【琴葉姉妹】茜「まっへあおいっ、そんなとこらめっ!」【ハミガキ】 作:実芭蕉(ばななん)
原作:VOICEROID
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「お姉ちゃん……最近、ハミガキ適当にしてるでしょ!」
日曜日の昼下がり。ご飯を食べた茜は、ソファーに座り込んで、グータラしようなどと思っていた矢先のことだった。
「え、ど、どうしたん。急に」
「どうしたじゃないよ!この間の健康診断で要注意の歯、増えてたよね」
「あー、まぁそやけど……」
「お姉ちゃん、いつも夜にしか歯を磨かないし、それすら眠いからって適当でやってるからだよ」
確かに、それはその通りである。学校での検診の結果が返ってきたが去年と比べても要注意の歯は増えているし。近頃はハミガキをサボりがちというのも指摘の通りだ。
「葵ちゃん、うちのことよーく見とるねぇ……」
「むしろお姉ちゃんが自分のこと省みなさすぎ」
「うぎぃ……」
ごもっともであった。ぐうの音もでないとはこのことか。
「そーいうわけだから、これ」
そう言いながら琴葉葵が取り出したのは洗面器だった。家の風呂場で使っている、大きすぎず小さすぎずの白色のボウルだ。湯桶としても使えるものだが、なぜ急にこれを出してきたのか。
「洗面器なんて出してどうするん、ドリフでもやるん?」
「眠くて頭がはっきりしないのかな、タライの代わりにこれで叩いたげようか?」
「ゴメンナサイユルシテクダサイ」
「ふざけてないで、持ってよこれ」
「あー、うん」
大きすぎずとは言っても、顔を洗うためにお湯を入れるものだ。片手では持ちにくい。仕方なく両手でそれを受け取った。
「じゃ、ここ座って」
示された方を見ると、ソファーの後ろにいつのまにかテーブルのイスが向い合わせで並べられている。とりあえず言われるままに茜はイスに座った。
「はい、良くできました。それじゃええと」
そう言って葵はテーブルの上からなにかを取って、自分もイスに座る。よく見ると、それは茜が普段使うハミガキセットだった。ピンク色なので、とても分かりやすい。
「葵、ちゃん?」
「いいから、口を開けて」
「いや、いやいやいやいや」
待ちなさいな、という制止の声にも耳もくれずに葵は歯ブラシに歯磨き粉をつけ始めた。
「なに?手なら洗ったよ?」
「ちゃうやん、いや、そんなんおかしいやん」
「だったら真面目にハミガキしてくれるの?」
「も、もももももちろんやん!」
「お姉ちゃんいつも調子良いこと言って、後でやらないじゃん」
「くぬぅ……」
この妹、本気らしい。どうにも、目の前の人物をここから逃すまいという気迫すら感じる。こういうときの琴葉葵には説得の類いは一切通じない。双子の姉としてハッキリ断言できる。ゆえに、状況は絶望的だった。
「さぁ、ほら」
ピンク色の歯磨き粉が乗った歯ブラシがずいっ、と突き出される。甘いイチゴの匂いがふんわりと漂ってきた。その甘ったるい匂いは、甘いものが大好きな茜の食欲、というよりはデザート欲を刺激し、つい、口を開けたくなってしまう。
「はい、あーんして」
「あの、葵ちゃん、なんかオカンみたいなんやけども」
「お姉ちゃんが世話焼かせるのがいけないの!」
「ハイ、オッシャルトオリデス……」
「とりあえず口開けてよ、はい、あーん」
もはやここまで。これ以上は問答無用だろう。そう覚悟を決めた茜は、恐る恐る口を開けた。人に歯を磨かれる経験など、茜の記憶にはまったくない。いくら家族といえども、自分以外の手によって歯ブラシを突っ込まれるのは怖いものだ。心なしか、洗面器を持つ手が緊張で固くなる。
「はい、入るよー」
「んあ……」
ゆっくりと口腔内に侵入した歯ブラシは、まずは軽く歯を磨き始めた。力加減を確認するように、慎重な手つきで歯を磨かれる。口にものを突っ込まれているという緊張が、茜の神経を集中させる。自分の手でやるのと比べて、葵の動きは丁寧なのが口全体で理解できる。粗野な茜の磨き方とは違って、葵は歯のすべてを磨きあげるように、歯の形に合わせてブラシで引っ掻く。歯の溝に沿って磨かれると、不思議とこそばゆく感じる。
「んぁ、ん、ふ……」
「お姉ちゃん、もうちょっと口開けて、暗くて見えにくい」
「んんぅ~~……」
つい、反抗心からか、面倒臭さからか、子供が駄々をこねるときのような声を出す。
「ワガママだめ、あーん」
「んぅ……」
ワガママはどっちだ、という文句を言いたくても、今のように歯ブラシを突っ込まれては何も言い返せない。不服ながら、茜は口をさらに開けて見えやすいようにした。
「よぉーし、奥歯をみがくよぉ……ツバ出したかったら言ってね」
「んん」
今までの探るような触れるか触れないかという動きから、本格的に磨くための擦るような動きに切り替わる。歯とブラシが擦り合って軽快な音を、リズミカルに鳴らす。シャカシャカと素早く、それでいて丁寧に茜の奥歯が磨かれている。普段とは違う状況のせいか、奥歯をこんなに丁寧に磨かれたことがないからか、茜の口にツバがどんどんと分泌されていく。
「んっ、んんぅ!んぅ!」
口にツバが溜まったことを伝えるために言葉にならない音を出す。
