罪の向こう、愛の絆シリーズ 【続・六花の森】   作:千野 伊織

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今回(3)の登場人物は、うちはマダラ、ゼツ(黒)、うちはオビト、大筒木カグヤ(o.c)、波風ミナト、うずまきクシナ。

オビトの写輪眼開眼と誘拐の任務を何とか果たし、アジトに戻った六花。
しかし、アジトはマダラによって出入口が塞がれていました。

そして遂に、オビトとマダラが対面し、マダラは語り始めます。
一方、六花の身にも思わぬ事が起こり、大筒木カグヤと対面することになります。

木ノ葉の里に住むことにした六花は、ミナトと再会して・・・
※関連話:「罪の向こう、愛の絆~マダラ、死す」
※原作から引用しています。


続・六花の森(3)~対面~オビトとマダラ、六花とヒミコ

 

 

「そうか・・・六花が・・・」

「うん。もう“白ゼツ”も居るし、僕の分身の“黒ゼツ”も居るしさ、六花なんて必要ないんじゃない?これ以上感情に流されて失敗されても困るしさぁ」

「うむ・・・」

マダラは頬杖を外すと、ゆっくりと前を見た。

 

マダラの目の前には、意識の無いオビトが横たわっている。

オビトは重症を負ったものの、マダラが培養した柱間細胞の人造体を潰れた右半身に移植し、命は助かった。

実はその前に、ゼツが分裂した自分の身体をオビトが挟まっている岩の間に入れて救命処置をしていたのだが…。

 

「あいつの甘さはいつか、己を危機に曝すことになる…俺が居ない間、お前が六花を守れ」

「うん任せて。僕と六花、仲良しだから。大丈夫だよ」

「・・・・。」

マダラは、今度は右側を向いた。

そこはこのアジトと地上を繋げる通路の入り口だが、今は大きな一枚岩でその入り口はしっかりと閉じられており、もうこのアジトへは出入りできない。

 

『…今でも、マダラ様は私の光…この先も、ずっと…』

 

「・・・六花・・・」

マダラは小さく呟き一瞬目を伏せたが、再び鋭い眼光で目の前のオビトを見据えた。

 

 

