罪の向こう、愛の絆シリーズ 【続・六花の森】 作:千野 伊織
マダラの輪廻眼開眼によりこれまでのマダラのシナリオが描き換えられ、そして全てが始まります。
「影に咲く花にしては、美しすぎるな」
「…?」
芙蓉はマダラの右腕を拭いている手を止め、マダラの顔を見て首を少し傾げると、不思議そうに微笑んだ。
「六花…お前は俺が蘇るまでの間、決して誰のものにもなるんじゃないぞ…」
寝台に横になっているマダラは、弱弱しい声だが、威圧を込めて芙蓉に向かって言った。
芙蓉はフッと少し笑って少し目を伏せると、再びマダラの右腕を優しく拭き始める。
「はい…承知しております」
芙蓉が六道仙人に会い、自分がヒミコの転生者であり、次の転生者をこの世に生まない為、そして世界の救世主になる“碧眼の少年”が現れ世界を救うまで生きることを決めた。
“六花”として、マダラの下僕として…
そして、あれから十五年の月日が過ぎていた。
右腕を拭き終わると、芙蓉はもう一度お湯の入った桶でタオルを絞り、今度はマダラの首から胸にかけて拭き始める。
「…俺は影だ。だが、蘇ったその時は、この世界にはもう、光しかなくなる…」
「私にとってマダラ様は、今でも光ですよ?」
そう言って、マダラの左脇を拭き始めると、マダラがその腕を握ってきた。芙蓉はマダラが不快だったかもしれないと思い、心配そうな表情でマダラの顔を見る。
「…俺にとって今のお前は…眩しすぎる」
芙蓉の容姿は六道仙人の力により、今でも二十代のままである。
亜麻色の長い髪、琥珀色の輝く大きな瞳、雪の様な白く滑らかな肌、紅を差したかのような唇…
芙蓉は少し気まずくなり、口を結んで俯いた。
マダラは握った芙蓉の腕をぐいっと引っ張り、芙蓉を胸に抱き寄せた。芙蓉はマダラの胸に頬を埋めて目を閉じる。
マダラの体温、心臓の鼓動が芙蓉を安堵させ、しかしその反面、寂しくもさせた。
「・・・・」
気付けは、マダラは眠りに入っていた。
芙蓉は寝たきりが続いているマダラの身体を拭き終わると、丁寧に服を着せ、布団を掛けた。そして道具を片づけて立ち上がり、静かに部屋を出て行った。
「マダラもそろそろだね」
「・・・・。」
「木ノ葉の里に住めるから楽しみなんでしょ?」
「・・・・。」
「ねぇってば六花!無視しないでよっ!」
その声に“六花”は洗濯物を畳む手を止める。そしてハァーと大きな溜息を吐いてゼツの方を見る。
「別に楽しみじゃないわ。任務だし…それにゼツ、あなたも一緒だしね」
「言い方に棘があるよね~。芙蓉じゃなくて六花のままの方が可愛かったなぁ」
「この十五年、同じ事ばっかり言うわね」
六花は畳み終わった洗濯物を抱えて立ち上がる。その左肩にぴょんとゼツが載った。
「でもホント、ようやくマダラの代役になりえる子が見つかって良かったよね~」
ゼツは芙蓉(六花)の身体から覚醒した母・大筒木カグヤの魂と対面し、マダラが寿命を迎えたのち復活する迄のマダラの代役を、『うちは一族の中にマダラの血を色濃く受継ぐ男が産まれる…その男を役者として使え』と母から告げられていた。
マダラへは代役・兼・マダラを転生させる役は、うちは一族が良いのではないかと提案し、マダラもその案を飲んだ。(例えマダラが許否をしてもゼツによって思考は変えられていたが)
そして母・カグヤの予言通り、三年前、木ノ葉の里のうちは一族、しかもマダラの血縁にあたる家系に当該の男児が生れたのだった。
それにより六花は、マダラの死後、その子を木ノ葉の里で影ながら見張り、写輪眼を開眼したところを誘拐し、マダラの代役として六花とゼツが教育・洗脳する計画になっている。
「でも、まだ幼い子供よ…」
「マダラが復活するまで、その子が六花のご主人様だね~あははは」
「だったら何?」
「その子が大きくなったらマダラとしてた事、その子ともするの?」
「調子に乗らないで。」
「おーこわっ。あははは」
