卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋
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続編の小説で、リルトットちゃんが生き残る事を祈ってます。


22.十龍転滅

虚圏で二つの小さな影が巨人の周りを飛び回る。一人は卍解状態での超高速移動をする黒崎一護、もう一人は努力と修練だけで超高速移動の境地に辿り着いた萩風カワウソである。

 

ジェラルドの大きさは既に100mを超え、振るう攻撃全てが即死級の破壊力を持っていた。だがそれを紙一重で避けた二人は同時に技を放つ。

 

「月牙天衝!!」

 

「斬天焔穹!!」

 

2人の必殺技である斬撃、その威力に申し分はない。しかしそれは残念な事に隊長格や十刃レベルの力ならばという仮定だ。

 

既に盾を破壊し、剣を破壊した2人であるが武器がない程度でジェラルドという個は揺らがなかった。

 

「無駄だ!我に貴様らが群がろうと勝てる筈はない!」

 

それはジェラルドに有効打とはならずに弾き返される。規格外の敵であるジェラルドには効いていないのだ。直ぐに攻撃に移るジェラルドだが、それをまた2人は寸前で避ける。

 

今の2人はジェラルドに唯一優っているスピードで翻弄している。ジェラルドも有効打はあるが届いていない。俗に言う膠着状態となっているが、我武者羅に体力を減らしながら攻めていると取れる2人の特攻と、悠々と戦い不滅の体力と身体を持つと言って差し支えのない怪物との戦い。

 

これは膠着状態、だが萩風達が負けるのは必然である。

 

そして、ジェラルドも自身の勝利が揺らがないのは分かりきっている事であった。

 

「萩風、今度はどうする?」

 

「もう1回、目を眩ます。後は成り行きで避けまくれ」

 

ジェラルドからすれば鬱陶しい羽虫に過ぎない、だがそれを承知で2人は空中を飛び回る。

 

「(速い。砕蜂や白哉よりも速い!俺の全力でも同等って、どういう事だよ?これで卍解無しの副隊長かよ……!?)」

 

黒崎が共に戦う萩風を見て思うのは異常な速さだ。

 

デコイとしての仕事の殆どをこなす反射などの身体能力の高さは並みの死神を凌駕している。

 

なぜ副隊長なのか?それも四番隊の副隊長だ、逆に隊長を務める卯ノ花は何者なのかも気になる程である。

 

「我を相手に、しぶといぞ!」

 

だが、反則級の力を持つジェラルドとは戦いにすらなっていないのだ。

 

どれだけ攻撃してこようが、その度にパワーアップするジェラルドが負けるはずがない。

 

そう思っていると、遠くから声が聞こえる。その方へジェラルドが顔を向けると帽子を被った1人の死神が待機していた。

 

ジェラルドは気づいてないが、先程ジェラルドを不意打ち気味に攻撃した浦原喜助である。

 

「2人とも!準備完了しました!!」

 

その合図を待っていましたとばかりに動いたのは萩風であった。超高速でジェラルドを翻弄しながら彼の前に立つと、そのまま両手でジェラルドの瞳を貫く。大きく身体を仰け反らし、萩風を払おうと腕を伸ばすが、その前に萩風は更に眼球を破壊する。

 

「硬い体だけど、流石に目玉は弱いよな?」

 

そう萩風は呟くと両手から電撃を放つ。本来は武器や地に流して攻撃する技であるが、それを体内を破壊する為に使用する。これで少しは時間を稼げるだろう。

 

「破道の十六 綴雷電」

 

内側からの攻撃、それを受けたジェラルドの視界は完全に暗転する。

 

ジェラルドの誤算は彼等をただの羽虫と考えていた事だろう。彼らはハエやトンボではない。例えるなら蜂だろう。

 

武器を持っているのだ、人を殺す事もできる武器を。

 

だが、ジェラルドはそれを理解していなかった。

 

「頼むぞ!黒崎!!」

 

萩風が黒崎を呼び捨てにするのは初めてであったが、それを気にせず黒崎は仮面を付けて全力で霊圧を溜めると目を塞ぐ隙だらけのジェラルドの足元へ降り立つ。

 

「月牙ーーーー天衝!!」

 

そして、ジェラルドの足の腱を切り裂いた。それにより、ついにジェラルドは地面に倒れ込む。その巨大な質量が崩れただけでも災害であり、地を大きく揺らす。

 

そしてそれを確認した萩風と浦原はジェラルドから離れた位置から対称の位置に立つと霊圧を高める。

 

「「万象(ばんしょう)(かたど)無城(むじょう)石垣(いしがき)天地(てんち)()現界(げんかい)する鼓動(こどう)進撃(しんげき)」」

 

それは禁術と言っても差し支えのない鬼道の詠唱である。

 

