立派さなど欠片も無い、堂々とした小物っぷりで、周囲を混乱と混沌に導く稀代のトリックスター・ぶりぶりざえもん。

これは、そんな『救いのヒーロー』が、ひょんな事から魔術師の少女と人理修復の旅をするに至るIFの物語。

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作者がカルデアで研究材料としてホルマリン漬けにされていたシンさんがレイシフトの事故が原因で復活し、「遂に戻ってきたぁああああああ!」と言いながら変身すると言う、どっちがヴィランなのか分からなくなる作品を書いていた時。

ふと「これって、ぶりぶりざえもんの方が面白くね?」と言う思いつきで欲望のままに軽く書いてみた結果、作者的にシンさんよりも面白くなったので、此方を完成させて投稿してみた次第。まあ、ぶりぶりざえもんの小説も少ないし、是非もないよネ!


ぶりぶりざえもんの冒険 人理編

人類の未来を取り戻すための人理修復の永い旅路。

 

私、オルガマリー・アニムスフィアにとってその始まりは、魔力も魔術回路もあるのにマスター適正だけがない私が、その事に泣き疲れて寝てしまった時に不思議な夢を見た時に遡る。

 

「これはぶりぶり族に伝わる宝具『救いのマラカス』じゃ。困った時にそのマラカスをリズミカルに振ると、『救いのヒーロー』が現われる」

 

夢の中で助けたおじいさんの豚人間から、お礼として渡された変なデザインのマラカスを受け取って目が覚めると、どう言う訳か私はそのマラカスを手にしていた。

まるで魔法のような不思議な体験を経た所為か、興奮した私は夢で言われた通りにリズミカルにマラカスを振ってみると、ピンク色の煙と共に夢で見た豚人間によく似たモンスターが私の前に現われた。

 

「よ、妖怪ブタ男ッ!?」

 

「失礼な事を言うなッ! 誰が妖怪ブタ男だ! 私はぶりぶりざえもん! 救いのヒーローだ!」

 

どうやら、あの夢の中の事は全て本当の事だったらしい。しかし、コイツは本当に『救いのヒーロー』なのだろうか? 正直想像していたのと全然違う。『救いのヒーロー』なんて言うから、つい数秒前まで想像していたカッコイイ騎士様と比べると、目の前の二頭身体型の豚は、言ってはなんだが実に頼りない。

 

「実は……私は今こんな格好をしているが、ある国の王子なのだ!」

 

「王子?」

 

「妖怪王ゲロゲロとその手下達が、私の国に若くて綺麗な娘を攫いに来た時、私は戦いに負けてこんな姿にされ、マラカスに封じ込めれてしまったのだ」

 

「………」

 

何か知らないケド、物ッ凄く嘘くさい。てゆーか、本当にコイツが某国の王子だったのだとしても、得体の知れない妖怪に負けている時点で、あまり頼りにならない様な気がする。

 

「……と言う訳で、私が元に戻るためには、妖怪王ゲロゲロを倒さなければならないのだ。……ぐっ!?」

 

「ど、どうしたの!?」

 

「私は……この姿では3分間しか活動できないのだ。何かあったらマラカスを振って呼んでくれ……」

 

……やっぱり、あんまり役に立たないかも。

 

ハッキリ言って今でもアレだと思える出会いだったケド、それから私とぶりぶりざえもんの長い付き合いが始まったのだ。

 

 

●●●

 

 

それからしばらく時は流れ、カルデアの召喚システムを使ってキャスタークラスのサーヴァントとして、かのレオナルド・ダ・ヴィンチを召喚した際、彼女(何故か女性だった)は私の持っていたマラカスを見て、実に興味深そうにしていた。

 

「何だか不思議な感じがするマラカスだね。ちょっと、見せてくれないかな?」

 

「え……ええ、良いわよ」

 

「ふむ……何か特別なマラカスっぽいんだけど……気のせいかな? 振っても何も起こらないし」

 

「え……?」

 

振っても何も起こらない?

