という感じで、特異点Fはこの話で終わりです。ちょっと長くなりましたが。
巌窟王エドモン・ダンテスの攻撃により後方へ飛ばされたヘラクレス。しかし、汚染されていようが流石は大英雄。傷つきながらもすぐに立ち上がり、こちらを睨みながら低い声で唸る。前々から思っていたが、あれどう考えても人の声じゃねえだろ。
「どうした、何を呆けている。お前が指示を出さねば死が待つのみだぞ」
「…………そうだな」
何を考えているのかよくわからない笑みを浮かべながら、こちらを見る
「◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼!!!!」
しかし、そんな戦略など知ったことかと言わんばかりに真っ直ぐ、単純に、それゆえに強力な突進を仕掛けてくるシャドウバーサーカー。
どうする?撤退するか、それとも迎撃か。回避か。防御にまわるか。一瞬のうちにいくつもの作戦が浮かび上がる。刹那の時間は思考により限界まで引き伸ばされ、あらゆるものがスローモーションに見えた。
そして、僕が出した答えは──────────。
「令呪をもって命ずる!宝具で確実に殺せ!僕が殺される前に、絶対仕留めろ!」
開幕令呪による宝具ブッパだった。
「いやー、さっすが巌窟王。相手がシャドウサーヴァントってのもあったけど、意外とあっさりいけたね」
「当然だ。理性を失ったうえに宝具も使えぬ狂戦士など俺の相手ではない。───────保護すべきものだけは本能として残っていたようだがな」
結局、宝具さえ撃ってしまえば割とこっちのモンだよね。カルデアの令呪は強制的な命令権がない代わりに、一日一角補充されるし。使い所は大事だが切るときは切る。そういう
ともかく、そんな令呪によってバックアップを得た彼の宝具、『
そして、ヘラクレスとの戦闘を終えた僕達は現在、カルデアの面々と合流するために崩壊した都市をブラブラしていた。もちろんしっかり探しつつ、ブラブラだ。
巌窟王には『
そんなふうに、ちょいちょい遭遇する雑魚エネミーは自分で倒していると、ようやくカルデアの面々を発見した。
かなり露出度の高いピチピチコスチュームに身を包む、デミ・サーヴァントとなったマシュ・キリエライト。四苦八苦しながら指示を出している新米マスター、藤丸立香ちゃん。なんとか威厳を保とうとしつつも、涙目&へっぴり腰&脚ガクガクの、オルガマリー・アニムスフィア(幽霊)。そしてカルデアからホログラム越しに通信しているロマニ・アーキマン。
ようやく、我らがカルデアの(今の状況での)最高戦力が揃ったのだった。
…………改めて、ヤバいね。
実際、今マシュは二騎のシャドウサーヴァントを相手に苦戦している。遠くからだし、相手は黒い靄みたいなものなのでよく見えないが、おそらくランサーとアサシンだろう。真名はそれぞれ武蔵坊弁慶、呪腕のハサンだ。ということは、もうシャドウライダー、メドゥーサは倒したということか。
そして、どうやら戦闘は始まったばかりらしい。つまりこのタイミングで確かキャスターのクー・フーリンことキャスニキが助けに入ってくれるのだが、それを当てにするのもアレなので早めに僕達も助けに行くとしよう。
「というわけで、いくよアヴェンジャー」
「いいだろう。だがキャスターが此方を観察している。警戒を怠るなよ、マスター」
なんと、キャスニキの視線に気づいていたとは。相変わらず底の知れないサーヴァントである、と同時に頼もしくもあるが。
「…………どうやらお前も気づいていたか」
