アローラに戻ってきたリーリエと、チャンピオンとトレーナーの二足の草鞋を履くミヅキの物語。
*二年前にムーンをクリアした勢いのまま書き上げた作品「https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7633089」を一部加筆してこちらにも投稿。
同じ月の下。あなたは何をしていますか?
カントーからはるばるアローラにやってきて数年。
島巡りの試練、エーテル財団の代表・御曹司・御令嬢の親子喧嘩、ポケモンリーグ挑戦、アローラ地方初のチャンピオン就任。リーリエのカントー行き。疾風怒濤の数年であった。
――疲れた。とにかく、とにかく疲れた。
私は今、アローラ初のポケモンリーグチャンピオンとして、リーグ宣伝のドサ回りも兼ねて、アローラ地方を再び冒険している。
チャンピオンは同じ場所にどっしり構えているものという意見も出たが、まだまだアローラ地方を見たいというワガママをチャンピオン特権でねじ込んだ。
できたばっかりのポケモンリーグに挑戦してくる島巡りのトレーナーもまだ多くないし、四天王に勝ち抜いてチャンピオンの座まで来る事ができるのも一握りしかいない。
いつになったら、この玉座から離れる時が来るのかな。
このままずっと、アローラリーグ初代チャンピオンとして君臨し続けるのだろうか。
そもそもカントー生まれがアローラのチャンピオンってのは色々とよろしくないのではないか?
リーリエは進むべき道をとっくに決めていたというのに、私はこの玉座に立ち止まってていいんだろうか?
ざらついた悩みがどんどん出てくる。
悩み始めると次から次へと出てくるのは、私の悪い癖だ。
こんな時はあそこに限る。
「ラーメンZもり」
「Zもりは ぜんりょくもり! 大丈夫で……」
「大丈夫」
ラーメンをズルズルと掻き込む。
悩みを吹き飛ばすほどの勢いで食べる。
この悩みを吹き飛ばしてくれるのは、ラーメンだけだ。
順調に食べ進めていた所に、電話が入ってくる。
こんな夜中に電話、しかも表示された名前はハプウと来たら、話は一つしかない。
「最後の大試練が突破されたぞ! 挑戦者はこのままポケモンリーグに向かうと言っておる!早く準備をしてくれ!」
「今ラーメン食ってるんですけど明日じゃダメですか?」
「なんで夜中にラーメンを食べておるのじゃ!」
「夜中に急にラーメン食べたくなる事ってありません?」
「それならはよう食べ終わってポケモンリーグに来い!」
「ハプウさん。なんでこんな夜中にやるんですか? 本当に今日じゃないとダメですか?」
「どうしても今日でないとダメじゃ!」
「すぐ向かいます!」
ラーメンを急いで食べ終わる。
数年前は量の多さに驚いたものだが、もう慣れてきた。
アローラのご飯は独特なのが多くて好きだ。
ざらついた悩みは残っているが、ポケモンバトルにそれを持ち込む訳には行かない。
全力で相手をし、全力で倒すだけだ。
リーグに到着したが、どうやら挑戦者はまだ来ていないらしい。
こんな夜中でも四天王はキッチリ準備万端で、ポケモンのコンディションも万全のようだ。
いくらチャンピオンでも、四天王を倒さなければ玉座に座る事はできない。
ポケモンの状態を確認しながら、四天王を倒していく。
「大丈夫? ルカリオ」
「――――!」
アローラ巡りの旅で新たなポケモンも手に入れた。ルカリオもその中の1体だ。
旅の中で、色々なポケモンと出会い、色々な人と出会った。
この先何があっても、どんなに悩んだりしても、この出会いだけは忘れないようにしたい。
◆◆◆
空に光る三日月は、どちらに勝利をもたらすのか。
チャレンジャーとチャンピオンの戦いが始まった。
使うポケモンはお互いに6体ずつ。
チャレンジャーはゲンガー、チャンピオンはルカリオを繰り出した。
一見するとチャンピオンのポケモンは攻撃が通しづらく不利に見えるが、相手がゴーストタイプである事を考えないチャンピオンではないはずだ。
「ゲンガー! シャドーボール!」「ルカリオ! じしん!」
チャレンジャーのゲンガーがシャドーボールを放つよりも速く、チャンピオンのルカリオが地面を叩き割る勢いで足を踏み込む。地面が揺れる。
「ふいうち」ではないが、不意を突かれた形のゲンガーは完全に取り乱しており、シャドーボールをあらぬ方向へ撃ってしまう。
アローラの気候、湿度、ウルトラホールからもたらされるエネルギーなどによって、この地方ではゲンガーは特性がふゆうではなくのろわれボディとして扱われるため、地面タイプの技は効果抜群だ。
ゲンガーは姿勢を崩されただけではなく、効果抜群の技も貰ってしまったという事になる。
「まだいけますか!? ゲンガー!」
チャレンジャーの声に応えようと、ゲンガーが息も絶え絶えの状態で立ち上がる。
「ゲンガー!サイコキネシス!」「バレットパンチ」
サイコキネシスの構えに入ったゲンガーに、無慈悲なる剛速の鉄拳が襲い掛かる。
ゲンガー戦闘不能。
「戻ってゲンガー。お願いします、ガオガエン!」
チャレンジャーの次のポケモンが出てくる。
ガオガエン。炎タイプに悪タイプ。
鋼タイプと格闘タイプのルカリオには、相性が悪くて良いといった所か。
「ゼンリョクで行きます! チャンピオン!」
チャレンジャーが独特の構えを始める。
アローラ地方に受け継がれてきた伝承、Zワザである――!
