虚圏でジェラルドを倒した萩風カワウソ&黒崎一護、尸魂界に到着。
今回も長いかもです。
滅却師達の目の前に突如として現れた死神、特記戦力でもないただの副隊長は単騎で150を超える集団の前に立ちはだかっていた。
その死神は他の死神を戦線から離脱させ、その後直ぐに先程張られた結界と同質の壁を展開する。違うのは規模が敷地全体から中央の隊舎のみを囲っている事だけだろう。
維持をしてるのはどうやら中の死神達で、その死神は斬魄刀を始解し何故かドリスコールを睨みつけていた。
「ゴリラみたいな見た目の調子乗ってそうな男……的確な表現で助かったな」
滅却師達の方にこの呟きは聞こえていない。だがその視線を感じていない者もいないだろう。当の本人であるドリスコールも、勿論感じ取っている。
「手ぇ出すなよ!オレの獲物なんだからなぁ!!」
そのうえ、彼は萩風から不意打ち気味の一撃を受けている。これで倒れない辺りは滅却師の精鋭たる所以なのだろうが、中身は残念ながら不相応と言わざるを得ないだろう。
「勝手にしろ、そんでさっさとここを潰して終わりだ」
それを周りの星十字騎士団は分かっているようで、バズビーと他2人はため息を少し吐いてドリスコールの後ろに下がる。マスクは現れた謎の副隊長に興味津々ではあるが、先程譲ると言ってしまった手前無理矢理横取りはマズいと思い遅れて下がる。
それをドリスコールは確認すると、稲光と共にすぐに卍解を使用する。最初から本気で挑むという意思を表されたその技の名は『卍解
「懐かしい技だな、そいつは」
目の前の死神、萩風カワウソの死神では唯一の親友の卍解だ。
元一番隊副隊長 雀部長次郎忠息の物だったそれは天候を操る卍解であり、雷撃を操る卍解だ。萩風は昔、この技を嵐を相手にする卍解と話した事がある。
それに比喩や誇張は無く、雷撃の嵐を呼ぶのがこの卍解だ。
そしてそれは総隊長に癒えない傷跡を残す程の力を持つ卍解である。
「知ってるのか?そりゃ嬉しいだろうなぁ!もう2度と見れねぇ力だ!俺に感謝しなきゃなぁぁ!!」
そして、それを容赦なく降り注がさせるドリスコール。雷光は収束し一つの剣となり、ジグザグで不安定な線を描きながら萩風へと落とされた。大地を破壊する程の破壊力を持つそれは大地を焦がし、着弾を確認もせずに連続で降り注ぐ。
「どうだぁ!!これが、テメェと同じ副隊長の卍解だ!今はオレの卍解だ!」
そして、更に降り注がさせる。その度に光は瞬き、大地は揺れ、空気は激しく揺れ動く。
「えげつねぇな、もう死んでるだろ」
後ろでそれを見るバズビーも思わず呟く。いくら星十字騎士団でもこれを耐え切れるのは片手で数えられる程度だろう。その耐えられるのは基本的にどのような攻撃も耐えてしまう怪物なのだが。
そんな雨のような絶え間ない攻撃の中。
「自己紹介してなかったな。それの持ち主の親友、萩風カワウソだ」
雷撃の雨の中に居るはずの萩風はドリスコールの目の前に居た。
「っ!?てめぇ、どうやっ」
それにはドリスコールだけでなく、他の星十字騎士団も驚いている。何処にも逃げられる隙は無かった。しかし袖などが少し焼け焦げているので、間違いなくそこには居たのだろう。
だか彼等は知る由も無い。超高速での斬撃でその攻撃が捌き切られたのを、雷撃と雷撃の僅かな間隙に天狐の能力を使いながら超高速で移動しドリスコールの前に立ったのを。
「さよならだ、雀部」
萩風は初めて悲痛な小さな叫びを呟く。今までの彼の死神としての人生で、初めての叫びだ。
その叫びと共に萩風は斬魄刀を振り下ろす。だが彼はただ斬り殺す事が可能な距離にいながらも、心が納得いかないのだろう。言いようの無い感情の爆発が、斬魄刀に乗せられる。
「っ!!?」
鬼道の刃である『破道の七十八
☆☆☆☆☆
萩風が全力で放った力は凄まじく、ドリスコールは消え去った。それを確認し、感慨に耽っているようだがそれを邪魔するように滅却師達は襲いかかっていた。
