罪の向こう、愛の絆シリーズ 【続・六花の森】   作:千野 伊織

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◆◆今回(20・完)の登場人物は、うちはマダラ、ハゴロモ(六道仙人)、大筒木ヒミコ(o.c)、千手柱間、千手扉間、猿飛ヒルゼン、波風ミナト、ゼツ、うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケ。主人公:六花(芙蓉)。


「あなたが必要なんです・・・必要なの・・・必要なの・・・」


最終回です。

※原作を引用している場面があります。
※関連話:「六花の森(完)その結晶はいつかまた輝く」、「続・六花の森(16)~全てを背負う者。うちはサスケVS六花」、
「続・六花の森(11)~さようなら、ナルトくん・・・」



続・六花の森(完)~その結晶が朝陽で昇華するとき

 

ポチャン・・・

 

その音に、六花はもう見える筈のない眼を開けた。

 

「!!?」

「これまで、本当にご苦労だった…芙蓉」

 

六花の視界に六道仙人こと、ハゴロモが胡坐をかいて宙に浮いており、六花はハゴロモと向かい合って立って居た。

「・・・・・」

「御主の眼はワシが治した…致命傷の傷もな」

「・・・なら・・・ここは?」

六花は足元を見た。

地面には水が張っており、水鏡にはぼうっとした自分の顔が写っている。

「ここは御主の精神世界と浄土との境だ。以前、ワシと会った場所だ」

「・・・・。私の役目は終わりました。もうこの先に行かせて下さい」

「うむ…だが、ナルトが世界を救う瞬間を見届けなくても良いのか?」

「・・・世界を救うのは、ナルトじゃない」

「・・・御主・・・」

「久しぶりね、ハゴロモ。チャクラだけの存在になってまで色々画策していたなんて、アンタらしいわ」

ヒミコは六花の顔でニヤリとハゴロモに笑って見せた。

「それはお互い様だろう」

「私は魂で生きているわ」

「ああ。だから今までお前の存在に気付けなかった」

「残念がることは無いわ。アンタが使えなくしたチャクラも、十尾復活と神樹降誕で完全に取り戻すことができたしね…せっかくだからアンタも私の一部としてこれからも活かしてあげる」

「ワシを取り込むつもりか」

「ええ。あなたがこれまで"生かして"きたこの身体でね…」

六花の人格を乗っ取ったヒミコは唇に人差し指を当て、上目遣いでハゴロモを見ながら続ける。

「それが嫌なら、折角助けたこの子を殺す?もう役目は終わっているしね。私がアンタを吸収しなくても、どの道お母様がアンタを吸収するだろうけど。アハハハ!アンタも男じゃなく、女に産まれれば良かったのにねぇ…」

「芙蓉はお前の転生者であり、器かもしれない。だが、お前自身ではない、全くの別人だ。お前の思い通りにはならない」

「ハハハハ!もう遅い。こうして精神世界で芙蓉の人格を支配すればこの子の身体は完全に私のモノ!!この瞬間をどれほど・・・・!!?・・・うっ!ううう・・・」

ヒミコは頭を抱えて前屈みになり苦しみ始めた。ハゴロモは只、眼を細めてそれを見ている。

「うああああっ!!・・・・」

身体を反らし天を仰いで叫び声をあげると、地に膝を突き、そのままうつ伏せた。

 

・・・ハァハァハァ・・・

 

ヒミコは震えながら顔を上げて横を見ると、芙蓉が立ちあがりながら自分を見下ろしていた。

 

バシャァアン!!

