卍解しないと席官にもなれないらしい。   作:赤茄子 秋

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艦娘達の入渠中に書いてたら8000字超えちゃった……。

他の作者さんって1日に何文字書けるんだろうか、私の場合は本気でやり込んでも1万字超えないんですよねぇ……毎回書店に並ぶ本を見てプロの人達がどれだけ書いてるか、想像すると腕がつりそうです。


千年血戦篇 第二次侵攻
27話 命懸けの剣術指南と零番隊の来訪


隊長の証である白い羽織を着る二人の隊長が、何もない闇が周りを囲う広いだけの空間で、強者だけが放つ独特の空気をぶつけ合っている。

 

「よくこんな所を借りられたな」

 

既に抜刀し、肩にボロボロの刀を不良の鉄パイプのように扱う男。更木剣八は眼帯を外し、ニヤリと獲物を射抜く眼を光らせている。

 

「卯ノ花総隊長の許可もありますから。借りれない道理はありませんよ」

 

そしてもう一人の隊長、萩風カワウソは斬魄刀を鞘にしまっている、しかしいつでも抜刀が出来るだけの戦闘のスイッチを入れている。

 

怪物の眼光に射抜かれて動けなくなるような柔な精神はしていない。そして怪物はそれを楽しめるような相手かを確かめる為に軽く斬魄刀を振っただけで剣圧を放ち、萩風はそれに抜刀し同等の剣圧を放ち相殺する。

 

「あいつの傷が疼いて仕方ねぇ……弟子のお前なら、期待していいんだよな?」

 

霊圧を放つ怪物、それは並みの隊長どころか萩風のそれすら遥かに上回る。萩風は少しだけその霊圧の高さに怯むが、萩風も霊圧を一時的に増幅させて圧を跳ね返す。

 

萩風も卍解をすれば多少は霊圧を跳ね上げられるが、これは殺し合いではない。萩風はあくまでも剣術の指南、更木剣八は殺すつもりでやってくるだけである。

 

それが致命的なのだが。

 

「始めましょうか、実戦形式での試合」

 

萩風はあえて始解をせずに、斬りかかる。更木はそれを刀で受けるが萩風はそれを僅かに揺さぶり、角度を不安定にした所で上に弾き三度斬り付ける。

 

しかし萩風の真上から殺気を感じる、弾いた刀を察知し後ろに飛んで回避すると剣圧を2発放つ。更木はそれを横薙ぎに弾くと萩風へと跳躍し距離を詰める。

 

そして斬りかかる更木の斬撃を萩風は刀で受け止める。凄まじい霊圧が撒き散らされる鍔迫り合いとなるが、両者の顔はまだまだ余裕がある。

 

だが萩風の表情は優れないのに対して更木の顔は満面の笑みを浮かべている。

 

「やるじゃねぇか、お前とはやっぱり楽しめそうだ!」

 

怪物の残酷な玩具に選ばれてしまったのを理解したのか、萩風の顔には冷や汗が流れ始めていた。

 

だがそれを気にせずに萩風へと荒いが、力強い斬撃が連続して襲いかかる。萩風はそれを全て攻撃の方向をずらしたりと剣術だけで捌き、浅いながらも連続して更木を斬り付ける。

 

しかし、攻撃に集中し過ぎた為に一撃を喰らう。腹を貫かれ吹き飛ばされたが、直ぐに回復して萩風は三発の剣圧を撃つ。

 

「あいつの弟子ってのは本当らしいなぁ!太刀筋がそっくりだぜ!」

 

そして更木の体が温まって来たのを把握し、速度を一段階引き上げる。鬼道は使わない、あくまでも剣術だけでの戦いだからだ。故に萩風の使える手札は多くが消える。

 

だとしても、萩風は強い。だがそれを怪物は上回る。

 

「どうしたぁ!まだまだ出来んだろうガァ!!」

 

「お互い様でしょ。今日からとは言え俺も隊長の端くれですから」

 

萩風のあげた速度に早くも付いてくる怪物に対し更に速度を二段階あげる。

 

怪物は突然の獲物のレベルアップに一瞬遅れる。この程度の速度は全力の更木剣八ならば簡単に対応できる。だが、それはできない。

 

彼はできない。不意をつかれたのは事実だが、そんな程度で反応が遅れることなぞありえない筈なのに。

 