「どういう事?…」

六花はアジトの入り口で戸惑っていた。

アジトの入り口があった筈の場所は、土と岩で埋まっているではないか。

先ほどのゼツの言動…まさか…

「マダラ様はっ…⁉」

陽は山派に沈み、辺りは暗くなり始めている。急がないと…

六花が須佐能乎を出し、巨人の持つ槍で入り口に穴を開けようとしたその時だった。

「止めるんだ六花!」

その声に、六花は後ろに振り向いた。

「ゼツ!何があったの?マダラ様は無事⁉オビト君はどうなったの?」

六花は須佐能乎を収めるとゼツに駆け寄り、掌を揃えて差し出す。するとそこへゼツがいつもの様にぴょんと飛び載った。

「大丈夫。マダラもオビトも無事。まぁ、オビトは無事とは言わないけどね…誰かさんのせいでぇ~!」

「・・・・・。」

「アジトの入り口と通路を閉じたのはマダラだよ。もう誰も入れないし、出れない」

「えっ⁉」

「六花、君は今回の件でもうお役目御免ってわけさ。あ、但し、マダラが復活するまでの間だけだけどね~」

「ど、どういう事?」

「どうもこうも無いでしょ。自業自得じゃん」

「そ、そんな・・・マダラ様・・・」

「でも自由の身になったわけじゃないからね!さっきの約束、覚えてる?」

「・・・服・・・従?」

「うん、そう!」

そう言うとゼツは掌から飛び、鎖帷子の襟口からスルッと六花の胸の谷間に入った。

「きゃっ!ど、どこに入ってるのよ⁉早く出て!」

「オビトもマダラの所へ来たし、もう六花が木ノ葉の里に行く必要も無くなったね。どこかで僕とふたりで暮らそうよ!」

ゼツは六花の言葉を無視し、胸の谷間に埋もれながら言った。

「私はともかく…ゼツ、あなたにはマダラ様の代役、オビト君を見張る役目があるでしょう…?」

「ああ、それなら大丈夫。白ゼツと、僕の分離体・黒ゼツが居るからね。」

「じゃ、じゃあ、私がオビト君に仕えるという任務は…?」

「だからさっき、お役目御免だって言ったでしょ?君のご主人様は、今日から僕だよっ!」

六花は塞がれたアジトの入り口に数歩ゆっくりと近づくと、上を見上げる。

空には既に星が輝き始めていた。

しかし、月の姿は無い。

「・・・。マダラ様は…その…独りで、最後を迎えるつもりなの?」

「みたいだね。もういいじゃんマダラの事は。復活したらまた会えるんだしさぁ」

ゼツの言葉を聞き、六花の眼がみるみるうちに潤んでゆく。そしてついに一筋涙が頬を伝い、胸の谷間に挟まっているゼツの上にポツリと落ちた。

「泣くなっ!今日から僕が君のご主人様だって言ってるだろ!」

「・・・・・・」

六花は、未だ黙って入り口を見上げて立ち尽くし、泣き続けている。

マダラが死ぬところを見るのも辛い。

しかし、こんなたちで別れなければならないのは生木を裂かれる思いである。

「六花っ!!」

ビクッ!…ゼツの怒鳴り声に、ようやく六花はゼツの方を見た。

「今すぐここから離れるんだ。取り敢えずは山岳の墓場の一軒家(アジト)へ行くよ。ほら!さっさと行くんだ!」

それでも、六花は肩で息をしながら首を横に振り、動こうとはしない。

完全に陽は沈み、辺りの視界は殆ど無くなってしまっている。

「・・・っ・・・⁉」

「本当に悪い子だね…六花は」

突然ゼツは身体のかたちを複雑に変化させ、六花の首を絞め、口の中に入って舌を抑えた。

「苦しい?六花?フフッ…死にたくないでしょ?助けて欲しい?」

・・・まだ、こんな所で死ぬわけにはいかない!・・・

六花は震えながらなんとか首を縦に振った。

「かっ・・・かはっ!!・・・ハァハァハァハァ!!・・・」

ゼツは六花を解放したが、六花はその場に倒れ込んでしまった。その身体をゼツが起こす。

虚ろな目をした六花の前に、ゼツの顔が現れた。

「君のご主人様は誰だっけ?」

「…ゼツ…あなたよ…」

・・・こんな屈辱くらい、私の苦しみくらい、なんて事は無いわ・・・

 

 

六花が去ったアジトの中は薄暗い。

ポチャン・・・。

 

・・・俺は死んだ…のか?・・・

「!!・・・こ、ここは・・・?」

「あの世との狭間だ・・・うちはの者よ・・・」

 

オビトは意識を取り戻し、遂にマダラと対面していた。

 

「・・・!!その眼・・・じいちゃんも、うちは一族・・・?」

「・・・さあ、どうだろうな・・・」

「イテテッ!テッ・・・」

「痛みを感じるという事はまだ生きているという事だ。といっても、身体の半分はほぼ潰れていた・・・一応手当はしておいてやったが・・・」

「・・・じいちゃんが助けてくれたのか・・・ありがとう。」

オビトは少しほっとしたかのように、マダラの顔を見て礼を言った。

その右目にはまだ、写輪眼が浮かんでいる。

身体の半分はほぼ潰れてしまったものの、ゼツの防護と処置により、右目の眼球は助かっていた。

マダラはその写輪眼を見つめ、口を開く。

「礼を言うのはまだ早い・・・その分の恩はしっかり返して貰うつもりだ。」

「じゃ、じゃあ、何すりゃいいんだ?悪いけど、ずっとここには居られねぇーよ!生きてるんだって分ったんだ…木ノ葉の里に帰る!今は戦争中だ。写輪眼もやっと開眼したし…これで今度は、もっと、仲間を守れる!」