「当然。というかあっちがそんなに隠してないしね。危険を察知できなきゃ生き残ることもできないってものさ」
自らのサーヴァントに探られている気もするが、軽く流しておく。残念ながら僕からは何も出てこないので、さっさと助けに行くのがベストだ。
ということで、シャドウランサー、シャドウアサシンの隙をつくために急襲を実行する。マシュに攻撃を加えようとしていた彼らを、僕と巌窟王でそれぞれ跳ね除けた。
「ヌゥ……!何者ダ…………!?」
「ふっ。聞かれたからには答えよう。僕こそが人理継続保障機関フィニス・カルデア所属Aチームマスター、エドワード・エヴァンズ!そして!」
「クハハハハハハハハハ!そのサーヴァント、エクストラクラス、アヴェンジャー!!」
あら、意外とノリが良い。
「二人揃って」
『エドエドコンビ!』
ドカーン。
決めポーズと共に背後で巌窟王の炎が燃え上がる。こいつ、粋な演出しやがるぜ……!ちなみに僕のポーズはギ〇ュー特戦隊のリ〇ーム。巌窟王は背中を向けながら少しだけ前を見るいつものポーズだ。
「えぇ…………」
ぐだ子の呆れたような、引いたような声が聞こえた気がするがそこはスルーだ。気にしたら負けである。
「え、エドワードさん!ご無事でしたか────────」
「えどわあどおおおおおおおおおおお!!!!」
嬉しそうにこちらを見るマシュが何かを言おうとしていたが、その言葉はどっかのポンコツ所長の情けない声で掻き消される。
「わたし、ほんっっっとうに不安だったの!いきなりこんなことになって、レフとは連絡つかないし!ロマニが最高責任者になってるし!唯一無事なマスターは魔術の『ま』の字も知らないド素人だし!なのにサーヴァントはマシュ一人で、よくわからない変なサーヴァントにも襲われるし!私本当に────────!」
「あー、わかったわかった。オルガマリー所長はよく頑張ったよ。えらいえらい」
顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたオルガマリー所長が僕の腰にすがりついてきた。正直汚くてちょっと嫌なのだが可哀想になってきたので思わず頭を撫でる。
「Aチームマスターの貴方がいるなら何も問題ないわ!それに強そうなサーヴァントを連れてるし、令呪も出現してる!これでこの特異点も修復できたも同然ね!」
落ち着いたのか、少しマシな顔になったオルガマリー所長がそう言って胸を張る。なんというか。
「随分と高く評価してくれてるようだけど、どったの?遂にデレ期がきたの?」
「いえ、貴方って人としても魔術師としてもクズだけど、こんな状況ではとても頼もしくて……!戦闘に関する魔術だけは一流だから!」
お、おう…………。全く褒められてる気しないけど。全然デレ期じゃなかった。
「うわー…………。金髪碧眼の外人さんだ」
そんなとき、横から小さな呟きが聞こえる。どうやら藤丸立香ちゃんが喋ったのかな。
「ハロー、ミス立香。僕の名前はエドワード・エヴァンズ。気楽にエドとかエドワードって呼んでくれ」
「は、はろー!じゃあよろしく、エド!えっと、私のことももっと気軽な呼び方でいいよ?」
「じゃあ立香ちゃんで。よろしく立香ちゃん」
「うん!」
パッと、花のような笑みを浮かべる立香ちゃん。なるほど、かわええ。
そんなことを考えていると、通信越しのロマンが逸れた話を元に戻す。
『いやでも、所長の言うことはともかく。エドワードくんがいるのは本当に心強いよ!これでマスターもサーヴァントも二組!あっちと対等だ!』
「────────いや、