六花は右手でゼツを払い落とそうとしたが、ゼツはその手を除け、ぴょんと六花の頭の上に移ってまだ笑っている。六花は不機嫌な顔をして再び大きな溜め息を吐いた。
マダラの死期は確実に迫っている。
予定通りの事とはいえ、やはりマダラの死は辛い。
そして、たとえマダラの為とはいえ、これから人ひとりの…いやこれからきっと多くの人の人生を変えてしまわなければならない事も辛かった。
◆
「マダラ様!マダラ様!!」
「マダラ~」
六花は寝台に横たわり朦朧としているマダラの右手を両手でしっかりと握り、必死に名前を呼び続ける。傍にはゼツも居て一緒にマダラを呼んでいる。
「…そんな…顔をする…な…」
「そーだよ六花。予定通りなんだからさぁ。泣くだけ疲れるよ?」
「でもっ…!!」
六花は目に涙を浮かべ、唇を震わせている。
何年か分からない。長い間会えなくなる…そう考えると息苦しくて堪らなくなるのだ。
しかし六花はその感情を押さえて必死に、しかし優しく、マダラの手の甲をさすり続ける。
そして、ついにマダラは静かに目を閉じた。
「マダラ様っ!!」
「・・・。
・・・・・・・・⁉」
マダラは突然、両目をぱちりと大きく見開いた。
「マダラ…様?…そ、その目は⁉」
今し方まで死の淵にあったマダラは、眼を見開いたままバッと勢いよく上半身を起こした。
「ああ…やっとだ…今の寿命のうちに開眼できたぞ!!六花、鏡を持って来い!!」
「は、はいっ!!」
「…輪廻眼だ!!」
「これが…輪廻眼…」
「元気まで戻ったね、マダラ。寿命伸びたの?」
マダラはバサッと布団を除け、寝台から降りて部屋の出口へ向かおうとした。六花は焦ってマダラに近寄るとその脇を支える。
「ご無理をなさらないで下さい!」
「大丈夫だ。この眼を開眼できたら暫くの間は死なん。六花、外へ出るぞ。一緒に来い」
「は、はい…」
二人は部屋を出て行く。
しかし、ゼツはその二人の姿を後ろから静かに見つめていた。
・・・予定通りだよ。母さん・・・
マダラと六花は夜空を見上げる。
まるでこの日、この時を待っていたかのように、空には満月が浮かんでいた。
地面の草には白露が付いており、秋冷が更に冷たく感じる。
「これから封印石から口寄せをする。少し離れていろ。」
「はい…」
六花は少し戸惑いながらマダラの脇から身体を離すと、後ろに下がって行った。
パンッ!
マダラは勢いよく両手を合わせると、素早く印を結んでゆく。
六花は不安そうに胸の前で両手を握ってその様子を見つめている。
本当にマダラの言っていた“外道魔像”なるものを、あの夜空に浮かぶ月から口寄せできるのだろうか…
・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
すると、足元から轟音が鳴り響き、地面が揺れ始めた。
轟音と揺れが収まると、マダラは再び地下のアジトへと急ぎ足で降りて行く。六花も急いでその後ろをついて行く。
「…成功だ。外道魔像を口寄せ出来たぞ!」
「!!!」
二人の目の前には、禍々しい姿をした巨大な魔人が立っていた。
それを見た六花は、恐怖で思わずマダラの腕に抱き着く。
「心配するな。動きはせん。こいつはまだ、ただの抜け殻だ。」
「わ~これが外道魔像?マダラ、やったじゃん!」
するとゼツが現れ、ぴょんと六花の頭に載ってマダラに向かって言った。
「ゼツ、六花。シナリオの変更だ。まずは俺のこの輪廻眼を預けられる人物を見つけろ。そいつに“輪廻転生の術”を使わせて俺を復活させる。そして“うちはマダラ”を演じさせるあの者が成長し、写輪眼を開眼し次第ここに連れて来るのだ。その間、俺は魔像と繋がって生き続ける。」
「はっ、はい…!」
「うん、でも輪廻眼の所有に耐えうる素質じゃなきゃダメだよね。ってことは、マダラと同じくこの外道魔像を口寄せできる能力の持ち主ってことかぁ…」
