ユーフォが制作したアニメみたいなド派手高速戦闘イメージで補正してください。
そもそもの話。
自分より弱い相手に奇策を使う必要があるだろうか。
普通に戦えば勝てる相手に事前に準備し、策を考え、実践する必要などあるだろうか。
実力が拮抗しているか、自分より上ならばそうしなければ勝てないかもしれない。だが、そんなことをしなくても勝てる相手には必要ないのだ。極度の心配性でもない限り。
つまり、僕のサーヴァントである彼、
地上に追放され、神としての権能の大部分を使えなかったとはいえスサノオは神だ。その力は圧倒的で地上において最強の存在だったと言っても良いだろう。なによりあの頃の彼は若く、まさしく肉体的にも精神的にも全盛期だった。
そんな彼がようやく倒した怪物が、今僕らの前に存在している。サーヴァントとなり力が抑えられているスサノオと、ただの人間である僕、そしてあくまでサポートしかしてくれない助っ人の
「んー、これ無理じゃね?」
「マスター!最初っから弱気なこと言うんじゃねえ!まだ戦ってからそんなに経ってねえだろ!」
「いや、そんなこと言ってさあ。スサノオもめっちゃ焦ってるじゃん。やべえって言ってたじゃん。僕の全力パンチもダメージは与えられるけど傷はついてないし」
「うるせえ!てめえもマスターなら何か作戦でも提案しろ!このままじゃ全滅だぞ!」
振り下ろされた尾を躱しながら僕たちは言い争う。地面めっちゃ割れてるし。パワーやばいな。
しかし、たしかにこのままじゃ全滅だ。スサノオの剣すら弾いてるしあの鱗ホント何なんだよ。
「ああくそっ!もともとこの剣は
なんかスサノオが言い訳してる。んー、作戦かあ。作戦、作戦……。
「あ、そうだ。お酒だよお酒。生前と同じ倒し方すればいいじゃん」
少し離れたところに村はあるからそこからお酒でも貰えればなんとかなるんじゃね?勝ったな。
「そりゃ無理だ。ただの酒じゃあアイツは酔わねえよ」
名案だと思ったのにアッサリ否定される。
「アマテラスには嘘ついてクシナダの両親に作らせたって言ったけどよ、あん時使ったのは
うーん、なるほど。つまりは…………。
「結局脳筋作戦しかないね。ごり押しで殴る斬るやってればいつかは倒せるでしょ」
「……マジかよ」
スサノオが呆れた目で見てくる。しょうがないでしょ!僕いっつもそういうスタイルなんだもん!
というかこんな会話しながらも八つの頭と尾が襲ってきているがなんとか躱せている。案外どうにかなるんじゃね?
『◼️◼️◼️◼️◼️!!』
すると、痺れを切らしたのか八岐大蛇が攻撃の手を緩めた。その隙に僕とスサノオが一瞬で距離を詰め攻撃するが鱗に阻まれ傷はつかない。効いてない訳ではないんだけどなあ。
一旦距離をとり体勢を整え、八岐大蛇を見据えると少し様子がおかしいことに気づく。なんか空に向かって口開けてるけど何やってんだ?
