零崎 英織の退屈   作:通りすがる傭兵

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零崎 英織が英雄に至るまで

 

 

 

 

 

 

「ハロー、そしてグッバイ」

 

右手を思い切り振り下ろす。

 

ぐちゃり、と濡れた雑巾を落としたような音がして男は地面に倒れ伏した。

 

「うん、やっぱりこのメーカーはいい仕事をします。安い、軽い、使いやすい。

ボクみたいに庶民派にはぴったりです。

だからこれはお気に入りにしましょう!」

 

男を殺した人影は、嬉しそうに持っていた鉈を手でもてあそび、それを通学用のカバンに仕舞った。

そのまま鼻歌を歌いつつ立ち去ろうとする影の足が止まる。

 

「ぐぐ......があっ!」

「おやおや、これは困りました」

 

血をダラダラと垂らしながらも、男は立ち上がり、己の腕を槍のように尖らせる。

 

「死ね、死ね、死ねぇっ!」

 

そのまま男は文字通り死力を振り絞り、人影の胴体......心臓のある場所に腕を振りかぶる。

 

「ううん、これは困った。まだまだ甘っちょろいですねぇボクは。これじゃ二流ですよ」

 

人影はスカートを翻して壁を蹴り、槍の穂先を軽々と飛び越える。

そのまま背後に立った人影はカバンから何かを取り出し投げつける。

その物体は振り返った男の眼球を寸分違わず抉り、その先の脳髄まで達して男の生命活動を完全に停止させた。

 

人影は倒れ伏した男の両目から裁ちばさみを引き抜くと、それを適当に払って血を飛ばしまたカバンにしまい込む。

 

「んー、退屈ですねぇ」

 

月明かりに照らされ。人影の姿が露わになる。

スカートに学ランの上だけを着るアンバランスな格好をした女子学生。

彼女の名は零崎 英織(ゼロザキ エイオリ)

 

「そういえば、進路決めなきゃいけないんですよねぇ。んー、学費無料ですし雄英にしましょうか。あそこなら退屈も無さそうです」

 

どこにでもいる、普通の女子中学生だ。

 

 

 

 

それから時は巡る。

 

 

 

汀 英織(みぎわ えいおり)、15歳。

県立西穂高中学卒。

個性 収納。

......全くもって合格するようには思えんな。

 

この学校は普通の公立中学で十把一絡で纏められるようなものだ。偏差値も標準的、彼女の個性もそこまで強力ではない。

この試験は合理性に欠けると言った筈だ。来年度からは書類審査も考慮すべきだ」

「いや待て相澤くん、個性だけで人を見るのはとても不平等だろう!」

「現に彼女は敵ポイント30、救助ポイント30という結果を出しているの。私から見ても体術は強く、周りの状況判断もしっかりできる子だと思うのだけれど?」

「まあまあ、もうこんな話は......」

 

雄英高校職員室、相澤消太(イレイザーヘッド)の発言で場は少し荒れていた。

効率主義の彼にとっては、彼女のような戦闘向きとは言い難い個性を持つ入学者を望んではいないのだろう。

それに立つのがオールマイトと香山睡(ミッドナイト)。彼らの言う通り、英織は優れた身体能力と状況判断力で試験を突破し、文句なしの入学の切符を手にしていた。

だからこれはただの蛇足、無意味で無価値な会話劇だ。

 

(だが、理由はそれだけではない)

 

書類に乗る彼女の証明写真。なんの変哲も無い笑顔の筈なのに、相澤はどこか不穏な空気を感じ取っていた。

 

(この得体の知れない空気。ヴィランでもヒーローでもない、ならお前はなんなのだ......?)

 

 

 

 

 

 

人気のない路地でくしゃみをする英織。

私立校である雄英高校の入学式は少し早く、冬の去りきらない2月に行われる。それを学ランとスカート一丁の彼女にとって冬は天敵なのだ。

 

「へくしょい!」

 

それも吹きさらしの古ビルの屋上となればなおのこと。だがそれでも彼女にはここに立つ理由があるのだ。

 

「んー、やっぱり情報通りですか。お間抜けさんですねぇ」

 

屋上から首をして少し下へ目線を向ける。道を挟んで向かいのビル、暗闇だった階層の一つに小さな明かりが点滅する。

双眼鏡を覗き込めば、昨今この街を騒がせるヴィランの姿が見える。

金属を曲げる個性、そして異形の力を振るう個性で数々の銀行強盗を成し遂げ、ヒーロー達から逃げおおせている強盗犯。

ほっといてもどうでヒーローが捕まえるだろうが、彼女は彼らを殺さなければならないのだ。

 

