罪の向こう、愛の絆シリーズ 【続・六花の森】 作:千野 伊織
マダラの死を機に、六花は木ノ葉の里で新たな生活を始めます。
平穏な生活を楽しんでいた六花の前に、六花の能力を狙う大蛇丸が現れます。
六花VS大蛇丸・・・戦いの行方は?
「あら?六花さんじゃない!お久しぶりってばね!」
六花が商店街の生鮮食品の店から出たところでバッタリとクシナに会った。
「クシナさん…お久ぶりです」
六花は胸がチクリとするのを感じながら笑顔で会釈をした。
クシナは鞄を肩に掛け直すとニコニコしながら六花に歩み寄ってきた。
「元気?もう新しい仕事は見つかった?」
「はい。実は六月から小さな喫茶店を一人で始めたんです」
「へ~喫茶店!素敵ね!今度ミナトと一緒に行っていい?」
・・・あれ?クシナさんお腹、大きい?・・・
六花の視線に気づき、クシナは少し照れくさそうにお腹を摩りながら言う。
「あのね。ほら、見ての通りで私はいま産休なんだってばね。へへっ」
「おめでとうございます!予定日はもう直ぐですか?」
「うん。まぁね…」
「あのこれ、私のお店の名刺です。狭いお店ですけど、いつか良かったら」
六花は鞄から名刺を取り出し、クシナに手渡した。
「ありがとってばね!女性一人でお店は大変だろうけど頑張ってね」
「こちらこそ、ありがとうございます!クシナさんもお身体大切に」
二人は笑顔で手を振り別れた。
カチャカチャ。ガチャッ・・・バタン。パチッ。
六花は店に入ると早足でキッチンへ行き、買って来た荷物と鞄を台の上に置く。そして生鮮品を冷蔵庫にしまっていると、鞄の中からゼツが這い出てきた。
「昨日は閉店時間を三十分もオーバーしてたよ。今日は絶対に閉店時間を守る事!」
「分かってるわよ。そうは言ってもお客さんが居るんじゃピシャって閉めるなんて無理よ」
「じゃあ閉店時間を早めればいいだろ?」
「これ以上営業時間を縮めたら何のためにお店をしているか分らないわ」
何度繰り返されたか分らないこの押し問答が今日もまた始まり、六花はうんざりとする。
カカシとリンの事件…そしてマダラが死んだ日からもう直ぐ四カ月が経とうとしている。
あの日から一週間後、六花は飲食店を始めると決めた。
勿論ゼツからは大反対されたが、「飲食店なら客から里や忍についての情報が得られる。喫茶店ならゼツも毎日お菓子が食べられる」というメリットを説明した上で、マダラの死後ひとりで何もしないで過ごすのは辛いと本音を訴えた。それでも渋るゼツに、「午後一時~五時までの営業で」という条件を提示し、何とか認めさせたのだった。
しかし、本当は食事をメインとする店がやりたかった。
「食」はこれまでの人生の中で自分と大切な人たちを繋げる大切なものであり、料理は“芙蓉”の生き甲斐でもあったからだ。
それでも、菓子だって料理には違いないし大切な「食」である。菓子メインでしか作れないにしても、食べに来てくれる誰かの為に料理することが毎日楽しかった。
「ついにあの“黄色い閃光”が四代目かぁ」
「ああ。まだ若いけど彼なら文句なしだよ」
カウンター席に座る二人の忍の会話が耳に入り、六花はそっと目だけを上げて二人を見た。しかし会話に入ることはせず、静かに珈琲を淹れている。
「お待たせしました。珈琲です」
六花はカウンターの席まで行き、二人の目の前にそれを置いた。
二人は「どうも」と言って直ぐに会話に戻る。
「でも大蛇丸も、最後まで自分に任せろってしつこかったよなぁ」
「大蛇丸は三代目の愛弟子で三忍の一人。確かに実力から言ってもミナトと同じかそれ以上だしな。でも人望が無いっつかーか、まぁ火影の器じゃねぇな」
・・・クシナさん、喜んでるんだろうな・・・
六花は心の中でそう思いながら片づけた皿を洗い始めた。そして少しだけ寂しく、そして羨ましい気持になる。
・・・私も二代目火影になった扉間さまのこと、傍で支えてあげたかったな・・・
この日は閉店時間の五時丁度に店を閉めることができ、六花は店内の清掃を始めた。
客席のテーブルを拭きながら、六花は満足そうな顔で店内を見回す。
店は二十畳ほどと狭く、築三十年と少し古い物件だが、六花が磨き上げたチーク材の床は黒光りしている。客席もカウンターと四人掛けテーブル席が二つ、二人掛けが四つだけ。古物店でデザインは違いではあるがウォールナット素材で揃えた。各席の上には白熱灯の灯りを設置し読書や書き物をしやすくした、六花のこだわりの客席である。