すると、その開いた口に炎が発生し、どんどん大きくなっていく。魔力が高まっていくのがわかり嫌な予感がした。
「え、待って。八岐大蛇って火吹くの⁉︎」
「知らなかったのかよマスター!威力やべえから避けろよ!」
スサノオがそう言うのとほぼ同時に、とてつもない高温の炎が迫ってきて視界が光に包まれた。
「まじか…………」
轟音。高熱。その後に残ったのは広大な焼け野原のみ。
なんとか躱したが少し火傷を負ってしまった。スサノオも無傷とはいかなかったらしい。八咫烏に関しては僕たちを拾ってくれたのに無傷だが。
「八つの頭による同時火炎放射か。一つに束ねるとここまでの威力になるとはよぉ」
八咫烏に乗ったまま地上を見下ろす。八岐大蛇の前方数キロメートルはほぼほぼ炎上してしまっている。もし直撃していたらなかなかマズかったかもな。
というか、これはかなり危険だ。このまま放置していれば数人の犠牲じゃあ済まなくなる。こいつは、ここで倒さなきゃいけない。
「……ん?」
「なに、どしたん」
「いや、こうやって上から見て気づいたんだけどよぉ。アイツ俺が倒した時よりかなり小せえ気がすんだよな」
……小さい?そんな、大きくなってるとかならまだしも、生き物が小さくなることなんて————いや、そうか。これは。
「……僕はさ。この八岐大蛇、たかみー辺りが用意したと思ってたんだよ。だって八岐大蛇はスサノオが倒してるわけだし。でも、この八岐大蛇は人を殺して食べている。そんな奴をうちの王様が用意するとは思えない」
それにこれは依頼を兼ねたテストだ。実際に八岐大蛇をどうにかして欲しいとも思ってるだろうし。
「つまり、どういうことだ?」
「こいつ、別個体だよ。スサノオが倒した奴とは違う八岐大蛇だ。そもそも生き物ってのは子孫を残すもんだし、八岐大蛇みたいな怪物が急に発生したとも思えない。きっと、どこかで魔力やらの関係で変異した種が世代を重ねてさらに変わっていったんだ。それが八岐大蛇となり、そしてスサノオに退治される前に種を残していたんだ」
「あ?ってことは、こんなのが種として繁栄してゴロゴロいるってことか?」
きっと、
「人や神を襲わんとする怪物たち、か。こりゃなかなか厳しそうだ。八岐大蛇もあと数体はいそうだし、それに匹敵する奴らもいるんだろうね」
「なるほどな。つまりコイツはまだ序盤、こんなとこで手こずってはいられねえってか」
そう言って、スサノオは笑う。上等だと、余裕そうに。
まったく、頼もしいサーヴァントだね。
「スサノオ。
「了解マスター!精々気張れよ!!」
そう言って背中を叩いてくるスサノオ。いや、強えよ。痛い痛い。
「期待してるぜ、日本の大英雄」
ともかく、気合いを入れた僕は彼にそう告げると八咫烏から飛び降り八岐大蛇の前に着地する。もちろんスーパーヒーロー着地だ。かなりの高さだったため右拳と右膝が痛いが必要な犠牲だ。かっこよさより優先することなんてあるか?いや、ない。
顔を上げ、八岐大蛇を睨む。こっからが本番だぜ。
やばい!怖い!燃える!
啖呵を切ったは良いが火炎放射にはなす術がない。ひたすら躱す。躱す。躱す。
くそっ、これ広範囲すぎんだろ!いちいち魔力放出でぶっ飛ばなきゃ躱せないとかどんだけだよ!
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!』
更にはこの咆哮、うるさすぎて動きが鈍ってしまう。衝撃波みたいなのも出てるし一体どれだけの音量なんだ。
幸いなのは炎を溜めるのには時間がかかることぐらいか。それでも噛みつきや尾の振り回しだけで十分脅威なんだが。
高速で移動し頭や尾を避けながら縦横無尽に駆け回る。八岐大蛇の動きを止めるには…………やっぱ脳筋作戦しかないな。
しばらく攻撃を躱していると再び炎を溜め始めた。ここでいくしかない!
魔力を放出し、一気に飛び上がる。衝撃で地面が割れ灰が舞い、そのまま一直線に頭まで行くと下から顎を殴り抜けた。
「う、おおおおおおおお!吹っ飛べぇ!」
打撃音と同時に八岐大蛇の上体が逸れる。
狙うは————比較的ダメージが通りそうな、腹!!
自然落下に身を任せ下へと落ちていく。そのままの勢いで再び地面を蹴り飛び上がった。
そして、先程の攻撃によって晒された腹部へ全力の蹴りを叩き込む。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!!』
怯んだ!今がチャンスだ。気合い入れろ僕!