「んー、向かいのビルの屋上まで約10m、でしょうか。高飛びの選手でも無いボクにこの距離は飛べませんねぇ

 

でも飛びますけどね、と英織は助走を取る。

屋上の端まで下がりそのヘリに足をかけ力を溜め、駆けた。

女子ではそれなり以上の脚力をもってして体を空中へ運ぶと、狙い通り明かりのつくのつく階層の窓へ飛び込んだ。

 

窓ガラスを粉砕する音に振り向くヴィラン。その目に飛び込んできたのがなんて事はないただの子供だと知り戦闘態勢を取らなかった。

 

「おい嬢ちゃん、こんなところにいちゃあぶねえぜ?」

「おうち帰んな。ま、帰れるかわかんねえけど」

 

ゲラゲラと笑う男達に対し、彼女はただカバンからまだタグのついた草刈鎌を取り出す。

 

「貴方達、人を殺しましたねぇ。

その罪、万死に値します。同じ命は、同じ命で償うのが常識だとは思いませんか?」

「は?」

「おいおい嬢ちゃん、個性持ちかと思えばそんなショボいもんで俺たちに勝てると思ってんのか?」

「ぎゃはははは!」

 

メキメキと音を立てて男が異形に姿を変える。だがそれを英織はただなんて事はないように、鎌をペンでも回すようにもてあぶ。

 

「退屈な答えです失望しました殺します。

そうでなくとも殺します。

 

零崎を始めましょう、退屈しませんので」

 

そう呟いた瞬間、異形の後ろにいた男に悲鳴が上がる。

 

夜はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「これは......酷い」

「刑事やっててうん十年だが、こんな酷えのは初めてだ」

 

若手の刑事が青ざめ、老齢の刑事が無言で帽子を取り、黙祷を捧げる。

いかに彼らが殺人者で犯罪者であろうと、彼らが哀れみを抱えてしまうほど、事件現場は凄惨なものであった。

 

「包丁、鉈、草刈り鎌、鋸、トンカチ、ナイフ......どれだけの凶器が使われたんってです?!」

「ああ、尋常じゃねえ」

 

血だまりと散らばる凶器で足の踏み場も無いような殺害現場。刑事は意を決してから足を踏み入れ、鑑識の方へと向かった。

 

「どうだ、ガイシャの傷は......」

「この通りです。なんなんですかこれ、正気じゃないですよ」

「う......すみません、外行ってきます」

「おう、無理すんなよ」

 

若手が外に飛び出して、吐瀉物を吐き出す不愉快な音をBGMに鑑識が眉をしかめながら簡単に状況を説明する。

 

「死因はおそらく失血死でしょう。全身に突き刺さる凶器を見れば一目瞭然です。手足の傷はそこら中に転がってる刃物ですが、不思議とこの中に致命傷はありません。

それと凶器ですが......」

「ああ、見りゃわかる。ふつうに文房具だって言いてえんだろう?」

「はい。それもそこら辺で売ってるような物ばかりですよ」

 

尖らせた鉛筆、片刃のハサミ、シャーペン、消しゴム、接着剤、定規、ホッチキス、カッターナイフ。

ごくありふれた物品だけが、その死体にまるで誕生日ケーキのロウソクのように突き刺さり、完全に殺している。

 

「あちらの方も同じです。まるで......」

「まるで学生が帰り際にふらっと殺したみたいだ、ってか?」

 

頭上から聞いたことのない声が聞こえて、老年の刑事は顔をしかめる。

 

「不謹慎だぞ」

「事実を述べただけですよ僕は。

あ、申しおくれました、僕はこういうものです」

 

ぴ、とノリの効いたスーツの男は名刺を刑事に手渡す。刑事はそれを見、肩書きを見て顔を顰めた。

 

「......ここはウチの管轄だ。どうして警視庁一課が出張ってくる」

「それだけ異常なんですよ。というかこれから私が捜査を主導します。

といっても、逮捕はどだい無理でしょうねぇ」

 

やれやれと首を振る男に刑事は苛立ちを覚え思わず詰め寄る。

 

「逮捕がドダイ無理ってのはどういうことだ! 俺たちは犯人を捕まえんのが仕事だろうが!」

「それがほとんど不可能なんですよ。それに僕警察官じゃないですし」

「ああ?」

「名刺はまあ儀礼的なものです、警察にも立場ってのがありますから。

申し遅れました、僕は花裂 蝶(はなさき あげは)

それとも裂識(れつしき)と名乗った方が良いでしょうか?」

「裂識だと!」

「それって、一昨年捕まった殺人鬼、どうしてここにいるんですかぁ!?」

 