彼が抱える致命的な弱点により、全力を出し切れない。

 

そして対応し切れずに、刀を弾き飛ばされ無防備な姿を晒す更木の胸を萩風の刀が貫いた。

 

右胸を貫くそれが致命傷なのは、更木でもすぐに分かった。

 

「(!?今のは……どういう事だ?)」

 

しかし、更木が絶命する事は無かった。確かに胸を貫かれた感触を覚えていたが、胸には傷一つどころか血の一滴も垂れていない。

 

萩風はそんな思考を始めるのも御構い無しに更木へ斬りかかる。一瞬一瞬で行われる、刹那の攻防。

 

そこへ余計な思考を割く余裕なぞない、怪物は思考を完全に獣へと変えてただただ目の前の獲物へ牙を向ける。

 

「(関係ねぇ!今はこの瞬間を感じろ!考える暇なんざいらねェ!!)」

 

更木の動きが洗練されていく。無駄が省かれ、余裕が消え去り、全てを曝け出そうとしている。だが、まだ先がある。萩風にも、更木にも。

 

二人の試合は、まだ始まったばかりであった。

 

☆☆☆☆☆

 

半壊し、瓦解した外の景色を直に見える一番隊の隊長室で卯ノ花八千流(うのはな やちる)は外の景色を眺め続けている。着慣れない羽織は遺品をそのまま流用した影響で血痕がいくつも残っている。

 

何を思い、外を見るのか。先程に送り出した弟子は、今頃には自身の知る限りで最も剣八に相応しい男と死闘を行なっているのだろう。

 

そんな時、コンコンとノック音が聞こえる。

 

「失礼するね」

 

中に訪ねてきた隊長、京楽春水(きょうらく しゅんすい)が入って来てもなお向き直らない。京楽はその姿を見ると、何故ここに今のタイミングでこの場へ来たのか。そして何を謝りに来たのかを把握しているのを、理解した。

 

「京楽隊長……やはり、貴方の差し金だったのですね」

 

呟くようではっきりとしたその凛とした声音は、総隊長としても羽織る一番隊隊長の羽織の醸し出す独特の雰囲気と相まって悲しくも聞こえるが、芯を通した全てを見通している長としての堂々とした声にも聞こえる。

 

卯ノ花は理解している。自分が総隊長へ抜擢されるには、何かしらの外的要因があったのだという事を。確かに卯ノ花は死神の長である総隊長を殺した敵の首領であるユーハバッハと渡り合い、生還した。

 

護廷十三隊にとって僅かながらも希望にはなっているのは自身も理解している、だがそれでも総隊長になるのには足りていないと分かっている。

 

判断材料の一つにはなり得る、だがそれだけ。それだけならば、裏で色々と手を回すほどの知性と行動力のあり実力もある京楽が総隊長となる筈だと。

 

京楽ならば信頼や経験も問題無い、むしろ卯ノ花はそこが四番隊であった故に薄かった。戦闘も指揮も計略も任せられるだけの人望は足りていない、そう思われているのがわかっている。

 

だから、何故京楽が卯ノ花を総隊長に推薦したのかをわからなかった。実力では問題無いが、安全牌で行くならば京楽春水が選ばれるはずだからだ。

 

だが、何となく卯ノ花はその答えも見抜いていた。

 

「……僕は山爺が殺された時に隊長として動けなかった。だからこそ、片目も失った。こんな事を言っちゃうのは悪いかもしれないけど、隣人の死を理解しても動けるだけの冷徹さと判断が出来る卯ノ花さんが適任だと思ったからなんだ」

 

「えぇ、私情を挟んでは混乱を招いてしまいます。先の砕蜂さんのように、自分を見失ってしまっても総隊長という自己を確立できなければいけませんからね」

 

それを聞いて京楽は「そうだね……流石は総隊長だよ」と卯ノ花の強さを感じた。だがそれと同時にその強さに甘えて、寄り掛かっているのもハッキリと自覚する。

 

「僕は分かっていて卯ノ花さんを総隊長へ推薦した。萩風隊長が死地に送り出されるのも分かっていた。僕は、嫌な仕事を全部押し付けた……恨むんなら、この戦いが終わった後で好きなだけ恨んで欲しい」

 