トレーナーのエネルギーを使うため、1試合に1回しか撃てないが、それを補って余りある凄まじい一撃だ。
チャンピオンの1体目を倒すの使うには少々過剰すぎる気もするが、トレーナーが考え抜いた判断に文句を付ける事はできない。
ガオガエンの体が燃え盛る。
Zクリスタル、そしてトレーナーのエネルギーにより、フレアドライブはフィールドを焼き穿つ灼熱――ダイナミックフルフレイムと化した。
「行って! ガオガエン!」「ルカリオ! インファイト!」
重機関車の如き勢いで突進するガオガエンと、閃光の如き鋭さで走り出すルカリオ。
2体が激突する。
激突の勢いにより、フィールドに歪みが生まれるが、歪んだフィールドを制してのポケモントレーナーである。
ルカリオが蒸発しながら吹き飛ばされる。当然戦闘不能。
しかしガオガエンも激突の際、数発ではあるがインファイトを貰っており、完全に無傷とは呼べない状況であった。
「戻って、ルカリオ」
1体が倒され、貴重なZワザまで使わされたルカリオが、ようやく撃沈した。
まだ1体、されど1体。
チャレンジャー、そしてチャンピオンの心境はいかほどか。推し量るのは難しい。
「ギャラドス!」
チャンピオンの2体目はギャラドス。
フィールドに降り立つと同時に、ガオガエンをその眼光で威嚇する。
ガオガエンが怖気づく。
「ギャラドス! たきのぼり!」「ガオガエン! DDラリアット!」
先ほどかすったインファイトのダメージが残っていたガオガエンが若干出遅れる。
ポケモンバトルでは、少しの速度の違いが勝負を分ける。
気付けばガオガエンの目の前には、ギャラドスの巨大な尾が迫っていた。
ギャラドスの水流を纏った尾により、ガオガエンが打ち上げられる。
ガオガエンは空中でなんとか体勢を立て直そうと試みるも、これまでに負ったダメージが深すぎた。
地面に激突し、崩れるように倒れる。ガオガエン戦闘不能。
「……お疲れ様でした。ガオガエン」
チャレンジャーはガオガエンを労いながら、ゆっくりとボールへ戻す。
「お願いします! ジバコイル!」
チャレンジャーの3体目はジバコイル。電気と鋼タイプを持ち、ギャラドスには有利に見えるが……?