「ということは、うちは一族?」
「いや、輪廻眼を開眼できたのは千手の、柱間の力を手に入れられたからだ。外道魔像を口寄せ出来たのも千手の能力の一つ…千手一族の血族を当たれ。」
「…畏まりました」「へーい」
◆
ザァァァァァァ―――・・・・・
六花は黒いマントのフードを被り、雨の中、木の上からその家の中を覗いている。
家の中では母親が台所に立ち、目の前に居る六〜七歳くらいの男児と白衣を着た父親がオモチャで一緒に遊んでいる光景をニコニコしながら眺めている。
幸せを絵にかいたような風景に、六花は目を細めた。
「やっと見つけたと思ったら、まだ子供だなんて…」
「何?可哀想とか思ってんの?」
「・・・・。」
「やっぱ君、“六花”のままの方が使えたのにね。いいよ、僕が行ってくるから。」
「駄目!…ううん。私も一緒に行くわ。」
「失敗しないでよぉ?」
「しないわ。絶対に…」
・・・あの子の両親、あの子の残りの人生の為にも・・・
夜中になり、家の灯りが消えるのを確認すると、六花は開錠術で玄関の鍵を開け、静かに中に入って行った。
廊下を歩き、先ほど木の上から覗いていた部屋の前に立つ。
静かに扉を開けると、母親、男児、父親が仲良く川の字になって眠っている。
六花は部屋に入ると、三人の頭元に行き、片膝を突いてしゃがんだ。そして、両親の頭に手をかざすと目を閉じる。
「・・・・・これで、良しと。」
両親に幻術をかけた。これで朝まで決して目を覚ます事はない。
そして更に、夢の中で両親の記憶を書き換えた。
この子は生まれた時から、“この眼”だったと…。
「面倒くさい事するよねぇ。親なんてさっさと殺しちゃえばいいじゃん」
「両親を殺されたこの子はどうなるの?一人で生きてはいけないわよ?」
「まぁそうだけどさぁ~」
「さあ、眼の移植はゼツの仕事よ。お願い」
「うん。任せて」
「ごめんね…坊や…」
六花はスヤスヤと眠る男児の頭を優しく撫でた。男児の髪の毛は枕元の小さな明かりでも分るほど赤毛で、そして柔らかかった。
六花はスッと立ち上がると、目線の先には額縁に入った写真が在った。
そのまま静かに写真に近寄り、目を凝らして眺めてみる。
そこには、目の前の親子三人が大きなケーキの前で仲良く寄り添い写っていた。
ケーキには『長門 七才 おめでとう』と書いてある。
六花は振り返ると、暫く親子三人を見つめた後、家から出て闇夜へと姿を消した。
◆
コツ、コツ、コツ、コツ・・・
ポチャン。
…コツ。
六花は天井から落ちた雫の音で足を止めた。そして、目の前にそびえ立つ巨大な植物を見上げる。
「・・・六花。帰って来たのなら直ぐに報告しに来ないか」
「はい…申し訳ありませんでした。マダラ様」
六花は再び歩き出し、巨大な植物の根元に座るマダラの元へと歩み寄り、マダラの足元に跪く。マダラは右手を伸ばし、六花の頬を撫でながら問う。
「あれから、長門は問題無さそうか?」
「はい。輪廻眼もすっかり身体に馴染み、健康な様子です」
「うむ・・・」
マダラは目を細め、手を六花の頬から唇へと移し、人差し指で上下の唇をなぞった。六花は唇の力を抜き少し口を開けると、ゆっくり瞬きをしながらマダラの顔を見つめる。
「俺の寿命が延びて、お前の自由もお預けだな・・・ガッカリしてるんだろ?」
「そんな事はありません。」
そう言うと六花は自分の顔に触れているマダラの掌を握り、先ほどまで唇をなぞっていた人差し指を咥えてしゃぶった。
…チュパッ。
音を立てて指から口を離すと、立ち上がり、おもむろにマダラの首に手を回すと口づけをした。マダラは六花の腰を持ち、自分の太腿の上に座らせて口づけを続ける。
暫くして、六花は唇を離すと、再びマダラの顔を見つめる。
「…今でも、マダラ様は私の光…この先も、ずっと…」
六花は目を細め、愛おしそうに、そして嬉しそうに微笑んだ。
そしてマダラも、フッと小さく笑った。
つづく