「どうして⁉さっきから何度も何度も私の力を・・・でも今回は逆らうことなんて有り得ないのに!!」

ヒミコは水が張っている地面を拳で激しく叩き、芙蓉に向かって叫んだ。

「…だって、私は芙蓉だから…あなたじゃ…ない」

芙蓉は優しくも厳しい声で、静かに言い放った。ヒミコは歯を食いしばり芙蓉を見上げて睨みつけていたが、口を閉じ、震えながら深呼吸をして言う。

「フン!そう…まぁ今のうちに言いたいことを言っておくといいわ。お母様が戦いを終え、ここから出る時には、もう貴方の身体は私のモノになる。あなたは死ぬのよ」

「ええ。私の命はもうすぐ終わる」

ハゴロモは芙蓉の言葉を聞き、僅かに俯いた。

「ヒミコさんも知っている通り、私はハゴロモさんとの約束で生きている。その約束も、もうすぐ本当に終わる…ナルトくんがこの世界を救ってくれるから」

「まだそんな事を言っているの⁉さっき見たでしょ⁉マダラは…」

「ハゴロモさんのこと、いまでも愛しているんでしょ?」

「な、何を言い出すのよ」

「でも、ハムラさんのことも兄弟として大切だった。だから敢えてどちらとも結婚しないって言った。だけどハムラさんはあなたを傷つけた。その時、本当はハゴロモさんに結婚してもらいたかったんでしょ?お母さんの魂が自分に入っているって気づいた時も、汚れてしまった自分もすべて受け入れて欲しかった。そうでしょ?」

「黙りなさい!!」

「自分から告白も出来ない、ハゴロモさんも自分を受け入れてくれない。それが悲しかった…辛かったのよね?」

「黙れ!!解ったような口を利くな!男はみな下等な生き物。私たち女を傷つけ、苦しめる存在…だから女が男を支配しておかなければならないのよ!それだけよ!」

「ねえ、神様って一人だと思う?」

「?」

「もし神様がいるとして、この世の全ての生き物を作ったのなら、それは神様も一人じゃないからだと思うの。だから男がいて、女が居る。女だけで良いなら男は作らなかったと思う。この世界は男と女が居るから回り、未来が生れる。…まぁ、単細胞で分裂して増える生き物もいるけどね。ふふっ」

「…フフ」

芙蓉の言葉にハゴロモが笑った。

ヒミコは、笑うのと泣くのを同時に堪えたような顔になり、困惑した声で言う。

「意味が分からないわ。何を言っているのよ・・・」

「大丈夫。今からでも遅くない。だって、あなたの目の前には今、ハゴロモさんが居るじゃない」

ヒミコは恐る恐る、ハゴロモを見上げた。

するとハゴロモは微笑み、頷き、ヒミコの傍に寄ると、地べたに座るヒミコにそっと左手を差し出した。そして芙蓉もヒミコに寄り添い、ハゴロモの顔を見つめて固まっているヒミコを見て微笑みながら言う。

「一人じゃないから・・・あなたも、私も・・・」

「ヒミコ・・・待たせて悪かった。これからは共に居よう・・・愛している」

ハゴロモの言葉に、ヒミコはガクンと首を垂れた。

そして暫くすると、ゆっくり顔を上げた。

「・・・遅いわよ・・・まったく」

ヒミコは左手を伸ばしてハゴロモの手を握り締めると、ゆっくり立ち上がった。

その顔にはもう、愛と慈しみ、そして優しさしか無かった。

「・・・愛してる・・・」

ヒミコは小さく呟くように言うと、その姿は次第に薄れ始めた。ヒミコは隣りに居る芙蓉に顔を向ける。

「芙蓉…ゼツのこと、よろしくね」

そう言うとヒミコの姿は光となって消えてしまった。

 

「ヒミコさん・・・」

「ヒミコの事でも御主には迷惑を掛けてしまったな。だがお陰でようやくワシらも素直になれた。ありがとう…」

「いいえ…私はこれまでヒミコさんに沢山助けて貰いました。感謝しています…。あの、ヒミコさんは?」

「先に浄土へ行った。母とこの世に復活するのでは無く、ワシとあの世で共に居ることを選んでくれた・・・さて、最後の時だ。我々もゆこう」

「でも…」

「御主も見届けるべきではないのか?愛する者の行く末を…。確かに御主には酷なことかもしれん。だが今のマダラ、いやマダラの生き様を認めてやれるのは御主しかおらぬ」

「・・・・。」

六花は俯き、足元を見た。

六花の頭には先ほど目撃したマダラとオビトの会話の場面が蘇り、足元の水鏡にそれが映し出された。

すると、引いていた筈の怒りの波が再び芙蓉の身体全体に広がってゆく。

しかし六花は必死にその波をかき、深い水の下にあるものを見つめようと懸命に目を凝らした。

 

