元星十字騎士団 霊王の特別世話係
リルトット・ランパード
萩風が熱風に包まれていく、その撒き散らす炎だけで、周りの地が消えてしまいそうなほどの熱量だ。ウルキオラは攻撃を仕掛けない、今攻撃をしても熱の壁で威力が削られてしまうと考えたからだろう。
そして徐々に、その炎の壁が薄くなってきているのがわかっていたからだろう。
「
そこから現れた萩風の斬魄刀は九十九提灯と同じものだが、若干紫色へ変異している。装束は狐のような毛皮を纏うコートに変わり、萩風の隣には二つの紫色の炎が宙に舞っている。
その姿を見たウルキオラだが、大した驚きはない。なぜなら、今の萩風は遥かに自分より劣っていると直ぐにわかったからだ。そもそも、霊圧が遥かにウルキオラを下回っている。
むしろ、弱体化したのではないかと思う程なのだ。それは萩風も理解している筈だ。故にウルキオラは直ぐにある答えに行き着く。
卍解を失敗したのだと。
「勝負を諦めたか、死神」
萩風はそれに対して斬魄刀を構える事で答える、勝負を諦めているわけではないようだ。それでも今の状態のウルキオラに挑むのが、どれ程無謀な事なのか理解してないわけがない。
なのでウルキオラはまずは様子見を兼ね、軽く薙ぎ払う事に決める。真横に響転で移動し、萩風に槍状の武器で攻撃する。この程度でやられなければ、何か裏がある筈。そう考えながらのウルキオラの攻撃だが。
「どうやら……本当に、彼我の実力差を理解していなかったようだな」
萩風はそれに反応もできずに遥か彼方へと吹き飛ばされる。何ともあっけない、あっけなさ過ぎる。この程度の奴は敵では無いとウルキオラの主人である藍染は答えた。藍染の持つ鏡花水月の前では無力だからだ。
「待たせて悪かったな、すぐに終わらせよう」
そして処刑を待たせ続けた石田達の方へと向かう。内側から破れないその結界から石田達が逃げる術はない。そしてその結界へと手を伸ばす。
「貴様……どうやら、確実に息の根を止めて、死体を確認した方が良さそうだ」
ウルキオラが結界に手をかけようとしたが、その手は隣に現れた萩風に止められていた。そのまま萩風は軽くウルキオラを投げ飛ばすが、ウルキオラは苦もなく地面へ着地する。
しかし疑問に思える。先程の力程度なら投げ飛ばすどころか引き止めることも、ウルキオラの邪魔が出来る程の力もなかったはずなのだ。
そして、次の瞬間に萩風の霊圧のレベルが跳ね上がる。
「…まだ、やる気はあるようだな」
萩風の背からは半透明の尻尾のような物が、紫色のオーラを放ちながら揺らめいている。
「さっきは済まなかった。未だに、こいつの力を掌握できてないんだ」
そう言う萩風の力は、確かに膨れ上がった。だが…それでも、ウルキオラよりも下だ。だからこそ、ウルキオラの反応は薄い。
「先程よりもレベルが上がったのは認めよう、だがそれでも俺には届かん」
ウルキオラの力の源は胸元に埋め込まれた崩玉のレプリカだ。藍染が崩玉の上位物質への変換は可能なのか?また、複製は可能なのか?そのような実験を経て作り上げた失敗作の劣化品である。
だが、その力はオリジナルに比べて劣っていても絶大だ。そこらの破面なぞ敵ではない、そこらの隊長や副隊長は敵ではない。それ程の力をもつのが、今のウルキオラだ。
「この卍解は九十九提灯の灯りを全て、俺一人に集めた力だ。でもこれの解放には、気分屋なこの子に付き合わないといけない。解放は俺の手に委ねられてないんだ」
何を言っている?そう呟こうとしたウルキオラの表情は、次の瞬間に大きく歪んでいた。
「っ!?貴様…どこから、その力を」