 

そう言うダヴィンチを不思議に思ったが、確かにダヴィンチが幾らマラカスを振っても、ぶりぶりざえもんが出てくる気配はない。

 

「ちょ、ちょっと返して!」

 

もしかして、普通のマラカスに戻ったのだろうかと思って、今度は私がマラカスを振ってみると、今度はピンク色の煙と共にぶりぶりざえもんが……と思ったら、ピンク色の髪をした陣羽織を羽織る、日本のサムライらしき人物が現われた。

 

「!! え!? 嘘!! も、もしかして……」

 

「そう! 私は新撰組一番隊、沖田総司ッ!!」

 

……と思ったら、よく見たら変装するにしてもあんまりと思えるクオリティのハリボテを被り、竹馬に乗ったぶりぶりざえもんだった。そもそも、直ぐにハリボテを脱いで本体を現した事から、誤魔化すつもりがあったのかどうかすら怪しい。

 

「……誰?」

 

「沖田総司ッ!!」

 

「いや……どうみても君は人間じゃなく豚じゃ……」

 

「豚ではない! 沖田だ、無礼者ぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

竹馬に乗った事で物理的に上から物を言うぶりぶりざえもんがダヴィンチを足蹴にしているが、その光景はハッキリ言って不快以外のナニモノでも無かった。

 

「何よ! ちょっと期待しちゃったじゃない! 豚のくせに私の事馬鹿にして! 豚のくせに! 豚のくせに!」

 

「えぇええい、黙れ! 私は豚でも、ぶりぶりざえもんでもない! 京都のアイドル! コギャルのオモチャ! 桜セイバーこと沖田総司だああああああああああああああああああッ!!」

 

その後も、ひたすらに沖田総司を自称するぶりぶりざえもんにイライラして、思わず肉体言語と言う魔術師らしくない方法でぶりぶりざえもんを黙らせたが、今にして思えばぶりぶりざえもんはマスター適正のない私の事を気遣って、最優とされるセイバークラスの英霊のフリをしていたのかも知れない。

 

「えぇえい! 止めろ貴様! この美しい顔に傷でもついたらなんとする! あ~心配だ心配だ。鏡、鏡……良かった。美しいぃ~! ああ~~~~ん♥」

 

……やっぱり、違うかも知れない。だが、ダヴィンチにぶりぶりざえもんを接触させたのは間違いなく失敗だった。

 

ある日、夜遅くまで仕事をしている時に、小腹が空いたから夜食を用意して貰おうとぶりぶりざえもんを呼び出したのだが、ぶりぶりざえもんは食堂に向かったきり帰ってこなかった。

怪訝に思って食堂に向かえば、何故か食堂が中国の大衆食堂っぽい装いになっていて、どう言う訳かダヴィンチがこの食堂のコックの衣装を身に纏っていた。

 

「いらっしゃ~い♪ ご注文どうぞ~」

 

「え、えぇっと……シュウマイ、肉まん、あんまん……? 何コレ? 蒸し物しかないじゃない」

 

「何になさいますか~?」

 

「……それじゃあ、豚まん一つ」

 

「マスター! 豚まん一つ~!」

 

「一名様ご案内……」

 

そう言って、ぶりぶりざえもんが天井からぶら下がっているロープを引っ張ると、床が展開して私は座っていた椅子ごと下に落とされた。浮遊感の後におしりを叩きつけられ、涙目で上を見ると、ダヴィンチとぶりぶりざえもんが私を見下ろしている。

 

「ちょっと! 所長の私に対して失礼じゃない!?」

 

「馬鹿者! 注文するのはお前の勝手だが……言うに事欠いて豚まんとは何事だッ! お前は……饅頭になる豚の気持ちを、考えた事があるのかぁあああああああああッ!!」

 

「だったら、メニューに載せなきゃいいじゃないの!!」

 

「……やれ」

 

「ブ、ラジャー!」

 

「ちょっと! 一体何を……」

 

嫌な予感がして思わず声を荒げたが、落とし穴に落とされた時点で全てが遅かった。私の後ろには、これでもかと言わんばかりに巨大な豚まんが、巨大な台座の上から今にも私に向かって落ちようとしている所だった。

 

「フン! その饅頭の具になるが良いッ!」

 

「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

かくして、私は巨大な豚まんに押し潰され、私の嫌いなモノに豚まんが加わった。

 

 

●●●

 

 

何だかんだで48人のマスター適正者を集め、人理継続保障機関としてカルデアが本格的に始動すると言うその日。トラブルによって何時の間にかカルデアから、炎に包まれ崩壊した都市の中で立っていた私は、得体の知れない、無数の骸骨のクリーチャーに襲われていた。

