小悪魔系美少女ヒーロー候補生、チャーミーデビル見参!! 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
目を覚ますと、見慣れない天井が見えた。
でも、見慣れないだけであって、見た事がない訳じゃない。
病院の天井だ。
じゃあ、ここは病院のベッドの上か。
私には滅多に縁のない場所だ。
他人が寝てるのはたまに見るけど、自分が寝るのは超久しぶりだわ。
「ん、んん~~……」
起き上がって背伸びをする。
頭がめっちゃ痛い。
まるで二日酔いのようだ。
二日酔いなんてした事ないし、お酒も飲んだ事ないけど。
「おお。起きたか小娘」
声のした方を向くと、そこにはおじいちゃんと塚内さんがいた。
それと、私と同じくベッドに寝かされたパパの姿もあった。
どうやら、同じ病室に寝かされてたらしい。
「おはよー」
「おはよー、じゃねぇ。具合はどうだ? 記憶はハッキリしてるか?」
「頭が凄い痛いけど、それ以外はすこぶる健康だよ。記憶もちゃんとあるし。……ついに、やったんだよね」
しっかりと覚えてる。
オール・フォー・ワンを討ち取った事も、パパの勝利のスタンディングも。
やっと私の因縁に決着がついた。
「魔美ちゃん」
と、私が感慨に浸っていたら、ベッドに寝てたパパが立ち上がってこっちに歩いて来た。
その体は私なんかより遥かにボロボロだ。
結局、私はパパを完全には守りきれなかった。
それでも、パパは生きてる。
最低限、命だけは守りきれた。
それが何より嬉しい。
「だいぶ無茶をしたね」
「パパにだけは言われたくないなー」
「まあ、そうなのだが……。それでも言わせてほしい。もう二度とあんな無茶はしないでくれ」
……自分の事棚上げして、よくそんな事言えるよなぁ。
いや、まあ、わかった上で言ってるんだろうけど。
それくらい、今回の私の無茶がシャレになってなかったっていうのは自覚してる。
それに、パパは自分が傷つくのは平気でも、他人が傷つくのを見るのは苦手な人だしね。
娘のあんな姿は、さぞかし心臓に悪かった事だろう。
「言われなくても二度とやらないよ。あれはもう奥の手通り越して、どうしようもない時に使う最後の手段って感じだし」
「そうか」
少なくとも自発的に使う事はもうないと思う。
100%を制御できたのは奇跡だ。
もう一度やれと言われてできる自信はない。
ただし、
「まあ、でも、パパがまた死にそうになったらやるかもしれないけどねー」
「うっ……! ごめんね……。危うく君を残して死ぬところだった……」
パパはパパで死にそうな無茶したのを悪いとは思ってるみたいで、ちゃんと謝ってきた。
今のパパからは、前まであった力強さが感じられない。
てことは、あの戦いで本当の本当に限界を迎えたって事だろう。
それでも、戦う力がなくとも無茶しそうなのがパパだ。
だから、私のこの言葉は、パパに対する牽制でもある。
私を残して死ぬんじゃねぇぞ。
死ぬような事すんじゃねぇぞっていうね。
「魔美ちゃん」
「ん? 何?」
まだ何かあるの?
「ありがとう。救かったよ」
「……どういたしまして」
称賛は素直に受け取っておく。
そして私は、頭が痛いからもう一寝入りするべく、パパに背を向けて布団を被った。
決して、嬉しくてニヤける顔を隠す為とか、そんな理由じゃない。
ないったらない。
かつてない喜びと充実感を覚えながら、私はもう一度眠りに落ちた。
今度は良い夢が見られそうな、そんな予感と共に。
◆◆◆
夜。
昼間に寝てしまったせいで変な時間に目が覚めた私は、忍び足で病室から抜け出そうとするパパを発見した。
「パ~パ~。どこ行く気?」
「ま、魔美ちゃん!? お、おはよう! いや、少しトイレにね! ハ、ハハハ」
あやしい。
露骨にあやしい。
ので、問い詰めて白状させたところ、これから緑谷少年に会う為に例の海浜公園に行くつもりだったらしい。
なに考えてんだ!?