興奮した様子で喜ぶロマンの言葉に、突然現れた男がそう返した。ロマンが「軟弱男…………また言われた……」とへこんでいる。
「……!あなたは…………?」
困惑した様子で尋ねる藤丸立香ちゃん。それに対し急な乱入者は、
「ここの聖杯戦争のサーヴァント、キャスターだ。一先ずアイツらをどうにかしようぜ」
獰猛な笑みで、協力を申し出てきた。
その後の戦闘はカットである。だってすぐ倒しちゃったんだもん。
そこからは原作同様順調だった。突如現れたキャスター、クー・フーリンとお互いに情報交換した後、キャスニキの宝具特訓により仮ではあるがマシュは宝具の発動に成功した。違いがあるとすれば、魔力量や契約後のサーヴァントのステータスなどを鑑みた結果、僕がキャスニキの仮マスターになったことくらいか。キャスニキも絶好調だぜ!って感じでテンションアップである。
「それにしてもすげえな、坊主!キャスターのクラスじゃあちと物足りねえ感じだったが、このステータスならあの野郎とも決着をつけられそうだ」
そう言って僕の背中をバンバン叩くキャスニキ。強いなあ。
ちなみに、あの野郎とはご存知赤い弓兵。シャドウ化してるのかしてないのかよくわからんアーチャー、エミヤだ。
今、僕達はこの特異点の原因と思しき冬木の大聖杯を回収しに、アーチャーとセイバーの元へ向かっている。
うーん、他のサーヴァントはともかく。この二騎とにかく意味深なことを言いまくる。特異点Fは伏線と共に謎も多く残る場所だ。正直今は触れる必要がないというか、原作では現段階で全く触れられていないので突っ込むつもりもない。やぶ蛇になっても嫌だし。
結局、やることはエミヤとアルトリアオルタを倒して聖杯回収。これだけである。
「というわけで、どんな事情があろうとここは通してもらうぜ」
「…………そうか」
眼前にはエミヤ。対するこちらは僕とキャスニキ。巌窟王にはマシュ、立香ちゃん、オルガマリー所長について行ってもらった。すぐに追いつくつもりではあるが。
予想通りというかなんというか。キャスニキとアーチャーは意味深な会話を交わしている。…………二部まで生き残れたとしても憂鬱だなあ。謎を残すなよ、怖いだろ。
が、しかし。僕は空気なんて読まない。会話の途中だろうが攻撃をしかける。アーチャーもまさかマスターの方から突撃してくるとは思わなかったのか、一瞬反応が遅れた。
「くっ…………!」
流石はサーヴァント。結構本気で迫ったのだが防がれてしまった。そこで背負っていた武器を取り出す。最初は槍での突き。防御されるのと同時に壊れたので今度は剣を取り出す。また壊れる。
……いや、スケルトンの武器脆いわ。
一旦離脱しつつ苦し紛れに弓で矢を放つ。しかしその攻撃も例の夫婦剣、干将と莫耶に防がれてしまう。お返しとばかりにブーメランのようにその剣を投げてくるが、こちらも咄嗟に弓で防御する。一合で砕け散ったが。
だがまあ、一瞬でも動揺を誘えたなら十分だ。キャスターが宝具を発動するための時間稼ぎはできた。
入れ替わるようにキャスターが前に出る。アーチャーは戻ってきた剣で斬りつけようとするが、キャスターは杖を槍のように回し、突き、薙ぎ払う。さすがはクー・フーリン。僕の身体強化もやりつつ宝具も準備しながらで、なお戦闘ができるとは。
そしてアーチャーの体勢が崩れた瞬間、キャスターの宝具が発動する。
「今だ、キャスター!」
「おうよ!焼き尽くせ木々の巨人!『
まるで藁人形をそのまま巨大にしたかのような、燃え盛る巨人が現れる。その巨人はアーチャーを捕らえると、そのまま押し潰した。