孤立無援の状態で抵抗を続けていた私は、ぶりぶりざえもんを呼び出してこの窮地を脱しようとしたのだけど……。

 

「救いのヒーロー! ぶりぶりざえもん、参上! さあ、どんな事で救って欲しいのだ?」

 

「決まってるでしょ! 私と一緒に、アイツらをやっつけるのよ!」

 

「……………怖いからヤダ」

 

その瞬間、私と一緒に骸骨のクリーチャー達もずっこけた。それも一斉に全員が。今にして考えると、ぶりぶりざえもんのやった事は結構凄い事なのだが、敵も味方も隙だらけになるから余り意味は無いかも知れない。

 

「いや、あんた『救いのヒーロー』なんでしょ! だったら、その腰に差している刀でやっつけなさいよ!」

 

「コレは刀ではなく千歳飴だ。私は『肩たたき』とか、『棚を吊る』とか、そう言う分野で人を救うのが得意なのだ! ペロペロ♪」

 

「この豚ぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

私が絶叫したのも束の間、舐めていた千歳飴の刀が骸骨のクリーチャーの刀に切断され、武器を失ったぶりぶりざえもんはあっと言う間に空の彼方へと蹴っ飛ばされていった。私みたいな碌に実戦経験の無い魔術師よりも弱いとか、いよいよ役に立たない豚だ。

 

その後、何の因果かデミ・サーヴァントとなったマシュと、48番目のマスター適正者の一般人枠の少女である藤丸立香と合流する事が出来たのだが……。

 

「此処が冬木市かぁ。何だかファスト風土化してるなぁ」

 

「先輩……何と言うか、もう少し緊張感を……」

 

「しかし、何か食べないと力が出んな」

 

……ハッキリ言って不安しかない。そして、何時の間にかぶりぶりざえもんが私達の元に戻ってきていた。初めてぶりぶりざえもんを見た藤丸は興味津々と言った感じだったが、あまりソイツには関わらないで欲しいのが本音だ。

 

「そうだね。そう言えばお腹すいた。何か食べたいなぁ……ラーメン、ステーキ、お寿司、ハンバーガー、天ぷら、刺身……」

 

「豚の角煮……」

 

「豚の生姜焼き……」

 

「……ん? な、何で私を見るのだ!? 貴様等、パートナーであるこの私を食べようというのか!? クズだ! そんな奴は人間のクズだ! この豚野郎ッ!」

 

「豚はアンタでしょーがッ!!」

 

「んん? ……そうだブリ♪ そうだっちゃ♪ そうなりん♪」

 

次の瞬間、私達は一斉にぶりぶりざえもんに対して蹴りを入れていた。藤丸はよく分からないが、マシュも一緒になって蹴っているのは意外だった。

 

「……はッ!? いけないわ。コイツのボケには本気で怒りを感じてしまうわ」

 

「そ、そうですね。何ででしょう? 何故かあの人(?)を蹴らなければならない様な使命感を感じてしまって……」

 

そして、私達が我に返り、再び冬木市を探索しようと行動を開始した矢先、カルデアに居るロマニからの通信でサーヴァントが接近している事を察した私達だったが、サーヴァントを相手にこのメンバーで逃げ切れる筈もなく、あっさりと追いつかれて戦闘にもつれ込んでしまった。

 

「気をつけなさい。私の槍は不死殺しの槍。この槍で付けた傷は、何をしても治らない。僅かでも受け損なえば……貴方は一生、サーヴァントとして不出来になるのです! はぁああああああああああああああああああああッ!!」

 

「くぅ……ああッ!!」

 

ランサーの猛攻に耐えきれず、マシュが得物である盾を手放してしまった。盾は勢いのままに地面を滑り、ぶりぶりざえもんの足元で止まった。

 

「ぶりぶりざえもん! それを早くマシュに……」

 

「ていッ!!」

 

盾が此方に転がってきたのは運が良いと思ったが、何とぶりぶりざえもんはマシュの盾を蹴っ飛ばし、盾はランサーが張った鎖の結界の外側に行ってしまった。

 

「ちょっと! アンタ何やってるのよ!」

 

