異能を持って生まれる人間は増え続け、現在に至っては異能を持たぬ者が少数派となった。
しかし、人類にとって問題はそれだけではなかった!
男性の出生率が! 明確に下がっていったのである!
初めは専門家も気のせいだと一笑する程度であったが、あれよあれよと男女の出生数は1:3にまでなり、ついには各国政府も重婚を許可どころではなく、推奨する事態となっていた。
これはそんな世界に生まれ落ちた一人の男の物語である!
(という話を書いていたんですが、どこで切るべきか迷ったので一度短編として投稿します)
ボタタッと液体が地面に落ちる音がした。
周囲の少年少女達が戸惑った様子でいる中で、一人の少年が持参していた水筒の蓋を開け、逆さにしたのだ。
落ちた液体は水。それらは地面に染み込む前に、重力に逆らって空に舞う。
水が舞い踊るその中心にいるのは、水筒を持った少年。
「行くか」
少年は走り出した。目指すは機械の敵役。
並んで歩いていた三体を、地面の石粒を巻き込んだ水で、ウォーターカッターの要領で真っ二つに。
かと思えば水で作った棒で足をすくって転ばせたり、コンクリートの欠片を包んで弾丸のように打ち出したり。
色々やっていた彼だったが、最終的にはめんどくさくなったのか、圧縮した水の塊でぶん殴って破壊していた。
彼は今まさに、天下の雄英高校の入学試験の実技に参加していた。
その内容は大まかに言って、1~3ポイントが割り振られた三種類の敵役のロボットを破壊し、より多くのポイントを稼ぐ、というものだ。
その少年、流水瑞生は自身の個性『水操作』を使い、順調に試験を進めていた。
0ポイント……巨大なお邪魔役のロボットが出てくるまでは。
「うわあああ!」
「あんなの相手に出来る訳ないよ!」
周りの受験生達が一目散に逃げていくのを尻目に、近くのビルの屋上に上がった彼は、黙考する。果たして恥を晒してでもアレを倒すべきかどうか。
巨大ロボットの全身に視線を泳がせながら考える彼は、ある一点で目を止めた。
ガレキが動いている
まさかとよく見てみれば、そのガレキの下敷きになっているのはロボットではなく受験生の少女だ。巨大ロボットが崩したビルの破片を避けられなかったのだろう。
それを認識した瞬間、彼は上着を脱ぎ捨てた。
上着の下から現れたのは、腹も背中もさらけ出し胸だけを覆う形のボディアーマーであった。……街中で歩いていれば痴漢呼ばわりは免れないだろう。
周囲の空気が乾いていく。それと同時に、彼の周りに水が集まっていく。
そう。彼の個性は肌を晒せば晒す程強まるという特徴を持っていた。なお、これを初めて聞いた彼の親友は笑い転げ、絶交の危機にまで陥ったという。
彼は集まった水を圧縮し、圧縮し、三叉槍の形へと纏めた。
水蒸気を水にして集める過程で、彼は巨大ロボットのCPU……人間で言えば脳に当たる部分を看破していた。
狙いべき位置は判明し、そこを穿つ為の武器も用意した。故に後は射出するのみ。
「トライデントォ!」
槍投げの要領で投じられ、更に個性で加速された槍は一瞬にして亜音速に達し、巨大ロボットの鼻の真下を貫通した。
彼は即座に個性で槍の形を解除し、水でロボットを支えるようにしてロボットが倒れるのを遅らせる。ロボットのすぐ近くにいる少女にロボットが倒れこむなんてことは、万が一にも避けなければならなかった。
ロボットを地面に横たえた彼は、すぐさま上着を着込んだ。彼だって好きで肌を晒している訳ではない。
地面近くに集まった水の上に、ビルから彼が飛び降りて大きな水音が鳴る。
くずおれた巨大ロボットを前に、ガレキの下敷きになっているというのに呆然としていた少女は、その瞬間天使を見たような気がした。
飛び降りた直後の彼は、水の塊を自身を避けるように頭上に移動させていた。ほんの一瞬ではあるが、それが天使の輪のように見えたのだった。
その水が蛇のように伸びて少女を下敷きにしていたガレキを縛り上げ、持ち上げる。
「大丈夫?」
「え、あ、は、あはい! 大丈夫でう!」
はっきり言って少女は緊張していた。し過ぎていた。
普通の公立学校において、女性と男性が触れ合うことも、会話することでさえ少ない。男の子と限定すれば更にだ。
教師の男女比率なんて1:4とか1:5ならまだ良い方で、一つの学校に男性の教師が一人しかいないなんてこともある。
生徒はもうちょっと男性が多いが、多くの学校でクラスカースト最上位の女子しか男子と話せないなんてことはざらであった。
そうなる程に共学に男子が少ないのは何故かというと、親御さんも飢えた獣の前に肉を差し出すような真似は可能な限りしたくないからであった。
そういった事情で、少女はまともに近い年の男性と会話した経験が殆どなかった。
逆に彼こと流水瑞生は、女性から勝手に話しかけられるので、そういう意味では経験豊富であった。えっちな意味ではない。
そして、少女が緊張している理由が分からない程度には鈍感であった。
「……本当に大丈夫? 以前そんな風に顔を真っ赤にして大丈夫だと言ってた女性が倒れたのを見たことがあるんだよね」
(それはあなたと話して緊張で頭に血が昇っただけなのではー!?)