「──────────なるほど」
僕の魔力によって炎の勢いが増した宝具は、そのまま何かに納得したように呟くアーチャーを燃やし尽くした。
これ、僕達必要か?一瞬そんな考えが過ぎる。このまま僕とキャスニキ無しでも勝てそうっちゃ勝てそうだ。
冬木の大聖杯とセイバーが待つ洞窟内部の空洞、そこに僕とキャスニキが着いた時には、既に戦闘はクライマックスだった。
全てを呑み込む闇と力の奔流。セイバー、アルトリア・ペンドラゴンオルタの宝具。聖杯のバックアップにより連発を可能としたそれを、マシュの宝具で対抗し、なんとか防いでいる。
今も辛うじて拮抗しているのは彼女───────藤丸立香ちゃんのおかげだろう。彼女は令呪を使用し、マシュの盾を、マシュを、自らの手で支えていた。
そうだ。これだ。
主人公とマシュの出す輝き。絶体絶命の時にこそ、より色濃く光るその強い意志。これがこの旅には不可欠なんだ。
巌窟王にはあまり手を出すなと言ってあったので、今も大人しく二人を見守っている。オルガマリー所長は腰抜かしてた。
僕が生き残るためには、このグランドオーダーを乗り越えるには、二人の成長が不可欠なんだ。マシュと立香ちゃんが成長しなければ僕は生き残れない。
そして、どうやら冬木は乗り切ったようだ。セイバーの宝具が消えた後には、しっかりカルデアの面々が生き残っていた。
「よく頑張ったよ、二人とも」
「エド…………!」
今にも倒れ込みそうな立香ちゃんを支える。マシュはまだ自分の力で立てているが、彼女はただの人間だ。その負担はサーヴァントとは比べ物にならないだろう。
「だから、後は任せてくれ」
「────────うん!」
僕と巌窟王、キャスニキの三人が前に出る。女の子三人組には後ろで休憩してもらおう。
「────────来るか、カルデアのマスター。クリプターよ。よもやキャスターまで従えているとはな」
「従えてないよ、これは対等な関係、協力だ」
「………………フッ」
僕を見て少し笑う騎士王(黒)。くそお、意味深な雰囲気出しやがって。謎の伏線を張るなっての。
恨みがましくセイバーオルタを睨む僕の横で、キャスニキが彼女が喋ったことに対して驚いている。セイバーは割と喋るイメージだが、彼の中では違ったらしい。
まあ話もひと段落ついたところだし、とりあえず。
「『
巌窟王とキャスニキ、ついでに後ろで疲労困憊のマシュと立香ちゃん、オルガマリー所長にも僕の魔力を流し込む。滅多に使わない僕の起源由来の魔術だ。
『────────な、これは!他人の強化!?強化魔術が得意というのは知っていたけど…………そこまでできるなんて!』
「凄い…………。なんだか元気になってきました」
「ほんとだ、でもロマン。これってそんなに凄いの?」
「貴方ねえ!凄いも何も、他者の強化なんて強化魔術の中でも最高難易度とされる高等魔術よ!?それこそキャスターのクラスを持つサーヴァントならまだしも、生身の人間がそこまでの領域に辿り着くには想像を絶する才能と研鑽が──────────」
「ストップストップ。そんなに褒められると照れるから」
信じられないといった様子で立香ちゃんにオルガマリー所長が捲し立てるが、話が長くなりそうなので一旦止める。急にめっちゃ褒めるやん、この娘。
ともかく、これでキャスニキのルーンによる強化もあって準備は万端だ。
セイバーに宝具を撃つ隙は与えず、一気に畳み掛ける。
まずはキャスターの魔術で遠距離から牽制。その対応に追われているセイバーを巌窟王と僕で叩くというシンプルな作戦だ。
僕とキャスターの立ち位置逆じゃね?