「さっきゼンリョクで行くって、言ってくれたよね。こっちも全力で行くから。ギャラドス!メガシンカ!」
メガシンカ。カロス地方で発見されたが、太古のホウエン地方でも使われていたことが発見された、Zリングを経由する事でアローラ地方でも使用できる事が判明した現象。
Zワザと同じく、トレーナー、そしてポケモンのエネルギーを深く合一させる事によって、進化ではない
「メガ……シンカ」
「メガギャラドス。これが私の……全力」
「……ですが! 同じギャラドスであるのならば、電気タイプが効くのは間違いないはず! ジバコイル!10まんボルト!」
「ギャラドス! じしん!」
ジバコイルが10まんボルトを放つ。しかしメガギャラドスには何処吹く風で、電撃の中を悠然と突っ切り、以前よりさらに強靭になった大顎でジバコイルに食らいつく。
ジバコイルはなんとか大顎から離れようともがくも、メガギャラドスは決して離さない。
メガギャラドスがジバコイルを地面に叩き付ける。凄まじい震動が発生した。
ジバコイルは叩き付けられた衝撃と震動で、一撃で戦闘不能となってしまった。
「……戻ってください。ジバコイル」
チャレンジャーが戦闘不能となったジバコイルをボールに戻す。
「……何か言いたげな顔」
「教えてください。そのメガギャラドス、どうしてジバコイルの10万ボルトを耐えたのですか? それに、この子の特性はがんじょうです。がんじょうを貫いて倒されるなんて……」
メガギャラドスが次の相手に向けて集中する間に、チャンピオンが説明を始める。
「ギャラドスはメガシンカで水タイプと悪タイプになる、これが10まんボルトを耐えた訳。普通のギャラドスなら一撃だけど。そして特性はかたやぶりになる、これががんじょうを貫いた理由」
「……やはり、ポケモンというのは奥が深いんですね」
「そうだよ。私でも知らない事がまだまだ沢山ある。それがポケモン」
◆◆◆
同じ月の下。あなたは何をしていますか?
病床の母から、驚きの言葉が飛び出した。
これからは自由に生きてほしい。本当に申し訳なかったと。
親はいつまでも子を縛るものではないと。
ウルトラビーストに取り憑かれていた頃の母からは、絶対に聞けなかった言葉を。
私を縛り付け、自分が理想とする「リーリエ」を組み立てようとしていた昔の母では、絶対に言わなかった言葉を。
ようやく着いたカントー地方は、島と島が分かれているアローラと違い、すべての町がひとまとまりとなっていて、元来の方向音痴もあいまって、クチバシティからハナダシティまで行くのにかなりの時間がかかった。母にも少し無理をさせてしまった。
ククイ博士からポケモンも持たないのは危険だからと餞別に渡されたニャビーも、ハナダまで行く旅の途中でニャヒートに進化していた。
マサキさんの所に着いたのは、カントーに上陸してから数日後だった。普段はハナダの離れにある自宅とコガネの実家を行ったり来たりしており、いない時もあるという情報を得ていたが、運良く自分たちが到着した時には彼は自宅にいてくれた。
ハナダシティの郊外に住居を構えており、そこに辿り着くのにまた一苦労。
ミヅキさんのお母さまとマサキさんは旧知の仲で、私達がカントーへ向かった後、メールで紹介文を書いてくれていたようだ。
マサキさんはすぐに私達を通してくれて、母の衰弱の原因も突き止めてくれた。
やはりというべきか、衰弱の原因は融合したウツロイドの毒が浸透したせいで、マサキさんは自分の機械がこんな機会に役に立つとは思っていなかったようだった。
マサキさんはニャヒートだけでここまで来た私達を見て驚いたらしく、曰く生まれるギリギリのポケモンのタマゴと、いくつかのモンスターボールをくれた。
言われた通りタマゴはすぐに孵り、イーブイが生まれた。
マサキさんからしばらくは安静にするように言われ、クチバシティ近くのコテージに滞在する事になった。
そして、母の言葉へと繋がる。
――自由に生きてほしいと言われても、これまでが自由とは無縁の生活だったため、何をしていいのかわからなくなってしまった。
こんな時、ミヅキさんなら、何をするんだろうか。
私とは違って、自由が人の形を成して存在するミヅキさんなら、何を始めるんだ?
