも嫉妬に狂っている国」とか言われてた。

 

だが、そんなふざけた行為が平常の真っ昼間から行われているかと言うと、違う。

奴等が動くのは基本的にバレンタインやクリスマスなのだ。と、言うより。最近に至っては爆発自体が古いみたいな扱いされてきているので、今年はもう無いと思う。

確か昨日ネットで見たのは『リア充にスライム投げようぜ』とか言うスレだったので、たぶん今年はスライムだ。カッパとか着込んだ方が良いのだろうか?

 

閑話休題。

 

そんな下らない話は置いといてだ。

可愛い妹(エロい)に、可愛い幼馴染み(戦闘力53万)だ。

それ以外に女子の知り合いなどいないとは言え、こんな美少女に囲まれた、どこのギャルゲーだとも言えない状況に置かれてる俺は、リア充の資格が前からあったんじゃないか? と言う疑問が前々からあったのだ。

いや、もう呼んでもいいだろうこれは。いくら未だにエロハプニング(おさわり有り)が無いとは言うものの、朝早くに起こし(奏エルボー)に来る幼馴染みと一緒に学校に登校するのだ。

 

登校、そう登校なのだ。

全国の一般的男子高校生にとって通学など、せいぜい朝の憂鬱な時間なのだろうが俺にとっては違う!

 

もはやカースト、そう…………階級が違うのだっ!

 

故に既に我が身は一般人のそれなど超越している。産まれながらに幼馴染みがいると言う、王の身と言っても過言では無いのだ。

そして王は常に遥か高みから下民を見下ろす。と言うより高過ぎて飛んでるかもしれない、「え? なに、ちょっとなんで地面とか歩いてんの? これが普通? おいおい冗談はよせよ、…………冗談じゃないって? ハハッ、君はなんともまぁ、こう、とにかく、憐れだなぁー!」とか言っちゃうのかもしれない。

 

だから俺、爆発したんじゃないでしょうか(投げ槍)。

 

「お、よく飛ぶなぁー」

 

そんな気の抜けた、まるっきり驚いた様子のない奏の声が聞こえる。

宙に見る空はよく晴れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつだったか。

「車を飛ばした状態で手を外に出した時の感触はおっぱいと一緒、つまり痴漢しほうだいっ…………!」、そんな話を聞いた事がある。

当時の俺は「そんなのして何が楽しいの? ねぇねぇ? それは何か産み出すの? そもそもお前本物触ったことねぇだろ?」と、まったく相手にもしてなかったものだ。今にして思えば、そんな安っぽい物で満足したくないと無意識に思ってたのかも知れない。

 

そんな過去の自分に言ったらぶち殺されそうな事を思いながら、俺は思考する。

原因がそもそもわからないが、かなり滞空時間が長い気がする。そして体が地味に痛い、このゲーム痛覚表現が意外と高い。

 

体を包む風の感じは悔しいが、カルネさんの言う通りリアルに近い。まるでおっぱい布団だ。

おっぱい布団。

つまり今俺はハーレム、いやハーレム持ちですら出来ない事をしているんじゃないだろうか。

そう考えると先にあげた『リア充爆発しろ』が別の意味に聞こえてくる。

 

──『リア充おっぱいに抱擁されろ』

 

これは最早悪口ではなく、祝福に近いのでは無いだろうか。

そう、幼馴染みが貧乳な俺に対するささやかなご褒美に違いない。

 

つまりここで俺が口にする言葉も決まっていた。

 

ありったけのおっぱい布団に感謝を、カルネさんの巨乳に幸運を、奏の虚乳(誤字にあらず)に救いあれ。

俺は空気を思いっきり吸い、言った。

 

 

 

 

「あの巨乳がっ………………!!」

 

どこかの巨乳の笑い声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

「────」

「うおっ、なんかピクピクしてんじゃねーよ」

 

そんな世知辛い言葉を投げないで下さい。あなたの幼馴染みのメンタルは、硝子を越えて卵並みに脆いんですが。

あと、くそ痛ぇ。

 

