施しの英雄    作:◯のような赤子

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この話の前にもう一話投稿しています。
読んでいない方は先にそちらをどうぞ。




再会 弐

 大英雄カルナの朝は早い。

 

 夜明けと共に眼を覚まし、自ら整備した庭に裸足で降りて行うのは前世から魂に染み付いた鍛錬。

 その手に持つのはインドで己を拾い育ててくれた養父が授けた、ただの木槍。

 すでに愛用して十数年。何度も握りしめた箇所のみならず全体が黒ずみながらも光沢が朝日を反射する様は、カルナがその木槍をどれほど大切に扱っているかの証拠に他ならない。

 ただ力任せに振るうのではなく、大気の隙間を縫うように突く。

 ()()()()()()()()()――完全な技術のみで決してありえない事を成そうと、カルナの表情に満足などという色は一切浮かばない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だからもっと先へ、まだ辿り着けていないその先へ――以前であればパラシュラーマやドローナなどの優秀な師がいたが今はそれを望むことが出来ない。だから今度は敢えてゆっくりと、先ほどと全く同じ動きを再現し一つ一つの動作を見直していき、軽く呼吸を整えて一閃。

 

 おおよそ同じ速度で突き出された槍は、今度は大気を切り裂く音さえも許さなかった。

 

 

 「…今はまだ、こんなものか」

 

 

 先程の動きを幾度か繰り返し、カルナは虚空へと木槍を仕舞う。

 軽く汗を傍に置いてあったタオルで拭いながら、その足で向かうのは販売を目的としていない、精々が2、3人で消費できる規模の畑だ。

 寝巻に丁度いいと以前インドラから紹介されたジャージが汚れることも厭わず土の上にしゃがみ込む。

 育ててきた野菜の一つ一つを確認していき、その中から比較的成長の早いルッコラや二十日大根の一部をその場で収穫。

 

 朝食はこれでいいだろう。

 そう思い、収穫した野菜を持って家に戻り適当な場所に置いて足を拭き家に上がる。

 軽く汗を流そうと浴室に向かいシャワーを浴びていると、家の中に誰かが来た気配を感じた。しかしカルナは焦ることなく身体を拭き、ジャージから細身のジーパンに無地の長袖の黒シャツに着替え居間に向かうと、そこには先ほど収穫した野菜を使った朝食が用意されていた。

 

 

 「おはようございます、主様」

 「ああ、おはよう」

 

 

 カルナの返事に、割烹着姿のまま弥々は微笑む。

 そのまま配膳を済ませ、使った調理器具などを洗い終える頃にはカルナもまた食事を終えていた。

 

 

 「馳走になった。いつも悪いな」

 「いえ、むしろこの程度しか出来ないもので」

 

 

 どうぞと弥々がお茶を差し出せば、再び礼を言ってカルナが飲む。

 まるで夫婦のようにも見えるが互いにそのようなこと微塵も思っていないし、そもそも弥々はこの家に住んでいるわけでもない。

 片道一時間近くはかかるものの、この時間は彼女にとって何ものにも代えがたい幸福な時間であり、カルナもまた態々こうして世話をしに来てくれる弥々に感謝の念が絶えなかった。

 

 

 「主様、本日はどのように過ごされるのですか?」

 

 

 弥々の問いかけに、カルナはふむと考える。

 何しろこのカルナ、実は今現在特に働いているというわけではない。

 

 瘋癲(ふうてん)とまでは流石にいかないものの、帝釈天の元にいた頃や最近ではサーヴァントゲームに出る度一応賞金は貰えているため無一文というわけではなく少しばかり使う電気代などはそこから支払っている状況であり、ほぼ自給自足に近い生活を行っている。その為日によっては習慣となっている鍛錬や土弄りをしていたり、また別の日によっては今生における趣味となっている読書を日がな一日行うことも珍しくない。その場合弥々は暇ではないのかと思うかもしれないが、その時は些細なことであろうと彼の世話が出来て幸せだと感じているので問題はない。

 

 

 「そうだな、ならこの後少し、散歩に出かけてくる」

 

 

 これもまた最近新たに加わったカルナの趣味だ。

 前世とは違う時代。それも生まれ育ったインドとは違う日本という国の雰囲気や独特の気配というものは見ていて飽きが来ない。

 

