罪の向こう、愛の絆シリーズ 【続・六花の森】 作:千野 伊織
六花が覚まし、ついに新章であり最終章が始まります。
オビトの時空間に居た六花の眼の前に突然現れたオビトとカカシ。
六花が眠っている間にオビトは五里五影に対して戦争を仕掛け、尾獣は全てそろってしまっていました。
そして、待ちわびた人も・・・
六花が時空間から出てその人の元へ向かう時、懐かしい人物と再会します。
そしてついに、マダラとの再会・・・
六花はマダラにあることを申し出ます。
※原作を引用した場面があります。
※関連話:「罪の向こう、愛の絆~芙蓉と扉間」、「罪六花の森~ついに覚醒の時」、「六花の森(完)その結晶はいつかまた輝く」
見覚えのある風景だった。
晩夏の壮大な夕焼け空に照らされる、木ノ葉の里…
「芙蓉」
その声に振り向くと、懐かしい人が居た。
その人は、申し訳なさそうに微笑んでいる。
「すまない。俺は、お前より先に死ぬと言ったのに約束を守れなかった」
芙蓉の瞳も、唇も、小さく震えるが言葉が出ない。そして、罪悪感がその人に歩み寄ろうとする足を引き留めている。
すると、その人はゆっくり芙蓉に歩み寄り、黙って芙蓉を抱き締めた。
「・・・扉間さま・・・私こそ、ごめんなさい・・・」
「お前に謝る事など何も無い。それにもう、これで互いに謝るのは最後にしよう」
その言葉を聞いて、芙蓉は不意に扉間の顔を見上げた。
扉間は、寂しげな影が宿った眼で自分の顔を見つめてくる芙蓉の頬を、優しく掌で包み込む。
「桔梗の花言葉、覚えているか?」
「…永遠に…あなたを…愛する…」
「俺たちの罪の向こうには、もうその言葉しかない」
「でも・・・」
「正義だけが全てじゃない。お前が守りたいものを最後まで守れ」
「扉間さま・・・」
「さあ行け。互いに選ぶ道は違っても俺たちの物語は続く。そうだろ?」
そう言うと扉間は芙蓉から身体を離した。
芙蓉はゆっくりと目を閉じ、そして再び開く。その短い瞬きの間に、扉間との記憶が無数に蘇った。
互いに近づくことを怖れていた幼少期…
互いの気持ちで刺し違え、芙蓉が命の危機に晒されたあの時…
そして二人は咎人となり、繋がった…
いま別れれば、もう二度と会えなくなる。
そんな気がした。
「大丈夫だ。また会える。ほら、行け。早く」
「本当に?・・・」
「ああ。」
◆
「六花」
その声に六花は目を覚ました。
ゆっくり上半身を起こして声の主を探す。
すると、立方体の隙間から動く人影が見えた。
「!!!」
それはオビトとカカシの姿だった。
オビトは面を外しており、素顔を晒していることに芙蓉は更に驚いた。
一体どういう状況なのか全く分からない。
六花は息を殺し気配を消して二人を見つめる。
「俺が戦争を起こした理由がお前とリンのことだけだと思っているなら、見当違いもいいところだ」
・・・戦争⁉どういうこと⁉ナルトくんは⁉マダラさまは⁉・・・
六花はオビトの言葉に思わず両手で口を押え、俯き目を泳がせた。
…ズボッ!!
