「わ、わ、これ何度やっても面白ーい」
「まーたシルキちゃんが水を粗末にして遊んでいるんだニャン」
呆れ顔のエンスを無視して、私はシュイムーメデューサの粉末の中に色を付けた水を垂らして遊んで……じゃない、新商品を開発するための実験をしていた。
今は、地下に放り投げていた絵の具を混ぜて作った色水を吸わせている。コピアさんたちの言っていた通り、水だけしか吸わないので絵の具の色は粉のようになって下に残っていた。これなら、余った絵の具の再利用とか出来るんじゃない? まぁ、私はもう絵なんか描かないけれど。
「いや、楽しんでいるのは事実だけれどさ。弄くり回しながらこれでなんか作れないかなーって考えてるのも本当よ? この弾力、商品作れたら人気でそうな気がするのよねー」
言いながら、水を吸って膨らんだ粉末の中に手を突っ込む。僅かにヒンヤリして気持ちがいい。適当に砕いているからか膨らんだ粉末の形は大小さまざまだが、尖った部分はないので、怪我をする恐れはないだろう。何よりこのツルリとした感触と、ちょっとブヨブヨした弾力が気に入った。枕とかクッションに入れて頭を沈めたら、結構いい感じに重みを受け止めてくれるんじゃないかしら?
「問題は、時間が経つにつれて膨らんだ粉末が萎んでいっちゃうことか。どうしたもんかしら」
「保存の魔法だと固くなっちゃうからニャンねぇ」
「いっそ粉末だけ村の人に売って、後はお好きにどーぞって方がいいとか?」
でもなぁ、萎むから外側の袋の問題もある。そもそもコレ、綿がわりのように普通の生地の中に入れて濡れたりしない? 売るとしたらまだまだ検証が必要か。
「でもまあ、これで楽ちんに蜂蜜飴が出来るのが分かったのは大きな収穫だったわ」
私は瓶に入った琥珀みたいな色の飴を取り出して口に入れた。水分だけを吸い取ってくれるから、カチコチになってくれるのだ。うん、純蜂蜜だから凄く濃厚、これならドラゴンの角をそのまま舐めても吐き出さないかもしれない。手間も掛からないから、もうちょい安く売り出せるかも。
「シルキちゃーん、ボクも食べたいニャーン」
「はいはい、じゃあ口開けてー」
「あーん」
エンスの口に放り込んでやると、何処かで見ていたのかチョコ達もやってきた。なので砕いて渡せば、チョコは酒蟲と仲良く分け合って食べ始める。うん、とても平和。宝珠も実は勘違いでしたー、ってならないかしらねえ。ならないわよねぇ。
「お邪魔しまーす……何やってるの?」
皆で仲良く飴を食べていたら、マカナナさんがやって来た。おや、ジャンダグさんがいない。今日は一緒じゃないのかな?
「このシュイムーメデューサの粉末で、水分抜いた蜂蜜で作った飴を舐めていたんですよ。甘いの苦手じゃなきゃどうです?」
「へー、じゃあ一つ頂きます……ん、甘さが更に濃縮された味だねこれ。ジャンダグたちエルフは凄く喜ぶんじゃない? お手軽に栄養がとれて」
「そういえば一緒じゃないけれど、ジャンダグさんはお仕事ですか?」
「いや、今日は他のエルフたちに連れられて何処かにご飯食べに行くって言ってたから、村の外に出てるんじゃない?」
多分手持ちを食べ尽くして、外に出るしかないんだよ、とはマカナナさんの見解だ。そうか、そんなに食べてるのか。
「エルフって本当に底無しの胃袋なんですね。ここにいても必ず何か食べてますもん。というか、あんなに食べるなら住んでる森なんて丸裸になっているんじゃ……?」
「いや、ジャンダグたちは他のエルフよりも食べる方なんだと思う。だから出てきたんじゃないかな?」
「んー、確かにそれっぽい事は前に聞いた気が……。というか、もうちょっと食欲控えめなエルフもいるんですか?」
「ボクたちからすれば食べる方だと思うけれど、森にいるエルフはあそこまでじゃないよ。何回か、森から出てきたエルフがお城に来たことあって、食事だしたことあるのみ見たけれど、ジャンダグたちの量の半分よりも食べなかったし」
「へー、てとこはジャンダグさんたちお城のエルフの食事量が度を越していると」
「多分だけれど、ジャンダグたちってエルフの中でも相当優秀なんだと思う。頭もよくて一人で何人分の仕事をしたり、魔力も高くて難しそう魔術を簡単に行使したりするし。その分、燃費がどんでもない事になってるんじゃないかな?」
ふーん。でも言われてみれば確かに、お店の計算の手伝いとか頼んだときも一回の説明で完璧に理解してくれたし、仕事も私よりもずっと早かったしな。しかしその代わりが、あの底無しの食欲と考えると……いいんだか悪いんだか。
「それにしても師匠はいつ来るんだろ。会いたいような会いたくないような」
「あ、マカナナさんに訊こうと思っていた事があったんだけれど、レイスさんってどれくらい凄いんです? 武器や防具の装飾の繊細さと機能が釣り合ってるのは分かるんだけれど、私は他のドワーフの職人を知らないから比べようがないというか。マカナナさんに言われるまで、ドワーフは全員あれぐらい器用なんだと思ってたし」
「うーん、そうだねぇ……」
呟きながらマカナナさんは、床の上でワチャワチャし始めたチョコ達を眺めていた。小さなソリを持ち出して、酒蟲を乗せようとしている。ストール(仮)を作ってからはお椀じゃなくてもよくなったので、運びやすいあの形になった模様。最初は私の切れっ端の素材から適当な物を取り出して自作していたのだが、どうせ村には職人さんがいるしと、酒蟲を連れて何杯か振る舞いながら相談してみたら、気前よく作ってくれた。予備もあるので、駄目にしても問題はない。
「シルキさんはさー、こういう生き人形作るのにドワーフ何人で作業すると思う?」
「え? 一人で作るんじゃないんですか?」
私の返答にマカナナさんは緩く首を振る。あ、違うんだ。
「本来生き人形って、こんな小さなものでも数人で得意な部分担当して作るものなんだ。だから、一人で全部こなすって相当凄いんだよ。複数で作るから金額も高くなるし」
言われてみれば、トリュフ買った時に金貨十枚もしなかったわね。私はそんなものかと思って買ったんだけれど、ドワーフたち作る側からしたら破格の値段なのかもしれない。ん? そうなると……。
「レイスさん、ジュエルドールっていう等身大の生き人形連れてたけれど、アレとんでもない事だったんだ……」
「えぇ、通常サイズの生き人形? なにそれ怖い」
漏らした言葉にドン引きしているマカナナさん。やっぱ制作側からしたら頭おかしい作品になるんだ。
「因みにそれ、直ぐに人形だって解る?」
「いやぁ、パッと見ただけじゃあ難しいんじゃないですかね。喋らないから暫く見てれば解る気はしますが」
「うわー」
そんなやり取りを交わしていれば、ドアが開いて珍客がやってきた。
「こんにちは、姐さん。この前は蜜蝋買ってくれて助かったよ! あれでいい商品作れたか気になって……、あれ、お客さん? 初めまして!」
久しぶりのクヴァンジュ君だ。