遂にストーリーの本筋へ……!
原作が3章までしかないので本筋はあまり進まないでしょうが、気長にお待ちください。
ではどうぞ。
「ようカドック。覚悟はできてるか?」
『覚悟だって?別に僕は何もしないさ。彼女と、その兵隊たちに任せてある。それでも十分に達成できる任務だしな』
「ま、そりゃそうだな」
カルデア。
主人公である藤丸立香の拠点であり、僕らが出会い、共に過ごした場所。
今からそこに、僕たちクリプターは攻撃を仕掛ける。完全にカルデアの機能を停止させるために。レイシフトという可能性を潰すために。
カルデアの中には既にコヤンスカヤや言峰綺礼などこちら側のメンバーが送り込まれている。後はカドックのサーヴァントである皇女様とその兵隊であるオプリチニキが突入するのを待つだけだ。
……というか。仮にも思い出の残る場所を壊すというのに通信しているのは僕とカドックとキリシュタリアだけだ。みんな薄情。
カドックは皇女様のマスターとして。キリシュタリアは人類への宣戦布告をするために状況を把握しているのだが、僕は第2部の開始を見届けるためだ。テキトーな理由をつけて通信している。
『……さて、そろそろだな』
先程まで黙っていたキリシュタリアが言葉を発する。
異星の神による、地球への侵攻が始まろうとしていた。
時は少し遡り、何も知らないカルデアでは——————。
「——と、まあ。以上がAチームマスター7人の大雑把な情報だよ。みんな一癖も二癖もありそうだろう?」
とある一室。カルデアに対する査問会が行われている現在、廊下で会ったコヤンスカヤの言葉によりAチームマスターのことが気になったオレは、マシュとダ・ヴィンチちゃんの2人に彼らの話を聞いていた。
「……なるほど。それがAチームの————って、7人?Aチームって8人じゃなかったっけ?」
「あ、先輩。それは…………」
疑問に思いダ・ヴィンチちゃんへ確認すると、マシュが少し焦ったように口を開く。どうしたんだろう?
「そう!よく聞いてくれたね!最後の1人はエドワード・エヴァンズ。まあ彼もまた癖の強い人物なんだが……そんなことはどうでもいいんだ!」
ずずいっと、ダ・ヴィンチちゃんが目を輝かせ、興奮した様子で近づいてくる。息も荒くなっているような。
「特筆すべきはその肉体だよ!たしかに顔も美しいんだが、まあ頑張って探せば見つかるレベルだ。でも、身体は違う!あそこまで完璧な肉体なんて生前でも私は見たことない!今のこの姿は『私が理想の美とする女性』なんだが、もし男性の姿を選ぶのなら彼にしても良いと思うくらいさ。あの均整の取れた四肢にしなやかな筋肉。そしてそれに伴った最高の機能。まさに神が創ったとしか思えない肉体さ!」
おっと、何か変なスイッチを押してしまったらしい。困ったような顔でマシュを見ると彼女もオレと同じような表情をしていた。
「そ、その……ダ・ヴィンチちゃんは以前からエドワードさんの身体に興味津々でして…………。度々ダ・ヴィンチちゃんが逃げるエドワードさんに解析させてくれ、と迫る姿が目撃されています」
「へ、へー。そうなんだ……」
チラリと横を見るとダ・ヴィンチちゃんは未だに何か話している。これはしばらくめんどくさそうだな。マシュに聞こう。
「その、マシュから見た彼はどうだったの?」
すると、彼女は少し考えるように斜め上を見る。
「そうですね……。少し説明が難しいのですが、不思議な方でした。不真面目で遅刻も多かったのですが、憎めないといいますか。デイビットさんやヒナコさんといったようなあまり他人と接しない方とも距離を縮めることができる人物でした。そういった意味では少し先輩と似ているかもしれませんね」
「オレと?」
「あ、いえ。性格は全く違うのですが、どことなく共通点があるというだけです。とにかく、説明の難しい不思議な方でした」
マシュがここまで説明に困るというのは一体どんな人なんだろう。ダ・ヴィンチちゃんの言う通り癖が強そうだ。
こうして、オレは今更になって彼らの話を聞いた。もともと人理を修復する予定だった、オレの先輩たちの話を。
今まで、カルデアにマスターは1人だった。みんな優しくて未熟なオレをとても支えてくれていたが、それでも同じ立場でしかわからない何かがある。
そんな、マスター同士という立場で話すことを楽しみにしていたオレには、この後起きることなんて全くもって予想できていなかった。
未だに、みんな混乱している。
一体、何が起きたのか。そんなことを考える余裕もなく、カルデアは崩壊した。
突如攻めてきた黒い猟兵。凍らされたスタッフ。ダ・ヴィンチちゃんの死————と思いきや小さいダ・ヴィンチちゃんの登場。シャドウ・ボーダーにホームズと聞きたいことだらけだ。
なのに、またしても理解できない事が起きる。畳み掛けるように。
『……通達する。我々は、全人類に通達する』
突然、どこからか通信が入る。
『この惑星はこれより、古く新しい世界に生まれ変わる』
何を言っているのか、さっぱりわからない。
『空想の根は落ちた。創造の樹は地に満ちた』
叛逆?神々の時代?何のことなんだ?