体感時間でおよそ一分間。それだけの間空中浮游してた俺を待っていたのは、母なる大地だった。

どれだけの高さかはわからないがそれなりにあったのだろう、物凄い衝撃が体を襲った。なんか襲うって卑猥だな。

兎に角にも痛覚こそそれなりで制御がかかったものの、衝撃は制限が無いらしく、虚しく俺は地面を舐める羽目になったのだ。

 

「しっかしまぁ、こんだけの威力でダメージが少ないってことはベテランの仕業だな」

 

奏が何かを言ってるが、俺はそもそもの原因がわからん。

 

「魔法は…………ねーだろーしなぁ。やっぱり生産側の連中だろうなぁ」

 

そんな事を一人言いながら、奏が腰のポーチから青い液体の入った瓶を取り出す。確か先程店で見た《回復薬・弱》が同じ色だったから回復薬なのだろうか。

 

「ほーい、口あけろー」

 

蓋を空け、それを口に突っ込んできた。

どろどろとしたレモン味の炭酸が喉に引っ掛かる。

 

「────!」

 

回復してるのか体の節々が軽くはなってきているが、何なのだろうかこの食感? は。

 

「──けほっ、けほっ! むせる! 超むせるぞこれっ!」

「うるせーなぁ、そんぐらいで。つか、なんでいきなり地雷に当たってんだよ」

 

そんぐらいって、このゲームの飲み物は大半がこんな感じなのか。と俺が言おうとする前に、なにやら怪しげな単語を聞いた気がする。

 

「地、雷…………?」

「おうよ、知らねーの? このゲームは基本的に空や海、地面からズルが出来ねーようにモンスターとか色々仕掛けられてんだぜ。地下が地雷『あの女に引っ掛からなけりゃあ俺は今頃…………っ!』があるように、空は空中要塞『イカロスさんのお家』があるし、海は海で暴走水流『な、流されちゃう……!エリアボスの所まで流されちゃう、あ……、らめえええええ──!!』があるしな」

 

衝撃の事実だった。三日前に部屋に戻ったら猥褻本が机に並べてあったぐらい驚きだ。他にもあったのは正直、どうでもいい。あとどれも長いのはなんなんだ。

そしてそもそもだ、どうして先にそれを言わなかった。

 

「百歩譲ってモンスターは見逃そう、まぁアリだからな。でも、だ。でも、地雷ってなんだよ!? 聞いたことねーよ、地雷が仕掛けられてるゲームなんざ!」

 

杉村隆二、心からの叫びだった。この三ヶ月間一体この幼馴染みに何があったのか、例えるならベジタリアンが肉食主義者になって帰ってきたぐらいの驚きなのだが。

 

「わかってねーなぁリュウは、三ヶ月もあれば慣れるんだぜ?」

 

いいか、と奏が言った。

上体を起こしただけのボロボロの俺を放置し、側に落ちていた相棒ことスコップを取る。あれだけの爆発だったのに全く新品同様に見えるのは気のせいだろうか。

スコップの持ち手ではなく柄を握り締め、数回ほど片手の平で回転させる。それに対して驚愕する。それだけでスコップに使い慣れていることがわかった。

 

「お、お前まさか…………」

 

自然、震える俺の声に、ふっ、と軽く笑う奏は答えない。

ただ静かにスコップを片手に持つその姿だけが、全てを語っていた。

 

「────地雷なんてそうそう当たるもんじゃないんだぜ?」

 

そう言って構えるその姿はベテランのそれだ。左手で持ち手を掴み、右手で柄の根本を握るその構えは基本に固い。

 

これは、また、爆発するんじゃないか…………?

 

しかしそんな無粋な俺の思考は止められない。爆発した負け犬はどう考えても爆発しか考えられないのだ。

そして俺の口は勝手に動いていた。

 

「お、おいカナデっ。爆発するぞ……っ!」

 

そんな俺の切実な声に奏が目を見開く。俺のこんな切羽詰まった様子が珍しいからだろう。最後にこんな声を出したのは、中学生の頃、奏に取っておいたプリンを目の前で食べられる事を必死に止めてくれと懇願した時じゃあないだろうか。

 

「問題ねぇよ、リュウ」

 

何年幼馴染みやってんだよ? そう言う幼馴染みの姿はどこか後光がさしてる様に見えた。

 

わかっていたのだ、奏は。俺なんかの思う下らない恐怖心を奏はわかっていたのだ。自分が爆発するかも知れない、それかわかっていながらもする。強い、強い心がッ! この幼馴染みにはあるのだッ!