自由の果てに、母をウルトラビーストの呪縛から解放し、アローラ地方初のチャンピオンとなったミヅキさんなら。
駄目だ。いつまでもミヅキさんに頼っていては、先に進む事はできない。
「リーリエ」の事はリーリエ自身が決めるんだ。
――と、格好つけたまでは良かったのだが、今度はミヅキさんではなくお母さまに頼るハメになってしまった。
ミヅキさんの母からのメールには、そっちのポケモンを知りたいならオーキド博士を訪ねると良いと書かれており、母の病状も少しずつ快方に向かっている事もあって、オーキド博士を訪ねてみる事にした。
カントー地方ではポケモンライドの技術は存在していないため、町と町を大幅に移動するには秘伝技をポケモンに覚えさせ、ジムバッジを集めるしかない。
カントー地方各地を巡り、ガオガエン、そしてイーブイと共に色々なポケモンを捕まえ、ジムバッジを集め、ようやくオーキド博士に出会ったのは、カントーに到着してから数ヶ月経った頃だった。
オーキド博士は、数年前のククイ博士のポケモンリーグでのバトルを観戦していたようで、アローラ地方という遠く離れた場所から再び人がやってきた事に感動していた。
博士の孫と友人がアローラのバトルツリーに招待されており、私と丁度入れ違いでアローラ地方に向かったという話や、博士のいとこがアローラにいるなどの小話も聞き、図鑑とフシギダネを貰った。
それからジムバッジ集めを再開し、
後一歩で敗れたククイ博士のリベンジもあるが、今の自分がどこまでやれるのか確かめたかったのもあった。
チャンピオンに至るためには、四天王を倒さなければならない。アローラでもカントーでも同じだ。
ポケモンの状態を確認しながら、四天王に勝ち進んで行く。
「ラプラス! れいとうビーム!」「カイリュー! はかいこうせん!」
全力をぶつけ合う死闘。チャンピオン・ミヅキは毎回こんな死闘を体験しているのか。
体中がひり付くような体験を。ポケモンバトルとは、こんなに恐ろしく、こんなに楽しいものだったとは。
ミヅキさんの背中を追いかけるだけだった私はもういない。ほしぐもちゃん――ルナアーラ。それ以外、ポケモンなんてまともに触れなかった私はもういない。
過去を乗り越え、私は今、ポケモンリーグに立っているんだ。
「リーリエ!これからは君がカントー地方ポケモンリーグチャンピオンだ! ――と言いたいところだが、この試合の前に、オーキド博士から電話が来ている。どうやらアローラ地方に戻ってしまうそうじゃないか。それならば、この玉座は預かっておくとしよう」
そうだ。母の体調がカントーで回復すれば、アローラに戻るという約束だったのだ。
父が未だ行方不明で、母と妹がカントーという状況だと、グラジオ兄さまは一人ぼっちになってしまっているからだ。
エーテル財団も兄が全力を尽くして復興していると、風の噂で聞いた。ならば余計に一人にしておく訳には行かないだろう。
アローラに戻るのは何年ぶりだろう。兄は、ハウさんは、ククイ博士は。
……ミヅキさんは、元気にしているんだろうか。
「リーリエ! アローラに戻って来るなら、一報くれれば良かったのに」
「ごめんなさい博士! アローラに帰る準備でバタバタしていたもので……」
「しかしリーリエ、随分と早い帰還だな」
「元々母さまの件が解決次第、アローラに戻るつもりでしたから。兄さまをアローラに一人ぼっちにしておく訳にはいきません」
「そうだリーリエ! 餞別にあげたニャビーはどうしてる?」
「カントーの旅で、立派なガオガエンになりました。四天王の時も、役に立ったんですよ」
「おいおいリーリエ! まさかポケモンリーグまで行ったのか!?」
「はい! 博士のリベンジ、しっかりとやってきましたよ」
「おいおい……ポケモンが苦手だったリーリエにカントーリーグを制覇されたとあっては、僕の立場が無くなっちゃうじゃないか」
「そんな事は無いですよ。ところで、ミヅキさんは何処にいるんですか?」
「ミヅキかい? アイツ、チャンピオンなのに色んな所ふらついてるからなあ……そうだ。強引にだけど、呼び戻す方法があるぞ」
◆◆◆
「お願いします! ニンフィア!」
チャレンジャーの4匹目はニンフィア。
イーブイとよく触れ合う事により発見された新たな進化の形。