仲間の死なぞ何とも思わない、ドリスコールの死なぞ何とも思わずに襲いかかっているのだ。
それには萩風は少なからず動揺は誘えると思っていたのか行動が遅滞している。
「っ!?」
飛んできた拳に萩風は片手で咄嗟に防御する。だが全身が武器であるマスクの攻撃は腕で受け止めるのは疲労の残る萩風には難しく、威力に負け吹き飛び、地面を2度跳ねる。
「ワガハイのラリアットを防ぐとは、悪党にしてはやるではないか!」
萩風は直ぐに体勢を立て直し、斬魄刀を構え直すがその両サイドから萩風へ向けて2人の滅却師が攻撃態勢を整えている。
「バーナーフィンガー!1!」
「死ねぇ!!」
赤髪のモヒカン男、バズビーの指先から放たれたのは炎の圧縮されたレーザーだ。これに同じ副隊長の射場は殺され、隊長の狛村と七番隊は敗北した。
そしてもう1人の少女、バンビエッタから放たれたのは爆弾だ。また、三番隊隊長の鳳橋を破ったこの力はただの爆弾ではなく、触れたものを爆弾にするという生身では防御不可の能力だ。
「縛道の八十一
対して萩風は壁を張り、防ぎきれはしなかったが回避までの時間を稼ぐ。一点特化の攻撃と壁そのものを爆弾にするというのに、この技は少々相性が悪かったようだが。
「やるじゃねぇか!一本じゃ足りねぇみたいだな!」
だが完全に防がれはしなかったものの、当てられずに回避までの時間を稼がれたのが癪に障ったのか、バズビーは指を更に増やす。
「バーナーフィンガー!2!!」
「破道の七十二
単純に考えて、2倍の力となったその技に萩風は青い炎をぶつけて相殺する。それにはバズビーは大きく目を見開き驚いているが、その隙に萩風は斬撃を放つ。
「スターパンチ!」
だがその攻撃はキャンセルされ、マスクの攻撃が肩にめり込み吹き飛ぶ。だが予期はしていたようで、そのまま受け身を取り左手をマスクに向けて霊力を高める。
「破道の……っ!?」
だが今度は上から降り注ぐ黒い棘が襲い掛かり、後方に下がる事で何とか回避する。
「避ケラレタ」
エス・ノトも今の攻撃を避けた事には驚いているようだ。不意打ち気味に襲った死角からの攻撃、これを避けたという事はこの場にいる全ての滅却師の位置を把握しながら戦っているという事でもある。
「はぁ……はぁ……っ!!」
現に死角から雑兵の放つ矢の雨を躱し、全方位から襲い掛かる雑兵の滅却師を吹き飛ばしている。何人かは当たり所が悪く死んでいるが、雑兵でも十分に体力を削る程度には役立っている。
だが、それでも萩風は倒れはしない。傷は無い、あっても治されている。体力は無限ではないが底が見えきれず、雑兵の方が先に全滅するだろう。
「どうやら、そこらの奴よりかは出来るようだな」
それを眺めながらゆっくりと観察するバズビー、他の3人も同様だ。
「ソウダネ。サッキノ隊長ヨリ戦エテル」
「しぶといのは同感だけど、なんか弱ってない?」
「あぁ、今のうちに殺っといた方が良さそうだな」
簡単にいかないからこそ、雑兵での戦闘の観察と体力の削りという作戦を立てた。少なくともバズビーが倒した狛村より体力を持ち、エス・ノトが倒した日番谷よりも斬魄刀の扱いに長け、マスクの倒した六車より早く動け、バンビエッタの倒した鳳橋よりも洗練された体捌きをしている。
いや、ほぼ全てのステータスが戦った隊長達よりも上なのでは無いかと推測される。
「どうする」
「殺ス、僕ノ卍解デ殺ス」
そう言うとエス・ノトの背中から氷の翼が現れる。蒼白い氷刃を宿し、天候を操る最上位の斬魄刀の力を解放する。
『卍解
その氷刃は宙に氷柱のような形で展開され、萩風へとその刃を向かわせる。当たれば致命傷だけでなく、その場で氷漬けにされる。必殺の攻撃が滅却師の雑兵と戦っている萩風へと向かうのだ。
「ま、まだ我々が!?」
