それだけ護廷十三隊には容赦が無く、大義名分を得た彼らによって粉砕されたのだ。今の護廷十三隊とはまるで違う、滅却師は抗うことすら出来ていなかっただろう。
その、はずだった。
「(難儀なものだな、争いとは)」
滅却師の王、ユーハバッハは千年の時を超えて復活していた。初代総隊長と戦い死んだはずのそれは、900年時をもって鼓動を取り戻し、90年の時をもって理知を取り戻し、9年の時をもって力を取り戻した。
そしてたった9日で世界を奪いに、その力と配下を手に攻め込んで来ている。
しかし、取り戻しただけではない。その存在は圧倒的な存在として、この世界に君臨する。特記戦力などと過去に警戒した者達を、今もなお警戒するのか疑問に持ってしまうほどの力を、持ってしまった。
「(護廷十三隊ももはや敵では無い。零番隊を終わらせ、霊王を取り込み、世界ももはや我が手にある。それでもなお……)」
零番隊をたった1人で殲滅した時点で、ユーハバッハとまともに戦える存在など居ないだろう。霊王という『世界の祝福を得たかのような唯一』を取り込んだ時点で、本当の意味で対等な存在は消え去ったのだから。
それに、この戦争における目的の大部分をクリアしている。世界を自分の思うがままにする事は可能だ、それに『霊王を取り込んだ事を報せた』時点で、ユーハバッハとは戦う事そのものに矛盾すら生まれてしまう。
世界を守る為に世界の楔を壊すなど、正気では無い。
「(私の前に、立つ者が居るとはな)」
ならば、ここに立つ死神は正気では無いのだろう。
「目玉が邪魔で時間がかかった……もう慣れたが、あれはお前の手駒か何かか?」
霊王を吸収する際に霊王の力は大きく漏れ出た。本来であれば霊王の敵である死神にその力の群れは襲い掛かるのだが、その群れは何故か霊王宮に停滞していたのである。それは次元の軸が近く、死神としての力が色濃く出るものがいたからだろう。ユーハバッハとしても力を吸い取るまでの防波堤となるので特段いじる事もなかった。
だが、ここまで早い到着は面白いとも感じている。
「力の残滓を払った程度で随分と強気だな」
本殿に居るのは分かっていたのだろう、そしてその力の波はユーハバッハを前にしても落ち着いている。演説も霊王宮本殿には響いていたので聞こえていたかもしれないが、それでもユーハバッハへと向く足は止まっていない。
「私の霊圧を感じられないのか……哀れだが、仕方ないと言うべきか。愚鈍であろうとここに来たという事を下界の者に示さなければならん。世界の王に歯向かう者の末路を見せなければ根拠の無い希望を持ってしまう。だからこそ無意味な抵抗が、どのような結果を生むか……見せてやらねばならない」
斬魄刀は既に引き抜かれている。臨戦体制だ、本気でこの存在に挑む覚悟が見えている。ただの死神が霊王を取り込んだ存在を前にして、畏怖する事なく前を見ている。
しかしその死神を前にしてユーハバッハの余裕は全く崩れていない。玉座に腰掛ける姿は、席を動かずとも初撃をどうとでもできるとでも言うような構えをしている。
「あの時と同じにしないでもらいたい」
だが、その死神は意思を固めている。
「四番隊隊長
護廷十三隊の隊長として、彼はここにいる。四番隊である事を誇りにし、どれだけ嘲られ不遜な態度を取られても、戦う意志を示している。向こうがまだ戦うという意志を見せていないが、その態度にようやくユーハバッハも玉座を降りる。
「そうか、ならば貴様にはこの力で相手してやるのが相応しいだろう」
そして懐から手のひらに収まる程度の何かを握りしめている。すると一瞬だけ光を放ったかと思えば、手には黒い刀が握られている。煤けたような刀だ、しかしその見た目とは異なり突如として爆炎がその刃から吹き出してくる。
護廷十三隊の誰もが知る存在、焱熱系においては最強の一振りであり、1000年以上死神の長として指揮を取り続けた者の力。あの藍染惣右介でさえ尸魂界の歴史とも言えるこの存在には特別な措置を取った。
護廷十三隊の隊長として挑むならば、それを試すに相応しい力をユーハバッハは既に奪っている。
「卍解 残火の太刀」
山本 元柳斎 重國、最強と呼ばれた死神の奥義を片手にユーハバッハは悠然と死神へ歩み寄って行く。
「さぁ、死合おうか」
世界の終わりがかかった戦いが、始まる。
一話との温度差で風邪引きそう。