これまた新たに発見されたフェアリータイプを持っており、悪タイプを持っているメガギャラドスとは相性が良い。
「ムーンフォース!」「たきのぼり!」
メガギャラドスの疾走で勢いを付けたたきのぼりよりも速く、ニンフィアのムーンフォースが炸裂する。
ジバコイルから受けた10まんボルトは決して軽いダメージではなかった。加えてムーンフォースの直撃も食らったのでは、流石のメガギャラドスでも撃沈する。
「ガラガラ!」
ようやくチャンピオンの3体目が引きずり出された。
他の地方のガラガラとは違い、アローラ地方のガラガラはその温暖な気候、そして未知なる強敵に対応したため、炎タイプとなった。
そして、仲間達の霊力を結集し、ゴーストタイプも得た。
炎タイプ、ゴーストタイプ。それがアローラ地方のガラガラ。
「じしん!」
チャンピオンのガラガラは通常のガラガラとは比べ物にならない”ふといホネ”を持っており、
その異常なまでに巨大な骨を、凄まじい勢いで地面に叩きつける。ルカリオ、ギャラドス、そしてこのガラガラと”じしん”を使い続けたせいで、フィールドが六割近く壊滅状態になってしまっている。
ニンフィアは途轍もない轟音と震動を堪えて、立ち上がる。ニンフィアとチャレンジャーの絆が、ニンフィアに耐える力を与えた。
「ニンフィア!シャドーボール!」
ニンフィアが漆黒の硬球を放つ。ガラガラは巨大な骨でガードを試みるも、ニンフィアのシャドーボールが直撃するのが速かった。
ガラガラもシャドーボールを耐える。お互いに後一撃貰ったら戦闘不能。次の一撃で勝負が決まる。
「シャドーボーン!」「はかいこうせん!」
はかいこうせんはノーマルタイプ。ゴーストタイプのガラガラには全く効果が無い! チャレンジャーの判断ミスか? いや違う。チャレンジャーのニンフィアの特性は
ガラガラが暗黒の煙から生成された骨をニンフィア目掛けて投げつける。ニンフィアは巨大な光線を放つ。
衝撃、爆発、粉塵。煙がもうもうと立ちこめる。煙が晴れた後には、ガラガラ、ニンフィア双方倒れていた。
「ジュナイパー!」「ラプラス!」
チャンピオンの4体目が出てくる。ようやく後半戦と言った所だが、チャレンジャーは既に5体目だ。
ジュナイパーはチャンピオンがアローラ地方で初めて手に入れたポケモンであり、その絆はチャンピオンが所持しているどのポケモンよりも深い。
「ラプラス!れいとうビーム!」
ラプラスは氷の光線を放つ。
「ジュナイパー!」
ジュナイパーはギリギリまでれいとうビームを引きつけた後、華麗なきりもみ回転で回避。
普通では回避できないほど精密に放たれるれいとうビームを回避するのは、トレーナーとポケモンの連携、その連携を合わせる絆が無ければできない。
「リーフブレード!」
ジュナイパーは回転の勢いを利用し、空中からラプラスに刃と化した翼で斬りかかる。効果は抜群。
それでもラプラスは倒れない。ラプラス自身の強靭な耐久力、そしてトレーナーとの絆が成せる技であった。
――しかし、体制を立て直したラプラスに待ち受けていたのは、ジュナイパーの無慈悲なる鏃であった。
ラプラスはジュナイパーが放った影の矢に貫かれる。ラプラスはたまらずダウンしてしまった。
「お疲れ様でした、ラプラス。ゆっくり休んでください。……お願いします! フシギバナ!」
チャレンジャーの最後の1体が堂々と出てくる。フシギバナ。草・毒タイプ。
ジュナイパーとフシギバナ。どちらもトレーナーとなった時に初めて入手できるポケモン。
「フシギバナ!ヘドロばくだん!」
フシギバナは巨大な毒の塊を生み出す。直撃すれば草タイプのジュナイパーはただでは済まない。
ジュナイパーは走り出す。今度はフシギバナが引きつける。ジュナイパーが飛び上がる。上空へ向けてヘドロばくだんが発射される。
「今度はこっちのゼンリョクだよ、ジュナイパー!」
チャンピオンがZワザの構えをする。
背後に輝く月の光。ジュナイパーがZクリスタルの輝きを受け、さらに上空へ飛び上がる。
ジュナイパーがチャンピオンのエネルギーとZクリスタルのエネルギーを使い、数万、数十万、数百万、あるいは無限にも思える量の矢を展開する。ジュナイパーだけが使えるZワザ、シャドーアローズストライク。月の光を浴び、矢の一本一本が妖しく煌めく。