六花としてマダラと共に居た年月…。

忍であるマダラの姿を見つめてきた。

それは最盛期のマダラの姿では無かったかもしれない。それでも同じ忍である六花の眼を通して見たマダラの生き様と信念は、芙蓉として見ていた姿とは少し違っていた。

少しだけ方向は違っていても、マダラと同じ方向を見て傍に居た日々のなか、二人で紡いできたものは怒りと言う感情だけで押し流されるほど容易いものでは無かった。

いま、二人で紡いできたそれは、細く長く…今にも切れてしまいそうである。

しかし確かにまだ繋がっている。

そして、それは、六花が紡ぎ続ける限り、マダラを必要とする限り、切れはしないのだ。

それならば手繰り寄せることができるではないか。

 

「・・・はい。」

 

 

暁の満月は随分と山入端に近づき、辺りは群青色に染まって静まり返っている。

夜明けが近づいていた。

 

柱間、そして柱間と同じく大蛇丸によって穢土転生された扉間と猿飛ヒルゼンの前に、こちらも三人と同時に穢土転生された波風ミナトが走って戻ってきた。

「…何か、分りましたか?」

ミナトは暫く前までナルトと共にマダラと闘っていたが、ナルトと離れてしまってからその行方が分からなくなっていた。

しかも、マダラとオビトだけではなく、数多く居た忍連合の忍たちの姿も見当たらない。

「誰もおらぬ…ただマダラの下半身があるだけぞ」

柱間は地面に転がるマダラの下半身をしゃがんで見ながら背中でミナトに答えた。

「マダラの下半身が転がっているなら、マダラは死んだものと考えてもいいのでしょうか?嫌な予感もしますが…」

ミナトの言葉に、今度は扉間が空を見上げながら答える。

「どちらにせよ奴の無限月読とやらは完成してしまった様だな。死者の我々にはかからぬ様だが…。四代目、そっちはどうだったのだ?」

「はい。その術にかかった人々を開放しようと、皆を包む木を木を切って救出しても目覚めませんでした。そして直ぐ次の木のツタが絡みとってしまう」

「…やはり同じか」

ヒルゼンがミナトの言葉に眉をひそめて呟いた。

そして扉間が一息置いて口を開く。

「…マダラの生死を確認しつつ事を知るなら、その下半身を使って穢土転生してみればハッキリする。そして吐かせる」

「それには別の生贄が要るではないか!」

そう言い柱間は扉間へ振り向き睨んだが、扉間は腕を組んだまま目を細める。

「ここにきてまだそんな甘いことを…!」

「何か他の方法で…」

柱間は再び地面に転がるマダラの下半身を見つめ左手でその足に触れた、その時だった。

「!!」

メリメリ・・・・シュウゥゥゥ・・・・

マダラの下半身からチャクラが噴出したかと思うと、それはあっという間に宙でかたちを成した。

『!!』

四人は驚いてそれを見上げる。

「…やはりお前は優しい奴よ。アシュラの前任者よ」

「・・・アナタは?」

「名をハゴロモ…忍宗の開祖にして六道仙人ともいう」

 

 

「んんっ・・・・・?」

六花は意識を取り戻すとゆっくりと身体を起こし、霞む眼で何度も瞬きしながら全方向にめを凝らしてみた。

「・・・あ!・・・」

二十メートルほど離れた場所に柱間と、懐かしい三人の姿があった。そしてその四人の目の前にはハゴロモが居る。

しかし、六花は地べたに座ったまま俯いた。

地面にはもう自分の姿は映っておらず、影すらまだ無い。それは六花に己の存在が透明なものの様に感じさせた。

そして、先ほどのハゴロモとの会話が頭に蘇る。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・はい。私も一緒に行きます」

「今、ナルトとサスケが主体となり異空間で母と戦っている。もう直ぐ二人が母を封印するだろう。そこには十尾の人柱力、つまり母に身体を乗っ取られたマダラと、母の元へと戻ったゼツも居る」

「・・・。マダラさまとゼツも、一緒に封印されてしまうのですか?」

「母本体を封印すれば魔像に入っている尾獣たちも含め、人柱力のマダラも剥がされる。運が良ければマダラは封印をまぬかれるかもしれん。だがゼツは恐らく母と共に封印されるだろう。いや、されなければならぬ存在だ」

「どういうことですか?」

「ゼツは母が封印されてから今まで、忍たちを言葉巧みに操り争わせてはそれに乗じて母の封印を解かせようと働いていたのだ。ゼツが居なければ奪われなかった命、変わることが無かった平和もあっただろう。ゼツとはそういう存在だ」