京楽は分かっていた。卯ノ花を総隊長に推薦する事は、護廷十三隊にとっては正しくても……卯ノ花にとっては酷な選択を強いる事を。卯ノ花を総隊長にした場合、更木剣八の剣術の指南へ白羽の矢が立つのはその弟子である萩風なのを。

 

それも、卯ノ花が総隊長として命令し送り出す事を。

 

全てを把握し、送り出したのだ。中央四十六室に対して卯ノ花の提案がすんなり通ったのも京楽が前もって話を通していたからだ。

 

全ては、護廷十三隊の為に……萩風カワウソを切り捨てる準備をしたのだ。

 

これを聞いて卯ノ花は軽蔑するだろうかと、そう思い卯ノ花へと目を向けるが京楽の予期していた答えとは違い「何を言ってるのですか」と卯ノ花はここで初めて京楽へと顔を向ける。

 

そこには悲壮感をカケラも感じない顔がある、そこには侮蔑の意思は感じない、そこには卯ノ花が京楽を恨むような気はカケラもない事が感じ取れた。

 

「彼は私を満たした死神、彼ならば必ず生きて帰ってくると信じていますから」

 

そしてそれが、弛み無い程に固く結ばれた信頼の絆によるものだという事を分かってしまう。こんな物に寄り掛かってしまったのかというのに京楽は選択を後悔はしないが懺悔をする。

 

「師弟というよりは、まるで夫婦みたいな信頼関係だね」

 

「えぇ……それも、悪くないですかね」

 

微笑む卯ノ花の表情は過去に見たことがない程に柔らかかった。作り笑顔ではないのは、200年を超える隊長同士の付き合いからわかってしまう。

 

こんな時でなければ、二人を引き裂く事はなかったのに。そう思わずにはいられないが、京楽はその業を背負うだけの覚悟はとうに持ち合わせている。

 

そんな時に卯ノ花は顔を少しだけ外に向けると、何かを感じ取ったようでそのまま目を空へと向ける。

 

「零番隊の皆さんがいらしたようですね。行きましょう」

 

卯ノ花は表情を総隊長に相応しいモノへと切り替え、京楽はその後ろを追従する。

 

本来ならば、ここに居るのに相応しい男でないことを京楽は残念に思うのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

黒崎が連れて来られた場所は何も無い広場だ。折られた卍解が治らないこと、護廷十三隊を助けられなかった事に意気消沈しながらもやって来たそこには4,6,10,11を除く全ての隊長が集結している。

 

驚いたのは総隊長に卯ノ花が任命された事位であるが、このような所でやって来る『零番隊(ぜろばんたい)』は何処から現れるのか。

 

王族特務という護廷十三隊とは違った任務を遂行する5人、その5人については涅隊長からさわりだけ聞いている。だがどのような存在なのかは、聞いていない。

 

そうこうしていると、風切り音が聞こえる。それを耳にした隊長の何人かは広場から一歩下がる。徐々に大きくなる風切り音に、黒崎はそれが上から聞こえてきたのがわかると同様に下がる。

 

ズドンと、地面に刺さるように目の前に落ちて来たのは白い円柱。

 

そこから現れる5人。1人はハゲているが髭の濃いおっさん、リーゼント頭の男に、グラサンをかけた男、丸々太った女性、着物を着た傀儡のような腕を大量に持つ女と、個性が豊かな5人。

 

いったいどんな奴らなのかと、黒崎は身構えるがそれはいきなりスカされてしまう。

 

「ィよッしゃアーーー!!!」

 

異様に雰囲気の明るい五人の集団。

 

聞けばこの五人は護廷十三隊の総力を上回る程の実力を持っているらしいのだが、よくわからない道具でドンドンパフパフ鳴らして場を盛り上げながら来るのに黒崎だけでなく他の隊長達もドン引きしていた。

 

「来たぜ来たぜ、いよいよ来たぜ!零番隊サマのお通りだぜー!!」

 

リーゼントが特徴的な男、零番隊 東方神将 麒麟寺天示郎(きりんじてんじろう)が先陣を切って周りに威張り散らしていく。えらく態度のでかい個性的な男にその場の隊長達も苦笑いをしている。

 

「零番隊の皆さん、ようこそおいで下さいましたね」

 

唯一、彼と互いの面識のある卯ノ花は麒麟寺の前へと歩み寄る。

 