ジュナイパーがフシギバナへ突撃する。この量では塵にも等しき数本の矢と、ヘドロばくだんが相殺する。
なおもジュナイパーの勢いは止まらない。フシギバナは回避できないと判断し、どっしりと構える。
ジュナイパーという矢は、フシギバナを抉り貫く。ジュナイパーが貫いた後、無限の矢がフシギバナへ降り注ぐ。
……フシギバナ、戦闘不能。
チャレンジャーの戦闘可能なポケモンは0体。チャンピオンの戦闘可能なポケモンは2体。
チャンピオン、王座防衛。
◆◆◆
「お疲れ様でした。フシギバナ。……まだ、敵いませんね。ミヅキさんには」
「そう……だね……」
「ミヅキさん?」
「ぜぇっ……ぜぇっ……」
視界が揺れる。呼吸をするのも苦しい。全身が悲鳴を上げている。体の全てのエネルギーを吸い取られた感覚。ポケモンバトルでは勝ったのに、トレーナーはボロボロなんてのもおかしな話だ。
「ミヅキさん!?」
リーリエが駆け寄ってくる。こんな無様な姿は見せたくなかった。リーリエの前では、格好良い「ミヅキ」のままでいたかったから。
「大丈夫……大丈夫だから」
嘘だ。全然大丈夫ではない。そもそも1試合にメガシンカとZワザを両方使うのが無茶苦茶だった。1つでもトレーナーの体力を奪う物を2つも使ったのなら、今立っている事自体がおかしいのだ。
「ミヅキさん!このまま自宅まで送りますからね!」
リーリエの声もよく聞こえなくなってきた。
凄まじい眠気がやってくる。もう……ダメだ。
勝負が終わった。やっぱりまだミヅキさんには敵わない。当然だ。トレーナーの期間はミヅキさんの方が長いのだから。
勝利を称えようとしてミヅキさんを見ると、ふらふらとしていて呼吸は荒く、ボロボロの状態であった。
なぜ?試合前は落ち着いていたのに?
そういえば、Zワザはトレーナーの力を使って発動する技。メガシンカも、トレーナーのエネルギーを使って発動する進化と聞いた事がある。まさか?1度のバトルで2つも使ったからか?
それならば、ミヅキさんには今すぐ休んでもらわなければならない。
昔からポケモンバトルに関しては自分を省みない人だった。今でもこんな無茶をしていたら、いつか必ずガタが来るに決まってる。そうなる前に止めなくては。
ミヅキさんのポーチを漁る。ミヅキさんが使っていなかった6匹目。ここに来た時から確信があった。私が託したあの子。
「マヒナペーアッ!!!」
「ルナアーラ! お願いしますッ!!!」
ルナアーラの瞬間移動。思えば、私の旅もほしぐもちゃんの瞬間移動から始まったのであった。
次の瞬間には、ポケモンリーグからミヅキさんの家まで到着していた。
気付けば東の空から朝焼けが昇り始めている。戦っていた時は真夜中だったのに、もうこんな時間になっていたとは。
ミヅキさんのお母さんは、アローラ地方に私がいる事に驚いた後、ボロボロになったミヅキさんを見て何かを察したらしく、ミヅキさんをベッドに放り投げてしまった。ニャースが布団を被せる。
「……ミヅキさんは、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫よ!若い頃しか無茶はできないんだから!年取るとこんな無茶はできなくなってくるのよ。リーリエちゃんも無茶は若い内にやっておくのよ!」
「は、はあ……」
「それで、リーリエちゃんはこれからどうするの?」
「へ?」
「もう朝だし、リーリエちゃんも休んでいけば?」
「そんな、ミヅキさんに迷惑ですよ」
「あの子は気にしないわよ!」
ミヅキさんと同じベッドに入れられてしまった。
ミヅキさんの横顔は、さっきまで戦っていたとは思えない程安らかで、少しでも触ったら壊れてしまう宝石のようだった。
フィールドに舞っていた砂埃の匂いと、ほんのりとした汗の匂い。それとなぜかラーメンの香り。
なぜ私はこんなにドキドキしているのだろう? ミヅキさんと密着しているから? 何年も会えなかった友人と再会できたから? ようやくミヅキさんとポケモンバトルをする事ができたから?
ミヅキさんをもっと見ていたい。ミヅキさんとまた一緒に旅をしたい。ミヅキさんを私だけの物にしたい。ミヅキさんは危なっかしいから私が付いていないとダメ。
私の中にあるこの感情はなんだろう。友情? 愛情? 劣情?