背後に回り込み巨大な尾の一つを掴む。かなり太いので両腕で抱えるようにし、そして自分の両脚を地面に突き刺し固定した。
「今だ!!やれ、
僕は、遠く離れた場所で八咫烏に乗り、宝具を構えた彼に合図を出す。日本において伝説的英雄であり、
「了解したぜ、マスター!俺の名は、ヤマトタケル!!その名において、俺の意志に応えろ!!」
草薙剣が光り、その周囲に風が吹き荒れる。そして、その刀身が姿を現した。
草薙剣は自由に鞘から抜くことはできない。剣の意思と、使い手の意志が抜くべき場であると判断した時のみ、その真価を発揮する。
どんどんと高まっていく魔力を察知した八岐大蛇が動こうとするが、それをさせないのが僕の役目だ。尾を掴み引っ張ることで動くことを許さない。残った七本の尾が僕に迫るが全て魔力を放出することで弾く。
それでも八岐大蛇はこの状況を変えようとスサノオに火を放つが無駄だ。これまでの被害から見るに火炎放射の射程は約2km。対して八岐大蛇とスサノオの距離はおおよそ3km。八岐大蛇の攻撃は届かない。
そして、遂に——————。
「いくぜ————『
宝具が、放たれた。
またの名を、
もともとは
天叢雲剣はその後スサノオの手によって
そうやって皇族である
その伝承によると、かつてヤマトタケルが炎に囲まれた際、天叢雲剣が独りでに抜け、彼の周囲の草を薙ぎ、炎を打ち消したという。
その力は凄まじいもので、天叢雲剣が薙ぎ払った範囲は約3kmもあったと伝えられている。
故に、この一件以降、草薙剣という名が生まれた。
草薙剣が抜かれたと伝えられているのはこの一度だけだ。それ以外に使われたという話は残っていない。
つまり、逆説的に言えば。
草薙剣は
この剣の、真の能力。
それは使用者を中心とした周囲3kmの強制切断。
それが僕のサーヴァント、複合英霊であるヤマトタケルの宝具だ。
捉えた。
スサノオが剣を振り切ったその瞬間、八岐大蛇の頭が宙を舞う。
体からごっそり魔力が持っていかれるが、僕の魔力量なら大丈夫だ。というか僕しか耐えられないのではないかと思うほどの量が持っていかれた。ヘラクレスの
そんなことを考えながら八岐大蛇の首が次々と切断されていく様を見ていると——————八岐大蛇の額と胸についていたオレンジ色に輝く石が割れる。その瞬間にとてつもない量の魔力が溢れ出した。
何だ?何を…………。
すると、膨大な魔力で構成された障壁が出現し、残った三つの頭を護った。
「————な、んなバカな!」
草薙剣の能力は周囲3kmの強制切断だぞ⁉︎それを防いだってことは、因果や運命を捻じ曲げたってことになる!
合計九個の魔石。あれに一体どれほどの魔力を溜めていたんだ。
こいつは————一体何年生きている。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!!』
咆哮、そして衝撃。
「ぐっ、がはっ………」
驚愕で生じた隙を突かれ尾で吹き飛ばされたのか。モロにくらってしまった。
かなりの速度で吹っ飛んでいるところを、八咫烏に乗ったスサノオにキャッチされる。
「わりぃ、マスター。しくじった」
「いや、防がれるなんて想像もしてなかったからな。それに五つも頭を削ったんだ。そのダメージは相当なはずだし後はなんとかなるだろ」
「……それがそう簡単にはいかなさそうだぜ」
何やら深刻な顔で呟くので八岐大蛇を見るとその体は真っ赤に燃え盛っていた。炎の勢いは増していき、かなり離れたここでも熱を感じるほどだ。
「……なにあれ」
「多分だけどよぉ、尾の中にある金属の効果だと思うぜ。もともと天叢雲剣ってのは八岐大蛇の上に常に雲がかかっていたことからそう名付けられたんだが、その力は八岐大蛇じゃあなく尾の中の天叢雲剣の力だった。今も奴の尾から強い魔力を感じるしなぁ」
なるほど。つまり八岐大蛇ってのは取り込んだ金属やら鉱石やら魔力やらを尾に結晶として生成する生き物なのか。そして生成された金属は大きくなっていき、やがて剣の形になり強い力を発揮する、と。
