「ごめんね〜! 衣装の仕上げ頑張らないといけないの!」
「そっかぁ……。ことりちゃんの誕生日、ドッカーンってお祝いしたかったんだけどなぁ……」
「……その擬音に不安を感じるのは私はだけですか? もしや穂乃果、部室でクラッカーを鳴らそう、などと考えていませんよね?」
「うぇっ⁉︎ そ、そんな事考えてないよ⁉︎」
「やはり……! 部室は火気厳禁です! あんな火薬が入って大きな音が出る物、絶対に駄目ですからね!」
「海未ちゃんのケチー! いいじゃんことりちゃんの誕生日なんだから! 派手にお祝いしたいじゃん!」
「それはそれ、これはこれです! 大体、穂乃果は生徒会長なんですから他の生徒の模範となる行動を心がけるべきです!」
「むぅ〜!」
「あ、あの……二人共そのくらいで……」
「ハッ、……すみません、ことり。μ'sの為ですし仕方ないとは思いますが、あまり無理はしないで下さいね。衣装作製に関しては大した知識は持ってませんが、手伝える事があれば遠慮なく言って下さい」
「うん、ありがとう海未ちゃん。──じゃあ今度、アイデア出す為のモデルお願いしてもいいかなぁ」
「えっ……、そ、それはその……着る衣装によりますと言いますか……」
「ふふっ、冗談だよ〜。じゃあ私、今日中に仕上げたい所があるからまたね」
「あ、はい……」
「……ことりちゃん、忙しそうだね」
「……はい。少し背負い過ぎてる気がしないでもないのですが……」
「──あれ、二人だけなの?」
「あ、にこちゃん」
「この後パーティーなのに全然来ないからって呼びに来たんだけど……ことりがいないじゃない」
「なんかね〜、衣装作らないといけないからって帰っちゃった」
「はあ? いや、ことりの誕生日パーティーするんじゃなかったの? 肝心の主役が帰ってどうすんのよ」
「すみませんにこ。一度言い出したことりは、私では止められなくて……」
「……まあ、あんた達二人が止められないんじゃどうしようもないわね」
「衣装作製が落ち着いたら、また改めてお祝いするという事になりました」
「……落ち着いたら、ねぇ」
「何か言いましたか、にこ」
「なーんにも。……幼馴染ってのも考えものよねぇ。──ま、とりあえず部室にみんないるから、今日は解散って伝えてきてくれる?」
「にこちゃんはどうするの?」
「ちょっと、行きたい所見つけたのよ」
「「?」」
ピンポーン、と鳴ったチャイムに、ことりは顔を上げた。理事長である母親はまだ学校に残っているはずだ。
宅配が来るって話も聞いてないけどな、と思いながら玄関に向かうと、
「…………」
モニター越しの、にこの仏頂面と目が合った。
「に、にこちゃん⁉︎」
慌てて玄関のドアを開けると、
「お邪魔するわよー」
にこは何の遠慮もなく靴を脱いで上がり込む。
「えっと……?」
状況が飲み込めないことりの横を抜けると、にこはやれやれと右手に持ったビニール袋を持ち上げて揺らした。
「ケーキ、買ってきたから」
「何でケーキ……?」
「何でって、あんた今日が何の日か知らない訳じゃないでしょ?」
「誕生日、だけど……」
「ちゃんと分かってるじゃない。誕生日に食べるケーキなんて、一つしかないでしょ?」
「えーっと……」
「ああもう、焦れったいわね! このにこにーが、誕生日を祝ってあげるって言ってんの! そんくらい分かるでしょ!」
反応が鈍いことりにしびれを切らしたのか、にこはビシッと指差した。
「でも、衣装が……」
「知らないわよそんなもの!」
「えぇ〜……?」
わざわざパーティーを断った理由を一刀両断されて、ことりは困り果てる。
「にこが祝うって言うんだから祝うの!」
にこは大股で歩み寄ると、
「──ことり!」
「はいっ!」
ことりの肩を掴んだ。
「あんたはいつもそうやって、自分以外を優先し過ぎなのよ! 今さらそれをやめろとか言わないけど、今日は誕生日でしょうが! ことりが主役の日でしょ! そんな日くらい、自分を優先しなくてどうすんのよ!」
「そ、そんな事言われても……」
「穂乃果と海未は付き合い長いから慣れっこなんでしょうけど、私からしたら意味分かんないわよ」
にこはようやく手を離すと、
「衣装の事なら心配いらないわよ。何の為にわざわざ家まで来たと思ってるのよ」
ビニール袋とは反対側に持つ、大きめの鞄を持ち上げた。
「私がいれば、百人力よ。ノルマがどのくらいか知らないけど、余裕で終わらせてみせるわ」
「え、もしかして、泊まってくつもりなの……?」
「そうよ。悪い?」
「でも、明日学校あるよ?」
「知ってるわよ。だから着替え持ってきたんでしょ」
「どうしてそこまで……」
未だに疑問顔のことりに、にこは呆れた顔。
「だから、さっきから私が祝いたいからだって言ってるでしょ。──それに、大切なμ'sの仲間じゃない。……友達が生まれた日なんだから、特別に決まってるでしょ」
そして、少しだけ唇を尖らせる。
「にこちゃん……」
ことりはポツリと呟くと、
「──ふえぇぇ〜ん……」
「え、ちょっ……何で泣くのよ⁉︎」
「だってぇ、嬉しかったから……」
ポロポロ涙を流すことりを前に、流石に慌てふためくにこ。
「ああもう、まるでにこが泣かしたみたいじゃないのよ……! ……いや、間違ってはないんだけど……とにかく、そんな号泣されたら祝うに祝えないじゃない! はい、泣き止む!」
にこも混乱しているのか、手を叩いて泣き止ませようと奮闘する。
「ありがとうぅ……にこちゃぁん……」
「何なのよこの状況……」
すぐに意味が無い事を悟り、天井を仰ぐ。
「……まあ、色々溜まってたんでしょうね。すぐ一人で抱え込むんだから……」
私も人の事言えないし、とにこは小さく苦笑い。
にこはようやく落ち着いてきたことりの頭を撫でると、
「はいはい、おめでとおめでと。ケーキ食べるわよー」
その手を引いて、リビングの椅子に座らせる。
「お茶とか食器とか、私が準備するから。ことりは座ってなさい。主役ってのは、堂々としてればいいのよ。周りが全部やってくれるんだから」
「うん。……ね、にこちゃん」
「何よ。まだ何か言いたい事あるわけ?」
「ううん、ありがとう」
「……今日は暫定的なお祝いにすぎないわよ。今度また、盛大にお祝いしてあげるんだから。覚悟してなさいよ?」
にこは不敵な顔で、小さくウインク。
「楽しみにしてるね♪」
「あら、もういつもの調子に戻ったのね。子供みたいに泣いてることりも、新鮮で良かったのに」
「えぇ〜、酷いよにこちゃ〜ん」
「路線変更も、時には大事なのよ。──さ、食べたら衣装作り、頑張るわよ!」
「お〜!」