 

 「分かりました。では弥々は御身が不在の間、此方のほうに滞在しておきましょう。昨日のように招かれざる客がまた来るやもしれませぬし」

 

 

 弥々が若干不機嫌そうな気配を漂わせながら口にする招かれざる客とは、当然リアスたちのことだ。

 彼女たちがカルナを追い、弥々と別れたあの時彼女もまたリアスたちに気づいていた。カルナが放置して良いと言ったためそうしたが、弥々からすれば隠れて後を追うなどあまり気分の良いものではない。

 

 

 「嫌いか、悪魔のことが」

 「嫌いです。むしろあれら聖書の陣営を好む者など、果たしていましょうか」

 

 

 嫌悪を滲ませる弥々だがその気持ちは古代人であるカルナにも多少理解できた。

 前世の時代にはまだ聖書の陣営など存在せず、関わってくることから軽く本などで調べはしたが成程と思える内容であった。

 

 当時各神話はカルナが生きていた時代から変わり、あまり人界に関わることを良しとせず見守る方針に転換する中であの陣営だけはむしろ逆、積極的に関わりその影響力を増していった。更に内戦で疲弊した戦力を元に戻そうと他陣営から自陣営に無理やり拉致ないし鞍替えさせる様は確かに嫌われてもしょうがない。             しかも本人たちがそれに悪意を持たず行っているところがまたどうしようもない。

 

 ただカルナとしては正直、あまり嫌いにはなれなかった。

 何となくだが…似ているのだ。

 悪意もなく悪意をばら撒き他者に嫌われる…そんなどうしようもない男をカルナはよく知っている。

 だからこういうのは第三者がどれほど何を言おうが意味をなさないというところも、彼はよく理解していた。

 

 

 「願わくば彼らにも、理解ある誰かが出来てほしいものだ」

 「――?何か言われましたでしょうか?」

 「いや。独り言だ、気にするな」

 

 

 軽く喉を潤そうとカップに手を伸ばすが、見るとすでに飲み干した後だった。

 それに気づいた弥々は、やんわりと微笑む。

 

 

 「すぐにおかわりを持ってまいります。お出かけになるのは、その後でもよろしいかと」

 

 

 

 

 

 

 弥々が淹れなおしたお茶を飲み干した後出かけたカルナだが、特に目的地などあるわけもない。

 インドにいた頃は見なかった信号や、養父が乗っていたボロ車と違い光を反射しながら(カルナからすれば)それなりに早い車に注意しつつ歩く彼の姿は、容姿も相まって一見モデルやアイドルが散歩しているようだがその耳につけたトヴァシュトリ神作のカフスのおかげで騒ぎになることはない。

 存在感を薄くするという特性は今も遺憾なく発揮され、他者からすれば最近では珍しくもない外国人が出歩いているという程度の認知となっている。

 

 ただ、目立つというよりは奇抜な見た目と大きすぎるピアスというものは、目敏い者には目につくというもので……。

 

 現在カルナはそんな一部の者に捉まっていた。

 

 

 「Hey! you're wearing piercings! (ヘイ!あんたイカしたピアス付けてんな!)why don't you join a band with me?(どうだ、俺とバンドでも組まないか?)

 

 

 面白そうなものには取り合えず声をかける。

 奥手な日本人とは違うお米の国の住民からすればカフスのおかげで気配が薄かろうが、あんなクソデカピアス(作者に悪意はない)を付けた南アジア系の目つきの悪い(これも悪気はありません)明らかにお前パンク系バンド似合いそうだよな(異論?認めないけど何か?)なカルナを見つければ取り合えず声をかけるのはしょうがないこと(ではないな)

 しかもこの男性、チャーリーと言うのだが英語で話しかけているとおり何故か日本で花咲かせてやると考えもなしに来日。バンド仲間?探せば見つかるだろうと思っていた矢先にこんな寡黙系ベースが似合いそうなカルナさんを見つけたのである。これが誘わずにいられるだろうか?

 

 

 「because I can do it seriously!(マジやれっから!) let's the name is “patriot”!!(名前は愛国者で行こうぜ!!)

