「ふむ、まずは1輌と言ったところか。西住君達の状況は?」
シャアがそういいながら一度砲塔の覗き穴から目を離し、運転席に座っているシーブックの方に声をかける。
「ひとまず、こちらの懐には来てくれたみたいだ。さすがはアムロさんといったところだな。」
「ふむ、まぁ奴ならばそう易々と直撃をもらうことはないだろう。ウッソ、装填は?」
「やってはいますけど、この戦車の火力じゃとてもじゃありませんけど向こうの装甲を抜くのは無理ですよ。さっきの集中放火も実質風紀委員の人たちが乗っているポルシェティーガーかキラさん達が乗ってるⅢ号突撃砲しか効いてませんし。」
「やはりか。となると向こうの間合いに入ってしまうのは時間の問題か。」
ウッソから言葉にシャアがそう呟いた瞬間、何かが地面に落ちてきたような音と同時に地面を揺らす。
「………撃ってきたか。」
そう言いながらシャアは一度38(t)のキューポラから顔をのぞかせ、遠目に映る聖グロリアーナの戦車を見る。戦車から絶えず砲撃が飛んできているが、距離が遠いのか、全弾当たる気配すら見せずに周りの地面や岩にぶつかり、破片を飛び散らす。
『会長さん、一度後退を!!懐に入られた以上、私たちの戦車では無理があります!!』
その時、通信機からみほの声が響く。シャアはそれを聞届けながらもなおも聖グロリアーナの戦車の方を見やる。
「ロックオン、砲弾の装填は済んでいるか?」
『んお?ウチの筋肉ダルマの風紀委員長のおかげでいつでも撃てるぜ。だけど隊長さんから後退の指示が出てるが?』
シャアはロックオンに向けた通信からかえってくると悪どい笑みを浮かべる。
「目にものを見せつけてやれ。侮るのは別に構わんが、脚を掬われるとな。」
「オーライ!!任せなっ!!」
ニールはシャアからの指示にウキウキした様子で答えると砲塔を聖グロリアーナに向ける。
覗き穴からは相手が砲弾をとりあえず撃ち込んでいる様子が見えていたがーーー
(ど真ん中走っている濃い緑色の奴をブチ抜くには少しばかり距離が遠すぎる。装甲も硬い。さっきも弾かれたしな。だったら、取り巻きから潰すしかねぇか。)
目標をチャーチルではなく取り巻きのマチルダに捉えたニールは静かに息を殺してその時を待つ。その目に映るマチルダは凹凸の激しい地帯のせいでガタガタと車体を揺らしながらジワジワとこちら側へ侵攻してくる。
「金春 希美、狙い撃つぜぇっ!!!!」
その掛け声とともに引いた引き金は発砲音とともに砲弾となって目標へと一直線に飛んでいく。
デコボコした地面を行軍していたため、安定しないマチルダだったが、そのニールが放った砲弾は寸分の狂いなく、マチルダを撃ち貫いた。
「ビンゴ!!相手が手練れだから下手な動きは見せねぇって信じてたぜ!!
目標への直撃を確認したニールは喜びの表情を浮かべながら右手の親指と人差し指を立て、銃を形作る。
「ま、私はどこからでも狙い撃つぜ。それこそ成層圏の向こうからでもな。っても戦車の砲塔で成層圏なんて土台無理な話だけどな!!」
そう決め台詞を言いながら撃破したマチルダに向けて、ニヒルな笑みを。そして銃を形作った右手を軽く跳ね上げ、銃を撃ったようなジェスチャーを見せる。
「ヒュー!!カッコつけてんじゃねぇーよ!!」
操縦用のレバーに操作しながら、わざとらしい口笛を鳴らし、運転手であるデュオが茶々を入れながら笑みを浮かべる。その直後、反撃と言わんばかりの聖グロリアーナからの砲撃がポルシェティーガーの周りに着弾し、車内を衝撃で揺らした。
「チッ、ニール、装填は既に済ませた。次々行くぞ!!」
「オーライ、目標を狙い撃つ………って言いたいところだけどよ。ここは素直に下がった方がいいんじゃねぇか?」
「む、何故だ?ポルシェティーガーの装甲であればそれなりに耐えられるのだろう。」
「一発一発の単発ならな。一応アストナージ達にモーターあたりをいじってもらったとはいえ、それを差し引いても何よりコイツは初速が遅えよ。懐に入られる前にさっさと逃げるに限るぜ。」
ニールの言葉に疑問気に尋ねるドモンにデュオが険しい表情に変えながらポルシェの短所である足の遅さを引き合いに出した。
「………わかった。俺はそういうのには疎い。二人に任せる。」
「なら、一足先に後退しますか!!」
『各車輌、後退してください!!この前市街地でのゲリラ戦に持ち込みます!!』
「隊長さんもああいってることだしな!!」
みほの指示に合わせるようにデュオはレバーを引き、ポルシェティーガーを下がらせ、後退を始める。
『こちらトビア!!Ⅲ突了解!!』
『同じくアスラン、了解した。ルノーも後に続く!!』
『カトル!隊長から後退の指示が入った!このまま市街に下がるぞ!!M3リー、了解!!』
ポルシェティーガーが下がっていくと同時にほかの車輌からも了解の返事が響くと同じように高台から離れ、後退した先にある市街へと向かう。その最中にも聖グロから砲撃で土が幾度となくまいあがるが、まるで彼女らは砲弾の着弾地点が分かっているかのような機動で、一輌たりとも脱落せずにくぐり抜けた。
「ッ……………何ということ…………!!」
そそくさと後退していく大洗の後ろ姿にダージリンはチャーチルの座席で苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
「事前データもまるでない状態でしたが、大洗は過去十数年は戦車道から姿を消していました。参考としては信頼性に欠けるため、目を通しておく程度に済ませていましたが…………あまりにもこれは 」
「一体どこでこんな技量を、としかいいようがありません…………」