「「(いち)破滅(はめつ)し・()消滅(しょうめつ)し・(さん)燼滅(じんめつ)し・(よん)討滅(とうめつ)し・()断滅(だんめつ)し・(すべ)てに幻滅(げんめつ)せよ」」

 

最も強力な鬼道とは何か?それは萩風のよく利用する【瞬天閃降下】でも藍染惣右介の利用する【黒棺】でもない。九十番台の中で最強の鬼道は九十番でも九十三番でもない。

 

「「()きて(のぼ)災厄(さいやく)咆哮(ほうこう)(てん)じて(めっ)する幻想(げんそう)審判(しんぱん)」」

 

それを唱えるとジェラルドを中心とした10角形の1角から一頭ずつ、龍を模った力の塊が地を裂いて現れる。その力は萩風達から直に引き出された力ではない。

 

霊脈から引きずり出したその力は、並みの鬼道とは比べ物にならない。

 

並みの九十番台の鬼道すら凌駕する力を持ち、この技が使われた環境に多大な影響を与えてしまう程の威力。

 

「「破道の九十九 五龍転滅(ごりゅうてんめつ)」」

 

十頭の龍はジェラルドへと降り注ぐと、その体を消し飛ばした。

 

☆☆☆☆☆

 

黒崎一護は離れた位置からその龍が襲い掛かる瞬間を見たていたが、その一撃は紛う事なき必殺滅却の光だった。この技で残ったのはジェラルドの残骸だけだ。

 

あの怪物には黒崎の全力も届かなかったが、その相手にここまでの攻撃とダメージを与えると思わなかった。

 

黒崎は同じ九十番台の【黒棺】を藍染から受けた事がある。確かにあれは恐ろしい技だ、だがこの技は更に恐ろしい破壊力を持っているのがわかる。それを2人で放ったのだ、途轍もない威力である。

 

「死んだ……んじゃないのか?」

 

黒崎がそう言うのも無理はく、それはどの様な者からも同じ答えが返ってくるだろう。ここまで木っ端微塵にされて、死なない奴は居るのか?ユーハバッハやウルキオラですら不可能だ。

 

「まだですよ、黒崎さん」

 

そう浦原が言うと死体から光の粒子が集まり始める。それは人の形になると、ジェラルドとなって現れる。光の鎧を身につけたジェラルドは間違い無く、今までで一番強い状態である。

 

「この程度で我は死なぬ、神は死なぬ!我はジェラルド・ヴァルキリー!最強の滅却師である!!龍程度で、神に敵うわけがない!!」

 

高々と宣言するジェラルド。絶対的な自信が表れたその言葉は慢心ではなく事実であった。だから当たり前のように、高笑いをする。

 

「……とんでもないな」

 

萩風はそれを見て思わずつぶやいた。それを聞き取ったのかジェラルドは更に笑い声を大きくする。

 

だが、萩風が驚いているのはジェラルドについてではない。

 

「流石は、浦原さんだ」

 

天才、浦原喜助に対してだ。

 

そして、ジェラルドの重心が大きく傾く。それは見ればわかるが、片足が地面に埋まってしまったからだ。

 

「何だ、貴様らは穴を掘っていたのか?落とし穴程度で神の歩む道を止められる筈も無いがな!」

 

そして突然、ジェラルドの笑い声と余裕のあった叫びが途絶える。代わりに今迄に無いほどに狼狽えた声が響く。

 

それは今の状況の異常さに気づいたからだ。地の中へ沈み込んだ足を引き抜こうとするが、どうやろうと抜けないのだ。

 

「馬鹿な、これはただの穴では無いのか?何故だ……!?」

 

どれだけ引き抜こうとしても、脱出できない。

 

それもそうだろう。これはジェラルドの思う通り、ただの落とし穴ではない。

 

すると今度は逆の片足も地を割る。だがそこでジェラルドは初めて気づく、これは落とし穴であるがただの落とし穴では無いことを。割ったのは地面ではなく、空間である事を。

 

地面を掘る落とし穴ではない。この落とし穴は、先が見えない深淵を写している。今は指先で虚圏にしがみついているが、その顔にはこの戦いの中ではなかった、恐怖が見える。

 

そして驚愕し、なぜこうなったのかわかっていないジェラルドに親切に浦原は話し始める。

 

「貴方を殺す事は現状でほぼ不可能でした。アタシも貴方を倒すのに都合の良い道具を持ち合わせてません、貴方はとても強い能力を持ってますからね」

 

浦原はそう言うと、斬魄刀でジェラルドの指を一本弾く。するとジェラルドの身体はグラリと揺れて今にも落ちそうになる。

 

「なので能力を利用させて貰いました」

 