傷の痛みすら忘れてしまっているかのように、オビトは嬉しそうに応えた。

しかし、マダラは小さく溜息を吐き目を伏せ、口を開く。

「・・・もっと仲間を守る、か・・・」

「?・・・な、何だよ⁉」

「お前のその身体・・・もう忍としてはやっていけまい・・・」

「!!?・・・イヤイヤイヤ!!やっとこの眼を手に入れたんだ!今度こそ仲間を守れる忍に俺が」

「現実を見ろ」

「・・・」

オビトの反論を待たずして、マダラが言葉を続ける。

「この世は思い通りにいかぬ事ばかりだ。長く生きれば生きるほど…現実は苦しみと痛みと虚しさだけが漂っている事に気付く・・・」

・・・何だ?このじじい?・・・

オビトはマダラの話を黙って聞き続けるが、自分を助けてくれたという割に目の前の老人の不可解な話に対し、怪訝な顔をする。

「いいか…この世の全てにおいて、光が当たるところには必ず影が在る。勝者と言う概念がある以上、敗者は同じくして存在する。…」

 

マダラの頭の中に、あの時、目の前に居た柱間の姿が浮かぶ。

一度目は初めて背中を地面に付けた時に自分を覗き込む柱間の顔。

そして二度目は、あの谷で、木遁の変わり身だった柱間の姿だった。

 

「…平和を保ちたいとする利己的な意思が戦争を起こし、愛を守るために憎しみが生まれる…」

マダラの眼の前には、火影の制服を纏い顔岩の上から木ノ葉の里を眺めている“誰か”の姿が浮かぶ。

そして、直ぐにその風景は無数の死体が転がる光景に変わる。

「…これらには因果関係が有り切り離すことは出来ん…本来はな…」

 

・・・うわぁ。スイッチ入っちゃってるよ…こうなるとじじいの話は長ぇーんだよなぁ。はぁ・・・

オビトはこの話の終着点はどこまで続いていくのかと、いい加減耐えきれなくなり口を開く。

「で…ここはどの辺なんだ?」

「お前が傷ついたからこそ、代わりに、助かった者がいる・・・違うか?」

「・・・!」

オビトの頭に“先ほど”、カカシと共に戦った時の光景が浮かぶ。

そして、その結末が…。

「…さっきからうっせーよ!!俺はこんなとこに長居したくねーんだ!さっさと!――…ぐっ…イテッ…」

「出て行きたければ出て行くといい・・・動ければの話だがな。」

そう言うと、マダラはオビトに背を向け、ゆっくりと歩き出す。

オビトはハァハァと上がった息を何とか抑えながら、思う。

・・・待てよ。これって…おかしいだろ…⁉なんで写輪眼のじじいが独りでこんな所にいんだ?・・・

「じじい!!てめぇ、さては木ノ葉の抜け忍だな⁉何者だ⁉」

しかし、マダラはオビトの言葉を無視をし、先ほどまで座って居た場所に戻るとゆっくりと腰かけようとした。オビトは薄暗い中、その光景に目を凝らす。

「!!?」

マダラの背後に何か巨大なものが見えた。しかし何かまでは分からない。

マダラはそこへ腰かけると、再びオビトを見据えた。

「俺は・・・うちはの亡霊・・・うちはマダラだ。」

「・・・・・!!!」

 

 

チュンチュン、チュンチュン・・・

 

翌朝。

朝陽が部屋を照らし始める頃、スズメも囀り始めた。

一軒家のアジトの部屋の中は秋冷でひんやりとし、やがてくる冬を予感させる。

冬は、六花に後悔を蘇らせる。

「ふぅ―――・・・」

六花はテーブルに着き、両肘をついて顔の前で手を握り締め、そこに頭をもたげて長く息を吐いた。そしておもむろに顔を上げると目線の先の本棚の前に、いつかの自分の姿が浮かんでくる。

 