「ゼツが居なければ、マダラさまは…」

「うむ…だが、ゼツは人間を洗脳することはできん。マダラの意思があってこそ、今の結果が導かれたとも言えよう」

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ゼツ…」

芙蓉は小さくその名前を呼ぶと、グッと強く目をつぶった。

ゼツとの様々な想い出が必然的に浮かぶ…その前に、六花は目を開け立ち上がった。

夜明け前の秋冷は、いつも芙蓉と六花に何かをもたらし、思い出させ、そして奪ってゆく。

 

 

「…で…アナタが先ほど言われた術のことですが…具体的にはどの様にするのですか⁉」

ミナトがハゴロモに訊ねた。

ハゴロモは柱間たちに母・カグヤの事、息子のアシュラとインドラの事を語って聞かせ、そしてナルトたちの現状と、ナルト達がカグヤを封印した後の対応について話して聞かせていた。

「術の印はワシがやる。ただこの術には膨大なチャクラが要る。ワシには今そのチャクラは無い…渡してしまった。余り時間も無い。ワシの言う通りにしてくれ」

 

「私も一緒に手伝わせて下さい」

 

「!!?」

 

その声に全員が驚き、声の主の方を向いた。

「芙蓉・・・」

最初にその名を呼んだのは、扉間だった。

「芙蓉!良かった無事だったんぞ⁉」

柱間が大きな笑顔で六花に向かって両手を振る。

「やはり貴女は芙蓉さんだったか…」

ヒルゼンも少し困った笑顔をして見せた。

「芙蓉…さん?六花さんではなくてですか?」

ミナトは一人で不思議そうに皆の顔を見て困惑している。

「御主の力は有り難い…僅かな時間だがワシが他の助っ人を呼び寄せる間、皆と話すと良い」

「ありがとうございます」

六花はハゴロモに礼を言うと、四人の前に駆け寄った。

「ワシはさっき芙蓉と一緒にマダラと戦ったんぞ!だからほれ扉間、お前がいっぱい喋れ!」

「ハァ⁉なんだソレ⁉聞いてねぇぞ!・・・って、えっと・・・」

扉間は組んでいた腕を解くと、気まずそうに右手で頭を掻いてそっぽを向いた。

「おお。扉間様が照れていらっしゃる。久しぶりに見ましたのう!」

「猿っ!貴様…」

「扉間さま…お久しぶりです。色々と申し訳あり…いえ、ありがとうございました」

六花はそう言って、芙蓉の笑顔で扉間を優しく見つめた。

「・・・。いや、俺のほうこそ…ありがとう」

「詳しく事情を説明する時間はありませんが、私はいま六花という名の忍です。六道仙人さんの力で生き長らえています。そして・・・マダラさまの・・・仲間です」

「⁉」

「…やはりか」

ヒルゼンとミナトは六花の言葉に驚いて六花の顔を凝視するが、柱間と扉間は少し苦い顔をして何度か瞬きをして目線を逸らした。

「私の使命は、予言の子…つまりナルトくんが世界を救うまで生きながらえることです。けれど、私はずっと、自分の意思でマダラさまと共に生きてきました…」

『芙蓉…』

扉間と柱間の声が揃った。そして扉間のほうが言葉を続ける。

「お前はいつから蘇っていたのだ?確かにあの時、お前は…」

「扉間さま、柱間さま。最後までわがままで、自分勝手でごめんなさい。でも、これが私の選んだ道だから…」

・・・ブワァァァァ・・・!!

その音と眩しい光に、五人は後ろに振り返った。

すると、そこには見覚えのある人物たちがずらりと並んでいる。

「うおおー!なっつかしいのう!!初・五影会談の感動が蘇るようだぞ!」

「はしゃぐなっつーの」

「なんだと!お前だってさっき穢土転生しようとか嬉しそうに言ってたくせに!」

「嬉しそうになんてしとらん!」

「ふふっ…ふふふ」

柱間と扉間の隣りで、握った手を口に当てて笑う芙蓉を見て、二人は顔を見合わせフッと笑った。そしてまた、揃って芙蓉の顔を見る。

すると芙蓉も二人の顔を見た。困ったように笑うその顔は、二人にとって懐かしかった。しかし芙蓉の眼には涙が滲んでいるのだが、二人には気付くことが出来なかった。

 