当然、味方からの攻撃を予期していなかった雑兵にもその無差別な攻撃はぶつかる。ぶつかった滅却師は体を貫かれ絶命すると同時に氷漬けにされ、砕けて消える。
「お前ら、仲間ごと……!?」
萩風は一瞬だけ対応が遅れるも、天狐の炎を一点に集中し自身に飛んできた氷柱を二つ程破壊する。しかし、元々萩風の斬魄刀は炎が使えるだけで火力の高い斬魄刀ではないのもあり刀身が僅かに凍る。
直ぐに解凍するも受け続けるのは良くないと判断し、回避に率先する。
「見覚えある氷と思ったら、今度は日番谷隊長の卍解か……卍解でこの力、汎用性高くて羨ましいな」
萩風は日番谷の卍解は見た事ないが、始解はある。故にこれが日番谷隊長の卍解と気付くのは簡単ではあったが、卍解の状態での力に驚嘆している。
まさしく氷を支配した神、それが彼の卍解なのだ。それを操る敵に並の鬼道では対処出来ないと判断したのか、辺りを炎の結界で囲い始める。
「縛道の八十
氷柱程度の大きさの氷ならば蒸発させる程の火力を有する結界を展開する。しかし、この炎の結界は欠陥を抱えた鬼道だ。展開する術者の周りに現れるという技の性質上、術者も焼け死ぬ可能性が高い。
また炎自体を操る事は出来ないので、攻撃には転じられない。そんな技を使わなければならない程に萩風は追い詰められているのをエス・ノトは分かっている。
「無駄ダヨ。君ト同ジ副隊長モ、隊長ダッテ倒セタンダ。隊長ノ方ハ氷漬ケ二シテアゲタ、コレハコンナ技デ防ゲナイ」
そしてエス・ノトは氷の量を増やす。萩風は尚も火傷の治癒をしながら結界に閉じこもるが時間の問題なのは明らかである。
そしてエス・ノトはそれを分かっているので、自身の技である棘を炎の弱くなった結界の隙間を通して発射する。
「っ!?なんだこ……!!」
萩風は動けないなりに最低限の動きで回避をするが、左腕に着弾してしまう。
額から汗を掻き、眼は焦点が合わなくなり始める。斬魄刀を構える手は小刻みに斬魄刀を握る事を拒否するように震え、動悸が速くなる。
毒のように全身に浸透するそれはエス・ノトの能力、聖文字のF『
「動ケナイヨネ?恐怖ハ誰モガ持ツ物ダケド、ソレハ誰モ克服デキナイ。乗リ超エラレナイ、惑ワス物デ勘違イスル。真ノ恐怖トハ心ノ奥底二ベットリト付イテ離レル事ハ無イ物。避ケラレナイ、絡ミツイテ離レナイ。ダカラ副隊長モ隊長モ関係無イ、我々ハ本能カラハ逃レラレナイ」
そこへエス・ノトは極端に弱体化した結界に向けて特大の氷を注ぎ込む。先程とは比べ物にならないそれは結界を容易に破壊し、回避の余地を残していない萩風へと真っ直ぐに向かう。
「っ!?」
驚愕する萩風はその場から動けない、恐怖という枷が動かさせない。
「終ワリ」
そして、爆煙と共に爆煙の身体を押し潰す。
とてもただの死神では抱える事も出来ない巨大な塊はドスンと地面を響かせる音を立て、煙を吹き飛ばす。
「グロい事になったなぁ……」
煙の晴れた跡には氷塊と血の池だけが残っているのであった。
☆☆☆☆☆
見上げる空は灰色だ。見慣れた空に感慨深くなるのは何故か。そう気付いた時、ウルキオラは自身が寝そべっている事に気づく。意識の喪う寸前まで、磔にされ同胞の虐殺を見せ続けられた記憶は頭の中にこびり付いている。
何故ここに?そんな風に考えるウルキオラの体は何故か軽い。死にそうな程に麻痺し、動けば命を削っていたような感覚は消えている。
そして起き上がり、周りを見てみるとハリベルとその従者が萩風の結界で回復されている。また、すぐ隣を見てみるとウルキオラを回復したであろう井上織姫と現世で何度か対面した事がある死神が立っている。
「浦原喜助か……貴様にも助けられるとはな」
そう言うウルキオラは更に注視し、周りを見れば地形に変化が起こる程の激しい戦闘の後なのを感じ取る。またその中に黒崎一護や萩風カワウソの霊圧も感じ取るが、その二人はここにはいない。
「カワウソと、黒崎一護はどこだ?」