あの日、芙蓉はマダラを見送った後、洗濯をして外に干し、それからこの場所で本の整理をしていた。

すると突然、目の前に扉間が現れ、そのまま木ノ葉の里に連れて行かれたのだった…

その後、マダラは…柱間は…扉間は…そして、自分は…

『いなり作って待っとけ』

今はもう、それすら出来ない。いや、もうずっと前からそうだったではないか。

 

今更考えても仕方が無い事が頭を巡る。六花は急いで立ち上がって台所に立った。

「過去に現在(いま)と未来を支配させては駄目…」

そう小さく、いつか自分が誰かに言った言葉を呟いてみた。

 

 

「ねぇ、住みたい場所決まった?」

「ううん、まだ」

六花は部屋の整理をしながら背中で答えた。すると机の上でザラメせんべいを食べていたゼツは、せんべいを丸呑みしてから六花の頭の上に飛び載った。

「ここに来てもう三日目だよ?早く決めなよ!」

六花は手を止めた。そしてゼツではなく、正面を向いて言う。

「だから、ここに住み続けるのでは駄目なの?ここなら用心棒や寺子屋の仕事もあるし、何より暮らし慣れているから問題無いし…なぜそんなにここ(山岳の墓場)を離れたがるのよ?」

「だって~、せっかくだから違う場所に住んでみたいじゃん。国が違えば食べ物も変わるよ?まだ食べたことが無い甘味が世の中にはいっぱいあるんだよ⁉」

「はぁー。結局甘い物目当てなわけ?」

「はい、六花のご主人様は誰?」

「ゼツさまでーす」

「なら言う事聞いて。いい?」

「ハイハイ・・・」

六花は再び手を動かし、整理を再開する。

本当は、直ぐにでも木ノ葉の里に行きたかった。

しかしオビトが里に居ない今、木ノ葉の里では故人になっている自分が大義名分が無いのにも関わらず、再びあの場所で暮らす事は許されないのではないかと気が咎めた。

勿論、木ノ葉の忍であるミナトに六花が忍だと知られている事も気になる。

「・・・!」

その時手に取ったのは、分厚い理科の参考書だった。

六花は再び手を止め、眼を閉じ俯いた。

 

 

「あ・・・んっ・・・?」

「六花・・・」

「んんっ。もう、だから変な所に入らないでってば・・・って!だっ、誰⁉」

六花は飛び起き、チャクラと写輪眼を発動して身構える。真っ暗な部屋の中を眼球だけで見回したが、異変は無いく、誰も居ない。

「なーんだゼツかぁ…もう、びっくりしたぁ…」

・・・でも今、確かに人影が見えた気がしたんだけど・・・

六花は再び横になり、布団を被って目をつぶった。

「!!?」

「僕だよ?六花・・・」

「な、何してるの?・・・」

布団の中。

その“手”は、六花を後ろからしっかりと抱き締めていた。“足”は六花の足に絡まっている。

ゼツが自在に身体のかたちを変化できることは知っているが、今のかたちは…いや、しかしそんなはずは無い。見た事が無いではないか…。

六花が横を向いて戸惑っていると、その手は六花の腕の隙間をすり抜け、左の乳房を鷲掴みにした。

「・・・⁉」

「六花、愛してるよ・・・」

「ふ、ふざけないで!!!やめてっ!!」

六花は再び起き上がって布団から出ようとしたが、その手は六花の両肩を引っ張って無理やり布団に仰向けに寝かせた。

すると、六花の目の前に、ゆっくりと真っ黒い人のかたちが目の前に現れる。

その顔は、ゼツだった。

「なんの・・・つもり?」

「だってもう六花は僕のものでしょ?」

「いっ・・・・・!!」

その時、六花の身体に戦慄が走った。

 

 

空にはこの秋最後の満月が浮かんでいる。

しかし今宵は月の光で星の姿が見えない。

「・・・うっううっ・・・」

六花は一人、食卓にうつ伏せて泣いていた。

 

ゼツは元々得体の知れない存在ではあったが、マダラの分身であり、記憶を取り戻してからこの二十五年近く一緒に過ごしたことで、相棒とも友達とも兄弟ともペットとも分からないが、心を許す存在になっていた。