正解であった。
少女が彼からの猜疑の目からなんとか逃れようとあわあわしていると、実技試験終了がアナウンスされた。開始時にもアナウンスしていたヒーローだ。
彼はもう一度少女を見て、大きな怪我が無いのを確認すると少女に軽く声をかけてその場を去った。
少女はただ、彼が歩いていくのをただじっと見つめていた。
まあ、引き止めようとしたけど声が出なかっただけなのだが。
日は変わって、雄英高校の入学式。
……に、参加している予定であった流水瑞生は、A組の面々と共に校庭にいた。
学校だというのに寝袋に入ったままでいる、教師を名乗った男にそうするよう指示されたからである。
よく考えたら、あの男が教師であるところから疑わしいのではないだろうか?
そんな男から唐突に個性把握の為の身体能力テストをすると告げられ、入試の順位を理由に彼は男からボールを手渡された。なお、一人の金髪の女子に睨まれた模様。
個性を自由に使用していいボール投げということで、彼も多少悩んだようだ。
しかして、彼は袖を限界までまくって、個性を使用。ボールに水を纏わせた。なお出てきた男子の腕に女子の間で小さなどよめきがあった。
そして、個性操作によってボールを射出。ボールに纏わせていた水を、切り離すように進行方向とは逆方向に分離させることで更に飛距離を伸ばす。ちょうどロケットの発射のように。
記録は314メートル。まあ別世界での爆発系男子ほどの記録ではないが、個性無しの生身の人間が出せる記録ではない。
何人かが「個性を自由に使えるなんて面白そう!」なんて発言したのを聞きつけた担任の目が鋭く光ったのを彼は目にした。察した。その通りになった。
いや、正確には体力テスト最下位を除籍処分にするというぶっ飛んだ宣告だったのだから、彼の予測通りではなかったのだが。
彼の腕の生肌を見たどよめきとは、また違った喧騒が場に満ちた。苦労して入った学校から入学早々除籍されそうになれば当然の、焦燥に満ちた声であった。
彼は体力テストを、速さが必要なら水の上を滑り、跳ぶ必要があれば水で鳥を作って掴まり、力強さが必要なら水で巨腕を作った。
その過程で片腕なり両腕なり素肌を晒したことで周りが騒いだのは、最早石を投げれば下に落ちるぐらいに当然のことだった。
保健室送りになる生徒が若干一名いた程度で、テストは終了。
彼の順位は五位という結果になった。
多少、順位付けに疑問符も付くが、結局除籍は無しということで、文句を言う生徒はいないことだろう。
教室に戻ってきたところで、一人の少女が声を上げた。内心はかなり下心塗れで。
「先生は甘いことは考えるなって言ってたけど、ヒーロー同士は協力し合うものだし、その為にも親睦を深める必要があると思うんだけど」
少女の名前は上鳴電希。緊張すると個性の電気が漏れて髪が逆立ってしまう十五歳!
ちなみは今はビンビンだ! 緊張し過ぎなんだよなあ。
それを聞いた彼こと流水瑞生は、自己紹介もまだだったということに気が付いた。
早速、自己紹介をしていこうと切り出し、言い出しっぺだからと始めに口を開いた。
「俺は流水瑞生。個性は水を操る「水操作」だ。空気中の水分を集めて液体に、なんてことも出来る。好きなものは瑞々しい野菜。逆に嫌いなものはパサパサに乾いたものだ。どうかよろしく」
「実に男らしい挨拶だな流水! この俺切島鋭児郎が続かせてもらう!」
そういった具合に自己紹介は一周して、その場の全員が全員の名前は分かったところで、恐ろしい事態が発覚してしまった。
「……ケロ。これ、保健室にいる緑谷ちゃんの前でもう一回やることになるんじゃないかしら」
「「「あっ」」」
みなピカピカの高校一年生。何もかも完璧に、とはいかないのだった。
書く書く詐欺は良くないので一話をとりあえず書き終えました。
電希ちゃんは個性使い過ぎるとアホにならずにエロくなります。よくある設定だな!
あとA組の男女比率は1:3くらいにしておきました。
※10/2 準音速とか書いてたけど、亜音速のが通りがいいなと思ったので変えました
※2019/10/10 一話を最後まで投稿。遅い