「二人は一足先に尸魂界に帰って、代わりにアタシ達が残ってます」
それを聞いたウルキオラ短く「そうか」と、呟くと万全ではない体で浦原へと向き、軽く頭を下げる。
「世話になったな、浦原喜助」
それに対して、以前とはまるで別人のようになったウルキオラに多少驚きながらも浦原はすぐに表情を整える。
「何を言ってるんですか、困った時はお互い様ですよ」
浦原はウルキオラにニコリと笑いかける。同様に隣にいた井上織姫も笑いかけるが、ウルキオラはその笑みに何かを察する。
「つまり、そっちも困った状況というわけか」
「えぇ、そうみたいっスね。お察しが早くて助かります」
「完治してない俺を置いて、カワウソが帰るとは思えんからな」
浦原喜助は無駄な事をする死神ではない。虚圏を救いに来たのが暇つぶしや正義感に動かされて……などでは決してない。彼ならば友好をウルキオラや他の有力な破面と結ぶ為に来るのもあり得る。
だが、今の状況で困った事になってる場合。悠長に親交を深める事は両者に不都合だ。ウルキオラの理解力を把握してるからこそ、彼が直ぐに言葉の真意に気付いても驚きもしない。
これから始まるのは、両者の都合の為に作る同盟。
その為の、契約である。
「アタシの伝手で何とかしてみます。とりあえず敵さんの首領、ユーハバッハについて知ってる事を教えて貰えませんか」
「……出来る事なら、今すぐにでもカワウソに知らせたいがな」
この男が何とかする、そう言う程に信用できる事は無いだろう。何をするかは想像もつかない事が多いが、ウルキオラはそれを契約の条件として知り得る限りの敵について話を始める。
「奴の基本的な滅却師としての戦闘能力は並より遥かに高い、しかしその程度だ。俺で対応できる範囲内であり、お前達死神の隊長格を上回る。その程度だ」
「だが俺の知る中で、奴とまともに戦える死神は存在すらしないだろう。鏡花水月を扱う藍染様を除いてだ。未来を見通すユーハバッハを欺けなければ、誰であろうと戦いにすらならない」
☆☆☆☆☆
山本重國の卍解の後に降る雨は、まだ止まない。敗残者への追い討ちとも言える尸魂界の流すその涙は、勝者への心を癒すオアシスかもしれない。立場が変われば見方も変わり、少なくともユーハバッハには勝利の美酒を浴びているような気分だろう。
天を仰ぎ、無数に現れた瞳で見る空は彼の目にどう映っているかは知る由もない。だが気分が良いのは表情からも、立ち振る舞いからも伺えていた。
「よく耐えるな、
ユーハバッハの前には全身を傷だらけにしながらも、斬魄刀を構える卯ノ花が居る。既に勝負は決まり、闘志も何度か折った。
だが、卯ノ花は諦めていない。傷ついた体は傷が付くたびに治癒し、特攻する。何度でも立ち向かい、弾かれる。そして何度目かもわからない特攻がまた行われる。
「絶望していないようだな。私の能力の穴を探しているのか、私の能力を理解できてないのだろうに」
「私が理解する必要はありませんよ、私の後に繋がれば良いのです!」
卯ノ花の行動は、次への布石となる為に、捨て石となる事。実にシンプルで他人には簡単に真似できない行動だ。
だが、その行動のおかげで卯ノ花はユーハバッハが次の動きを把握する事を見破っていた。卯ノ花レベルの剣術の初見殺しの技も防がれれば、信じ難い事実も納得できる物であった。
「(私の斬撃を全て読み切るだけではない!この力……まだ、何かあるはず。それを引き出さなければ……私の命と引き換えにしてでも!!)」
卯ノ花の胸中にあるのは、亡き総隊長の遺志を継ぐ事だ。卯ノ花八千流が負けようと、護廷十三隊が負けなければ良い。卯ノ花がここで死のうと、剣八も、隊長も、後を継ぐ者は既に居る。
自分の死が護廷十三隊の為になるならば、卯ノ花は命を捧げる。
護廷の為に、卯ノ花はユーハバッハの底を引き出そうと動いている。この様子は涅隊長や零番隊などの他の死神が把握していると信じ、戦っている。