萩風から2本目の尾が現れると、その力はウルキオラと並んでいた。レプリカとは言え、崩玉の力を引き出すウルキオラとだ。
「ここまで来るのには、400年はかかった」
そして、3番目の尾が現れると。ウルキオラの霊圧を超えた力を得ていた。
「始めるか、こっちも本気だ」
ありえない、そんな言葉がウルキオラの頭の中を半濁する。藍染が崩玉を完全支配した状態で打ち負かされるなら納得もいく、だが目の前の男。
萩風カワウソのあり得べからざる力に、打ち負かされると誰が予想できるのか。
「バカな、貴様…萩風カワウソ!お前は何者だ!?」
これ程の力を持ったこの死神は、何なのか。それが納得も理解もできないウルキオラは、初めて声を荒げた。これまで心無い破面と言われ、本人もそう自覚していた彼。これが最初の感情表現になるのであった。
「死神だよ、ウルキオラ」
だが萩風はそれを嘲笑うかのように、淡々と答えると斬魄刀へ霊圧を注ぎ始める。ウルキオラも諦めてはいない、だからこそウルキオラも同様に槍へ力の全てを注ぎ込む。
「
漆黒の混じる翡翠の槍が萩風の方へ迸るエネルギーを撒き散らしながら向かい。
「
紫炎の鋭利な斬撃が、半月の様に鮮やかな弧を描きながら飛ぶ。
そしてその一撃は槍を完全に打ち砕き、ウルキオラを切り裂いていた。
☆☆☆☆☆
暗い海の中を沈んでいく様に、黒崎一護は落ちていっている。
もはや、何も守れない。そんな力が、無い。
そんな黒崎一護の中で、何かが呼んでいる。
見せられるのは黒い玉だ、凄まじい力がこもっていると簡単に分かる程の物が映されている。
それは語りかける。今、床に転がるアレは必要なのだと。
あれを手に入れるのに、あの二人は邪魔だと。
それは誘惑している、アレが手に入れば絶対的な力が手に入ると。
全てを守れる力が、手に入ると。
井上織姫を守る力が、手に入ると。
そう聞いてしまった黒崎一護は、何かへ飲み込まれてしまうのを許してしまっていた。
☆☆☆☆☆
中々、激しい戦闘だった。いやー、強かったなぁ。最悪隊長格来るまで粘れたらいいかな?とか思ってたけど、俺で倒せる範囲でよかった。
後、うちの天狐ちゃんの機嫌が良かったのもよかった。これ使うと体疲れるし、この子に無理させたくない。天狐ちゃんはこれ使う時は本当に渋々力を渡すって感じだから負けてたかもしれなかったなぁー。
あ、ちなみに今は倒した虚の回復中だよ。思ったより強くやっちゃったみたいだから、いやこいつが強かったのが悪い。俺がボコボコにしたのは悪くないな。
「お前は……。そうか……俺は、負けたのか」
ん?なんか起きたみたいだな。回復力は高いのか?まだまだボロボロだけど、しぶとい奴だな。
「あぁ、俺の勝ちだ」
とりあえず、少しドヤ顔で言ってみる。実戦で勝つのって、最高に気持ちいいわ。特にお互いが出せる力出して勝つって、こんなに楽しかったのか…修行しかしてこなかった、俺の初めての発見かもしれん。
「なぜ、俺を助けている?」
「四番隊は流れた血を止めるのが仕事だ、そこに敵も味方も関係ない」
じゃないと隊長に怒られるし、あくまでも治療で来てるし。あの眼鏡君とかの治療は終わったけど、やっぱあの死神代行は死んじゃったのがなぁ…怒られるかもな。
もしかしたら現世へ藍染倒すのに派遣されるかもだが、隊長が6人くらいいるらしいし、大丈夫だな。隊長は俺なんかより、何倍も強い人達だろうし。
☆☆☆☆☆
今の言葉に、ウルキオラは違和感を覚える。敵も味方も関係ない、確かにその理論は理想だ。だが現実は先に手を出し、命も奪っている。