しかしそこには明らかな線引きがあり、それが破られる事があるなどあり得ないし、想像すらしたことが無かった。

いや、想像する事すら悍ましい…

その悍ましい感覚に、六花はハゴロモから聞いた自分の前世・ヒミコの身に起きた事を想い出していた。

 

・・・ヒミコさんも、こんな感覚だったのかな・・・

 

「ええ。似ているかもね」

 

「⁉」

 

六花が顔を上げると、目の前の縁側に、髪の長い女性が立って居るではないか。

その頭上には南中の満月が輝いている。逆光で目がくらみ、その女性の顔ははっきりとは見えない。そして、チャクラも感じない。どうやら忍ではなさそうである。

 

「ねぇ、何をそんなに泣いているの?」

「えっ?・・・だ、誰⁉」

すると女性は芙蓉に歩み寄り、ゆっくりと顔を六花の顔に近づけてきた。しかし、芙蓉は不思議と恐怖を感じない。

・・・あっ!この人は!!!・・・

「私が、大筒木ヒミコ。ハゴロモが言っていた、ね…はじめましてだけど、実はずっとあなたの中に居たのよ?ふふっ」

「なぜ・・・ここに?」

「マダラが外道魔像を口寄せしたでしょ?あの力を使って、あなたの中から出て可視化されるようになれたの。いわゆる幽霊ってやつだけどね」

{IMG43820}

「・・・・・」

六花は言葉が見つからず、ただ茫然と、満月に照らされ青白く闇に浮かび上がるヒミコを見つめた。

白く長い髪、額に生えている角の様な物、写輪眼の瞳…

確かにその姿かたちは、ハゴロモに見せられたヒミコの姿、そのものだった。

「ところで、もしその涙がゼツに凌辱されて泣いているなら無駄だからやめなさい。好機だと思うべきよ」

「えっ・・・」

「ゼツはね、私の弟なの。この世には生まれなかったけれど。死産だと分った時、私の母が自らゼツの魂だけを取り出し作り出した存在、それがゼツ。その存在を知っているのは母と私だけよ」

「・・・・?」

六花は、その話を直ぐには理解が出来なかった。

一生懸命、頭の中でこれまで見聞きしてきた単語を繋げて事実関係を整理しようと試みる。

するとヒミコは、再びズイっと芙蓉に顔を近づけてきた。大きく見開いた眼で六花の瞳の奥を探る様に見つめながら言う。

「兎に角、ゼツはあなたを愛している。あなたはゼツのモノなんじゃない、ゼツがあなたのモノなの。それを利用しないでどうするの…芙蓉!」

六花はゼツが自分のことを愛しているゼツはお前のものだという言葉よりも、ヒミコが自分の本名を呼んでくれたことに少し動揺してしまった。ごくりと唾を呑み込み、俯く。

一方ヒミコは月を見上げながら言葉を続ける。

「あなたはこの世の摂理を解ってない。男はね、女が生きる為に存在しているの。女に生まれたあなたには男を利用する権利があり、利用する義務がある…何故なら、この世を支配するのは女だから!」

六花も流石にその過激な発言には驚き顔を上げ、愕然としてヒミコの横顔を見つめた。

芙蓉が想像していたヒミコの人物像とは余りにかけ離れている。

「で、でも・・・」

「これまでマダラに命令されてあなたが心を痛めながら行ってきた任務。どれもあなたは何も悪くない。あなたのその美しく、清らかな手を汚す必要なんて無い。本当に汚い事は全て、ゼツに、マダラに、男共にやらせればいいの!お箸があるのに素手でご飯を食べて手を汚すの?使える道具を使って当然でしょう?」