浦原は利用したのだ、ジェラルドの能力を。ジェラルドの能力を遠目に観察し、導き出した数百を超える可能性の中であり得る事を考えた。

 

その結果、導き出した答えは「【霊王の欠片】に攻撃に使われた傷を霊子に変換する能力を有している」であった。

 

この場合、浦原の使える策は少なかった。単に物量で圧殺するのも、現代兵器に近い霊子を含まない武器を使用するのも、殆どの策が有効ではなくなるからだ。そして単純な火力で消しとばすにしても、その火力を準備するのも、試して失敗した場合のリスクが大き過ぎるのであった。

 

「虚圏の霊脈から霊子を引き摺り出し、虚圏の存在を希薄化して貴方の存在を虚圏の許容出来ない存在にまで引き上げました。貴方は、もはや虚圏にいる事はできない」

 

浦原が準備していたのは一定範囲内での霊力の濃度を減らす事である。この虚圏という世界の次元を下げ、ジェラルドそのものの次元を超えさせたのだ。

 

この世界はシャボン玉だ。その中に大小様々なシャボン玉があるが、浦原がしたのは世界というシャボン玉を縮め、ジェラルドというシャボン玉を巨大化したのだ。

 

当然、大きくなり過ぎたシャボン玉は外へはみ出てしまう。今のジェラルドの状況だ。

 

「貴方が行くのは、世界の狭間。ここに追放するのが、一番できる可能性の高い方法でした」

 

だが同時にリスクもある。

 

これは浦原達もいる虚圏そのものを破壊してしまう可能性があるのだ。他にも別の世界へと偶発的にも侵入されてしまう可能性もある。だが、その策を仕切るのが浦原喜助であったのがジェラルドの敗因だ。

 

今のジェラルドは、どの世界にも入れないレベルでの強化を行なっている。【五龍転滅】、それは殆ど禁術に近い技だ。霊脈から引き出すこの力はその周りの環境を破壊してしまう。これは破壊力だけで禁術と呼ばれるのではない、その世界の地域そのものの力を引き出す恐ろしい技だ。

 

それを二発も受けたジェラルドは間違い無く世界に触れても侵入できるような存在にはなれなくなったのだ。

 

勿論、彼が自身を弱体化させれば可能だ。だが強化前の彼を倒す方法など、浦原ならば数万を超える策を練れる。そして、今の状態で弱体化された場合でも可能である。

 

そして残念な事に、この男には弱体化するという概念がそもそも存在していなかった。

 

「貴様らぁぁぁぁ!!」

 

ジェラルドは空間の狭間へと吸い込まれるように消えていった。

 

☆☆☆☆☆

 

俺がこの作戦を聞いた時に最初に思い、出た言葉は「えげつな」である。俺も本当はこいつを殺すつもりは無かった、半殺しにするつもりではあったけど。

 

浦原さんの作戦は殺せないなら追放しようって奴だ。

 

てか驚いたわ。いきなり浦原さんから「【五龍転滅】は使えますか?」って聞かれて。一応、使えますよ?俺だって隊長目指したんですから。完全に詠唱しても8割しか威力出ないですけどね。

 

その事を言ったら浦原さんは少しだけ驚いてた。

 

え?もしかして副隊長クラスでも覚えてるの当たり前なのか!?そうなら俺はどうせ凡人ですよ!俺が30年かけて覚えたこの技はなんだったんだよ!!

 

他の奴は1年とかで覚えてんのかな!?ふざけんじゃねぇぞ天才どもが!

 

オリジナルの鬼道を作れないとなれないのかな、隊長って。雛森さんとか伊勢さんとかオリジナルの鬼道バンバンできるらしいし。俺はできないよ、そんなの。才能のカケラもありませんから……。

 

……少しだけ泣きそうな心を落ち着かせて、取り敢えず現実を見たいと思います。

 

「で、この穴を塞ぐのか」

 

バカでかい穴が虚圏に空いてる。浦原さんが「穴は大丈夫っすよ、任せてください」とは言ってたけど。虚圏無くなったらどうすんだろ、エミルーちゃん達とウルキオラ位なら家に居候させられると思うけど。

 

俺って趣味らしい趣味も無いし、金だけはあるからな。貴族街の高級料亭にも行き放題なくらいにはな!虚しくなるから2度と一人で行かないけどな!!

 

虎徹さんとか誘って練習したいけど、果たして了承してくれるんだろうか……貴族の砕蜂さんでもいいか。前は奢ってもらっちゃったけど、今度はあの人に土下座して「俺を(女の子から見て恥ずかしくないような作法を使える)男にしてください」って頼み込むか。

 

もしくは大前田副隊長に可愛い妹がいるらしいから、そこら辺からブルジョワな生活での作法を聞いてみるか?