この光景は、毎日見ても飽きない。
カウンターの内側のキッチンで、ゼツが余った商品のパウンドケーキと白玉団子を食べながら六花に向かって話しかける。
「さっきの客が言ってた大蛇丸。六花も気を付けるんだよ?」
「ええ。なんだか以前から怪しい動きをしているわ。怖い…」
「六花の身体の秘密が奴にバレたら何されるか分からないよ」(ゼツは六花の不老は母・カグヤの力によるものだと思っている)
「うん…でもミナトさんも四代目火影に就任したし、三代目火影も流石にもう大蛇丸の行動を見てみぬ振りは出来ないんじゃないかしら?」
「あんなヤバイ奴、さっさと始末して欲しいよ。まったく!」
六花は清掃と片付けが終わるとゼツを左肩に載せ、二階の住居へと続く階段を上って行った。
「もう・・・またなのゼツ?さっきも・・・・・」
ようやく眠りについたのにも関わらず、再びゼツが六花の太腿に触れてきた。
と、思ったのだが…
布団を避けて覗いてみると、それは細長く白い物体で、ニョロニョロと動いている。
良く目を凝らして見ると…
「キャア!!!」
六花が悲鳴を上げると同時にその白い物体は六花の太腿に噛みついた。それを合図に、白く細長い物体がどこからか次々と現れ、あっという間に六花の身体を覆い尽くしてゆく。
「キモッ!!!」
六花の左肩に載るゼツが叫んだ。
「噂をすれば・・・みたいね。」
「あら、私の蛇に気が付いて変わり身の術で即座に逃れられるなんて、やはりただのくノ一じゃ無さそうね。アナタ」
開錠され開け放たれた寝室の扉の前に、大蛇丸が立って居た。
「・・・・。」
シュンッ!
六花は無言で大蛇丸の目の前から消えた。
「逃がさないわよ…フフッ」
「あんな奴、あの部屋でやっつけられたじゃん!わざわざ外に出る必要ある?人に見られたら面倒だよ?」
「だってせっかく借りたばかりの店舗兼住居を破壊されたら困るでしょ⁉」
「こんな時までお店のことかよー」
「当然!!」
六花は街灯の無い真っ暗な住宅街を抜け、公園に出た所で足を止めた。公園には一つだけ小さな灯りがついており、夏に湧く虫たちがその灯りに群がっている。
そして、六花は素早く後ろに振り返った。
「女が夜中にそんな格好で全力疾走なんて、はしたないわねぇ。ま、かき捨ての恥になるでしょうけど。」
六花は寝間着の浴衣のまま飛び出してきており、下着はショーツしか履いていない。髪は乱れ、はだけた浴衣からは胸の谷間がのぞいており、足は裸足である。
しかし左手には、マダラから授かった愛用の刀がしっかりと握られていた。
「・・・・・」
「無口な子ねぇ。アナタやっぱりどこかの里のスパイなの?」
「なぜオレを狙う?」
「ミナトが話していたのを聞いちゃったのよ。瞬身の術のマーキングを消した女が居るってね…で、その女が今里に居るって。アナタのその術について教えてほしいの」
・・・なるほど。じゃあ直ぐに写輪眼を使うのは面倒な事になるかな・・・
六花は黙って刀を抜くと、大蛇丸へと構えた。
「剣術も得意なの?じゃあちょっとだけ遊んであげるわ…」
そう言うと、大蛇丸は口を大きく開けた。
すると喉の奥から一匹の蛇が現れた。更に、その蛇が口を開けると、口の中から剣の柄が出て来た。
「…キッモ!あんな奴、刀じゃなく写輪眼と須佐能乎でサッサとぶっ殺しなよっ…」
六花の左肩に載るゼツが小声で言った。
「…殺したら私は里に居られなくなる!アイツは剣と同時に口寄せの蛇を使ってくるはずよ。私が火遁で蛇を焼くから、その間にアイツの動きを止めて。それから、里の忍に知らせてきて!…」
六花がゼツにそう言い終わる頃、目の前の大蛇丸は蛇の口から出て来た剣を右手で引き抜いていた。
そしてゼツは身体を半分に分裂させると、二つは地面に潜って消えた。
「これは神器・草薙の剣よ。アナタのその刀で敵うかしら…来なさい!」
六花は構えた刀を握り直すと、大蛇丸に向かって一直線に走り出した。
ダダダダダッ・・・ダンッ!
六花は空中に飛び、大蛇丸の頭上から刀を振り下ろす。
「真正面から来るなんて…馬鹿ね・・・⁉・・・」
トンッ! グッ! バッ!
なんと六花は刀を振り下ろすフリをして、大蛇丸が防御で顔の前に斜めに両手で構えていた草薙の剣に片足で乗り、グッとふんばるとその反発力で大蛇丸の背後へと、前転しながらジャンプをした。
ガキィィィン!!!