ヒミコは満月を背負い、ニコニコしながら芙蓉を見ている。しかし芙蓉は怪訝な顔をしてヒミコを一目見たが、直ぐに目線を斜め下に落して言う。

「・・・でも、食べている事には変わりはないです・・・罪も、責任も、私にあります」

「あはははっ!芙蓉、あなたはこれまでの転生者の中で私に一番似ていない。だから私はあなたのことが大好きなの!」

「・・・?」

ヒミコは芙蓉に背を向けた。そして顔だけで振り返って言う。

「残念だけどもう時間が無い。私があなたの前に現れる事が出来るのは満月の夜、満月が南中に在る数分間だけなの。ロマンチックでしょ?ふふっ…じゃあ、またね」

「・・・!!」

ヒミコの姿は、スッと音も無く六花の目の前から消えてしまった。

目の前にはほんの少しだけ西に傾いた月だけが浮かんでいる。

「・・・ヒミコ・・・さん・・・」

 

 

 

川にかかる低い橋、稲の刈り取られた後の田んぼ、大きな楠木…

どこか懐かしさを感じる風景に、六花は目を細める。

「結局、木ノ葉の里って…。やっぱり扉間にまだ未練があるんでしょ?」

左肩に載るゼツが不満そうに、低い声で六花に言った。

「未練も何も…扉間さまは私の夫よ。今でもね…」

「六花ってさ、良い人ぶってホント八方美人だよね。そういう奴が実は一番悪い奴なんだ!」

その言葉に六花は足を止めた。

「…うん。解ってるわ。」

「でも!今は、六花は僕のものだからね!」

「・・・」

 

 

「ほーら、やっぱり。これが目的じゃん」

「いいじゃない、少しくらい」

六花は固く閉じられた門から、首を伸ばしてその家の庭を見ている。

常緑樹の濃緑の葉なら見えるのだが、その足元にあるかもしれない寒牡丹までは見えない。

忍術を使えば庭に入る事など容易いのだが、六花は木ノ葉の里では一般人であり、昼間に堂々と不審な行動をする事は出来ない。

「充分、不審だよ?」

「う、うん・・・」

心の中の声に対し、鞄の中に居るゼツからツッコまれ、六花は気まずそうに首をひっこめる。

庭を見ることは諦め、六花はその場を後にした。

しかし六花の顔はにこやかで、足取りも軽い。

扉間が亡くなって二十五年近くが経った今でも、二人の家はちゃんと在った。その事実だけで充分、嬉しかった。

しかもこの家は今、三代目火影・猿飛ヒルゼンの直接の指示の元、他里からの要人・来客の為の宿泊施設として運営管理されているそうだ。その事実もまた、“芙蓉”にはとても嬉しい…。

 

 

「ごめんください。こんにちは…あの、表の求人の紙を見たのですが…」

開店前の蕎麦屋に入ると、店主と思しき初老の男性、同じく初老の女性、二十代半ばくらいの男性三人が忙しく準備をしていた。

『・・・!』

六花の顔を見るなり、三人の動きが同時にピタリと止まった。

その反応を見て、六花は思わず少し俯いたが、思い切って顔を上げ口を開く。

「あの、厨房と後片付けのお仕事をさせて戴きたいのですが、まだ求人されていらっしゃいますか?」

しかし、三人は口を半開きにしたまま、まだ固まっている。

六花はまさか、鞄の中に居るゼツが術でもかけたのではないかと不安になり鞄を開いたとたん、二十代半ばくらいの男性が突然喋り始めた。

「あっ、はい!こんな店で良ければ是非っ是非にっ!どうぞ、どうぞ、こちらに座って下さい!」

そう言って若い方の男性が急いで客席の椅子を引いた。そして初老の男性も焦って口を開く。

「お、おい母さん、早くお茶を出して差し上げないか!」

「ああ、はいはい!」

「あの、お構いなく…働かせて頂く身ですし…」

その後、お茶だけではなく何故か六花の目の前には店で一番高いメニュー「大海老入り天ぷら五種盛付き蕎麦御膳」が出され、六花は申し訳ない気持でそれを食べつつ、舞い上がってニコニコと話し続ける三人の話を聞かされ、六花の身の上話もあれこれと訊かれた。

この店は店主のウスタ、その妻のムギ、そして一人息子のキネタ三人での家族経営だという。先日、厨房を担当していた年配の女性が辞め、急募で求人を出していたらしい。

 