 

満月はもう山入端に沈んでしまい、東の空は白んできている。

きっとこれから始まる一日で、いや、この秋で一番冷たいであろう空気を、六花は胸いっぱい吸い込んだ。

いま六花は、柱間と扉間、ヒルゼンとミナト、そしてハゴロモによって浄土より呼び寄せられたかつての五影たちと共に直径百メートルはあろうかという術印の大きな円周を囲んで座って居る。

六花は、左右十数メートル隣に居る扉間と柱間を交互に見た後、群青色の空を見上げた。

『…そんな顔するなよ。もうすぐ寂しい気持なんて無くなるからさ…』

いつかのゼツの言葉が蘇るが、この先に寂しい気持が無い世界など無いのではないかと思う。

それとも、死ねば全ての感情は昇華されるのだろうか…

「ゼツ・・・マダラさま・・・」

六花は空を見上げ小さく呟いた。

しかし六花が気がかりだったのは、ゼツのほうだった。

 

ゼツは身体を得てヒミコに愛されることを願いながら母の復活の為に生きていた。

果たしてゼツは自身の人生を生きられていたのだろうか?

だがいつの間にか、六花とゼツの間には愛が生れ、二人の心は通じ合った。

しかしそれはマダラに抱く愛とは違う。

つまり、ゼツが望んでいる愛とは違う…

心の奥でもどかしく絡まり解いて見せて説明することができないゼツへの愛情に対し、六花は申し訳なさと悔しさを感じていた。その絡まった愛情は、永遠に絡まったままで構わないと思っていた。うやむやにしたまま自分が先にこの世を去るものだと思い込んでいた。

どうやら、最後まで自分は卑怯で甘いようだと六花は諦めるしかなかった。

そんな自分だからこそ、ゼツが居なければこの長い年月、一人で生き抜くことなど出来なかった。

例えゼツが悪と言われる存在だったとしても、六花にとってはかけがえのない愛する存在だった。

六花はもう居ない左肩に載るゼツを見て、思う。

 

・・・マダラさま…あなたの言う事は正しかった。

平和の始まりは新たな影の始まりなんだってこと、いま解りました。

世界平和より、一億人の幸せより、目の前の愛を守りたい…その為なら罪を犯すことさえ厭わないその気持ちが・・・

 

すると、空から声が聞こえた。

 

「…愛してるなんて言葉、聞かなきゃ良かったよ。こんなに別れが辛くなるなら…」

 

「!…」

確かに聞こえたゼツの声に、六花がゼツの名を呼ぼうとしたその時。ハゴロモが円の中央で声を上げた。

六花も急いで印を結ぶ。

「皆の者準備はよいか。ゆくぞ」

 

『 口寄せの術!!! 』

 

 

『?』

「お帰り・・・ナルト」

「・・・・。父ちゃん?…それに六道の大じいちゃん⁉これってば…」

「そうだ。戻って来たのだ。かつての五影皆で口寄せの術をしてな…よくぞ世界を救ってくれた」

「オウ!!」

無事に口寄せの術が成功し、術印の中央に現れたナルト、サスケ、サクラ、カカシはハゴロモと会話を始めた。円の後ろには、外道魔像から解放された九匹の尾獣たちも居り、口寄せを終えた五影たちはその姿を見て驚嘆すると同時に今ようやく伝説の六道仙人に目を凝らしている。

しかし、柱間と芙蓉だけは違う方向を見つめていた。

そして柱間と芙蓉は、ほぼ同時に立ち上がった。一方、扉間は離れた隣りの芙蓉を心配そうに見つめる。

二人は歩き始めたが、互に別々の方向へと歩いてゆく。

その時、サスケが柱間の向かう方向へ走り出そうとしたが、ハゴロモがそれを制止した。そして言う。

「マダラは一度人柱力となった。尾獣たちが抜けた今…助からん」

「そんなものを利用するからああなる」

サスケは冷たい声で言い放った。

「・・・。サスケ、ナルト、お前たちの前任者の最後だ…見ておくといい」

サスケと共にナルトも、地面に仰向けに横たわるマダラと、マダラに寄添う柱間の様子を見つめた。

 