「破道の……!!」
「勘は鋭いようだな、初代剣八。だが、実力の差は埋まらんぞ」
卯ノ花が直感的に攻撃をキャンセルし、距離を取りながら攻撃の隙を伺う。対してユーハバッハは余裕綽々で次はどのように動くかを楽しんでいる節があり、それに内心卯ノ花も腹立つが突破口どころか光明すら見えない現実に腹立つ。
このまま何も出来ずに無駄死にする、そう思い始める程に力の差を感じていた彼女であったがその不安は塗り潰される。
「この霊圧は……!!」
彼女は思わず呟く。感じるのは2人の死神の霊圧、そのうち1人が自分達の方へと高速で移動している。そしてもう1人は多数の滅却師へと立ち向かうのを感じ取る。
「黒崎一護、やはり貴様か」
卯ノ花の前に黒い影が降り立つ。並の隊長の倍はある霊圧、卍解された漆黒の斬魄刀、見間違える筈がない。死神代行、黒崎一護である。
「卯ノ花さん、助けに来たぜ」
その言葉を聞いた彼女の心は幾らか楽になっただろう。卍解という死神において切り札であり、必殺技を防がれた状態では勝ちの目が見えなかったこの怪物と戦えるかもしれないという希望が生まれたのだ。
「退きなさい!黒崎一護!貴方まで無駄死にする必要はありません!」
だが、彼女が黒崎を戦わせるわけにはいかなかった。そもそもこの戦いは護廷十三隊の戦いであり、無関係の者を巻き込むのは護廷十三隊の誰も本意では無いだろう。
そして最大の問題は、ユーハバッハの力だ。これが黒崎一護で対応可能な怪物ならば、護廷十三隊と共に倒すのは吝かではない。だが肌身に感じた卯ノ花は簡単に容認できないのである。
「それはできねぇな。萩風から、頼まれてんだからな」
それを言うや否や、黒崎は最大火力である月牙天衝を放つ。漆黒の斬撃は真っ直ぐにユーハバッハへと向かい、避ける素振りを見せないのには疑問であるが直撃する。
「っ!?」
だが直撃したかと思われた斬撃は簡単に弾かれる。ユーハバッハの手には滅却十字、引き抜かれたそれはまるでどのような角度で受け止めれば弾けるかを分かっていたかのように構えられていた。
「甘いぞ、一護。能力を解いたとは言え、私を相手しているのだぞ」
気付くとユーハバッハの眼は普通の状態へと戻っていた。だが近くで見ていた卯ノ花はわかる、黒崎の攻撃を受けた時に能力を解いたという事を。
「(先ほどの動きからして黒崎一護の行動を予知できていた、なら何故に能力を解いた?時間制限か回数制限、負担が大きいのか?どちらにせよ今は好機と考えるべきなのかもしれない……いや、まだ総隊長の卍解を使っていない。つまり、まだまだ余裕があるという事でもある……!せめて私も卍解が使えたならば……)」
卯ノ花は今迄の戦いからユーハバッハの能力を未だに探し続けていた。正確には検証だが、卯ノ花が思い付く限りの攻撃は全て防がれ返り討ちにされた。
だが黒崎一護に対しては能力を使っていないだけでなく、卍解も防いでいない。理由はわからないが、間違いなく今は好機である。卯ノ花は疲労で鈍る体に鞭を打ち立ち上がると、ユーハバッハへと向かう。
「陛下の戦いの邪魔はさせません、卯ノ花八千流」
だがそれを側近であるハッシュヴァルトは阻んでいた。卯ノ花は突破しようと斬魄刀を振りかぶるもそれは弾かれ、鋭い剣撃をハッシュヴァルトも放つがそれは卯ノ花は斬魄刀で逸らして避ける。
「(やはり、これも手練れ……今の私では捨て石にもなれない……)」
今の軽い打ち合いだけで敵の力量を測った卯ノ花は黒崎の援護に向かえないのを悟り、自身の非力さを呪う。卍解が使えていれば話は違ったかもしれないが、少なくとも今の万全とは程遠い卯ノ花ではハッシュヴァルトは倒せない。
そして、黒崎はその間にも着実に追い詰められていた。
剣技は劣り、速度は劣り、パワーも劣っている。渡り合えてはいたが、力の差が顕著に表れている。