『私の名はヴォーダイム。キリシュタリア・ヴォーダイム』
汎人類史の終了?キリシュタリア————ヴォーダイムだって?
『8人のクリプターを代表して、君たちカルデアの生き残りに————いや、今や旧人類、最後の数名になった君たちに通達する。————この惑星の歴史は、我々が引き継ごう』
「……キリシュタリアさん?たしかに今の声はキリシュタリアさんで————」
『……ン、ンンっ。今のでどうだろうか、2人とも』
『いやめっちゃ良かった。威圧感とかヤバイぜ』
『……たしかに、今のはラスボス感あったな』
「………………へ?」
訳が分からず、つい気の抜けた声が出てしまう。え?なにこれ?
『そもそも、練習など必要だっただろうか。宣戦布告などにそんなことしなくとも——』
『いやいや、お前それで本番で噛んだらどうすんだよ。めちゃんこ恥ずいぞ』
『ああ。それに僕たちも協力して原稿を作ったんだ。ぶっつけ本番で失敗されても困る』
『……それもそうだな。感謝する、エドワード。カドック』
『いや、それほどのことでもないぜ。……ところで、これっていつやるんだったっけ?』
『忘れたのか?種子が降る時に通信を繋げるんだよ。その方が雰囲気出るだろ?』
『そうだったそうだった。にしても、さすが神話オタク。演出をわかってるな』
『神話オタクは関係あるのだろうか』
「……えーと、これは…………。キリシュタリアさんにエドワードさん。それにカドックさんの声ですね…………」
誰もが口を開かない静寂の中、マシュが言葉を発する。あ、そうなんだ。こんな声なんだね。
『……ん?なあ、キリシュタリア、エド。これ、もう起動してないか?』
『え、マジ?やば——————』
突然、ブチッという音と共に通信が途切れる。あ、気づいた?
「……ん?待て、何だあれ……?」
すると。カルデアから脱出した、たった8人のスタッフのうちの1人が何かに気づく。
「あれは———隕石?」
ソラから、光輝く
それはいくつもあって、真っ直ぐに地上に向かって落ちてきている。
…………うーん。何というか、素直に驚けない。隕石っていうか、何かっていうか、種子だよね。そう言ってたの聞こえたし。
ぼーっとしてその降ってくる種子を見ていると、再び通信が繋がる。
『降ってきた降ってきた!急げキリシュタリア!』
『あまり急かさないでくれると助かる。噛むかもしれないだろう?』
『……そろそろやるから黙れエド。準備はいいか?キリシュタリア。————3、2、1……!』
『……通達する。我々は、全人類に通達する』
「いや、またやるんかい!!!!」
オレの渾身のツッコミが、シャドウ・ボーダーの中に響き渡った。
みんながひと仕事終えた後、僕は自らの
「いやー、なんとか原作通りに進むのを見届けることができたなあ。なんか途中で通信トラブルがあったけど、まあ聞こえてないだろ。セーフセーフ」
あの始めて見た時の絶望感や衝撃を上手いこと演出できたはずだ。なんせ天才キリシュタリアと努力家カドック、それに前世知識持ちの僕が協力し合ったんだから。
「————にしても、カルデアのスタッフを何人も殺しちゃったのは申し訳ないなあ」
ゴルドルフ所長の雇った警備員は別にいいのだが、カルデアスタッフには少しだけ申し訳なさが残る。死のうがどうでもいいと思ってたんだけどなー。まあ僕もカルデアで過ごした日々があったし。そんなもんか。
「だからさ、ホントにすまん!あの皇女様張り切っちゃって凍らせまくってたからさ。オプリチニキどもも容赦ないし……。怖い思いをしただろ?」