 

何て強いことかッ! 何と美しきことかッ! この女の心の金剛石が如きよッ!

 

先程俺が掘った所とは違う所にスコップの先をあてがう女の目には、不断の決意があった。不転の輝きがあった。

 

「ふぅー…………、はぁー…………」

 

瞳を閉じ、息を深く吐き、吸う。よく見れば女の腕は震えていた。

 

「────」

 

痛いくらいの静寂。

文字通り世界から音が消えるような錯覚を俺は感じた。

気付けばごくり、と唾を飲み込んでいた。そしてその音がやけに大きく聞こえる事がどこか恥ずかしかった。

 

「──よし」

 

しかし、静寂は唐突に打ち切られた。女が目を開けたその瞬間には、女の葛藤、静寂、それら全ては跡形もなく消えていた。

 

「掘るか」

 

耳を打つのは簡単な一言だった。そのまま、あ、と一言あげる暇もなくスコップは突き立てられ──

 

 

 

 

 

 

 

ざくり、と地面をスコップが抉った。

 

「ほら、な?」

「────」

 

驚きが俺の胸中を占めた。

どれだけ彼女が掘れる掘れると言っていても、それは全く本心からの言葉では無かったのだ。心のどこかで、…………いや、認めよう。自分は、俺は、杉村隆二は相澤奏に全く期待などしていなかったとッ!

 

懺悔しようっ……! 正直爆発すればいいと思っていた。そして爆発した奏に向かって「ねぇ今どんな気持ちよ? なんか経験者ぶってあんな言っちゃってさあ…………! 俺? 俺だったらあんなん言えないね、爆発したら死ぬほど恥ずかしいもん。え? なに? 穴があったら入りたい? そこにありますけど穴……って、あ! それクレーターか! ごめんごめん、じゃあ…………クレーターにでも入ってればっ!」って言ってやろうと思ってた。ついでに親切心(有料)に上から土でも被せてやろうかと思ってた。

 

それでもッ! それでも、だ…………ッ!

 

この愛すべき幼馴染みは俺の想像の全てを越えていた。予想を遥かに飛び越え、思惑の全てを超越していた。

 

「……は、ははっ。ははははは!」

「ふ、ふふふふ!」

 

気付けば共に笑っていた。互いに、あ互いの心が優しさに浄化されていくのを感じた。人間とはこれ程までに優しくなれるのか。

これだけの優しさがあればきっとこのゲームも好きになれるかもしれない。いや、確かに俺は今このゲームを好きになりつつあった。

 

「あー、なんだ馬鹿らしい」

「だろ? 慣れればこんなもんなんだって」

「ああ。慣れれば楽しいなっ!」

「お、わかってきたか! ならどんどん掘るぞー!」

「おー!!」

 

他にもこの地雷の様に好きになれない所かクソゲーと呼べる要素が多々あるかもしれない。だけど、独特って言えるそれは裏を返せばユニークってことだ。

 

きっと好きになれる。いいや、好きになってみせる。

 

「よーっし、行っくぞぉ──!!」

 

奏の元気の良い声が辺りに響く。

思えばなんであんなに怒ってたんだろう。仲直りしなくちゃなカルネさんとも、そして穴堀りもやめてゲームを純粋に楽しもう。

そうして、友達を増やしながら楽しくゲームをしよう。

ざくり、と二度目だが小気味良い音が耳に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

────そしてやはりと言うか予想通りの爆音。

 

「え? ちょっ、う、うわああああ!!」

 

空を舞う幼馴染みを見て思う。

やっぱクソゲーだな…………。

 

「たーまやー」

 

気の抜けた声が口から出る。はんば予想通りです。

やっぱりあの巨乳はひぎぃって言わせよう、そしてフィールド穴だらけも完遂してやろう。ささやかな幼馴染みの仇討ちである。

後は……えーっとー、ああ、

 

 

 

 

 

 

 

────土を上からかける準備しとかねぇと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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