「!!?」
その音に六花ら急いで顔を上げ、二人を見ると、カカシの右腕がオビトの心臓を貫いていた。
そして同時にオビトが話し始める。
「知っているのさ・・・全て・・・たとえお前がどう言おうと俺にとってリンを守れなかったお前はニセモノだ。リンは俺の中で死ぬべきひとではない・・・よって死んだリンはニセモノでしかない。リンは生きていてこそリンなのだ」
・・・オビト…あなたは今でもずっと・・・
六花はうな垂れ固く目を閉じた。
否応なしにあの日、リンとカカシを守れなかった後悔が鮮明に蘇る。六花はその場面に必死に手を伸ばすが届くはずは無く、二人の姿はその手をすり抜ける。
「こんな状況ばかりを作ってきた忍のシステム…里…そしてその忍達…俺が本当に絶望したのはこの世界そのもの…このニセモノの世界にだ」
その言葉に、うな垂れ地面を見つめる六花の頭に、今度は病床の仏間の言葉が蘇る。
『…そして忍のことが嫌いだった。この忍のいる世界が、嫌いだった』
今になり、どうして母がそんなことを言っていたのか、解った気がした。
すなわち、忍になっていなければ母の言葉も、オビトの言葉も理解することなど出来なかっただろう…そう思った。
すると、カカシが口を開く。
「ナルトが言ったはずだ。心に本物の仲間が居ないのが一番痛いんだって…」
・・・そうよ。ナルトくんにはもう本物の仲間が居る。認められている・・・
六花は目を見開き、ゆっくりと顔を上げた。
・・・ナルトくんの所へ行かなきゃ・・・
六花は静かに立ち上がると、両目に写輪眼を発動した。そしてそれは直ぐに万華鏡写輪眼に変わる。印を結び、この空間から出ようとした。
しかしその時。
「まだその時じゃないわ。ここに居なさい」
目の前に現れたヒミコは六花に向かって両手掌を向けた。
「ごめんなさい…どうしても行かないと!」
六花は急いで印を結ぶと、その姿は次第に消えてゆく。
「どうして⁉私の力が効かないなんて!!」
ヒミコは舌打ちをし悔しがる。しかしヒミコにはまだ、この空間から出る力は無い。
◆
ストン…
地に足が着く感覚と同時に、目の前の視野が明瞭になってゆく。
「…芙蓉⁉…芙蓉じゃないか!」
「・・・⁉・・・は、柱間さま⁉なぜここに⁉」
「いやぁ~説明すると長くなるのだがのう~って!お前もなぜここに居るのだ⁉」
「えーっと・・・私も説明すると長くなります。って、柱間さま、そのお身体!どうされたのですか!大丈夫ですか!」
六花は濁った眼にひび割れた肌の柱間の顔から足先まで、何往復も見回し心配した。
「扉間の忍術だ。心配ないぞ!わははは!って、笑っておる場合ではない…芙蓉、ここは危険だ。一緒に安全な所まで避難しよう」
「あの!うずまきナルトというひとに会いませんでしたか?あと…マダラさまにも」
「兎に角逃げようぞ。話はそれからぞ」
「早く!今すぐに教えてください!!」
「…お、おう。ええっと、マダラは…」
「マダラさまは蘇っているのですか⁉」
「蘇っておるというか、何というか…」
「あっ!…このチャクラ!ナルトくんだわ!仲間と一緒に戦っているのね…」
「チャクラって⁉芙蓉、お前忍になったんぞ⁉…む⁉…いかん!お前は隠れて居ろ!」
「いいえ。私もマダラさまに会わなければなりません・・・」
そう言って六花はゆっくりと後ろに振り向いた。
「六花・・・こんな所に居たのか。柱間の分身と何を話していた?」
闇から現れたマダラの姿は“芙蓉”と出逢った頃の青年の姿であるが、柱間と同じ術にかけられている様子で普通の身体ではなかった。
しかし、その目は輪廻眼である。
姿は違えど、約二十年ぶりに会う愛しいマダラに六花は目を凝らす。
「マダラさま…この方が私と芙蓉という人が似ていると言い、絡まれていました」
「はぁ⁉何を言い出すのだ芙蓉!さっきまで感動の再会をだのう…」
「柱間…お前、穢土転生されても色好みとは恥ずかしくないのか…」
「なんつー事を言うんだ!お前たちこそ一体どうしたというのだ!」
「六花、今までどこに居た?」
「オビトの作った時空間に居ました」
「無視するなぁーっ!」
「オビトもあの空間に居たはずだ。連れ戻して来い。オビトに俺を復活させる」
「輪廻転生の術、ですか?」
「いったい・・・お前たち二人はどうなっているのだ・・・って、おい、輪廻転生の術だと⁉マダラお前!」
無視されうな垂れていた柱間は慌てて顔を上げた。
「この身体は扉間の穢土転生という術によるもので生きた身体ではない。生身の身体にならなければ話にならん…柱間、お前と闘う為にもなぁ…」
