シロと付き合うようになった。
それは良い。大変喜ばしい事だ。
だが問題はあった。
十代という多感な時期に、同じ年頃の女の子と一つ屋根の下で暮らすと言うのはとてもしんどい。
今までどれだけ我慢をしてきたか。事あるごとに小鳥のような声で話しかけてくれる女の子が至近距離にいる事実が、最初数週間はあまり受け止めきれなかった。
今までは付き合っていないのだから、と理由を探して手を出さないよう心掛けていたのだが、ついにその言い訳も使えなくなったので、いよいよ後に引けない状況になってきた。
姿をチラと見るだけで心が元気になる。
健やかでハツラツな彼女は俺の心の支えでもあり、何処か神聖視していて、自分の手で汚す事に途轍もない忌避感を感じていた。
「マスタ〜」
「ん」
今のソファーで自己嫌悪に耽っていたら、後ろからシロに呼ばれる。
彼女は何か言いたそうな顔でこちらを見てきたが、口を噤んでソファーを迂回しながら俺の隣に腰を下ろす。
なんの脈絡もないゼロ距離接近に内心ドギマギしつつ、冷静を装いながら俺は尋ねる。
「ど、どうした?」
「いえ、なにも。ただ近くに居たくなっただけです」
そう言うとシロは俺の肩に頭を置き、ぴっとりと体を添わせて体重を預けてくる。
以前はこんな積極的な事はほとんどしてこなかったシロだが、名実ともに交際すると言ってからはその箍が外れたのか、こんな身体的な接触は当たり前、もっと凄いと裸の付き合いを求めるほどだ。
悶々と耽る横でシロは俺の腕に抱きつき、指を絡めあわせて遊んでいる。
その手つきが妙にいやらしく感じるのは俺の妄想か、それとも彼女の訴えなのか。
「マスター。私って魅力ないですか?」
「はっ?」
突然なにを言うかと思ったら、本当に取っ拍子もない事を言い出したので呆気にとられる。
魅力がない? 何を馬鹿な、こちとら初めて会った時からずっと恋して愛して止まないんだぞ。だなんて面と向かっては言えないが、少なくとも人気な女性であることには変わりないだろうに。
「ちゃんとお付き合いするようになってから、なんだか距離が開いたというか、あまり私に触れてくれなくなったというか」
「それは」
俺がヘタレだからです。
本当にごめんなさい。
あと一歩、あと一歩踏み出せたら……そんな事を考えて数カ月、ようやく外で手を繋ぎながら歩いても騒がないようになったくらいのヘタレでごめんなさい。
俺の中の自虐を口の中で転がしながら、あーでもないこーでもない、と取り繕う為の言葉選びに必死になっていた。
だから彼女の気持ちを見逃していたのかもしれない。
「私はあっちの世界にいた頃から、マスターに全てを捧げたつもりです」
シロは顔を上げ、潤んだ瞳で俺の目を見上げながら、震える声でそう訴え掛けてきた。
俺は戒めるように口を一文字に結び、彼女の肩に腕を回して抱き寄せる。
「ごめん、俺の失態だ」
「マスター……」
隣同士に座りながら、できるだけ強く抱擁して俺は独り言を呟くように語りかける。
「俺の中の、シロを好きな気持ちをちゃんと言えなかった」
「…………」
シロが好きだ。
ずっと好きだった。
今も好きだ。
けれど言葉にしてしまうのが怖くて、遠回しな表現ばかりに逃げてしまう。それが惨めで更に逃げてしまう。
「下手なりに、言うようにしてみるよ。時間掛かるかもだけどさ」
「……なら私も、もっと好きを伝えます」
小さな事から、伝えていこう。恥ずかしいけど、彼女を愛する気持ちに嘘はないのだから。
「それじゃあ早速」
「えっ」
しんみりしていると突然腕を掴まれ、シロは自分を押し倒させるようにソファの上で仰向きに倒れ、その上に俺が覆い被さる体勢になる。まさしく今から床で致すような体勢に、思わず飛びのこうとして失敗した。
首に彼女の腕が回され、ゆるい拘束の割にしっかりとホールドしてくるのだ。
しまった───。そんな後悔を思うよりも早く、シロはしたり顔で俺の影の中からこれ以上ない笑顔で囁く。
「これまで聞けなかったぶん、た〜〜〜〜っぷり愛してもらいます♡」
「お、お手柔らかに……」
逃げられないままキスをせがまれ、さながら捕食者に捕まったウサギの気持ちが拭えないままあれよあれよと全て頂かれた。
この日は全く寝かせてもらえなかった。