罪の向こう、愛の絆シリーズ 【続・六花の森】 作:千野 伊織
秋の彼岸。六花は偶然、ある男性に会います。
二人の間に流れる空気は・・・
10月中旬。ついにクシナがミナトと一緒に六花の喫茶店に来てくれました。
しかし二人はまだ六花に疑惑を抱いていて・・・
六花はそれでも二人の仲睦まじい姿に目を細めます。
そして夜、六花の眼の前に信じられないものが現れて!?
六花は白と黄色の菊が入った花束を手に、真っ赤な彼岸花が両側に咲き乱れる細い道を歩いている。
その美しい光景に目を細めていると、その中にポツンと白い存在を発見した。
小走りで近寄って見ると、それは一つだけ白い彼岸花だった。
・・・扉間・・・さま・・・
悲しそうにも嬉しそうにも見える表情で暫くそれを見つめた後、再び歩き出す。
彼岸花の細道を抜けて角を曲がると、墓地の入り口に着く。そしてその一番奥に在る墓を目指して歩き出した。
西日を受けてまばゆく光る二つの大きな墓石の前に来ると、その場にしゃがみ、花束の包装紙を解いて花を四等分に分ける。
その二つを、先に左側の墓に供え、もう二つを右側に供えた。それから線香を取り出し、マッチで火をつけ、最初に花を供えた墓に置くとその前でしゃがみ、眼を閉じて手を合わせた。
…豪快に笑う顔、大きくて優しい手の温もり、いたずらっぽい笑顔…
暫くして、そっと目を開けて立ち上がると、墓石に彫られた名前が目に入る。
『初代火影 千手柱間』
そして次は右側の墓の前に移動し、その墓石を見つめながらゆっくりとしゃがむ。
線香は供えない。
生前、この香りが嫌いだと言っていたから…。
六花は少し目を細めて墓石を見上げる。
墓石の角は夕陽を受けて黄色く光っており、まるで“芙蓉”のことを待っていてくれたように思えた。
「…扉間さま…」
小さく名前を呟くと、ゆっくりと目を閉じ、手を合わせる。
…自分だけが知る歯を見せて笑う笑顔、拗ねたように照れる顔、誰よりも厳しく真剣な強い眼差し、そしてあの日、剣術の稽古のとき初めて見た涙…
秋の彼岸の中日。
他にも墓参りに来た先客が多く、六花の持ってきた線香以外の香りも漂って来る。その香りが、ここが死者の眠る場所なのだと六花に再確認させ、胸をギュッと強く締め付けた。
そして、固く閉じた目の目頭には、うっすらと涙が光った。
…コトッ。
その音に六花は目を開け、隣を見た。
「ああ…すまない。邪魔をしてしまったかな。熱心に拝んで居るものだから、声を掛けては悪いと思うてな…」
そう言って男は、柱間の墓前に置いた酒瓶から手を離した。
六花は思わず、その男の顔を見て固まった。
しかし直ぐに微笑んで見せる。
「いいえ。こちらこそ通路と墓前を占領していて、お邪魔しました」
「ああいや、そんな事は・・・・ん⁉・・・」
今度は、六花の顔を見た男の顔が固まる。
「ど、どこかで会った事はありましたかな?」
「いいえ。でも私は三代目様のお顔は良く存じておりますわ…ふふっ」
そう言って六花は立ち上がると、ヒルゼンの方を向いて立った。
「お先に失礼致します」
ヒルゼンとほぼ同じ目線の六花はそう言って頭を下げると、もと来た道に向かって歩き出した。
ヒルゼンは茫然とその様子を見つめていたが、不意に六花が無心で拝んでいた墓石を見た。
それはヒルゼンの師である千手扉間の墓だった。
「!」
ヒルゼンはもう一度、遠ざかる六花の後ろ姿を見つめた。
・・・あの女(ひと)は!…いやしかし、そんな筈は!・・・
ヒルゼンが戸惑っているうちに六花は角を曲がって姿を消してしまった。
◆
開店三十分前。
六花は鼻歌交じりで、白・ピンク・深紅の三色の秋桜を花瓶に生けていた。
「何?妙に今日は機嫌がいいじゃん」
むしゃむしゃとクッキーを頬張りながらゼツがぴょんと六花の左肩に載った。
「ちょっと!何食べてるの⁉それさっき焼き立てのクッキーじゃない!それはこれからミナトさんとクシナさんに出すものなのに!」
「疑われている相手に会うのがそんな嬉しいの?変なの~」
