お待たせしました(土下座)
「え、なにこれ…………寒っ」
辺りは一面真っ白の雪景色(氷景色?)。視界は雪やら氷やらで埋め尽くされ、風と共に刺すような寒さが僕の体を襲っていた。
なんかあれだな。ロシアが極寒!ってイメージがあったせいで北欧はそんなにだと思ってたけど寒いな普通に。やべえわこれ。まじやべえ。
あ、でもあっちの方に見える炎はめっちゃ綺麗だ。いや蒼い炎とかかっこよすぎでしょ。なんだったか、あの炎と氷の間は暖かい地帯だっけ。なら行くしかねえよなぁ!
とまあ、ここまで状況を説明すれば分かるだろう。いや、大して説明してないか?まあいい。そう、僕は今北欧の異聞帯にいるのだ。いやー、さすが宇宙をゼロから創った神様。異聞帯を覆う嵐を越えるなんざ余裕ですね。余裕かは知らんけど。
だが過程はどうあれ出来たのならいい。偶にはこっちのお願いも聞いてもらわないと割に合わないってもんだ。
ちなみに何故ここに来たのか、なんてのはわざわざ言うまでもないとは思うが、一応説明するとオフェリアを助けるためだ。以上。
…………いや、実際目的なんてそれだけなんだよな。原作のストーリーやら登場人物の決意なんかを無駄にせず尊重したい、って気持ちに変化がないのは事実だ。ただ。
そう、ただ僕は。不器用で、真面目で、寂しがり屋で、責任感が強くて、面倒見が良くて、そして恋する一人の女の子である彼女に。
生きていて欲しいだけなんだ。
たったそれだけで、僕にとっては十分な理由だった。
巨人王スルト。
星を燃やし尽くし、世界を終わらせる存在。
北欧の異聞帯においてあらゆる神々を殺し、3000年もの間封印されていた終末装置。
フェンリルを喰らったことで氷をも自らの力とし、更には空想樹を取り込み霊基を拡張させた彼は、まさしくこの世界に終末をもたらす者であった。
しかし、そんな圧倒的なスルトの前に立ちはだかる者達がいた。
彼らは今までいくつもの逆境を乗り越え、覆してきた存在。この世界において勝利を約束された『主人公』。
決して諦めず現実に立ち向かうその姿はあらゆる英霊を惹き付け、孤立した戦況を何度も変えてきた。事実、今カルデアの隣には敵であったはずの存在が並び立っている。
王であるスカサハ=スカディを筆頭とした異聞帯のサーヴァント。クリプターであるオフェリア・ファムルソローネ。カルデア────藤丸立香、マシュ・キリエライトを中心とする────と敵であった彼女たちは今では共闘しているのだ。スルトというより大きな共通の脅威を前に。
だが、そんな彼らも一切の犠牲を払わずに進んできた訳ではない。ここまでの道のりには多くの助けと犠牲があった。今回の異聞帯でもそれは変わらない。
「ナポレオン…………」
先程まで男が立っていた場所を見つめ、藤丸立香は呟く。
可能性の男。人々の願いを叶える者。愛する人の為に命を懸けたナポレオンは、自らの霊基を犠牲にオフェリアの呪いを解き、スルトにダメージを与えた。
その宝具は、大砲の軌跡は確かに人の心に残り、『希望』を与えた。英霊も反英霊も生まれないこの世界で。
だからこそ、それを見た彼女は動ける。誰かのために。
「魔眼と、魔術回路の接続を……解除!魔眼は……力を失い……!要石としての機能も、同時に、消え失せる!」
オフェリア・ファムルソローネの魔眼はスルトをこの世に繋ぎ止める要石の役割を果たしている。故に魔眼を破壊さえすればスルトとの契約は破棄され、スルトはこの世界に留まる術を失うのだ。
だが、魔眼は脳に強く結びつく。慎重な処置もなく破壊すれば溢れる魔力が彼女の脳を襲うだろう。
それでも、彼女は止めなかった。激しい痛みも、恐怖も、止まる理由にはならなかった。
「オフェリアさん、もういい!」
「まだ、まだよ!更に────」
藤丸立香の制止さえ振り切り。
「シグルド!真なる大英雄、北欧のシグルド!お願い…………!力を貸して!ただの一度きりで構わない!あれを……!