命中率100%…………新たに開発した兵装の使用実験でならばともかくだが、通常の、それも実戦時での砲弾の命中率は一割を切る。むしろ外して外しまくり、調整に調整を重ねたその先にようやく目標への着弾に漕ぎつくことができる。それにも関わらず、初弾からいきなり目標への着弾はそれこそ神がかり的な技量を必要とする。
その事実にダージリンが車長を務めるチャーチルの通信手と装填手であるアッサムとオレンジペコはまさか事実上の無名であると思っていた相手がこれほどまでに技量が人外に片足を突っ込んだ集団かもしれないということにありえないというような驚愕とそれに対する困惑が入り混じったような表情を見せる。
「…………相手の技量はともかくとして、大洗が陣地としていたこのポイントの先、確か市街地だったわよね?」
「…………そうですね。ゲリラ戦を仕掛けるつもりなんでしょうか?」
ダージリンの問いかけにオレンジペコは手元で地図を開きながらそう答えるとともに軽く自分が立てた予測のようなものを語る。
「そうね。向こうの技量は凄まじいものよ。でも、ある種救われていると言えばいいのかしら。向こうの車輌にこちらを性能面で上回る車輌がない以上、接近せざるを得ないことになるわ。」
そうダージリンが難しい表情を浮かべる中、後退した大洗を追うように聖グロの戦車は市街地へと入り込んでいく。
「運良く向こうが先をとらせてくれたようだな。これからどうする西住。プランは何かあるのか?」
市街地に向かっている中、
だって……………ねぇ…………練習の時点で命中率がおかしかったから先に一輌取れるくらいは想定内だったんですけど、それを運良くって…………まるで聖グロが油断していたから取れたーみたいな感じで浮ついた空気を見せるどころか逆に一層警戒を強めるみたいなⅣ号の中でそんな雰囲気をみんな揃って出しているものだから…………いや、実際聖グロは油断をしてもしょうがないとは思います。だってほとんど名無しの弱小校との練習試合。どれだけ気を張ったところで必ず油断や侮りはあると思う。でも流石にこれは………………
(うう……………ダージリンさん、ごめんなさい………………)
この人達がすっごいいい人達なのはわかっているけど、いつまで経っても慣れることはなさそうと思った私はちょうど真上に近いところにあるキューポラで塞がれた空を見上げながらそう念を送る。届かないと思うけど。
「おーい西住さーん?上の空になっているところ悪いんだけど指示をちょーだい?」
流石に質問に答えなかったのは不味かったのか
「…………すみません、少し考え事をしてました。とりあえず、この市街地線に持ち込んだのは近づくことでこちらの攻撃をより通りやすくするためです。ですが、それはつまり最初に接敵した時点で先手を打って、なおかつ一撃で仕留めなければこちらの撃破が確定になってしまいます。」
「まぁ、そうですよね。でも、それでなんとかなるくらいの差なんですか?私達と向こうの戦車の性能差は。」
私の言葉に
そういうニュアンスを孕んだ首を横に振るジェスチャーを見せると車内に私以外の四人のため息のような呼吸音が響く。
「だよなー…………性能差がありすぎだよなぁー………ウチらと向こうじゃ。」
「全国大会の常連校など、普通初戦の相手にいきなりするべきではないだろう。全くシャアの奴……………」
「ま、ウチは一生資金難ってことはシャアさんから聞かされているし、ないものねだりはできないんだよねぇ、これが。」
「そればっかりはしょうがないな………………砲撃飛んできますよ。衝撃に備えてください。」
その次の瞬間、砲撃がⅣ号の近くの建物に直撃し、その建物の破片がⅣ号の装甲に弾かれる音が響いた。あれ、
「………………そういえば、試合で何か被害を被った人達に対して補償とかあるんですか?」
「一応戦車道連盟の方から補償金が出ますよ。詳細は私にもわかりませんけど、それ目当ての人がいるレベルでの金額が渡されるみたいです。」
外の様子を見ながらふと思ったのか戦車道の試合で損壊が発生した時の補償について聞いてきた
「……………それじゃあそろそろ始めましょう。武部さん、皆さんの準備は?」
「ポルシェティーガー、Ⅲ突からはいつでも行けるって連絡は来てる。ティーガーはもう少しかかるって思ってたけど、風紀委員会がこっちが指示出すより早めに後退を始めてくれたのが功を奏してるんじゃないの?」
通信機を耳にかけた
「あ、そうだ!!この試合で勝ったらさ、みんなでなんか食べに行かない?ちょうど屋台とかで騒いでるおじさんとかもいたんだからさ!!」
「あはは…………武部さん、まだ試合中 」
「悪くない提案だな。勝利記念で行ってみるのもいいかもしれない。」
突然の武部さんの提案に苦笑いを浮かべていたが、まさかの
「いいですね、何を食べに行きます?」
「甘いものもいいかもしれない。砲手の役目は思いの外頭を使うからな。」
そうこうしている間に
「おーい!!みんなでこの試合に勝ったら何か食べに行こうよ!!」
とどめに武部さんが通信機にそう語りかけると嬉しそうだったり、渋々と、はたまた他の人から促されると次々と参加を宣言する人たちの声が届いてくる。
「もちろん、西住さんも参加しちゃうよね?」
「……………………はい。」
武部さんがそう私に参加するかどうかを聞いてきた時には、もう私には断る勇気はなかった。ただ、その誘い自体、嫌なものはなく、むしろ嬉しいことこの上なかった。
最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)
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見たいです
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見たくないです