六花を見ながらそう言うと、マダラは柱間に視線を移してニヤリとした。
「マダラさま。私がオビトの代わりに輪廻転生の術を行います」
「ちょっ!何を言うておる芙蓉!!マダラ、お前もいい加減にしろ!もう俺たちは死者なのだ。今ならまだ間に合う。戦争などやめるんだ!」
「・・・・。六花、もう一度言うぞ。オビトを連れて来い」
「…マダラさま、うずまきナルトというひとには会いましたか?」
「あの砂利がどうした。何を知っている?」
「あの子に会ってみて…何も感じなかったのですか?…何も気づかなかったのですか?」
そう訊ねる六花の横顔を、柱間は驚きにも悲しみにも似た複雑な表情で見つめた。
しかし、マダラは鼻で笑って見せた。
「フッ。まぁあれだけの数の忍の先頭に立って戦うだけあって只の砂利ではなさそうだな。お前も敵うか分らんぞ?気をつけろ」
六花は俯き唇を噛んだ。
そして顔を上げると、涙で潤んだ瞳でマダラを見た。
「私は・・・あなたがナルトくんと手を取り合ってくれることを願っています」
そう言い終わると、六花は素早く印を結び始めた。
「やめろ!!」
柱間は急いで六花の左手首を握った。
そして、六花の右手を見る。
「言う事を聞かんのはいつまで経っても変わらんな…呆れる」
六花の右手首を握っているマダラが言った。
「離して!!」
「落ち着け!お前がそんな術を使う必要は無い!マダラは皆が必ず止める!」
大声でそう言う柱間の顔を、マダラは怪訝そうに見た後、片方の手で印を結んだ。
「っ!・・・・・・」
六花は気を失い、マダラの腕に受け止められ、マダラがそのまま六花を抱きかかえた。
しかし、柱間は六花の左手首を握って離さない。
「その手を離せ。分身のお前と闘っても面白く無い。早く本体で来い」
「お前たちが、ワシが死んだ後どうやってこうなったかは知らん。だがあの時と同じだ。今のお前に芙蓉は渡せん!」
「何を訳の分からぬことを言っている。こいつは俺が拾った女だ。お前に関係無い」
「マダラ・・・お前・・・」
ザシュッ!!
マダラは手刀で柱間の手首を切り落とすと、六花を抱えその場から消えてしまった。
「六花!」
目の前にマダラが現れると、ゼツはマダラの腕に抱かれる六花の左肩に飛び載り、六花の顔に擦り寄った。
「ゼツ。お前がついていながらどうしてこうなる。すべてが終わったら詳しく話せ。とりあえず六花を離れた場所へ連れてゆけ」
マダラは六花を地面に降ろし、そう言い残すと再び消えてしまった。
「六花…ヒミコの力に逆らってあの空間から出て来たんだね…だけどもう頼むから大人しくしててよ。母さんが復活すれば君の苦悩も無くなる。二人で幸せになろう。必ず…」
◆
グサァッ!!・・・
「分身とやるつもりは無いと言ったはずだ」
須佐能乎で串刺しにした柱間の分身に向かって言った。
マダラは半身の須佐能乎を纏い、地面に胡坐をかいて座って居る。
「マダラ…お前もずっと…何かを…」
柱間の木遁分身は木に戻って消えてしまった。
そしてマダラは、目の前を見つめて微笑む。
「フン・・・流石、俺が育てただけはあるな・・・六花よ」
そう言うとマダラは須佐能乎を収めた。
するとマダラの眼の前の岩の後ろから、六花が静かに歩み出てきた。
「あの程度の術、お前なら直ぐに解けて当然か。だがゼツもまるで役に立たんな。お前の守(もり)すらできんとは…輪廻転生の術をしようとしているなら無駄だぞ」
「はい…もうそのつもりはありません」
「なら何故来た。今はまだ再会を懐かしむ時ではない」
「お願いです。忍連合側とこれからの忍の世界の在り方について話をしてみて下さい。マダラさまの計画をもっと良いものに出来る何かが得られるはずです」
「フフッ…」
マダラは胡坐をかいた膝に右ひじを置いて頬杖をつくと、軽く笑って見せた。
「マダラさまが亡くなってこの二十年…当然世界は変わっています。新しい世代が新しい価値観と変わらぬ信念をもってこの世界を動かしているのです。その者達の話を聞けばきっと忘れていたものを想い出し、気付けなかった事に気付けるはずです!」
「ハハハハ…分った分った。お前には随分寂しい想いをさせたようだな。だが俺を年寄扱いするのはやめろ。この世界は何も変わっちゃいない。この世に人間が居る限り憎しみと争いの連鎖は消えぬ」
六花は寂しい顔で目を閉じる。
そして静かに、深く深呼吸をする。
「お前の頑固が変わらないようにな…言っても聞かないだろ?計画が完了するまで結界の中から見て居ろ…⁉…」
ヒュンッ!
バッ!