「二人に会うのも嬉しいけど、この花を見てると…気分が明るくなるの。だってこの花は…マダラさまが好きでしょ?」
「顔に似合わず花好きだったよね~マダラ」
「過去形で言わないで・・・って、あ!二人が来るわ!早く隠れて!」
…ガチャッ。
「六花さん、こんにちは~」「お邪魔します」
ミナトが店のドアを開けると、クシナが大きなお腹を支えながらゆっくりと先に店内に入り、ミナトがそれを見届けると後から入ってドアを閉めた。
「ミナトさん、クシナさん、ようこそ!いらっしゃいませ!」
六花はクシナに駆け寄ると、触れはしないがクシナの背中に左手を当てて、右手で一番奥の四人掛けの席へと誘導する。
「…開店前から入ちゃって、本当に良かったの?悪いってばね」
「ええ。最近は有難い事に満席になることもあるので…それにミナトさんは時の人でしょう?開店後じゃ入りにくいでしょうし…それに、お二人は私に訊きたいことがあるんじゃないかなって…ふふっ」
そう言って笑う六花を見て、クシナとミナトは顔を見合わせて苦笑した。
「でも、本当に素敵な店だってばね!満席になるのも納得だわ~あはは」
「うん。シンプルで統一感があって落ち着く空間だね!」
「ふふっ。ありがとうございます。飲み物は何になさいますか?あ、本日のケーキは栗のパウンドケーキです」
二人は焦って目の前に出されたメニュー表に目を落とす。
「わぁ~珈琲と紅茶だけじゃなくて、日本茶も色々あるんだってばね!あ、ジュースもあるし。妊婦にも嬉しい~」
「妊婦さんには牛蒡茶とタンポポ茶がおススメですよ。カフェインも無いし栄養豊富ですし。香ばしいから意外とケーキにも合うんですよ」
「へ~じゃあ私タンポポ茶にしてみよっと。えっとケーキはどれにしようかな。あ、ミナトは?…」
二人は肩を寄せ合い仲良くメニューを見て楽しそうに相談している。
六花はキッチンでお湯を沸かしながら、その様子を、先ほど生けた秋桜越しに微笑ましく見ていた。
窓からは九月最後の秋晴れの陽射しが床を照らしており、反射した光がちょうど二人の顔を明るく照らしている。
「お待たせしました。タンポポ茶と珈琲、本日のケーキとチーズケーキです。あと、これは私から、クッキーです。さっき焼いたばかりなんですよ。良かったら、どうぞ」
六花はテーブルの上に飲み物とケーキ、そしてクッキーを並べ終わると、二人の前に椅子を引いて腰かけた。
「ミナトさんも火影に就任されたばかりで、クシナさんもご出産前の大変な時に、わざわざありがとうございます。なんだか少し申し訳ないです…」
「だって~甘い物が食べたくってもう我慢の限界だったんだもん!いつ行くの?今でしょって感じだったんだってばね!」
「ははは…そういう事です」
六花は二人の言葉を聞いて、僅かに目を伏せた。そして口を開く。
「それで、あれから何か、私について分かりましたか?」
「えっ…いいえ…大蛇丸さんの事を密告したのがあなただという事しか…」
「私については以前ミナトさんにお話した事、そして年末にお話した事が全てです。ただ・・・本当はもう、私は木ノ葉の里に居てはいけない人間だという自覚はあります」
「木ノ葉の里に居ては、いけない・・・?」
クシナが怪訝な顔で問うた。
「身内が…うちは一族の父が、里を裏切って抜け忍になったんです。それで、母は共犯を疑われ裁判にかけられました。その後母と里を出たんです。それから結婚して、昨年夫が亡くなってたった一人になった時、最初に思い浮かんだのは木ノ葉の里でした。もう私に生きている家族はいませんけど“火の意思”さえもっていれば、今でもこの里と、里の人たちと家族として繋がっていられるかなって…都合がいい考え方ですけど…私、やっぱり木ノ葉の里が大好きなんです」
「火の意思・・・か・・・」
ミナトは小さく息を吐いて、目の前の珈琲に目を落とした。クシナもその視線を追うように、一緒に目を落とす。
火の意思。
それは木ノ葉の忍しか口にしない言葉である。
「…あの…六花さんの旦那さんって、どんな人だったの?」