「芙蓉!・・・良いのか?」

円の外へ一人出て行こうとする六花を扉間が呼び止めた。

「はい。世界が救われた瞬間を見届けることができた…それで充分です」

「悪いな。どうやらあの世で言った事は忘れる様になっているみたいだ。今思い出した…正義だけが全てじゃない。お前が守りたいものを最後まで守れ…そう言っただろ?」

「…扉間…さま…」

「今がその時だろ」

「・・・・はい!」

芙蓉は後ろに振り返ると勢いよく走り出した。

 

マダラまでは僅か数十メートル。

六花の足なら数秒のはずなのに、その距離は山一つにも感じられるほど長かった。

必死で足を前に進める。

 

「マダラさまっ!!」

マダラの傍にしゃがんでいた柱間は、六花の姿が目に入ると立ち上がってその場から離れた。

そして遂に六花がマダラの元へと辿り着き、膝をつくとマダラの左手を握り締め、顔を覗き込む。

「マダラさま・・・」

「・・・六花・・・」

マダラは宙を仰いだまま少し微笑んだが、もうその眼に光は無く、六花の姿は見えてはいなかった。

六花はマダラの顔に左手を伸ばすと、しっかりと確かめるように、そして労わるように優しくマダラの頬に掌を這わせる。

掌から伝わるマダラの残り僅かな体温に、六花の眼から涙が否応なしに溢れ出だす。

かたちの無い愛に触れられる奇跡があるならば、やっと今、この手で触れることができた気がした。

ぼやけてくる視界を何とか鮮明にしようと六花はその涙を何度も拭ったが、涙は次から次へと止めどなく流れ、マダラの顔にぽたぽたと落ち続ける。

遂に視界がぼやけてしまうと、六花は左手でマダラの頭を抱き、マダラの首元に顔を埋めた。

そして、耳元で囁く。

「あなたは間違ってなんかいなかった。ごめんなさい…最後まで理解出来なくて」

「・・・お前は充分…解ってくれて…いた・・・芙蓉」

「!」

芙蓉という名に六花は閉じていた目を大きく開いた。そして僅かに顔を上げ、マダラの端正な横顔を見た。

その横顔は、夜明けの東雲色に照らされていた。

しかしその光は月明りと似て非なるものであり、弱々しいにもかかわらず全てを突き刺す様である。

そしてマダラの横顔は、夜明けを前にして血色を取り戻すどころか、次第に白黒へと変わってゆく。

六花はなんとか体を起こし、マダラの瞳を見つめながら訊ねた。

「私にはマダラさまが必要です…必要なのです…昔も、今も、そしてこれからも…。私とあなたは、まだ一緒に居ますか?」

だがマダラはもう声を発することは出来ず、代わりに六花に握られている左手を僅かだが、しっかりと握り返した。

六花にとってその感覚はこれまでの中で最も力強く、心臓を同時に掴まれているような切なく苦しい感覚だった。

そして六花はマダラに向かって微笑み、小さく頷くと、再び顔を埋める。

 