ウルキオラは萩風達の敵、覆しようのない事実であり、敵味方の介在しないその理論で死神代行の命を奪ったウルキオラは、殺されても仕方ない。いや、殺すべきだろう。
「お前は…」
その理論の間違いを、矛盾を伝えようとウルキオラは体を起き上がらせると、違和感を感じる。いや、今まで違和感を感じていたものが無くなったのに気づいた。
胸に手を当て、萩風に問う。
「萩風、レプリカはどこにある?」
レプリカ、それが指すのを萩風がわからないわけではないだろう。胸に埋め込まれていた崩玉のレプリカが無くなっているのに、萩風も気づいているはずだろう。
すると萩風は…
「あ…」
と呟くと、とある一点を見つめる。釣られてウルキオラも見ると、そこにはコロコロと死神代行の方へ転がる崩玉のレプリカがあった。井上が無意味な治療を続けている、そこの結界にぶつかると。
「グォォォオ!!」
怪物が、目を覚ました。黒崎一護の骸は起き上がると、頭に突起が生えた怪物へと変貌していく。顔も体も羽のように白い外殻に覆われ、異形の咆哮はその場に居るものを圧倒する。
「やべ…」
ウルキオラにしか聞こえないほど小さく呟く萩風。
「貴様、バカなのか!?」
ウルキオラが思わぬところで、2度目の感情を表す。
井上の結界を破りながら、黒崎一護が異形の姿になって蘇生される。隣の井上も構わずに、足元にあった崩玉を踏み砕く。そして溢れ出したエネルギーを全て、余すことなく吸い上げた。
「
「鬼火よ集え 卍解!!」
ウルキオラと萩風は今出せる力を解放する。
ウルキオラが解放する力は先ほどまで使っていた黒翼天魔・新天地解放に遥かに劣るが、他の破面は存在すら知らないであろう、破面の能力の先の力の解放。
そして萩風が尾を1本解放した状態で、火狐ノ皮衣を発動させる。
黒崎一護は虚の怪物と化したが、更にエネルギーを吸い上げた影響か背中には羽というには歪な突起が現れる。頭に生えた角は鹿のように枝分かれし、腕にはいつのまにか天鎖斬月が握られている。
そして、その異形は二人に向けて巨大な赤い力の塊を発射する。
「貴様の卍解の完全解放まで、どれだけ稼げばいい?」
「知るか!俺に聞くんじゃねぇ!」
それを二人は斬撃と槍の投擲で相殺するが、殺しきれなかった衝撃に襲われる。
この攻撃の隙に石田が井上を避難させているので、二人は全力で放っている。それでも、打ち消せなかったのだ。
「さっさとしろ!!」
「ウルキオラ、お前ってこんなにテンション高いやつだったっけ?冷静そうなカッコいい奴アピールしてたキャラは捨てたのか?」
「貴様…!!先程までの礼儀を弁えていた奴と、全くの別人に言われたくない!」
「こいつ…!!命の恩人に対する礼儀もねぇ奴にも言われたくもないわ!」
「今の状況がわかってるか!?」
「1〜100までわかってるわ!!…訂正、20ぐらい迄ならわかる!!」
二人はしょうもない言い合いをしているが、ウルキオラは槍を生み出しては投げ続け、萩風は斬魄刀のエネルギーが溜まる度に斬撃を放つ。
しかし、異形は確実に二人の方へと近づいていた。
「このままでは…っ!?」
このままでは、二人とも殺されてしまう。ウルキオラが思案していると、隣で霊圧が跳ね上がった。
見てみると、萩風の背に4本の尾が現れている。そしてこの状態は新天地解放を超えた目の前の異形を、遥かに超えていた。
「良かったな、ウルキオラ。今日のこの子は、気分が良いらしい」
よく見ると、変化は尻尾の増加だけでない。纏う毛皮は炎の様に紫色の炎を散らし、周りを漂っていた炎が今は萩風の指令を受けるのを待っているかの様に静止している。