思わずそんなことを考えてしまうのもしょうがないというものだ。近づく程に強くなるセイバーの圧。これ以上進めば殺されると本能がざわつくが、理性で押さえつける。
ルーンによる炎に包まれながらも、セイバーにダメージが入っている様子はない。流石の対魔力といったところか。しかし、巌窟王も怨念の炎を用いて更に追撃していく。うちのパーティー炎使い多いな。
そんな炎の中から抜け出してきたセイバーを僕が押さえる。黒く染まった聖剣、エクスカリバーを振るうが、魔力で強化した拳で受け流す。素手で防がれるとは思っていなかったのか、少しセイバーの動きが鈍る。
そんな僅かな隙もチャンスだ。相手に体勢を整える時間を与えず連続して拳を繰り出す。そんな中でも躱しているのは、未来予知のレベルまで到達した直感スキルの効果か。それでも只の人間だと侮りがあったせいか、右脚での蹴りが脇腹に入る。
「ッ……!」
そのままの勢いで脚を振り抜く。飛ばされたセイバーは壁に激突し、そこに巌窟王とキャスターの追撃が降り注いだ。
「よし!二人とも宝具を撃て!魔力のことなら心配いらない。思いっきりやれ!」
「よしきた!くらいな、『
「いいだろう。『
未だ立ち上がれないセイバーに、二つの宝具が降り注いだ。
その後、意味深なことを言うだけ言ってセイバーは消滅。様子からして全力じゃなかったな、あのサーヴァント。
すると、突然キャスターの身体が消えていく。
「おぉお!?やべえ、ここで強制帰還かよ!?チッ、納得いかねえがしょうがねえ!坊主、お嬢ちゃん、あとは任せたぜ!次があるんなら、そん時はランサーとして喚んでくれ!」
「おー、助かったよキャスター。またな」
「ありがとう!クー・フーリン!」
キャスニキは最後にこちらに向けて笑いかけると、そのまま消滅した。わかってる。協力感謝するぜ、クー・フーリン。
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」
そして感傷に浸る間もなく現れるレフ教授。その存在に驚きつつ、オルガマリー所長は嬉しそうに駆け寄るが、続く言葉に足を止めた。
いや、実際ここのオルガマリー所長ほんと可哀想。やめたげてよ、彼女メンタル弱いんだから。
「それにしても、まったく忌々しい。エドワード・エヴァンズ。君は特に殺しておきたかったのだがね。クリプターを一人とはいえ逃してしまうとは。いや、ここは君の直感に敬意を表しておくべきかな?」
「ん、ありがとうございます」
お礼を言うと凄く嫌そうな顔をされた。解せぬ。
しかしそんな表情もすぐに消え、残虐な笑みに変化する。オルガマリー所長の下をわざわざ爆発源にしたことや、今のカルデアスの状態を見せるなど、こいつなかなかのサディストである。
そんなことを考えていると、やがてオルガマリー所長が宙に浮き、カルデアスに向かって引っ張られる。カルデアスは、まあよくわからんけど凄いものなので触ったら分子レベルまで分解され死んでしまうらしい。
そんなものに段々と引き寄せられていくオルガマリー所長。その顔は恐怖に歪み、涙で濡れていた。
「いや────いや、いや、助けて、誰か助けて! わた、わたし、こんなところで死にたくない!だってまだ褒められてない……! 誰も、わたしを認めてくれていないじゃない……!」
彼女の悲痛な叫びが洞窟内に響き渡る。
「どうして!? どうしてこんなコトばっかりなの!?誰もわたしを評価してくれなかった! みんなわたしを嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……! だってまだ何もしていない!」
彼女とカルデアスの距離が、近づいていく。
「生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに──────!」
そして、ついに彼女の身体がカルデアスに呑まれる──────
「それは違う、
その前に、僕が進む。
「え、エドワードさん!危険です!」
マシュが制止するが、進み続ける。マシュは今立香ちゃんを止めるのに両手が塞がっている。こちらまで来ることはないだろう。
「オルガマリー、お前は凄い。その若さでマリスビリー所長の後を継いで、カルデアのトップになっている。それに魔術の才能や努力だってアニムスフィアの名に恥じないものだ。だから」
「そんなに自分を卑下するな。そして、
オルガマリーの目を見て、はっきりと告げる。
「あ────────、エド、ワード…………」
彼女が、こちらに手を伸ばす。必死にこちらへ向かって、叫ぶ。
「──────────助けて!エドワード!!」
その言葉が聞きたかった!