「よぉ卯ノ花!総隊長になるたァ、思わなかったぜ。俺の教えた治療の技はしっかり出来たんだろうな?」

 

「えぇ勿論です。それと麒麟寺さん、直ぐにでも本来の目的を話してくれませんか?」

 

ギロリと睨み付ける麒麟寺、それをカケラも気にしない卯ノ花。両者は共に護廷十三隊の初期隊長、四番隊と十一番隊を率いていた怪物だ。

 

急激に氷点下まで下がり切る空気に護廷十三隊の隊長達も黒崎も一様に「あ、やばい」と感じる程である。

 

なおその後ろで五番隊の隊長である平子が元十二番隊の隊長である曳舟桐生(ひきふねきりお)に絡まれている。

 

「まァまァ!久方ぶりの再会じゃ!つもる話もあろうが後にせい!」

 

だが麒麟寺の肩へと頭の禿げて髭の濃い男。まなこ和尚 兵主部一兵衛(ひょうすべいちべえ)は手を回し場を収める、それに麒麟寺も渋々引き下がり卯ノ花も引き下がる。

 

そして和尚は「さてと」と呟き、話し出す。

 

「霊王様の御意志で護廷十三隊の建て直しと、何人か上に運びに来た。先ずは黒崎一護、おんしを連れてく」

 

黒崎は思わず「えっ?」と呟くが。卯ノ花は「何人か……?」という呟きをする。目的自体は想像できていた、負傷者が連れて行かれる可能性は考えていたが、黒崎が連れて行かれるのは予想できていなかったようだ。

 

「おんしの斬魄刀、天鎖斬月は治せんが。限りなく近いものへ打ち直す事はできる、その超霊術は霊王宮にしか無い。まぁ断っても無理矢理連れてくが」

 

力強く言う和尚。黒崎からすれば治せないと言われたばかりの斬魄刀を治せるのはありがたいが話が急展開過ぎてついていけていないようだ。

 

「既に名簿にあった者は集めた。後は黒崎一護、そちと……萩風カワウソだけじゃ」

 

そしていつの間にか、5つの球体を傀儡のような腕で抱える大織神 修多羅(しゅたら) 千手丸(せんじゅまる)が黒崎へと傀儡の指を向ける。

 

球体の中には負傷中の隊長である朽木白哉と日番谷冬獅郎、副隊長の朽木ルキアと阿散井恋次、そして折られた天鎖斬月が入っている。

 

4人は四番隊の管理する治療室に、天鎖斬月は涅隊長の研究室に置かれていたものだ。今の僅かな時間で、すべてを回収し切るこの者もまた怪物級の死神であったのだ。

 

「卯ノ花、分かってるよな。こいつらは俺が治す、お前はお前の仕事をやれ」

 

そしてこの4人が回収される理由を卯ノ花はしっかりと理解している。卯ノ花の力では4人は全快にできない、そしてこのままでは日番谷隊長と朽木隊長の両名は死亡するという事を。

 

「……わかりました。ですが萩風隊長は暫く動けません、彼には重要な仕事を任せてますので」

 

「ならそれまでわしが残ろう、上に着いたら天柱輦(てんちゅうれん)を一つ送っとくれ」

 

先程の白い円柱の手配に「了解したYO」とグラサンをかけた男、二枚屋王悦は答える。

 

卯ノ花も総隊長として、零番隊への最低限の仕事をし終える。更木剣八への剣術指南で簡単に死ぬような死神とは思っていない、しかし隊長三人が運ばれてしまうのは護廷十三隊の士気に少なからず影響が出てしまうのを思い悩んでいるようだ。

 

卯ノ花はただ頷くことしか出来ない。だがこれからどうすべきかを考え続けなければならない。

 

「待て!」

 

だが、それに対して砕蜂は待ったをかける。

 

「萩風は卍解が折られたわけでも、命に関わるような負傷をしたわけでもない!何故連れて行く?霊王の守りを固める為に引き抜きでもしてるんじゃないか!?」

 

連れて行かれる6人の中で、萩風だけは何も理由がなかった。他の5人は納得できるだけの材料があるが、萩風だけはただ「連れて行く」と言っただけだ。

 

「それが必要な事だからじゃ。霊王様にとっても 護廷十三隊にとっても」

 