互いに剣を打ち合っているが、簡単に黒崎は弾かれ、紙一重でかわし続けるがユーハバッハの蹴りで大きく吹き飛び瓦礫に背中から飛び込む。
すかさず、ユーハバッハは立ち上がる隙も与えずにのし掛かると剣を首に突き立てる。斬魄刀の防御も間に合わない一撃に黒崎は大きく目を見開き静止する。
そしてユーハバッハはそれを確認すると「ハッシュヴァルト、連れて行くぞ。息はあるはずだ」と自身の本拠地へと連行する為に、ずっと待機していた部下に指示を出す。
ハッシュヴァルトは卯ノ花との戦いを切り上げ、撤退命令を全ての滅却師に送る。
そしてユーハバッハは卯ノ花を一瞥し、最後に「この女の命は奪っておくか」と呟き卯ノ花へと向かおうとする。
「陛下っ!!」
だが、その行動はユーハバッハが振り向いた瞬間に吹き飛んだ事で途中で止まる。ユーハバッハは予想外の事で少しだけ体が硬直していた、確認していた筈なのだ。間違いなく刺さっていたのだ。そこには首に確かに攻撃を受けた筈の黒崎一護が斬魄刀から斬撃を放っていたのだ。
「月牙天衝!!」
と言っても、ユーハバッハは黒崎を上回る手練れだ。間一髪で負傷しながらも致命傷は避け、傷は左腕に負う程度に済んでいる。
だが何故黒崎一護に傷はなく、戦闘を続けられているのか。致命的なダメージの筈だった、だがそれはユーハバッハが自身で切りつけた首筋を見て理解した。
「今のは……静脈装か」
その技は本来であれば滅却師だけが覚えられる防御術、死神では体得は出来ない。するとユーハバッハは何かを理解したようで、黒崎に向けて「なるほどな」と呟く。
「やれやれ、我が子と剣を交えるのは悲運としか言えんな」
「おい、どういう事だ。お前の事なんざ知らねぇぞ!」
黒崎はその呟きに対して極度に反応する。理解できないというのが本音だろう、何を言っているのかわからないというのが頭の中を駆け巡る。その意味を否定したいのだ、自身の父親は間違いなく黒崎一心でありユーハバッハなどという親は存在しない。
だが、それを見兼ねたのかユーハバッハは更に呟く。
「そうか、貴様は母親の事も知らないのだな」
ユーハバッハが追い討ちをかけるように発した言葉に黒崎の動揺は大きくなっていく。それに対して「詳しくは『見えざる帝国』で話してやろう」とまた剣を黒崎へと向けようとする。
「……時間切れか、まだ私は能力を完全に扱えないようだ」
だが、ユーハバッハは何故か剣を仕舞う。黒崎の生け捕りと卯ノ花の殺害は諦めたようで、帰還のために空間に扉を開ける。
「帰還だ。来たる零番隊に備え、ここは退く」
「了解しました」
そしてハッシュヴァルトもそれに付き従い、ユーハバッハに追従する。既に他の滅却師は撤退を済ませているものも居り、本当に撤退するのは黒崎も理解している。
「待ちやがれ!!」
だが、黒崎は尸魂界を無茶苦茶にした者達が目の前に居て飛びかからないわけがなかった。天鎖斬月をユーハバッハへと振りかぶりながら向かうが、残念ながらその攻撃は追従するハッシュヴァルトに防がれる。
「!?」
そして、天鎖斬月は真っ二つに折られてしまった。
滅却師
星十字騎士団 4人死亡
聖兵 300人以上死亡
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死神
1番隊隊長 兼 総隊長
山本元柳斎重國 敗北 死亡(卍解奪われる)
2番隊隊長 砕蜂 敗北 (卍解奪われる)
3番隊隊長 鳳橋楼十郎 敗北
4番隊隊長 卯ノ花烈 敗北
5番隊隊長 平子真子 引き分け
6番隊隊長 朽木白哉 敗北 瀕死 (卍解奪われる)
7番隊隊長 狛村左陣 敗北
8番隊隊長 京楽春水 敗北
9番隊隊長 六車拳西 敗北 重症
10番隊隊長 日番谷冬獅郎 敗北 瀕死(卍解 奪われる)
11番隊隊長 更木剣八 敗北 重症
12番隊隊長 涅マユリ 雑兵相手に勝利
13番隊隊長 浮竹十四郎 敗北 重症
平の隊士 1000人以上死亡