「黙れ小娘! 私は常に強い者の味方なのだ! さあ、ランサー様。早く止めを!」

 

「ハハハハハハ! 何ともセコイ者を味方にしたものですね。では、遠慮なく……!」

 

「!! 先輩! 所長! 二人とも逃げて下さい!!」

 

「おっと、流石にコイツは不味いなぁ」

 

ぶりぶりざえもんの裏切りによって万事休すと思われたその時、突如現われたキャスターを名乗るサーヴァントの助勢で、私達は何とかランサーを倒す事に成功した。

 

「こ、こんな筈では……ぶべっ!?」

 

「ふん……雑魚は嫌いだッ!! 貴方こそが我が主、マイマスター……!」

 

「「「「こんの豚ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」」」」

 

「フォウ、フォオーーウッ!!」

 

今にも消えそうなランサーを蹴っ飛ばし、キャスターに忠誠を誓うぶりぶりざえもんを見て、私達の怒りが爆発した。

 

 

●●●

 

 

ぶりぶりざえもんに制裁を加えた後、キャスターの案内でこの冬木市で行われた聖杯戦争の要となる“汚染された大聖杯”があると言う、天然の洞窟を利用した地下工房に向かった訳だが、キャスターはアーチャーの相手をしている関係上、セイバーの相手をマシュがやらなければならなくなった。

セイバーと交戦したキャスター曰く、セイバーの正体はかの有名なエクスカリバーの使い手。つまりは、アーサー王だ。キャスターはマシュについて何か気になる事を言っていたが、デミ・サーヴァントになったばかりで、更には宝具も使えないマシュでは流石に荷が重過ぎる。

 

そこで、居ないよりはマシだろうと思ってぶりぶりざえもんを召喚したのだが……。

 

「救いのヒーロー、ぶりぶりざえもん参上! 私が来たからにはもう安心だ!」

 

「救いのヒーロー……だと?」

 

「これが最後の戦いよ! マシュと協力してセイバーを倒すの!」

 

「刃物は私の専門外だ」

 

「「少しは戦え!!」」

 

『チィッ! おい、ブタァッ! 俺がソッチに行くまで何とかしろッ!』

 

「私に向かってブタだとッ!?」

 

「「ブタでしょ……」」

 

「………」

 

通信機ごしに聞こえるキャスターの怒号にぶりぶりざえもんが憤慨し、それに対して冷静に私と藤丸が突っ込むと、ぶりぶりざえもんは黙ってしまった。どうやら、自分の見た目に対して少しは自覚があったらしい。

 

「……………分かった、助けよう。しかし、その前に……ほれ、救ってやるからこの念書に『百億万円あげる』と書け」

 

「ふざけんじゃないわよッ!!」

 

「……ふん。貴様の様な役立たずの豚に払う金などある訳がないだろう」

 

「何だと……ッ! 誰が役立たずだッ! 誰が豚だッ! そんな事は私に勝ってから言えッ!」

 

「「どっち向いて言ってんのよ!」」

 

「良いだろう。エクスカリバー・モルガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!」

 

「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

 

セイバーの放ったエクスカリバーの一撃によってぶりぶりざえもんが早速脱落し、やっぱりマシュが一人でセイバーと戦う事になってしまった。

しかし、マシュはセイバーの宝具攻撃を受けている最中に、自分の宝具を展開する事に成功。マシュの元へ飛び出した藤丸の令呪の力も相俟って、伝説に名高いエクスカリバーの一撃を完全に防ぎきっていた。

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社――。倒壊するは……ウィッカーマンッ!!」

 

そして、間髪入れずに放たれるのは、アーチャーを倒してこの場に到着したキャスターの宝具攻撃。マシュに集中していたセイバーはキャスターへの対応が遅れ、霊基に致命的なダメージを受ける事となった。

 

「またも私の作戦通りだな」

 

「これの何処がアンタの作戦なのよ!!」

 

「救い料、百億万円。ローンも可」

 

「アンタは何もしてないでしょーがッ!!」

 

かくして、ぶりぶりざえもんは禄に働いていないにも関わらず、法外な額の報酬を請求するとピンク色の煙を上げて勝手に消えた。

 

……まあ、色々あったが聖杯を守っていたセイバーが倒され、キャスターが強制送還された事で、特異点Fでのミッションは無事に終了したと言えるだろう。

 