「霊王様の高尚な御意志を理解するのはやめておけ。推し量れる存在じゃない」

 

「そんな事、私が許すわけ……!?」

 

実を言えば黒崎一護も萩風と似た理由で連れてかれるのだが、斬魄刀の打ち治しという理由ができただけであるのを砕蜂は知らない。だが、知っていたとしても恐らく噛みついていただろう。

 

「っ!?」

 

だが、噛み付いてきた砕蜂の背後はあっさりと取られていた。速さに自信のある砕蜂の背後を取るのは簡単ではない、そしてそれを気付かれずにすることは更にだ。

 

先程からの何処かおちゃらけた雰囲気を纏っていた麒麟寺は居ない。背後を取った俊足の持ち主である彼は砕蜂の肩へ手を置くと静かに見据える。

 

「私情で動くな、お前にとっての萩風は知らねぇが。それは護廷十三隊で200人率いる隊長に正しい振る舞いか?」

 

砕蜂は間違った事をしてるとは思っていない。だが、それが私情によるモノなのは分かっていた。萩風とやっと対等の立場になれたというのに、それが何処か一気に遠くの存在になっていくような気がしている。

 

今までは早く同じ立場になれとせっついた、同じ立場で共に護廷十三隊の死神として戦いたかった。だから、置いて行かれたくない。待つ方も辛いが、追いかけるのも辛い。

 

待つ苦しさを終えて直ぐに追いかける側になりたくはなかった。

 

置いて行かれたくないというワガママだった。

 

「砕蜂隊長、ここは収めてください」

 

卯ノ花は砕蜂の肩に手を置いて引き寄せる。麒麟寺は頭を掻きながら砕蜂の肩から手を離す、ここで妙ないざこざは起きないだろうと卯ノ花を信用しているからだろう。回道においては師弟関係であるが、それだけではない関係を2人は持っているからだ。

 

「総隊長、しかし……」

 

「彼が必要なのでしょう。兵主部 一兵衛が残る程に」

 

卯ノ花はチラりと和尚の方へと顔を向ける。和尚はそれに気づくと「ん?わしにか」と呟きつつもそれについて否定する。

 

「いや、わしが残るのは一番暇じゃからじゃよ。天示郎は治療、桐生は飯、王悦(おうえつ)は打ち治し、千手丸が服を仕立てるからの」

 

「霊王を守る、という大役を推してでもですか?」

 

和尚の動きが一瞬だけ止まる。それを見て卯ノ花「やはり、そうですか」と呟く。和尚は零番隊のリーダー的存在だ、そのリーダーが霊王の護衛という任務を放棄するとは考えられない。

 

それに今のメンバーで残すなら千手丸でも麒麟寺でも実は良い。治療は麒麟寺の部下に任せれば良いし、千手丸の仕立ては帰ってから行えば良い。

 

確かに効率的な問題では和尚が残るのが最適だろう。だがこれでは、まるで最も重要なのは人を集める事のように感じてしまう。

 

萩風だけの為に残るのは何故か、もしくは黒崎一護や他の者が上に行くなら問題無いのかもしれない。

 

「総隊長らしく、上手くできそうじゃな。これなら安心できそうじゃ」

 

「まだまだですよ、総隊長の遺志を継ぎ切れていませんから」

 

両者が笑いかけるが、それは形だけだろう。

 

裏側ではお互いに侮れない存在だと思いあっているのは、互いに理解しているのだから。

 

☆☆☆☆☆

 

お互いに血塗れになりながらも、両者の間で行われる剣撃の音が止むことは無い。

 

超高速で行われる2人の戦いは衝撃波を撒き散らし、無数の斬撃を舞わせる程に荒れている。

 

片や総隊長を上回る実力を持った護廷十三隊の怪物、片や総隊長から免許皆伝を受けた一番の弟子、この2人が戦って荒れないはずが無かった。

 

お互いに始解はしていない。更木は元から始解を覚えてないが、萩風はあくまでも剣術を教える為に始解はしていない。だが萩風も剣術の指南が表面的な物であるのはわかっている。

 

目的は更木剣八の底を引き出し、心の中に存在する枷を外す事。萩風はその為に出来る限りゆっくりと、だが着実に更木剣八の底を引き出してきた。

 