マダラが結界を作ろうと印を結ぼうとしたが、その瞬間六花がマダラの眼の前に瞬間移動し刀を振り下ろした。マダラは手を解き後ろに飛び退く。
「あなたを復活させ、計画を成功させるわけにはいかない」
――六花がマダラの前に戻って来る前――
「!」
地面に横たわっていた六花はパチリと目を開けた。
「…ゼツ…良かった…無事だったのね」
六花はゆっくり起き上がり、両掌を揃えてゼツの前に差し出した。その上にゼツがぴょんと飛び載る。
「六花…マダラの術を解くなんて!どうしてそこまで」
「私がマダラさまを輪廻転生の術で復活させる。オビトはまだ引き返せる…」
「何を言い出すんだよ!もうオビトが尾獣すべてを揃えて十尾は復活してるんだ。マダラ復活もオビト自身が望んでいることだよ」
「本当にそうかな…私はそうは思えない。だってオビトを仲間から引き離し、マダラさまに引き合わせたのは、私だもの…」
「今更何を言ってんの!マダラとナルトが手を取り合う為だったら非情になるんじゃなかったの!」
「もう、私の役目は終わっているから・・・」
「何言ってんのさ。君の本当の役目はこの先だろ?」
「あのね、ずっとあなたに黙っていた事があるの…」
「何?」
「私、芙蓉の記憶を取り戻した直後に、六道仙人に会ってるの。それで、あの時マダラさまの元へ戻ったのは、予言の子が世界を救うまでヒミコさんの次の転生者をこの世に生まない為、生きていて欲しいって頼まれたからなの…この身体も六道仙人の力よ」
「それが何だって言うんだよ!」
「予言の子はナルトくんよ。マダラさまの計画を止め、世界を救うのはナルトくんなの。その時、マダラさまと手を取ってくれるかは分からない…でもももう、私がこの世に生きている役目は終わっているのよ」
「六花…僕のこと愛してるって言ったじゃないか。あれは嘘だったの?」
「嘘じゃないわ。愛している」
「だったらこれからは僕の為に生きてよ。新しい世界で二人で幸せになろう。もうこの先君がマダラのことで思い悩む必要は無いんだ」
それを聞くと六花はゼツを掌から膝の上に移して、戸惑うそぶりを見せる。
「私、あなたのことも知っているの。ヒミコさんに聞いてる」
「・・・・。」
「そんなあなたがどうしてマダラさまの傍に居て、マダラさまの命令を聞いていたのか…もしかして、ヒミコさんの事と関係があるんじゃないの?」
・・・六花はホント、鋭いんだから・・・
「僕の正体を知っていたんだね。なんか、凄く嬉しいよ…」
「?・・・」
「僕はこの世に肉体をもって生まれることが出来なかった。ずっと母の意思として存在していたんだ」
「大筒木…カグヤさん?」
「そう。母がハゴロモとハムラに月へと封印された瞬間、この形になって産み落とされた。いつか母が復活する為にね。だからこの世界を変えようとしているマダラの傍に居たんだ」
「そんな…!」
「…でも、どうやったら母が復活するかなんて分から無かったよ」
「ゼツ・・・」
「でも分ったこともあった。君はヒミコじゃなく“芙蓉”というひとりの人間なんだってこと。だから死なないで。お願いだから…」
六花は再び掌を差し出し、ゼツもそこに載った。
ゼツを顔に近づけると、六花は慈しむ目でゼツを見つめる。
「私、あなたが傍に居てくれなければ、ここまで生きてこられなかった。あなたはもう、私の一部よ。愛してる…」
…チュッ…
「ありがとう、ゼツ…ごめんね」
ゼツは目を閉じ、そのまま眠ってしまった。
六花は優しくゼツを地面に降ろすと立ち上がる。
そして辺りを鋭い目つきで見回したあと、駆けだして行った。
「芙蓉!無事だったか…」
マダラの元へ向かう途中の柱間の分身の前に六花が現れた。
「…柱間さま…どうか、私にお力を貸して下さい」
「輪廻転生の術なら力は貸せぬぞ!」
「あれはしません。その代わり、マダラさまを止めます。ナルトくんたちが十尾を抑えればマダラさまの計画は白紙です。それまでマダラさまを捕らえるのです」
「うむ。だが二人でやれるかのう…俺はいま分身の身だ」
「私が死んだとされた後、私は何十年もマダラさまに忍術を教えられました。マダラさまの戦い方なら柱間さまと同じくらい理解しているつもりです」
「そうだったのか・・・マダラの奴、そこまでお前のことを愛していたとは・・・」
「違います。マダラさまに芙蓉の記憶はありません。マダラさまにとって私は下僕の六花なのです。詳しく話している時間はありません。向かいながら作戦を話しましょう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
つづく