しかし、どうしてセイバーが『冠位指定【グランドオーダー】』を知っていたのか? それ以外にも気になる不明な点は多いが、今は任務成功を素直に喜ぼう。

ひとまず、セイバーが異常をきたし、冬木市が特異点と化した原因と思しき水晶体を回収しようとした時、彼が私達の前に現われた。

 

「いや、まさか君達がここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」

 

カルデアの事故で死んだと思われていたレフ。彼が生きていたと知って嬉しさと心細さからマシュの制止する声を無視して駆寄った私に投げかけられたレフの言葉は、とても残酷なモノだった。

 

「その中でも最も予想外なのは君だよ、オルガ。爆弾は足元に設置したのに、まさか生きているなんて」

 

「―――え?」

 

そして、レフの口から次々と明かされる真実と宣告。あの事故を起こしたのは他ならぬレフだと言う事。私はあの事故で死んでいて、死んだ事で私はレイシフト適性を得ていると言う事。そして、カルデアに戻れば私は完全に消滅してしまう事――。

 

「え? 消滅って私が……? ちょっと待って……カルデアに戻れない?」

 

「そうだとも。だが、それでは余りにも哀れだ。生涯をカルデアに捧げた君のために、せめて今のカルデアがどうなっているか見せてあげよう」

 

そう言ってレフが見せたのは、地球を投影した美しい青色のカルデアスではなく、太陽のように真っ赤に染まったカルデアスであり、こうなった原因は私の失態によるものだとレフは告げた。

 

「最後に君の望みを叶えてあげよう。君の宝物とやらに触れるといい。何、私からの慈悲だと思ってくれたまえ」

 

「ちょ……何を言っているの、レフ? 私の宝物ってカルデアスの事!? や、止めて! お願い! だってカルデアスよ!?」

 

「ああ、ブラックホールと何も変わらない。それとも太陽か? どちらにせよ、人間が触れれば原子レベルで分解される。生きまま無限の死を味わい給え」

 

「いや――いや! いや! いや! 助けて! 誰か助けて! 私、こんなところで死にたくない!」

 

抵抗も空しく不可視の力で引き寄せられ、私の体がカルデアスに触れる寸前、藁をも掴む気持ちで出たその言葉が、私の運命を変えた。

 

「助けて! ぶりぶりざえもん!!」

 

全然頼りにならなくて、全然信じていない『救いのヒーロー』の名前を叫んだ時、マラカスの入っているポケットから金色の粒子が私の体を包み、何かがカルデアスに引き寄せられる力から私を守ろうとしていた。

 

「何……?」

 

「アレは……!」

 

「ぶりぶりざえもん!」

 

思わず首を回して後ろを見ていると、私と背中合わせになって、ぶりぶりざえもんが無言でひたすらに私をカルデアスから遠ざけようとしていた。

ぶりぶりざえもんの力は徐々に大きく、そして段々と強くなっていて、遂には私の体をカルデアスから大きく突き飛ばし、私は藤丸やマシュの居るところまで転がりながら戻る事が出来た。

 

「所長!」

 

「大丈夫ですか!」

 

私に駆寄る藤丸とマシュ。でも、その時に私の目に映ったのは、ぶりぶりざえもんが腕組みをしながら、きりっとした顔で悲鳴一つあげずに、カルデアスの中に消えていく光景だった。

 

「まっ……」

 

届かないと分かっていても、思わず私がぶりぶりざえもんへ手を伸ばしたと同時に、『救いのマラカス』がポケットから飛び出し、それは私の目の前で粉々に砕け散った。

 

 

●●●

 

 

結論から言うと、私はカルデアに戻る事が出来た。あの後でロマニとダヴィンチに調べて貰った結果、私の体はレイシフト適性を得ており、レフの言う通りにあの爆発で一度死んで、それから何らかの理由で蘇ったのではないかと言われた。蘇った理由に関しては不明だが、ぶりぶりざえもんが絡んでいる事は間違いないとの事。

 

でも、そんな話がどうでもよくなる位に、私の気持ちは沈んでいた。

 

「………」

 