 

「どうせ働くなら蕎麦屋なんかじゃなく、甘味処にすればいいのに」

帰り道、鞄の中からゼツが六花に不満そうに言った。

「だってそんな所で働いてたらゼツが商品食べ尽くしちゃうじゃない!駄目!」

「あ、でもさっきの蕎麦団子美味しかったな~」

「まったく、もう・・・」

師走の良く晴れた正午。忙しなく多くの人が行きかっている。六花は苦笑しながら、人をかき分けてゆく。そして、ようやく広い場所に出た。

「甘味処・・・か・・・」

そう呟くと立ち止まった。

「やっぱり六花だって食べたいんじゃん。ねぇ、食べに行こうよ?」

六花の頭には、あの日、「蝶屋」でその日の主役である樹、そして扉間、カガミ、ヒルゼン、ダンゾウ、ホムラ、コハルと一緒に樹の火影奨励賞受賞祝いをした思い出が蘇り、胸が締め付けられた。甘い想い出の筈なのに、苦い味が口の中に広がる。

「また、今度ね・・・」

「え~!いいじゃん行こうよぉ!」

「何かお菓子を買って帰るから・・・」

 

 

次の日。

早速今日から六花は蕎麦屋で働き始めることになり、再び蕎麦屋の扉を開いた。

「おはよう!今日からよろしく!分からない事があったら何でも俺に訊いてね」

「はい。よろしくお願いいたします!」

六花は笑顔でキネタに頭を下げた。そして頭を上げると、キネタは手に女物の服を持っていた。しかし、三人の制服とは明らかに違うような…

「あの、六花ちゃんには厨房の手伝いもなんだけどさ…接客もして欲しんだけどいいかい?」

「あ、は、はい・・・」

・・・どうしよう。人目に付かない厨房の仕事だから働くことにしたのに。でもここで断ることは出来ないし・・・

「で、これが制服!これに着替えてくれるかい?」

キネタは少し照れた様子で六花に制服を手渡した。

 

『・・・』

奥の部屋で制服に着替えて店内に出て来た六花を見て、三人は昨日と同じ反応をした。完全に固まっている。

「あの…」

「…超可愛い!!」「美しいっ!!」「お人形さんみたいだわ!」

六花の着ている制服は、赤い矢絣の着物に赤い鼻緒の草履、その上にフリフリのフリルが着いた白いエプロン、頭にもフリルが着いたカチューシャだった。よもや蕎麦屋とは結び付かない風体である。

・・・これじゃ目立ちに来たようなものじゃない!・・・

はしゃぎまくる三人を前に、六花はうな垂れた。

 

 

「まだ大晦日まで十日近くあるのに、蕎麦屋に行列っておかしくね?」

「なんか可愛い看板娘が入ったとかで、みんなそれ目当てみたいだぜ」

六花が蕎麦屋で働き始めて僅か三日ほどで六花の噂は広がり、木ノ葉の里の外れにあるにも関わらず、六花見たさに多くの客が里外れの小さな蕎麦屋に押し掛けてきていた。

六花はその状況に直ぐにでも店を辞めたかったのだが、責任感の強い六花は自ら働かせてくれと頼んでおきながら一週間もしないで辞めるのは躊躇われた。ようやく一週間が経ち、流石にこれではまずいと思って厨房のみで働かせてほしいとウスタとキネタに頼んだが、「年の瀬までは接客の人手が圧倒的に足りないだよ。時給上げるから接客で頑張って貰えないだろうか」と懇願され、仕方なく今でも接客を中心に働いている。