六花はクシナの質問に、フッと優しい顔で微笑むと、寂しそうに俯いた。
そして少し沈黙した後、六花は話し始める。
「火の意思って、木ノ葉の里を守る強い意志のことですよね…でもそれって、忍が居るこの世界が、やがて手を取り合い平和を築こうという意思へと繋がっていると思うんです」
その言葉を聞いて、クシナとミナトは目を見開くと顔を見合わせる。
「私の夫は、その火の意思を宿しているひとでした…」
「今も、大好きなんだってばね…旦那さんのこと!」
「ええ。愛してます」
三人は顔を見合わせ、ニッコリとした。
「だから、本当に、私に協力出来る事があれば何でも言って下さい。忍として、木ノ葉の一員として、何でもしますから…!」
六花がそう言い終わると、クシナがクッキーに手を伸ばす。
「じゃあ、まずは六花さんのクッキーいただいちゃおっと・・・ん!美味しい~!!」
「・・・うん、チーズケーキも絶品だよ!」
あははは・・・
三人は笑い合って和やかな時間を過ごした。
やがて開店の時間になり、六花は外に看板を出すと、早速三人の客が入店してきて六花は明るく挨拶をする。
ミナトとクシナは、六花が本当に楽しそうに働いている様子を柔らかな表情で見ている。
そして、クシナはミナトの膝の上にある掌にそっと自分の掌を重ね、二人は笑顔を見せ合った。
短い営業時間を終え、六花は笑み笑みと皿洗いをしている。
その目線の先には秋桜と、あの二人が居たテーブルがある。
「六花、もうあの二人とは会わない方が良いよ」
ゼツがぴょんと飛び跳ね、その視界の中に現れた。
「え?どうして?まだ疑われてるから?」
「うん」
「疑いなんてそんなに簡単に晴れないわよ。いいの、疑われていても。少しづつ信用して貰って、そして、里の人たちの力になれれば…」
そう言って六花は再び目を細めて、二人の居たテーブルを見た。
するとゼツがぴょんと飛び跳ね、いつもの様に六花の左肩に載る。
「あの二人だけじゃなく、この里の人間とは仲良くしない方が良い。悲しい想いをするのは、六花だよ?」
ゼツの言葉を聞き、六花は何度か瞬きをすると悲しい顔に変わり、そのまま目線を手元の泡の付いた皿に落す。そして力を込めて皿を洗う。
「・・・そうだね。やっぱり、私なんかが今の時代の人と深く付き合うのは良くないね・・・」
「僕が居るんだからいいじゃん」
「えぇぇー」
「何だよ!」
◆
空はどこまでも青く、吹く風も澄んでおり、里の風景もくっきりと鮮明に見える。
六花は店先の落ち葉を箒で掃きながら、ふと手を止めてその空を見上げた。
・・・十月かぁ…錦谷の紅葉は今年も綺麗なのかな。一人でも、観に行ってみようかな・・・
「ちょっと六花!ぼうっとしないで早く終わらせなよ」
エプロンのポケットの中からゼツが声を掛けてきた。
「いいじゃない、空を見上げるくらい」
「六花が空を見上げてる姿を、さっきから男どもがたくさん見てるんだよ!もう!」
六花は、えっと小さく呟いて急いで辺りを見回すと、確かに通りすがりの男がこちらを見て歩いてゆく。
六花はハァと溜息を吐いて地面を見た。
そして、もう一度行き交う人々に目を凝らし、足音や話し声に耳を澄ます。
「…居るわけない…か」
六花は小さく溜息を吐き、目を伏せて微笑むと、箒とチリトリを片づける。
そして愛しい人の姿が心に乗り、寂しい気持ちのまま店に入って行った。
今日も無事に店の営業が終わり、六花はいつも通り部屋でゼツと一緒に夕食をとっていた。
「新米は甘くて美味しいよね~」
「ゼツにお米の味なんて分かるのぉ?うふふふっ・・・・⁉」
「六花!」
「うん!・・・これって・・・!」
「「稗だぁ~」」
あははは。米の中に稗の粒が混ざっていた。
二人は食事を済ませ、六花は一階のキッチンへと食器を下げようと畳から立ち上がったが。ふと足を止める。
・・・そういえば、今日は満月だわ。ヒミコさんに会えるかなぁ・・・
「・・・!!!」
六花は食器をその場に置き、急いで窓に駆け寄ると勢いよく窓を開けて外を見た。
「あ・・・あれは!!!」
つづく