「グォォォオ!!」
そして異形の怪物だが、天鎖斬月から黒い衝撃を放つ。普段から彼を知っているものならわかるであろう、月牙天衝だ。
しかし威力は桁違いであり、ウルキオラは身震いするほどなのだが…となりに萩風が居るだけで、大した障害に思えなくなっていた。
そしてそれに対して、萩風は軽く斬魄刀を縦に薙ぐ。
「
その技は黒い衝撃とぶつかり合うと、そのまま押し切り異形へと衝突する。焔が異形を包みこむと、そのまま爆炎を吹かす。しばらくするとそれは止み、中から虚の外殻がボロボロと取れる黒崎一護が居た。
「…何を、した?」
ウルキオラはそう聞くのも無理はない。今の力は間違いなく、あの怪物を屠るチカラを秘めていた。にも関わらず、黒崎一護は原型を留めているどころか生き残っているのだ。
「この状態で使える、絶対に殺さない技だとでも思っててくれ。死んだら治療できないしな」
そう答えながら、黒崎一護を回復の結界で囲う。
ウルキオラへの説明を簡単に済ませた萩風だが、詳しく話すと今の萩風の力は敵を瀕死にする、峰打ちの様な技だ。攻撃力が5000で放った攻撃は体力が1000しかない相手ならオーバーキルとなるだろう。だが、この技は999のダメージに変わり、瀕死に留めることができる。
殺しはしない、萩風が第四の尾を解放した状態でのみ解放できる力だ。それを聞いて緊張の線が切れたのか、はたまた限界だったのか。ウルキオラは崩れ落ち、そのまま地面に寝転がる。
「無理すんな、お前も治療途中だったんだぞ」
そして卍解を解いた萩風が治療を始める。萩風自身にも疲労が見えるが、今のウルキオラに比べればマシだ。
「藍染様に、不敬を働いてしまったな…」
「安心しろ、その藍染は護廷十三隊が相手する。お前はゆっくり治療に専念しとけ、中々傷が酷いからな」
これからの事を考えていたウルキオラへ、すかさず答える萩風。死神とは、よくわからない。ウルキオラは死神なぞ取るに足らない存在だと思っていたが、今は少し違っていた。
この男が答えるなら、それだけの信用に足る存在の集まりなのだろうと。
「少し、眠いな……」
なぜか安心感がある、なぜかはわからない。
先程まで争い、共闘した死神に安心している。
下らない言い争いなぞした覚えがない、隣に立たれて安心した事なぞない、今は…この死神がわからないのを、理解したい自分がいるのにウルキオラは気づく。
「(ふっ、そうか……。これが、心か……悪くない)」
ウルキオラの意識は闇の底へ落ちた。
☆☆☆☆☆
虚圏での死神側の損害は無し、また敵は壊滅させる事に成功する。
また、現世にて隊長格を含む護廷十三隊の精鋭部隊が壊滅するも、現れた死神代行によって藍染惣右介へ勝利を収める。
崩玉と融合し殺すのが困難となった藍染惣右介は2万年の投獄が言い渡され、一番隊隊舎の地下に存在する真央地下大監獄に幽閉される。
また東仙要、市丸ギンの両名は死亡。
死神側の死者は、無しである。
また空席であった隊長であるが、三番隊に鳳橋楼十郎、五番隊に平子真子、九番隊に六車拳西の行方不明であった元隊長達が任命される。
総隊長が片腕を失うなど、多くの損害を出した。心に傷を負う隊士も少なくないだろう。
それでも護廷十三隊は勝利を収め、一連の騒動は終結したのであった。
前回と今回のウルキオラの技はオリジナルです。
破面編は終わりで、次回から2年くらい時間を進めて千年血戦編を始めたいと思います。
閑話に雛森ちゃんとか、一角とかのその後を書こうかな〜…とか考えてます。予定は未定ですが、よろしくお願いします。