「うん?あ、ツバが溜まったんだね、はいどうぞ」
歯ブラシが一旦、口から取り除かれる。それと同時に茜は口からツバを吐き出した。
「ぺっ……なぁ、葵ちゃん、ほんまに、わかったからやめへん……な?」
「ここまできて、やめると思ってるのかな?」
「んん、わかったから、ニッコリ笑顔で凄むのはやめて葵……」
「んー?」
満面の笑みの妹を見て、かわいいものにも限度というものはあるなと思う茜だった。
「いいから、ほら、イーしてイー」
「い、いー……」
横に広がった口に葵の歯ブラシが挿入される。歯の横側を、歯ブラシがしゃりしゃりと動いて、毛先が軽くこすれる。心地良い刺激が歯茎を通してぴりぴりと、くすぐるように。くすぐったくて、つい顔を動かしてしまう。
「はっ……ひゃっ、ひゃっ……んっ……」
「もう、うごいちゃだめ、だよお姉ちゃん」
くすぐったさに身をよじっていたら、葵の手によって首の裏を掴まれて、身動きが取れなくされた。しかし歯磨きはなおも続く。しゃりしゃりしゃりと歯ブラシの毛先が、歯茎と歯の間を丁寧に磨いていく。歯の間の歯垢を除去しようと、ブラシが隙間に優しく入り込む。柔らかい毛先は容易く隙間に侵入すると、粘ついた歯垢をちゅくちゅくと搔き出していく。たった一つの隙間を、何十本という毛先によって撫でられる感覚が茜の口腔を襲う。
「んっ、ふっ、ん……ふぐ、ふぅぅっ……!」
それを、全ての隙間に、丁寧に行われていくのだ。一つの場所が終わって、また次の場所。次の場所が終われば、また次の場所。気の遠くなるような、完璧な、作業の繰り返し。
「むぁ、ぁ、ん、ふぁ、ぁ、ぁ、んぅ、むっ、ぁっ」
身をよじって逃れたくとも、葵の手によって首筋を押さえられていては逃げ場がない。刺激によって頭がいっぱいになる。体が無意識に反応する。腰がくねらせて、太ももをぎゅっと閉じて、もじもじしてしまう。口の中だけではない、何かが高まりつつあるような気がするのは気のせいなのだろうか。
「は、ひゃ、ふぁ、ん、ぁ、あ、あ、むぁ、んっ」
歯を磨かれているだけで、目がとろんと潤んで、顔がぐちゃぐちゃに蕩けてしまう。口からはすでにぐちゃぐちゃによだれが溢れて、茜の首筋にまで垂れていた。葵は歯を磨くことに夢中になっていて、茜がひどい顔をしていることに気が付いていないようだった。
「んーよし、だいたい磨けたかな。ほらお姉ちゃん、おわ……」
葵が作業を終えて茜の顔を見つめる。そこには、崩れに崩れた姉の扇情的な表情が目の前にあった。
息を荒らして、よだれをとろとろ垂れ流して潤んだ瞳で、中空を見つめる姉の様子に、思わず葵もドキリと胸を高鳴らせてしまう。
「あ……」
歯ブラシを片手に握りしめたまま、無言で固まる葵。一方の茜は、口の中の唾を洗面器にたっぷり出すと、ぼんやりと葵を見つめていた。
「あお、ひ……」
だらしなく口を開けて、自分を見つめる姉の姿に、胸が熱くなる。鼓動が早まって思考が乱れる。自分の体が、抑えが効かなくなる。
「おねぇ、ちゃ……」
「……き、て」
実の姉が、自分を熱っぽく求める姿に、心揺さぶられる。茜に言われるまま、葵は自らの口を茜の唇に近づけていく。
二人の口と口が、すぐそこにまで近づいたそのとき、玄関口からインターホンの音が鳴り響いた。
「え……」
「あ……」
インターホンの呼び鈴がさらに二度ほど鳴り響く。二人が現実に戻ってくるのに、それほどの時間を要した。
「……あ、はあい」
葵がインターホンのスイッチを入れると、玄関口にいる人間の声がそこから響きだす。
『すみません、保険の者なんですけど』
「あ、ごめんなさい、ちょっとこれから出かけますので」
『そうですか、お邪魔いたしましたー』
そういうと、インターホンの向こうから、家から立ち去るような足音が聞こえた。
「……はぁ」
適当に追い返した葵は、がっくりしたような面持ちで茜の元に戻る。突然の訪問に、完全に意識を戻されて、今までの興奮から覚めていた。
「ごめんね、お姉ちゃん、もう歯磨き終わったし口すすいできてもいいよ」
しかし葵の言葉を聞いても茜はその場から動かない。俯いたまま、ぽつりと呟いた。
「あおいちゃん」
「……ん、なぁに……っ!?」
と、言うところで、突然茜の腕が葵の手を引っ張りこんで、イスではなくソファーの方に寄せると、そのまま葵を仰向けに倒した。
「え、あ……?」
すっかり、頬を赤く染めて上気させている茜が、葵の上で馬乗りになって見下ろしている。
「お、ね……?」
「葵……」
葵が突然のことに体を動かせないでいると、葵の持っていた歯ブラシを茜がさっと奪い取ってしまう。
「葵……?あんなに、ウチのこといじくって……このまま終われるわけ、ないやろ?」
茜がひどく興奮した顔で自分を見つめているのを、葵はじっと見つめ返すことしかできなかった。
「は、い」
すでに、葵に反抗する気力など残されてはいなかった。姉の手によって、自分がこれからめちゃくちゃにされるという想像をしながら、茜の歯ブラシを受け入れるために、静かにその口を開いたのだった。
その日を境に、琴葉姉妹の仲が以前より親密になったのは言うまでもないことだった。