「で、アイツは炎を操るって感じ?これピンチじゃね?僕はあんな巨体を抑えてた上に魔力も使って疲弊してるし、スサノオも宝具使うような力ないだろ」
僕たちが話している間にもどんどんと炎の勢いは増していき、ついにそれは天に伸び竜巻のようになっていた。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!!!』
……最後の一撃ってか。あんなん開放されたら僕たちどころかここら一帯の森、下手したら村なんかまで燃え尽きてしまう。
「……はあ。言ったもんなあ、出し惜しみは無しだって。しゃーなし」
ストックを使おう。膨大な魔力量を誇る僕が十数年間毎日毎日溜めてきた前世の魂の魔力を。と言ってもほんの一部だが。
「構えろ、スサノオ。
「ああ、これで決める」
そう言って立ち上がるスサノオ。そして、八岐大蛇を正面に見据えた。
ずっと高まり続けた八岐大蛇の魔力もピークを迎える。そして、全身を包み込むほど巨大な炎の竜巻がこちらに放たれた。少しでも触れた瞬間あらゆるものが灰塵と化す。熱波だけで火傷しそうだ。
だから頼むぜ、スサノオ。
「令呪をもって命ずる!真名を解放しろ!重ねて令呪をもって命ずる!宝具を開帳しろ、セイバー!!!!」
瞬間、金色の嵐が吹き荒れる。
目の前に立つスサノオの装備が変化する。比較的軽装だった装備に金色の兜や籠手、背中には大輪が現れる。
持っていた草薙剣も銀の刃、翠の紐とシンプルなデザインから両刃から三つずつ枝刃が生え黒と金の
そして何よりもその体から溢れ出る圧倒的な神性。これが、セイバーの
僕のサーヴァント、セイバーは複合英霊だ。一つの身体に複数の霊基が備わった特殊なサーヴァント。
もともとこの
更に複雑なことに、ヤマトタケルという人物は実在していない。ヤマトタケルとは複数の英雄の伝承によって形作られた存在であり、4世紀から7世紀ごろのヤマトの英雄が複数人集まり召喚されるのがヤマトタケルというサーヴァントだ。
その結果、今僕の目の前で天叢雲剣を構える『スサノオ』というサーヴァントが誕生した。
「俺の名は、スサノオ!!その名において、この一撃をお前に送ろう!八岐大蛇!!」
天叢雲剣を天へ突き出す。スサノオの頭上に雲が現れ、剣を中心に嵐が吹き荒れる。雨が降り、雷が落ち、そしてその力が全て収束していく。これが、三種の神器としての力…………!
「吹き荒れろ————『
そしてスサノオは——————嵐をそのまま振り下ろした。
八岐大蛇の炎など一瞬で搔き消え、風が、雨が、雷が、その巨体を呑み込んでいく。
嵐の消えた後には、倒れ伏した八岐大蛇と更地だけが残っていた。
「………………なあ」
「……どうした?マスター」
「……やりすぎ」
一番ヤバいのはあんな状況で僕とスサノオを落とさず飛んでいた八咫烏だと思いました。まる。
その後、目を覚ました八岐大蛇は野生動物らしく自分より強い存在である僕たちに従ってくれた。もう悪さはしないと約束させた後にうちの王様たちによって傷は元通り。もし人を襲ったらとんでもないことになるという御呪いつきで治療してもらっていた。何それ怖い。
ていうか意思疎通できたのね君。長いこと生きてるとそうなるんかな。知らんけど。
たかみーから一先ず合格とのお達しを受け、
なんか出発する際にスサノオが八岐大蛇と話してたけどなんなんだろ。まあどーでもいいか。
村に着くと村人からは英雄だの神の使いだの言われめっちゃ感謝された。あんまり堅苦しいのは好きじゃないので色々お礼は遠慮したが、お礼にと擦り寄ってきた女の子の好意は受け取っておいた。なんというか原始的だったとだけ言っておこう。新しく教えてあげるのも悪くないよネ。
結局、
令呪は
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