一昨年世間を騒がせた通称「人裂き殺人」。なんの関連もない人間が100人単位で殺され、そこに出動するヒーローすら犠牲になり、果てはヴィランすらも犠牲になったという凄まじい事件。

犯人は何故か1ヶ月後に自首し、顔写真は公表されず殺人鬼が名乗った名前だけが世間に広まった。

 

「裂識」と。

 

その犯人が今となりに何食わぬ顔で立っている。思わず腰の拳銃を抜き放ち裂識に向ける刑事、だがそれを裂識は優しく制した。

 

「僕はもう殺しは極力やらないと決めました。困った時は死刑判決を食らった罪人を殺す契約を政府と結んでますよ。それに、何人もの方が僕を見張ってるんですし安心してください」

「けっ、そんなんで安心できるかっての」

「まあぶっちゃけココの全員殺すのは簡単ですよ? でもそしたら僕が死んでしまうのでやらないだけです」

「ひぃ!」

「......冗談ですよ」

 

全員が安心して息を吐く中、刑事だけが彼に疑問を投げかける。

 

「で、殺人鬼がどうしてここに居るんだ?」

「ああ、妹が犯人だからですけど」

「妹ぉ?」

「はい、妹です」

 

裂識は一応の礼儀として白手袋をつけると、床に転がる凶器を拾い上げる。

 

「普段使うような文房具、

街でよく見かける服、

家でいつも見かける家具、

日常生活で見かけるものばかりだとは思いませんか? 今回は道具だけですけど、次があれば違う手段ですかね?

 

あいつにとっては日常が凶器なんですよ。

銃や見かけないようなトンチキな武器、面倒なトリック、そんなものは使いません。

退屈な日常が文字通り人を殺すんです。

 

それが彼女のモットーですから」

 

彼はシニカルに笑い、懐から取り出したタバコを口に咥えて窓の外を見上げた。

 

「ヤニは外でやんな」

「僕は健康主義者ですのでタバコは吸いません。カッコいいから咥えてるだけです」

 

飽きたと言うように裂識はタバコを窓の外に吐き捨てると、刑事や鑑識たちの方へ向き直る。

 

「ところで皆さん、被害者は調べましたか?」

「......いんや、これからだ。とはいえこの様子じゃ一苦労だけどな」

「いえご心配には及びませんとも。高確率でこの二人は近い時期に殺人を犯しています。例えば、最近警備員を殺した銀行強盗二人組とか?」

「言われてみれば見たことがあるような......?」

「ま、そこも彼女のモットーですので。

殺すのは悪人、殺人者、つまるところ非日常です。

 

 

 

これもまた、ヒーローの形の一つだとは思いませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

これは、殺人鬼が英雄になるまでの物語。

 

「零崎をカッコよく始めよう」

「零崎を始めると退屈しないので」

 

 

 





零崎 英織 《英雄失格》 (ワン・フォー・オール)

本名は汀 英織。いわゆるモブ顔女子高生。トレードマークは学ラン。
趣味は節約、自称日常主義派お嬢様。
嫌いなものは退屈、好きなものはホームセンター。
学ランフェチで学ランが絡むと発狂してキャラぶれする。
ちなみにボクっ娘。理由は学ランが似合うから。

雄英の制服がブレザーなので不満らしい。

個性 収納
身体のあらゆるところに物を仕舞う事ができる。
条件は本人がそう思うこと、物を肌に押し付けること。
服の上からでもオーケー。
ただしデメリットとしてしまえる量は一般的なロッカー3つ分。
そしてしまう分の重量がしまった場所にかかる。
要するに物を肉体に埋め込むイメージ。


零崎 裂識 《支離滅裂》(クリミナル)

細身でメガネをかけた男、第一印象だけはいいとは専らの評判。
趣味はかっこよさを追い求めること。だが食事の好みは質素。
嫌いなものはダサいもの、好きなものはシャケ。
目玉焼きは塩胡椒以外は邪道だと思っている。
殺人鬼時代は、二つ名と同名の刃引きされた大鋸《支離滅裂》を愛用していたが、警察勤めの今は封印中。
警察に入った理由は「カッコいいからですけど」。


個性 透過

手に持ったもののみある程度物体をすり抜けられる状態にする。
ただし生物は不可、解除は使用者が自由に可能。
物体の中で透過を解除した場合「いしのなかにいる」状態になる。この場合二つの物体が結合しているので使用者も戻すことはできない。
手に持つ物体は透過できないが物体自体はあらゆるものを擦り抜ける。


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