バンドの練習が終わって、私たちはいつものファミレスに来ていました。
空はもう暮れていて、その早さに夏が終わったことを感じます。皆で行ったプールを思い出し、ウォータースライダーには二度と乗りたくないと体を震わせました。
早々にポテトフライを食べ終えた氷川さんは、ちらちらとメニューを見ていました。
……足りないのでしょうか。ギターって、体力使いそうですし……。
わたしもジュースをちびりと飲んで、あこちゃんの話に意識を戻しました。
すると、
「あのー、Roseliaの皆さんですか?」
「そうですが、どちら様ですか?」
突然、大人の人が話しかけてきました。
わたしたちRoseliaは、ガールズバンドの一つです。雑誌にも載ったことがあるので、話しかけられることは珍しくありません。
ヴォーカルの友希那さんに至っては、引き抜き寸前まで行ったのですから。
その友希那さんが応じると、大人の人は名刺を差し出してきました。今井さんが隣から覗き込み、あこちゃんも話を止めます。
「失礼しました。私はそららーくグループの明坂と申します。この度、我が社が主催するライブイベントに出ていただこうと思い、声を掛けさせていただきました」
「……ファミレスの会社が、ライブを?」
「はい。ファミレスの食事を、音楽と共に楽しんで頂こうというイベントです。こちらが概要になります」
紙束を受け取った友希那さんは、隣の今井さんと読み始めました。二人が一通り目を通した後に氷川さんが読み、わたしとあこちゃんも目を通しました。
「もちろん、ただとは言いません。……とはいえ、用意できるものも少ないのですが……」
明坂さんはそう言うと、また別のプリントを取り出しました。
「まずは、猫カフェの無料券五名様分、」
「ライブ、やるわ。任せて頂戴。最高の音楽を
「ちょっと友希那、もう少し慎重になろうよ!」
「秋物のブランド品二万円分の金券を五名様分」
「友希那、がんばろうね!」
「ちょっと今井さん!」
「そららーくグループ全店のポテトフライ無料券五枚を五名様分」
「まあ、丁度良い機会よね。私たちも新曲を完成させたし、ステージは出ておくべきだと思うわ」
……これが、人を陥落させるという事でしょう。
わたしはちょっと明坂さんが怖くなりました。でもなんとなく、親近感の湧く声でした。
「あとは……これは中々に人を選ぶのですが、NFOの新スキンを」
「やるっ! ライブ出ます!」
「やりたい……です」
明坂さんはいい人です。とっても。
そして、どこか気合の入りまくった練習期間を終え。
遂にライブ当日本番です。ステージとしては、空の下の……なんというんでしょうか。開放的な、ところです。
屋根はあるのですが、完全な屋外ではありません。キーボードやドラムを用意してもらい、準備が整いました。
「行くわよ。最高の音楽を届けるために」
「はーい! 頑張りますっ!」
友希那さんの言葉に、あこちゃんが賛同します。私も小さく頷きました。
「Roseliaのみなさーん、準備が整いました!」
スタッフの明坂さん(当日担当でもありました)の声に答えて、衣装の袖を整えます。
すくむ身体を強く抱いて、踏み出しました……!
『――Roseliaです』
強く、友希那さんが言葉を発しました。
マイクなんていらないんじゃないか。そう思うほどに強い声に、わたしたちに火が付きます。不敵に笑う瞳が、目が、綺麗で……恐れを消し去りました。
そして、始まります。ギターが響き、ベースが繋ぎ、ドラムが紡ぎ、キーボードが飾ります。
光を生み出し、照らすように。強く美しく、ひとつになり瞬きます。
友希那さんが、堂々と歌います。センスと努力が積み重なった、強い強い歌声。
氷川さんが、指先で弦を弾きます。勇気の溢れた、その実圧倒的な練習量が伺われる音色。
今井さんが、すべてを受け止める優しい音色を奏でます。わたしたちを、信じてくれているんだ、って安心します。
そしてあこちゃん。かっこいいドラムのリズムが、わたしたちの音をひとつに繋いでくれます。
全員の音が、全員を支えています。繋げています。
傍にいるこの絆が、支えてくれます……!
だから私はキーボードを弾ける。信じて、奏でて……。
臆病が誘う声は、この間だけは、聞こえません。
私を誘ってくれた、あこちゃん。
厳しくも、わたしたちと歩き続けてくれた氷川さん。
優しく、Roseliaの皆を繋げてくれた今井さん。
そして歌は凛々しく、花々が咲き誇るような歌声の友希那さん。
ここまで一緒に居て、わたしを新しい世界に導いてくれたRoseliaの皆が、私は大好きです。わたしの一番大切な場所です。
だから、だから全力で。
どんな私でも。
どう変わっても。
わたしは、白金燐子は――Roseliaのキーボードであるために、奏で続けます。
いつまでも。幾億幾千、超えて。
わたしが出来る限りの事を、やり遂げるために。
そして、その翌々日。
ファミレスで打ち上げを終えた私たちは、ご褒美を貰ってほくほくになりながら、お店を出ました。
皆が開けてくれた扉に、新しい一歩で進んで――。
下手な文章だったかと思います。
拙かったと思います。
でも俺が、俺自身が燐子が好きだったので書きました。書かせていただきました。
読んでくださり、ありがとうございました。明坂さん、今までありがとうございました。
【補足】
Roseliaの全オリジナル曲と照らし合わせて貰えれば、何か分かると思います。
頑張りました。