ヴィランに襲われたら死ぬ体なんだぞ!!
それをもっと自覚しろ!!
そんな感じでぐちぐちとお説教した後、護衛として私もついて行く事にした。
頭痛はまだ抜け切ってないけど、それでも、そんじょそこらのヴィラン程度なら軽く撃退できるでしょう。
本当なら止めた方が良いのかもしれないけど、止めたところで、どうせ私の目を盗んで行くだろうし。
そんな訳で、やって来ました海浜公園。
そこで待つ事しばらく。
結構遅れて、ようやく緑谷少年がやって来た。
「お! やっと来た」
「オールマイト!! 八木さん!!」
「遅いよ、も~!!」
走って来る緑谷少年。
走り寄るパパ。
ちなみに、今のはパパの台詞だ。
ヒロインか!
「オールマイト…」
「テキサス・スマッシュ!!!」
そんなやり取りから一転。
パパは緑谷少年をおもいっきり殴り飛ばした。
ガリガリのトゥルーフォームでの一撃だから、そんなに痛くはないと思うけど。
「君って奴は! 本当に言われた事守らない! 全て無に帰るところだったんだぞ。まったく誰に似たのやら……」
「パパだと思うよ」
「うぐっ!!」
さっきパパから聞いた事だけど。
緑谷少年は何人かのクラスメイト諸君と共に、昨日あの場所に来てたらしい。
爆豪少年を助ける為に。
結果として、私がハイエンドの相手してる間に救出には成功したらしいけど、それは結果論だ。
緑谷少年には資格も力もない。
そう考えると、私達以上の無茶をしたといえる。
パパそっくりだよ、ほんと。
「それはそれとして……。緑谷少年、私ね、事実上の引退だよ。もう戦える体じゃなくなってしまった」
そう言ってパパはマッスルフォームに変身した。
その状態で何度か拳を繰り出す。
でも、すぐに血を吐きながらトゥルーフォームに戻ってしまった。
「……ワン・フォー・オールの残り火は消え、おまけにマッスルフォームもろくに維持できなくなってしまった」
だったら、もう少しおとなしくしててほしいんだけど。
パパはまだ、自分が戦えなくなったという自覚が薄いと思うんだ。
「だというのに君は毎度毎度、何度言われても飛び出して行ってしまうし……! 何度言っても体を壊し続けるし!! だから今回! ────君が初めて怪我せず窮地を脱した事。すごく嬉しい」
……パパは甘いなぁ。
まあ、仕方ないか。
性分だもの。
それに緑谷少年の育成はパパの仕事。
私は口を挟むまい。
「これから私は君の、君達の育成に専念していく。この調子で頑張ろうな」
「オル……オールマイト……僕っ……! ううっ……」
「君は本当に言われた事を守らないよ。その泣き虫なおさないとって言ったろう」
そうして泣き出す緑谷少年と、それを抱きしめるパパ。
師弟のやり取りを、私はただ静かに見守っていた。
これからも戦いは続いていくんだろう。
オール・フォー・ワンは捕まえたけど、死柄木は逃げた。
新しい因縁が生まれた。
何もそれだけじゃない。
ヴィランはあいつらだけじゃないんだ。
倒しても倒しても、次から次へと湧いてくる。
それがヴィランだ。
そもそも、私には個性の副作用という切実な問題がある。
パパと違って、引退なんてできない。
戦い続けるのが我が人生。
引退する時は死ぬ時だ。
それでも今回、一つの大きな因縁が終わった。
私が生まれた時から続く大きな因縁に、一つの決着がついた。
オールマイトとオール・フォー・ワン。
私の
始まりが終わった。
ここが、私にとっての大きな区切りだ。
そんな事を想いながら、ふと空を見上げた。
月明かりが夜を照らしている。
いつもと変わらない光景。
決戦が起こった昨日も、それが終わった今日も変わらない景色。
これと同じだ。
区切りがつこうがつくまいが、私のやるべき事は変わらない。
ヒーローを目指し、ヴィランを殴り、パパを守る為に戦う。
それだけで良い。
そうして明日からもまた、新しい戦いが始まる。
─────to be continued
これにて一旦完結。
詳しい事は活動報告に乗せときました。