彼女は己のサーヴァントに命令する。クリプターに与えられた
「輝け、輝け、輝け!私の…………!」
しかし、その代償は使用者の命と重く、大令呪を使えばどのような手を施しても死は免れられない。
つまり彼女、オフェリア・ファムルソローネは────────。
────────そう、私はここで死ぬ。
大令呪を使えばその運命は避けられない。そういう結果だ。
彼を、スルトを倒すためにはこれ以外に方法はない。それにこれは私の引き起こした問題だ。自分の失敗は自分で責任を取る。それが私のやるべきこと。
大切な友達のため。大事な後輩のため。私に虹を見せてくれたあの英雄のため。キリシュタリア様のため。そして────────。
そして。
────ああ、こんなことなら言っておけば良かった。彼は結局最後まで、私がキリシュタリア様に恋をしていると勘違いしていた。
…………彼は私のことを知ったらどう思うのだろう。哀しんでくれるのだろうか、泣いてくれるのだろうか。そんな不安が過ぎる。いや、きっと彼は優しいから私のために涙を流すだろう。
ただ、それはきっと友を失った哀しみだろう。彼にとって私はただの────。
…………今更になって後悔が、思い出が溢れてくる。全く、この期に及んで思い出すのは彼の顔ばかり。自分でも呆れてしまう。いつからこんな風になってしまったのか。
────────わかってる。彼と出会って、彼と話すようになって、そこからだ。全て彼のせいで変わってしまった。でも、その変化は嫌じゃなくて。私にとってとても暖かくて。
「此処に輝け、私の────
改めて実感する。やはり、私は。
彼、エドワード・エヴァンズのことが好きなのだ。恋をしているのだ。
もう会えないけれど、それでもやっぱり。会いたいと、彼にこの気持ちを伝えたいと、そう思ってしまう。でも、それはもう叶わないことだから。だから私は、決意を込めて────────────
「それは使わなくていい。オフェリア」
「────────え?」
私の手に、誰かの手が添えられる。その大きな手は優しく私の手を包み込み、そっと下ろさせた。
「どうして、ここに…………」
思わず疑問が溢れる。だって、だって彼は。居るはずがないのに。来れるはずがないのに。
「どうしてって、なあ?そりゃあ────────」
そして、彼────エドワード・エヴァンズは柔らかい笑みを浮かべ、私の頭にそっと手を乗せると、一歩ずつスルトに踏み出していった。
「助けに来た。それだけさ」
ああああああああぁぁぁああああああああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ああああああああぁぁぁアアアあああああああ!!!恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!
なーにが『助けに来た。それだけさ』だよ!散々どうするか迷って助けに来るの遅れた挙句「みんなカッコイイから僕もカッコよく決めよう」とか何考えてんだ僕!マジでなんなんだ!
やばい、めっちゃ恥ずかしい。周りの視線もやばいし。精神もやばい。さっきからやばいしか言ってねえな。
ちらっとオフェリアを見る。どうやら彼女はあまり引いていないようだ。良かった…………純粋な娘で。
しかし、今気づいたが彼女の右目からは魔眼を破壊した影響か、血が流れていた。
…………ほんと何やってんだ僕。悩んで時間潰したせいで彼女に痛い思いをさせてしまった。大令呪を使わなくても無理に魔眼を壊したら命に危険はあるのだ。さっさと治さなければ。
と、いうわけで。
「お前みたいなデカいだけのストーカーに時間かけてる暇はねえってことだな」
先程からこちらを睨みつけている(?)スルトに向けて吐き捨てる。なんだ、急に知らん奴出てきてイラついてんのか?
『ヒトか…………。知っているぞ、エドワード・エヴァンズ。忌々しい……………………』
何故だか知らんが名前を知られていた。巨人王に認識してもらえるとは光栄な限りだ。最初からヘイトマックスだが。え、なんかしたっけ?僕。
『貴様をオフェリアの中で見た。オフェリアの貴様に対する想いを見た。貴様は特別だ。世界を燃やし尽くすとき、貴様は俺の手で殺すと決めていた。ヒト如きが俺の前に現れたことを後悔するがいい!』
そう叫ぶとスルトは自らの宝具を大きく振りかぶる。
『塵すら残さず消し飛べ!』
そして、限界まで引き絞られた腕は爆発的なスピードで振り下ろされた。
僕という個人に向けられるには余りに大きな攻撃。サーヴァントとなった今でも人間を殺すには有り余る力が放たれた。
瞬間、轟音が轟く。
「────────そんな、嘘…………」
信じ難い光景に意図せず声が零れる。有り得ない、どうして────────。
強大な一撃は空気を震わせ、その衝撃は簡単に彼を吹き飛ばし、たったそれだけで彼は宙に舞った。
四肢は裂け、身体の至る所に傷が走る。これまでのことが嘘だったかのように、あまりにもあっけなく彼の身体が崩れていく。
そして、
衝撃で氷雪が舞い風が吹き荒れる。とてつもない風圧が周囲を襲う中、そんな状況でも彼は。エドワード・エヴァンズは。
「オフェリアにセクハラした罰だ。図体がでけえだけの童貞ストーカーが調子乗んなよ」
私が憧れた彼は、堂々とした目で
先に言っておきますとエドワードはそんなに強くないです。サーヴァントなんかには流石に負けます。スルトなら尚更です。