六花は地面に着く寸前、刀を大蛇丸の背中に切りつけたが、大蛇丸はそれを何とか草薙の剣で防いだ。六花は十メートルほど後ろに飛び退き、再び刀を構える。
「動きはかなり良いわね。やっぱり“眼”が良いからかしら?早く、アナタの写輪眼を見せて貰いたいのだけど?」
六花はその言葉を無視して再び大蛇丸へ向かって走り出す。
「悪いけどもう遊んでいる時間は無いみたいだわ。潜影多蛇手!」
大蛇丸は六花に向かって右腕を伸ばすと、その袖から無数の蛇が束になって出て来て六花めがけて飛んで来る。
六花は足を止め、顔の前で素早く印を結ぶ。
「火遁・豪火滅失!」
六花は口から激しい炎を蛇の束めがけて噴き出した。
ボォワアアァッ!!!
「私の潜影多蛇手が一瞬で燃えた!・・・はっ⁉」
蛇の束が空中で激しく燃え上がる隙に、六花はその下を滑り、大蛇丸の足元に腰を低くして現れた。
「終わりだ」
「何⁉身体が動かない!」
ザシュッ!!!
「ぐあああっ!!!」
ドシッ!!
大蛇丸は勢いよく地面へと背中から倒れた。
六花はサッと大蛇丸に近づくとその顔を覗き込む。
大蛇丸は右足をふくらはぎから切断され、直ぐには起き上がれない状態だ。
「私を殺すつもり?…甘いわね・・・・っ⁉」
六花と目が合った大蛇丸は背中を地面に付けつつ尚もまだ何か攻撃をしようと印を結ぼうとしていたが、その手が直ぐに止まった。
六花の眼には万華鏡写輪眼が浮かんでいる。
大蛇丸が瞼を閉じるのを確認すると、六花は直ぐにその場から姿を消した。
間もなく遠くから数人の足音が聞こえ、公園に入って来た。
「大蛇丸さん⁉大丈夫ですか⁉」
・・・・・
ザァァァァ・・・ザアアアアア・・・・
「とんだ夜になちゃったねぇ。まさか本当に来るとは。こんな事になるなら先に三代目火影にチクっとけば良かったよ~」
「うん、そうだねって何入ってきてるのよ!出てって!」
浴室でシャワーを浴びる六花の足元に、気付けばちょこんとゼツが居り、六花は追い払おうとシャワーを掛けたが、むしろ気持ち良さそうに目を細めているゼツを見て腹が立つ。
「明日ってもう今日か。今日は店、休みにしたら?」
「そうね…寝室の掃除もしたいし、早速三代目に密告しに行かなきゃならないしね…」
「ほんと、僕らの神聖な寝室に潜り込むなんて許せないよ!」
「怒る所、そこ?・・・ハァ」
六花とゼツは木ノ葉の里についての偵察の中で、大蛇丸の怪しい動きについて知っていた。
きっかけは死体安置所から死体が無くなる事件が多発するようになった事である。
最初は他里が木ノ葉の忍の死体から情報を取ろうとしているのかと思われたが、犯人は大蛇丸だったのだ。
その後、ついに生きている人間まで居なくなるようになった。最初は下忍と中忍だったのが、最近は上忍や暗部の忍まで失踪するようになっていた。
六花とゼツはおそらく大蛇丸の仕業だろうと思っていたが、今夜の事でそれは決定的なものになったのだった。
「殺すんですか?この私を。出来ますかねぇ…アナタに…猿飛先生!」
大蛇丸はそう言うと素早く印を結ぶ。
猿飛ヒルゼン、ヒルゼンが口寄せした猿魔、そして部下たちも身構える。
ガゴッ!ゴッ!!
ヒルゼンたちは激しく床に倒れた。全員が流血している。
その光景に背を向け、大蛇丸は隠し通路に向かって走り出そうとしたが、足を止めて振り返る。
そして、ヒルゼンと目が合った。
「・・・・・」
ザッ!
僅かな沈黙の後、大蛇丸は暗い通路へと姿を消してしまった。
「猿飛…お前…!」
うな垂れるヒルゼンに向かって猿魔が声を荒げた。
「…ヒルゼン…くん…」
「…わぁ~見逃しちゃったよ。甘いねぇ。誰かさんにソックリ!ねぇ~六花?」
六花とゼツはこの日、六花が匿名でした密告を受けて大蛇丸のアジトに向かう事になったヒルゼンたちを追跡してきた。
そして、この部屋の天井にある通気口から一部始終を見ていた。
・・・大切な教え子だったのね。でも、流石にこの場合は・・・
六花はそう思ったが、不意にカガミのことが蘇った。
自分も、もっと厳しくカガミに対して線引きを突き付けておけば、あの日、あんな事にはならなかったかもしれない。
突き放す事こそ本当の愛情だったかもしれない。そう思った。
“芙蓉”を殺してしまったカガミは、あの後、一体どうなったのだろうか…。
扉間は本当に、カガミを罪には問わないでくれただろうか…。
「…これって絶対あとでツケが回ってくるパターンだよね。まぁ僕たちには関係無い事だからどうでもいいけど。大蛇丸は六花の事覚えてないみたいだし。さっ、帰ろ~…」
「…うん…」
六花は重苦しい胸を引きずりながら、静かにその場を離れた。
つづく