 

 

 もはや決まったと言わんばかりにバンド名まで披露するチャーリー。

 英語で構わず話しかけ続ける彼だが、カルナは半神の身であり当然チャーリーが何を言っているのか理解している。

 さて、何となくだがこの状況。どこかで見た覚えはないだろうか?

 

 

 「いや、すまないが演奏には興味がない。他を当たってくれ」

 「what? I'm sorry, but I don't understand Japanese(なんだって?悪いけど日本語分からねぇんだ)

 「|मुझे खेलने में कोई दिलचस्पी नहीं है, कृपया मुझे कहीं और मारो」(演奏には興味ない、他を当たってくれ)

 「What more(もっと何だって)!?」

 

 

 一応言っておくが、カルナさんに悪気はない。

 ただ彼の場合ほぼ自動翻訳に等しい為、この目の前のチャーリーが何を言いたいのか理解できてもそれが()()()()()()いまいち分かりにくいのである。

 

 

 「a,Anyway, (と、とにかく、)I want to play with you! I'll ask!(俺はあんたと演奏したいんだ!なぁ頼むよ!)

 「…एवं वदसि चेदपि(そう言われてもな)

 

 

 困ったものだと思う。

 気づけば周りには外国人同士が喧嘩でもしているのかと軽く人が集まりだし、中には携帯のカメラを向け写真を取っている者までいた。

 

 軽くその集まりに目を向けるカルナ。

 

 次の瞬間、彼はその中で彼女を見つけた。

 

 

 「ひゃー、久しぶりにグッズを買いに外に出てみれば珍しいものを見るモンすねー。ほいパシャパシャと」

 

 

 ボサボサのまともな手入れもされていない髪。

 着ているのは()()()()()()着古したTシャツとカーディガンに窮屈なジーンズ。

 

 

 「ムフフ、まさか戦利品以外にもブログへ乗せるに丁度いい外国系イケメソ二人の濃厚な絡みに出くわすとは、いやぁボクも運がいいスね~」

 

 

 女らしさを全て無限の彼方へ放り捨てたその女性は一頻り写メを取り満足したのだろう。

 早速ネットに上げようと写真をしていたが、何かに気づいたようだ。

 

 

 「…ん?んん~?あれ、なんかこの真っ白な人どこかで見た気が…」

 

 

 その反応にやはりとカルナはまだバンドに誘おうとするチャーリーを軽く手で遮りながら謝罪し、まだうんうんと唸りながら記憶を思いだそうとする彼女の元へ歩いていく。

 

 

 「真っ白…うーん、何だったっけか…うぉ!?」

 「驚かせてすまないが、お前に一つ尋ねたいことがある。お前は京都で、オレに道を教えてくれた女か?――」

 

 

 

 

 

 

 

 「――いやぁ、悪いスねー!態々ボクの荷物を持ってもらって」

 「構わない、お前にはいつか会った時、恩を返そうと思っていたところだ」

 

 

 ニコニコと満面の女性の隣でカルナは彼女が持っていた大量の戦利品(オタグッズ)を抱え同じ道を歩いていく。

 その理由は上記の通りで、京都での礼がしたいとカルナの方から彼女に話を持ち出したからだ。

 

 

 「それにその身体では重い荷物を持って歩くなど不便だろうからな。この程度わけもない」

 「今、一体ボクの何を見てそう言ったんスか…?」

 

 

 カルナしては「だから悪く思うことなどない」というつもりだった。実際カルナとしてはあの時彼女に話しかけてもらえたことでどこにも行かずあの場で足を止め、弥々と出会い老狐の元で世話となり、そしてその誇りをかけた最後に自分を選んでもらえたのだ。

 しかし彼女からすれば、どうやらその言葉は色々とタブーだったらしい。実際歩く度に彼女の腹部はタプタプと波打つ様子が見て取れる。

 

 

 「全身だが?一切鍛えていない、賞賛に値する見事な贅肉の塊だな」

 「恩を返してくれるんスよねぇ!?仇じゃなくて!何でいきなりボク、アンタにディスられてるんスか!?」

 「ディス…?すまないが日本語にはまだ不慣れでな、よく分からない」

 「あー、そうでした。あの時もそうでした!てか外国特有の訛りも一切ないのに…それとどうしてボクがあのアメリカ人とお話しなきゃいけなかったんスか!」

 