ぶりぶりざえもんに出会ってから色々なことがあったが、幾ら思い返してもアイツにはヒーローらしさなんて欠片もないし、立派な所なんて一度も見た事が無かった。

弱いくせに無駄に堂々としてるし、法外なお助け料を吹っかける位お金には汚いし、そのくせ相手が強いと思ったらすぐに裏切るし、妙な小物っぷりが鼻につくし、レフみたいに親切にしてくれた訳でもなかったけれど……本当にどうしようもないあの時に、誰も助けてくれないと思っていた私を助けてくれたのはアイツだった。

 

「所長……」

 

「……グス……何よ?」

 

「コレ……」

 

いなくなったアイツの事を考える度にどうしようもなく涙が溢れてきて、胸の奥が苦しくなって、膝を抱えながら顔をうずめて床に座り込んでいた私の元に、先程までサーヴァントの召喚を行っていた筈の藤丸がやってきて、一枚の呼符を私に渡してきた。

 

「……何のつもり?」

 

「今の所長にレイシフト適正があるなら、マスター適性もありますよね? だったら、コレでぶりぶりざえもんを呼べるんじゃないかって思って」

 

「……無理よ。アイツ、英雄なんてガラじゃないもの」

 

「でも、『救いのヒーロー』なんでしょ?」

 

「……アイツが来るとは限らないわ」

 

「英霊に縁のある触媒があれば呼び出せるって聞きましたよ?」

 

「……そんなの有るわけないじゃない。マラカスもなくなっちゃったし」

 

「触媒なら此処にあるじゃないか。ほら」

 

ふて腐れる私を見かねてか、私達の元へやってきたダヴィンチが手にしているのは、『ぶりぶりざえもんの冒険』と書かれた一冊の絵本だった。

 

「それって……」

 

「そう。君も覚えがあるだろう? 以前、君が彼にせがまれて書いた彼の冒険譚さ」

 

それは知っている。『救いのヒーロー』である自分に伝記の類いが無い事に不満を覚えたぶりぶりざえもんが、私達に自分の伝記を書く事を余りにもしつこく要求するものだから、仕方なく書いたものだったから。

 

『昔々ある所に、ぶりぶりざえもんと言う豚が居ました』

 

『ふむ。それで?』

 

『……終わり』

 

『終わるなぁあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!』

 

伝記の内容の薄さに対して、ぶりぶりざえもんは物凄く憤慨していたし、私としても手抜きにも程があるとは思ったのだが、むしろこの方がぶりぶりざえもんらしいような気がして、このままにしておいたのだ。

 

「……絶対に無駄になるわよ」

 

「なりませんよ。所長が呼べばきっとやってきますよ」

 

藤丸に促される形で、触媒として『ぶりぶりざえもんの冒険』を置いて、呼札を使って召喚サークルを起動させる。そして、三本の光の輪の中から現われたのは……。

 

「サーヴァント、セイヴァー! ぶりぶりざえもん、参上! 問おう、お前が私のマスターか?」

 

彼の問いに頷いた私の右手には、彼との繋がりを示す令呪がしっかりと刻まれていた。

 

―完―




キャラクタァ~紹介&解説

ぶりぶりざえもん
 説明不要の『救いのヒーロー』。召喚アイテムである『救いのマラカス』から呼び出される異形の存在でありサーヴァントではなかったが、カルデアにてセイヴァークラスで召喚された。基本的は見た目通りのギャグキャラだが、しっかりとシリアスもこなし、決めるときは決める。

オルガマリー・アニムスフィア
 この物語の主人公。ヒロインではない。型月世界における死亡フラグを乱立し、本当に序盤で死んでしまった悲劇の少女。この世界では、ぶりぶりざえもんによって特異点Fからカルデアに生還する。ちなみに、彼女の右手に刻まれた令呪は『マンガで分かるFGO』のオルガマリーと同じ形をしている。

老ブタ
 オルガマリーの夢に出てきたジジ豚。初めはオリガマリーの父親か、オリキャラ的な祖父を出そうかと思ったが、不思議なマラカスの不思議さを強調する為に、「夢で貰ったマラカスが現実に現われる」と言う形にしてみた次第。しかし、色々考えた割に出番は一瞬で終わった。