「————なんで……?私たち、死んだ筈じゃ…………」
「あー、いやさ。死んだは死んだぜ。ただ、思ったより後味悪かったからさ。こっそり僕が動いてるっていうか……。可愛い娘もいたしひと肌脱いでやろうとね。まったく、下手すりゃ裏切り認定されるぞこれ」
まあ、異星の神の目を誤魔化すなんてことは常にやってるんだ。今更このぐらい大したことないだろ。……こうやって人の罪は大きくなっていくんですね…………。
「ま、ともかく安心してくれ。悪いようにはしないさ」
何て言えばいいのか。暗躍するのも転生者の特権だろう。
「さて、こっから忙しくなりそうだぞ…………!」
なんて言ったが、ぶっちゃけ暇である。いや、やることはあるんだけどね?忙しいのに暇だなあ、なんて大学生みたいなことを思いながら日々過ごしております。
たまに来るオフェリアからの通信に応じたり、ちょくちょく来るヒナコの惚気話に付き合ったり、キリシュタリアやカドックと雑談したり、クリプターの会議に遅刻したり、僕の
「んー、そろそろ気になるなあ。いしちゃんのとこでも行こ」
「よっすいしちゃん。という訳で八咫鏡出してくれる?」
「……どういう訳かわかんないけど、い、良いよ……」
そう言って、彼女は自身の宝具としての『八咫鏡』を出現させる。これは謂わばコピーだ。オリジナルの八咫鏡は、アマテラス自身の象徴として祀られた逸話から太陽の権能を一部使えるが、コピーにはそれがない。と言っても、鏡として持っている機能を最高の状態で使用できる宝具なのだが。
「ありがと、いしちゃん!流石だぜ!」
「あ、あまり近づかないで…………勘違いしちゃうから……!」
僕がお礼を言うといしちゃんは頰を赤らめながら離れる。相変わらず男に耐性がないというか……。全然違うけど雰囲気だけで言えばもこっちとか
まあ、ともかく。せっかく出してくれたので早速使用していこう。
「ロシアの————
八咫鏡は、鏡としての機能を最大限発揮できる。例えば、『何かを映す』だとか、『何かを反射させる』など。それが、石凝姥命の宝具としての八咫鏡の能力。これで第2部の1章がどのように進むのか観察するのだ。
ただ、この鏡は使用者のイメージが固まっていないとそれを映すことができない。つまりは僕の知らない
なのでプレイしていない3章以降の
別に勝手にヒナコを映せばいいのだが一応女の子だし。許可は取らないとな。
問題はベリルとデイビットがメインの6章と7章だなあ。あいつら絶対めんどくさがって協力してくれねえ。ベリルはもしかしたら協力してくれるかもだが、あいつが見せたがるものなんてロクなものじゃないだろうし。まあ男だしあの2人は勝手に覗けばいいか。
こうして、僕はロシアの
「うっ、うっ、パツシィ……!アナスタシア……!」
いやー、マジ感動。これこそ原作キャラの持つ意志の強さだな。イヴァン雷帝も最後までかっけえ。
……カドックとアナスタシア。それにヤガも。
ロシアの結末には思うところはある。それでも僕は見るだけで何もしなかった。原作の流れも大事だし、下手に動くと何が変わるか分からないから。
————だが、一番は。
その意志を、無駄にしたくなかった。
僕なんかが、手を出していいものだとは、思えなかった。
「次は北欧、か」
…………そこで、オフェリアは死ぬ。自らの眼を捨て、
「————さて、どうすっかね……」
僕にも、決断の刻が迫っていた。
原作のシリアスシーンをシリアル()にしてしまっている罪悪感。まあこの作品はこんな感じです。
それを許せる方は今後ともお願いします。