 

 この場にいるのはカルナと彼女の二人、つまりチャーリーはカルナを諦めたのだ。

 意外にもその理由を作ったのは先ほどから独特の喋り方をする彼女だった。

 

 

 「お前が彼の母国語を喋ることが出来たからだろう。オレは聞いて理解できてもどこの言葉か分からないからな、助かった」

 「あんな片言イングリッシュくらい誰でも出来るっス。…何かある度お礼を言うってメンドくないスか?」

 「オレには出来ないことがお前には出来た、それは素晴らしいことではないのか?」

 

 カルナの疑問に女性は「あ~そうっスか~」とかなりなおざりな返事だ。

 どうやら何を言っても無駄であり、なおかつかなり面倒な相手として捉えられたらしい。

 

 

 「…まぁ、運んでもらってるのは正直かなりありがたいことっスからね。寛大なボクの心に感謝するっス」

 「分かった。感謝しよう……そういえばお前の名は何と言う」

 「人の名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのがこの国の礼儀っスよ外国人さん」

 「カルナだ。それで、お前の名は?」

 「初対面の人に教えるほどボクの名は安くないっス!かかったなアホが!」

 

 

 顔の前で腕をクロスさせ、どこか煽るような笑顔で女性はカルナの方を見る。

 

 だが…忘れてはいけない、相手はあのカルナさんなのだ。

 

 

 「初対面ではない、これで二度目だ」

 

 

 どこか薄ら寒い風が二人の間をすり抜けた。

 

 

 「ハァ~…クソデカ溜息案件スよこれ…もういいス。もすこししたらボクの家なんで」

 

 

 背中を曲げてポテポテと歩く女性。

 その背後から思わずカルナは尋ねた。

 

 

 「お前、この街の住人だったのか」

 「んぁ?そうっスよー、一体どこまでそれ持っていくつもりだったんスか…」

 「お前が望む限り、どこまでも。しかし意外だな、それなりにこの付近は散策したのだが」

 「あー、家から出ないっスからねボク。てかその言い方だとカルナさんもこの街に住んでたんスか?」

 「ああ、つい最近な」

 「へー、じゃあご近所さんかもしれないスね。引っ越し蕎麦は手打ちで勘弁してやるスよ」

 「いきなり要求を出してくるか。中々の神経の持ち主だな」

 「だから何でそういう方向になるんスか!?あーもういいや、はいここボクの家」

 

 

 彼女が足を止めた先には、立派な一軒家が立っていた。

 ただあまり手入れはされていないのか、玄関近くから見える庭は雑草が生え放題になっており、ポストの塗装もいくつか剥がれ落ちている。

 

 その玄関入口には表札とおぼしきプレートが飾られており、『雁霧』と書かれていた。

 

カルナがしばらく眺めていると、女性は「ああ」と呟く。

 

 

 「そっスよねー、読めるわけないスよねー。『雁霧(かりぎり)』って読むんスよ」

 「かりぎり…それがお前の名か」

 「そうっス、雁霧ジナコ。まぁ父親がドイツ人のこれでもハーフなんで向こう風に言うとジナコ=カリギリなんスけどね。あ、そうだ」

 

“ここまで運んでもらったし、カルナさんは特別にジナコさんをジナコさんと呼んでもいいっスよ?――”

 




 ジナコやっと出せたやったあああああ!!(歓喜)
 あ、ちなみにジナコの苗字の漢字は適当に考えました。
 調べても出なかったので、もし本当はこれだよと知っている方は教えていただけると助かります(__)
 あと英語ワカリマセーンな人間なので違ったら教えてください。
 
 ちょっと色々…例えばいきなりカルナさん呼びだったりとか違和感はあるかと思いますが許してください何でもry自分にはこれが限界です。

 次回は3か月以内に頑張ります。まぁあてになるかよと思う方が殆どだと思いますが(申しわけない…)
 一応プロット書き直して前の会社との縁も切れて頭の中スッキリしたので一年は流石にないと思います。
 ただ今後矛盾や疑問が読者様の中で生まれると思います。
 正直だいぶ忘れているので(汗)
 その時は見なかったことにしてもらえると助かります(;^ω^)
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