 

「何、まさか……黒崎さん!萩風さん!穴から離れてください!」

 

そんな事を考えていると地面が揺れる。虚圏でも地震とかあるのか〜…とかじゃないよな。俺の目の前にデカイ指見えるし。間違い無くあいつが戻ろうとしてる。

 

「本当に、神様なのかもな。この怪物」

 

浦原さんも焦ってる。というか、俺も焦ってる。卍解した俺の最高火力があればはたき落とす程度は可能だろう。だが今のところ卍解も出来ない俺は雑魚である。

 

「負けぬ。神が敗れる事は無いのだ!我が神罰を与えるのだ!」

 

このままでは手遅れになる、俺にだってまだ切り札は残ってるがここで使っても良いのか?試すのもヤバイ鬼道だ。

 

「っ!?萩風さん、その鬼道は……まさか」

 

時間は無い、俺は懐から俺の血を煮詰めて高濃度にした物が入った瓶を片手に今にも出てきそうなジェラルドの真上に飛ぶ。

 

すると頭に輪っか、背中に羽を広げた巨人がいる。ジェラルドだ、とんでもない奴だ。俺が今迄に戦った奴の誰よりも強い怪物だ。

 

なら、これしか俺が奴を落とせる技は無いだろう。

 

「破道の九十六」

 

この禁術は恐ろしい。焼けた我が身を触媒として初めて発動する犠牲破道だ。火力はとてつもない、そしてこれを我が身で行ったら触媒となった体は無くなる。

 

そんな危ない技、覚えたく無かったが俺はちょっとした裏技を使う。と言ってもこんなの誰でも思いつきそうな裏技だ。

 

血液と僅かな肉片しか無いが、威力は大して変わらない。何故かって?この血、本来の120倍は濃いドロドロの物だから。腕の一本よりも、濃い俺の情報が入ってる。

 

何でこんなのあるかって?こんな破道覚えなきゃ準備してないからだよ。自分の体をぶっ壊すとか、こんなの使う奴居るのかな……居たらバカなんじゃないかな。

 

一刀火葬(いっとうかそう)

 

瓶を割り、赤くヒビ割れた血液は全て霊子に変わると灼熱の刃となった。その大きさは本気を出しただけあり、卍解した程の威力は出なくともジェラルドを貫き世界から弾き出した。

 

エミルーちゃん達をボコボコにした罪は重い。だが殺しはしない。

 

「この我が、我がぁぁぁぁぁ!!!」

 

殺しはし……ん?

 

……おかしいな、威力こんなに出る技だったかな。100年前とかに試しに使った時に比べて7倍くらい威力が違う気がする。

 

ジェラルドを消し炭にした気がする。

 

「神様だとしても、神様並みの知性を持ってないなら、宝の持ち腐れなんだろうな」

 

浦原喜助が居なかったら負けてた。黒崎一護は……まぁ居た方が楽だった。俺1人で勝てる奴じゃなかった、隊長レベルの実力者が本気を出せる状況でないと勝てない怪物なんだろう。

 

日番谷隊長や総隊長辺りならタイマンで倒しそうだよな、焼いたり凍らしたり。隊長ってヤバイ。

 

とりあえず俺は塞がれていく穴を見ながら。

 

「……終わったか。とりあえず治療……ん?」

 

ウルキオラ達の治療時間を考えて、思い出す。時計を軽く確認すると、現時点で1時間ほどの遅刻が確定していた。

 

「あ、終わった……う、卯ノ花隊長に殺されないよな……?」

 

約束を破る男も、時間に遅れる男も嫌われるよな。そんな所虎徹さんとか女の子の死神に見られたら……!!

 

冷静になった頭を抱えるのであった。卯ノ花隊長からの何年振りかわからないお説教を考えたくも無いのであった。




Q.虎徹三席との噂が囁かれていますが、その件についてどう思いでしょうか?

萩風「俺の心が抉れるんで、回答は控えさせえください……」

Q.砕蜂隊長がそろそろ婚活を始めると言われてますが、見合いを行ったというのは事実でしょうか?

萩風「そんなのは無かったですよ?砕蜂さんとは偶に貴族街の御飯に誘われて、そう言う所だと『どれすこーど』っていうのが大事な所だから高そうな服に着替えて、美味しい御飯食べたり庭園を散歩したりする程度の仲ですよ」

Q.卯ノ花隊長から「身を固めないのですか?」と心配されてるそうですが、どうなのでしょうか?

萩風「回答は差し控えさえてもらいます」

Q.卯ノ花隊長から「独り身は、寂しいですよ?」と言われたのは事実ですか?

萩風「俺の心を抉るので、回答は差し控えさえてもらいます……」







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