柱間は芙蓉とマダラの様子を少し離れた所で黙って見ていた。

だがその様子は、柱間がマダラを倒したあの日、マダラの遺体に抱き着いて泣きじゃくる芙蓉の光景と重なり、柱間はそれに耐えられずに目を逸らしていた。

しかし、流石にいつまで経っても泣きもせず沈黙して顔を上げない芙蓉のことが心配になり、躊躇いながら歩み寄った。

そしてそっと六花の肩に手を遣り、声を掛ける。

「芙蓉・・・・・・芙蓉⁉芙蓉!!大丈夫か⁉」

柱間は焦って芙蓉を抱き起し、腕に抱えたが、六花はもう虫の息であった。

離れた所で、柱間とマダラの会話に続き、六花とマダラの様子を見ていたナルトは、仰向けになってようやくハッキリ見て取れた六花の顔を見て驚いた。

「六花…姉ちゃん⁉」

ナルトは六花の元へと駆け寄って行った。

そして柱間の胸に抱かれる六花の顔を急いで覗き込む。

「やっぱり六花姉ちゃんだ!大丈夫か⁉いま助けてやるってばよ!」

「…ナルトくん…大きくなったねぇ…ありがと…」

芙蓉は穏やかな顔で、僅かに光る瞳を細めてナルトを見つめた。

「サクラちゃん!急いでこっちに…」

「残念だがもう助からない。これが六花の…芙蓉の寿命だ」

ハゴロモがナルトに向かってそう言った。ナルトに呼ばれたサクラは、ハゴロモとナルト両方の顔を見てその場で戸惑っている。

「はぁ⁉何言ってんだってばよ!!」

「ナルト・・・」

柱間が怒鳴るナルトを静かに止め、一度唇を噛むと芙蓉の顔を見つめ、握っている芙蓉の右手をギュッと握り直した。

「やっと、やっと会えたってのに…何でだよ!!…」

ナルトは拳を握り締め、眉を寄せて視線を膝に落した。

そしてハゴロモが再びナルトに言う。

「芙蓉も見えない所でこの世界を救った一人だ…。かつて芙蓉とマダラは夫婦だった。カグヤの思念など無ければ離れることは無かったかもしれぬな…」

離れた場所で見守っていた扉間は、ハゴロモの言葉を聞きながら俯いた。

そして、悔しがり俯くナルトに向かって六花が言う。

「…素敵なお友達が…沢山できて…良かったね…見て…たよ…」

それを聞いてナルトは顔を上げ、潤んだ瞳で六花の顔を見て無理やり笑って見せる。

「オウ!友達も仲間も沢山できたってばよ!姉ちゃんとしてた約束、守れて良かったってばよぉ!それからそれから、今は額当てしてっけどさ、あの日貰ったゴーグルだって、ちゃーんと大切にもってるんだってばよ?」

六花はナルトの話を聞きながら何度も瞬きで頷いていた。

そして、次の瞬きのあと、六花は目を開けなかった。

「六花姉ちゃんっ!!」

「芙蓉」

柱間は六花が眠りにつくのを看取ると、六花を抱き上げ、マダラの隣りに並ぶように横たえた。

 

「六花姉ちゃん・・・本当にありがとう」

「芙蓉にとってお前は息子の様な存在だったのかもしれぬな…。ナルト、悲しいがお前は早く父親の所へ行け。もう時間が無い様だぞ」

柱間の言葉にナルトは袖でごしごしと顔を拭くと思い切って立ち上がり、六花に向かって深く一礼し、そして父・ミナトの方へと走って行った。

柱間もナルトの背中を見ながら立ち上がると、寂しそうに軽く微笑みながら並んで眠るマダラと芙蓉の顔を見た。

その瞬間、山入端から遂に太陽が顔を出し、薄黄色の朝陽が辺りを明るく照らし始めた。

朝陽に照らされるマダラと芙蓉、ふたりの顔には、今はもう苦悩の皺は無く、穏やかで、満足そうな表情をしている様にも見えた。

「マダラ…芙蓉。お前たちの“先の夢”は叶わなかったのだろうが、きっとお前たちが守りたかったものへの想いは、受け継がれてゆく筈ぞ…」

そう言うと柱間は一度目を閉じた。

そして目を開けると、離れた場所でこちらを見ている扉間の元へと歩いて行った。

 

柱間が扉間の隣りに並んだ時、二人の身体は眩ゆい光に包まれ、その光は天に向かって一直線に伸びてゆく。

それは柱間と扉間だけではなく、穢土転生されたヒルゼン、ミナト、そして浄土から召還された五影たちも同じく光に包まれゆく。

そして、皆の姿は次第に光の中で薄れ始めた。

 

「本当に良かったのか?最後に芙蓉に声を掛けてやらなくて…」

「…いいんだ。これで」

「フッ。あの世でマダラと喧嘩するなよ?」

「…フン!」

 

太陽は何も知らない顔をして、昨日と同じく大地を照らし始めた。

ここからまた、新しい未来が始まる。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




最低評価をされておりますが、私自身は満足のいく作品が書けたと思っております。

二次創作の意義は、商業的に誰にでもウケる、売れるものを書かなければならないのではなく、
自分の好きな想像・アイディア・世界観を表現できることではないかと思っています。
確かに他の人から見たら最低な駄作でも、描いている本人が楽しめることが一番だと思っています。(ただし一次創作はそうはいきませんし、それは駄目ですよね)
そこで共感してくれる人が居て、一緒に楽しんでくれれば更に嬉しい・・・それが二次創作の良さではないでしょうか。

なので、正直、二次創作については評価されないという選択肢が欲しい所です。
(やはり評価0をつけられるのは悲しくなるので)

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