そのおかげで更木の動きは鋭さ、反応、力、予測、速さ、全てのキレが増している。だがまだ全力ではない、まだ引き出しきれていない。

 

そして萩風は全力で戦った。途中から更木への回復を忘れてしまいそうになるくらいに。その底を引き出す為に。

 

 

 

 

だが、更木剣八は萩風カワウソより強かった。

 

「がっ……!」

 

萩風の体が横薙ぎに斬りつけられる。戦いが始まって1日以上が経ち、萩風はここで初めて致命傷を負う。

 

萩風は更木の戦ってきた事のある相手の中では3本の指には確実に入る程の死神だ、その底を最も引き出せたのは間違いなく彼だろう。しかし、それでも足りない。

 

「(……終わりか)」

 

更木剣八という底知れぬ怪物は、少しだけ期待外れだという顔をする。萩風のそれが致命傷なのは何体もの敵を、何人もの敵を屠ってきたからこそわかる。

 

萩風は何度も更木に致命傷を与えては治した、与えては治し続けた。その度に更木は生まれ変わるように力を解放していった。誰よりも強い怪物を生まれ変わらせ、本当の姿へと近づけていった。その瞬間は間違い無く、更木剣八にとっては至福の時間だった。

 

更木剣八は今まで眠っていたのだ。覚まさせるには、彼に戦いを楽しませられるだけの力と時間がなければならない。

 

誰よりも戦いを好み、誰よりも楽しみたい男。それが更木剣八だ。

 

だがいつものように殺し、終わった。

 

戦いを楽しみきる前に、終わった。

 

更木の目の前でまた、1人の死神が

 

「死んだ、そう思ったでしょ」

 

死ぬことはなかった。

 

「緩い、俺がどこの隊の隊長で……誰の弟子だと思ってるんですか」

 

四番隊 隊長 萩風カワウソ、彼は最も殺しにくい死神だ。

 

萩風の回道の技術力は卯ノ花には及ばない。だが全てが及ばないというわけではない、局所的に勝るところは存在するのだ。

 

それは2つ存在する。1つは結界術を用いての広範囲の治療術、護廷十三隊が先の戦いで死者の数を劇的に減らす事の出来た技術だ。と言ってもこれは一人一人の治療できるだけの傷の深さに限度はある。

 

そしてもう一つが、自身への治療術。萩風は自分の体を知り尽くしている、どれだけの荒い治療に耐えられるのかを、どれだけの血液を有してるかを、骨の具体的な強度を、全てだ。だからこそ、彼はそのデータを基に材料さえあれば自身を複製出来るほどに回道の力を行使できる。なおデータさえあれば、唯一霊圧を知り尽くしている卯ノ花の治療だけは可能である。

 

そして、そんな力を持つ萩風の致命傷は見る見るうちに塞がった。

 

卍解(ばんかい) 陽炎天狐(かげろうてんこ)

 

斬魄刀を構え直す萩風、だが最初と違い今度は斬魄刀を赤く光らせていく。霊圧が解放されていき、無数の萩風が現れていく。そのどれもが一騎当千の力を持つ萩風の分身、更木剣八の底を引き出す為に現れた人柱(ひとばしら)

 

「……!!」

 

その全てが、更木へと襲い掛かる。雑魚の試し斬りとは違う、本気で楽しめる試合が始まる。

 

「ウオォォォォォ!!!」

 

彼は咆哮する、感が極まり咆哮する。鬼気迫る顔をしているが、笑顔でもある。

 

このやり取りの名を彼は知った気でいた。だが、違った。

 

無数の刃に晒され、逆に無数の刃で敵を屠る。

 

リアルな感触を感じ続ける、思考が止まって楽しんでいるのに意識が飛ぶ瞬間ができる。

 

これが、これこそが。

 

彼の求めていた、戦いであった。




萩風の遺書を読んでる虎徹勇音を書こうと思いましたが、そしたら1万を軽く超えそうなのでやめときました。どっかの閑話でやるかもです。

あと麒麟寺天示郎は四番隊の隊長とかの設定は一応無いですが、普通にあり得そうなので初代四番隊の隊長をお任せしました。

彼等は後方支援がメインですけど……その隊長達は気にしないでください。私も気にしないでおきます。

それといつも誤字報告と感想、評価ありがとうございます。年内の完結を目指しますので、よろしくお願いします。
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