「『
僕の起源を利用した魔術、その二つ目。魔力等、相手のものを奪うことができる魔術だが、本来ならそこまでの効果は発揮できない、使い勝手の悪い魔術だ。
でも、今はオルガマリーの同意がある。そして、オルガマリーは完全な精神体、肉体がない状態だ。
「─────────だったら」
オルガマリーの身体がこちらに引き寄せられる。カルデアスから離れ、僕の方へ。そして、カルデアスの引力から逃れた瞬間。
「奪える」
僕の腕の中に、彼女が現れた。
「あ…………!」
「さっきぶりだな、オルガマリー」
そう言って彼女の涙を拭う。いつまで泣いてるつもりなんだこの娘。
「ふん、その程度で助けたつもりか?所詮彼女の肉体は爆破で死んでいる。カルデアへ戻った瞬間、消滅することは変わらない!直にこの特異点も崩壊する!」
そんないい感じの雰囲気を台無しにするレフ教授。その後はご丁寧にも状況の説明をしてくれた。要約すれば人類の未来は完全に焼却され、残っているのはカルデアだけという状態らしい。まあ知ってるけど。
言いたいことだけ言った彼は満足そうに消えていった。ここで僕達を始末しないあたりバカだよなあ。まあここの崩壊と一緒に消滅すると思ってるんだろうけど。
「空間の崩壊開始……!このままでは危険です!レイシフトの準備を、ドクター!」
『やってるよ!でもごめん、そっちの崩壊の方が早いかも!そのときは各自で頑張ってくれ!』
…………帰れる、よな?
「ね、ねえ…………」
すると、僕の腕の中で縮こまっていたオルガマリー所長が声をかけてくる。
「ん、どうした?」
「そ、その。このまま帰ったら私、消滅しちゃうのよね?」
「ああ、大丈夫ですよ。そこはなんとかします。というわけで」
「?」
オルガマリー所長が首を傾げる。かわいい。
「僕と一つになろう。オルガマリー所長」
「へっ!?」
結局、無事レイシフトは完了。僕達はカルデアに戻ってくることができた。その後の様子としては、マシュは大丈夫そうだが、立香ちゃんはまだ眠ったままだ。まああんだけ色々あれば疲れるのもしょうがない。
「むしろ平気そうな貴方がおかしいのよ、エドワード」
「いやいや、これでも普段から鍛えてるからね。別におかしくないぜ、オルガマリー所長」
呆れたような顔で僕に話しかけてきた女性、オルガマリー・アニムスフィア。彼女は無事肉体がある状態でこのカルデアに帰還することができた。
一体どうやってオルガマリー所長を生き返らせたのか、答えは単純である。聖杯に願ったのだ。
もちろん、おそらく聖杯に願ったところで死者は蘇らないだろう。だが、彼女は精神や魂はしっかり残っていた。
なので、まずは『
まあ、空いた部分に魔力を溜めていたせいで結構キツかったが、そこは気合いで我慢した。
後は聖杯に「カルデアにある彼女の肉体を完全に直してくれ」と願ったのだ。さすが聖杯、しっかり彼女の綺麗な身体に直してくれた。あとはその身体に『
え?どこで聖杯を手に入れたかって?確かに、セイバーが持っていたのはどこかから与えられた聖杯だ。あれに万物の願望器としての機能はない。
だが、冬木で起きていた聖杯戦争。その本来の聖杯ならどうだろうか。僕はキャスターと契約したマスターで、最後まで勝ち残ったサーヴァントはキャスターだ。他のクラスのサーヴァントは全員倒している。
つまり、僕は聖杯戦争に勝利したマスターとして聖杯をゲットしたのだ。
あの空間が崩壊するギリギリに出現したので本当に焦った。タイムラグあるのは駄目じゃないですかね?
ちなみにその聖杯はオルガマリー所長の身体を直したら消滅した。なので結局僕達が回収できた聖杯は一つだけである。
まあでも。
「あの……。エドワード、その…………」
「ん?どしたの、モジモジしちゃって」
「うるさいわね!はぁ…………。本当に貴方って人は」
なぜか呆れられた。いや、理由ははっきりしているな。僕が思ったことなんでも口にしちゃうからですね、はい。大人しく彼女の言葉を聞こう。
「その……ありがとう。今回は、貴方のおかげで助かったわ。…………だから、感謝しておきます」
そうだな。聖杯は使ってしまったが、この照れ顔を守ることができたと考えれば。
安いものだろう。
冬木の聖杯に万物の願望器ってほどの力がなくても、塵になった死体を綺麗にするくらいならできるだろっていう考えから産まれたガバガバ理論です。暖かい目で見守ってくだせえ。