ガラッ…。

ようやく人の波が引き閉店間際だった店の扉が開いた。

「ギリギリに、すみません」

「いらっしゃいま・・・!」

「⁉」

「ん?ミナトどうしたの?」

店に入って来たのは、ミナトと、赤毛で長い髪の女性二人だった。任務の帰りなのか、二人とも木ノ葉隠れの任務服を着ている。

「わぁ~!本当に可愛い!!噂以上だってばね!ねぇ?ミナト!」

「えっと、あの、お二人様ですよね。あちらの奥の席へどうぞ…」

自分を見て両掌を口の前で合わせてはしゃぐその女性から目を逸らし、六花は二人を奥の席に案内した。そして六花は急いで厨房へ引っ込む。

・・・まさかこんなに早くミナトさんに会ってしまうなんて。でも、それも想定内よ・・・

六花は何事も無かった顔をして二人の席へお茶を運んで行く。

ミナトも特に無反応のまま、少しだけ笑みを浮かべて六花を見ていた。

そして六花は笑顔で二人の前にお茶を置きながら口を開く。

「ミナトさん、お久しぶりです。この前はご迷惑をおかけしました。」

「また木ノ葉の里へ戻って来られてたんですね。」

「え?二人共知り合いだったの⁉」

「うん。一ヶ月前のあの任務の時の…ね」

ミナトの言葉を聞くと女性の顔色は変わり、少し厳しい顔で六花を黙って見つめてきた。どうやらミナトはあの日の事をこの女性に話している様である。

「申し遅れました。六花と申します。昔、火の国の大名付きの忍をしておりましたが、今は引退して両親の故郷である木ノ葉に暮らしております。あの、あれからカカシ君とリンちゃんはどうしていますか?」

「こちらこそあの時はご迷惑をおかけしました。お陰で、二人とも元気です。」

「そうですか…良かった。あ、すみません。ご注文はお決まりですか?」

六花は敢えて自分から個人情報を伝え、カカシとリンを心配して見せた。その程度でミナトの疑惑を晴らすことは出来ないだろうが、ここで下手に隠す方が疑惑を深めるだけである。今は疑惑を晴らすのではなく、疑惑を深めない事が何よりも重要だった。

六花は注文を聞き終わると穏やかな笑顔を見せ、厨房へ歩いて行った。

 

「ねぇ、スパイが看板娘なんてするかな?あんな派手な格好で…」

「うん。そうだね。だけど可能性はゼロじゃないよ。もしかしたら任務は終わっているのかもしれないね。戦争も終結に向かっているし…」

ミナトとクシナは蕎麦屋の帰り道、二人で歩きながら六花のことを話していた。

二人の頭に、帰り際の六花の顔が浮かぶ。

『ありがとうございました。次はぜひ、カカシ君とリンちゃんも一緒に…あと、私にできる事があったら何でも仰って下さい。ご協力しますので』

ミナトがふと、帰り際に六花から手渡された蕎麦団子の入った袋に目を落とす。

「暫く様子を見ようってばね。もしかしたら本当に平穏な生活をしているのかもしれないし。そうだったら、なんだか可哀想…同じ女として」

クシナがミナトの目線を追いながら言った。

「うん。そうだね…」

微笑むミナトの横顔を見て、クシナが口を尖らせて言う。

「でもミナトったら嘘ついてた。“女”じゃなくて、“美女”だったってばね!」

「い、いや、それは・・・」

 

 

六花は今、里の外れの二階建てのアパートの二階の小さな部屋に住んで居る。

夜は更け、外は静まり返っている。

「やめてっ・・・」

「やめるのは六花のほうでしょ?あんなに人気者になっちゃって…楽しい?」

「ち、違うわ・・・いやっ!」

「お金はマダラが沢山残してるから生活には困らないのに、どうしてそこまでして働くのさ?そんなに男にチヤホヤされてたいの?ねえ!」

「違う!・・・お願い、もう、もうやめてっ・・・」

「やめないよ。六花のご主人様は誰だっけ?」

「・・・・ああっんっ・・・・っ!!」

「もう我慢の限界だよ・・・僕。毎日、毎日、目の前で六花が沢山の男たちの眼で犯されていることがっ!!!」

「辞める・・・辞めるから!お願い・・・やめてっ・・・」

六花の言葉は虚しく消え、悍ましい営みは夜もすがら続いた。

 

 

 

つづく

 

 

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