色々と考えている内に、私もまどろみの中へ堕ちていった……
◆◆◆
「ルカリオ!そこでとびひざげりだ!」
何かを蹴り飛ばした感触で目が覚める。時計を見たら昼の12時だ。
蹴り飛ばした所を確認すると、リーリエが うずくまるように転がっていた。
昨日はチャンピオン防衛戦をして、リーリエが相手だからと調子に乗ってメガシンカとZワザを使ったら、ぶっ倒れて死に掛けた所までは覚えてる。しかし、リーリエが私の家にいるのと、ルナアーラの入ったボールが消えている事の説明が付かない。なんでリーリエが私の家にいるのか。そもそも私はボロボロの状態からどうやって自宅に辿り着いたんだ?
リーリエが今の蹴りで目を覚ましたらしい。
「……痛いです」
「ごめん。だけどなんでリーリエが家にいるの」
「あれから覚えてないんですか?」
「覚えてない」
「バトルの後、ミヅキさんが倒れそうになった所までは覚えてますよね?」
「そこまでは覚えてる」
「その後、ルナアーラの瞬間移動でミヅキさんの家まで送ってもらったんです。そうしたら、お母さまから私も休んでいくように言われて。ベッドにお邪魔しちゃいました」
「そのルナアーラのボールは?」
リーリエがポーチからボールを取り出す。投げると、ルナアーラが出てくる。私の部屋の物が吹き飛ばされる。ルナアーラが擦り寄ってくる。さらに私の部屋の物が吹き飛ばされる。
「ルナアーラも心配してたんですよ? ボロボロのミヅキさんを見て」
「分かった!分かったからこれ以上暴れないで!私より先に私の部屋がボロボロになるから!」
「リーリエ、私のZリング知らない?」
「これですか?」
私のZリングは、紐でちょいきつめのぐるぐる巻きの無惨な姿にされていた。
「なんで私のZリングこうなってんの」
「ミヅキさんが1試合にメガシンカとZワザ両方使うなんて事するからですよ」
「これやったのリーリエ?早く解いてよ」
私がそう言うと、リーリエは爆発寸前のマルマインみたいに頬を膨らませ、
「……昔から思ってましたけど、ミヅキさんは無茶苦茶やりすぎです!メガシンカとZワザ併用なんてしたら倒れるに決まってるじゃないですか!」
「だってポケモンバトル勝ちたいじゃん」
「ポケモンバトルに勝っても!ミヅキさんが倒れたら!どうしようもないじゃないですか!」
「分かったよ~もうメガシンカもZワザも1試合で1回ずつしか使わないからさあ、私のZリングをぐるぐる巻きから解放しておくれよ」
「ダ!メ!で!す!使う気まんまんじゃないですか!ミヅキさんのZリングは私が管理します!」
「なんかリーリエウルトラビースト憑いてた頃のルザミーネさんみたいになってるよ……」
そういえば、リーリエとルザミーネさんはいつアローラに戻ってきたんだろう。
後から聞いてみると、リーリエが島巡りの試練を終えてチャンピオンの所に着くまで、私にはリーリエ達が戻ってきた事は秘密という取り決めが成されていたらしく、いつ戻ってきたのか知らないのは私だけだった。
なんか私だけ除け者にされたみたいでいい気持ちはしないが、リーリエが戻ってきた事に比べれば些細な問題だ。
「リーリエはこれからどうするの?」
「ミヅキさんに着いていきます」
「なんで」
「博士から別の地方とかにふらりと行かないように見張ってろ、という命令を頂いたので」
「本当は?」
「ミヅキさんとずっと一緒にいたいから」
「直球だね!」
「カントーにいた間も、片時もミヅキさんの事を忘れた事はありませんでした。あの月の反対側にミヅキさんがいるアローラがあるんだなとか、ポケモンリーグでチャンピオンと戦ってる時に、ミヅキさんならどうやって戦うんだろうとか、思っていたりしました」
「それじゃ、早く準備して!行くよ!」
「どこにですか?」
「どこか!」
「どこかじゃ分からないですよ!」
「ポケモンは待ってくれないよ!」
「ミヅキさん!リング忘れてますよ~!」
一人では寂しくても、二人なら寂しくない。
一人では辛くても、二人なら励ましあえる。
一人じゃできない事も、二人ならできるかもしれない。
同じ太陽の下、あなたは何をしますか?