ダヴィンチちゃん
 全てのマスターが毎日顔を合せている変態……もとい、天才。ぶりぶりざえもんとは波長が合うのか、彼が絡むと割と悪ノリする傾向にある。まあ、内面が「本能に忠実な子供」と言えるぶりぶりざえもんを面白がっているだけかも知れないが。

藤丸立香&マシュ・キリエライト
 ぐだ子となすび。基本はオルガマリーと同様にぶりぶりざえもんに振り回されているが、ぐだ子はどこかリヨっぽい所為か、ぶりぶりざえもん相手にボケをかます事もある。なすびはアニメ『First Order』が基準なのでキャスニキと特訓はしていない。

クー・フーリン&セイバーオルタ
 キャスニキとジャンクフードキング。冬木市では終始ぶりぶりざえもんに調子を狂わされたが、ぐだ子によってカルデアに召喚されてから、自分達が消えた後のぶりぶりざえもんの行動をぐだ子とマシュから聞いて心底驚いていた。



サーヴァントとしてのぶりぶりざえもん
 作者の独断と偏見でFGO的に考えてみた。ぶっちゃけ適当かつネタ要素しか無いので、あまり深くは気にしないで貰いたい。

クラス:セイヴァー

HP:20.000.519(塩沢兼人さんが演じる最後のぶりぶりざえもんの放送日から)

ATK:-640(『クレヨンウォーズ』で判明した攻撃力から)

固有スキル:強い者の味方 A+
 相手が強ければ強いほどに相手にデバブが掛かり、味方が弱ければ弱いほどに強力なバブが掛かる。但し、本人は強い者の味方をするので、此方が有利にならない限り、攻撃カードが一切出ない。ちなみに、味方が敵より強いと何も起きない。

「私は常に強い者の味方だ」

固有スキル:トリオ・ザ・ヒーローズ A
 ターゲットを自分に当て、味方に攻撃されることで攻撃した味方のNPを物凄く上げる。当然、自分のHPは犠牲になるが、異常に高いHPに任せた尋常ならざる打たれ強さを誇る為、殆どデメリットになっていない。尚、トリオでなければ効果が出ない。

「アクション仮面フィーバーです」

スキル;軍略 E
 基本的には味方を裏切り、相手側に寝返る事を提案するが、時には「一見すると良さそうな作戦」も提案する。もっとも、その「一見すると良さそうな作戦」にも実は致命的な穴があり、結局作戦は失敗する。

「私に良い作戦がある」

スキル:空耳 EX
 敵の宝具攻撃を確実に空振りさせるスキル。相手に『無敵貫通』や『必中』が掛かっていても必ず外す。但し、相手が老若男女を問わずマタニティを着た妊婦になるので、敵サーヴァントによっては犯罪臭しかしない絵面が生まれる事になる。

「え? 臨月出産?」

スキル:皇帝特権 E
 過去に宇宙の某帝国の新皇帝に就任した事で得たスキル。但し、就任してから数秒で袋だたきにされた上に、あくまでも自称によるものなので、他のサーヴァントが使う『皇帝特権』と比べて、その効果は貧弱そのもの。

「哀れな豚共よ! 恩赦を与えてやるから、何処へなりとも立ち去れ!」

宝具:ひれ煮込みぶりトン号 C
 全体攻撃の対人宝具。宇宙一速い宇宙船からラーメン屋の屋台にトランスフォームし、睡眠薬入りラーメンを喰わせる事で敵全体を行動不能にする。尚、ラーメンのスープの材料は100%ぶりぶりざえもん。

「毎度~。今行きま~す!」



おまけ 第一特異点での一幕

「ジャンヌが二人……!?」

「どっちが本物?」

「決まってるでしょ? 私が本物よ」

「よし、私に任せろ。ふぅむ……。ジャンヌ・ダルクのような……そうでないような……」

「ハッキリしなさいよ!」

「そうだ! 本物のジャンヌ・ダルクならば、尻にでっかいホクロがある筈!」

「へ?」

「さぁ、お前が本物のジャンヌ・ダルクだと言うならば……私に尻を見せてみろ」

「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!」

「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!」



後書き

はい。そんな訳で「ぶりぶりざえもん✕FGO」と言う、まず誰もやらないような題材の二次小説でしたが、いかがだったでしょうか? 作者としては、特に深く考えず頭空っぽにして楽しんでいただけたならば幸いです。


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